【完結】流れ星の転校生~とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話~ 作:カンヌシ
カレンチャンの合気道有段者関連の情報が少な過ぎるので、色々と勝手に補完してます。お許しください。
「……ハァ……」
トレセン学園、栗東寮の一室でアドマイヤベガはため息をつく。彼女の手元のスケジュール帳には今度の連休の予定が書かれている。マリンアウトサイダがクラスメイトと交わしたある口約束、それが実行に移されることとなった。
「アヤベさ〜ん、どうしたんですか? スケジュール帳を見つめてため息なんてついて。あ、もしかして……トレーナーさんとデートですか?」ニコッ
「違うわよ……だったらため息なんてつかないわ。せっかくの連休を静かに過ごせないことが確定しただけ」
「そうなんですか〜(暗にトレーナーとのデートなら嬉しいのに……って言ってるの気付いてないのかな)」
そんなブルーなアドマイヤベガと会話するのは、彼女のルームメイトのカレンチャン。300万人以上ものフォロワーを有するトレセン学園一『カワイイ』ウマスタグラマーである。彼女は自身のトレーナーをお兄ちゃんと呼ぶ生粋の妹キャラである。生粋のお姉ちゃんであるアドマイヤベガと同室になったのは必然と言えるのかもしれない。
「何をする予定なのか、聞いても良いですか〜?」
ニッコニコな笑顔で尋ねるカレンチャン、対してアドマイヤベガはいつもながら仏頂面で答える。
「……そんな大した事じゃ……いや、未知数だから断言はできないわね。マリンアウトサイダさん、知ってるでしょう? 彼女の実家、ここから離れた山奥にあるそうなの。そこにクラスのBNW3人とトップロードさん……それと、オペラオーとドトウも一緒に行くことになったのよ。キャンプだか修行だか、話がゴチャゴチャしててよく分からないのだけど、放っておいたら大変なことになりそうだし、行かざるを得なくなったというか…………」
ピタリ、とカレンチャンの動きが止まった。
「え…………マリンアウトサイダの実家って…………『角間源六郎』の道場に…………?」
それを聞いたアドマイヤベガは思い起こすように宙を向いた。
「そう言えばマリンさんのお祖父さん、そんな名前だって言ってたかしら……カレンさん、知ってるの?」
意外だ、という表情でアドマイヤベガはクルッとカレンチャンの方を向いた。するとカレンチャンは少し焦ったように手をブンブンと振った。
「い、いえいえ! そんな大したことではなくて、パパの知り合いにUMADの関係者がいて、それで何とな〜く聞いたのを思い出しただけです! マリンアウトサイダさんって、格闘ウマ娘界ではすっごく有名人ですし!」
アドマイヤベガは相変わらずのジトっとした目でカレンを見つめる。
「ふぅん……そうだったの。まるで知り合いのように言ってたから、少し驚いたわ」
「ははは……そんなわけないじゃないですか〜、接点なんて有りませんし〜、会った事もないですよ〜」
そう、彼女自身にマリンの(便宜上の)祖父との面識はない。しかし、彼女の『師匠』は違う。カレンチャンには人に知られざる秘密があった。それは彼女が『合気道の有段者』である事。彼女の師であるウマ娘は角間源六郎の直弟子なのである。
(……直接会ったことは無いけど……師匠の話を聞けば聞くほどに、師匠のお師匠さんは化け物だって印象しかないのよね。師匠が『今でも』本気で倒そうとしても軽くあしらわれるって……想像がつかないんだけど)
この世界にはウマ娘をも超えて世界最強を目指すバカな男たちが居る……世間一般から一皮剥けた裏の世界でまことしやかに囁かれている噂だが、カレンチャンはその1人が角間源六郎という男で、その弟子がマリンアウトサイダである事は知っていた。
ゆえに、マリンがトレセン学園に転入すると世間で騒がれていた時、学園内で最も驚き動揺していたのは実はカレンチャンだった。
カレンチャンは「カワイイ」を追求するウマ娘である。その言動やイメージからかけ離れてるが、実は彼女は完璧主義者で自らに対して非常にストイックである。その精神性は「カワイイ」というよりも、スポ根熱血な世界のキャラクターに近い。ある意味武術家らしいと言えるかもしれない。
能ある鷹は爪を隠す、という風に、彼女は自身が武術家である事を隠している。それも一重に「カワイイ」の追求の為であった。
(……マリンアウトサイダほどの実力者には、ちょっとした事でも勘付かれてしまうかもしれない。だから、彼女となるべく会わないように避けて来たけど……)
「あ……そう言えば、マリンさんこれからこの部屋に来るわよ。今日のお昼に小説本を貸す約束をしたの」
「……えっ!?」
カレンチャンは予想外の事に驚く、アドマイヤベガが部屋に友人を呼ぶなど、今までの付き合いの中で一度もなかったからだ。
「ア、アヤベさんが人を部屋に呼んだ……!?」
「……なによ、その驚き方。別にいいでしょう」
「あ、いえ、別に深い意味はありませんよ! そ、そうだ! カレン、マヤノちゃんに次のウマスタへの投稿について相談したい事があったんでした! ちょっと行ってきますね!」
そう言って急いで出て行こうとするカレンチャンをアドマイヤベガは不思議そうに見ていた。
そして、カレンチャンがドアを開けたらそこには……
「あっ、すみません……アヤベさんに用事があって来たのですが……」
ちょうどノックをする寸前だったという姿勢で、マリンアウトサイダが立っていた。
………
……
…
「あら、もう来たのね。ごめんなさい、あの小説本は今から探すところだったの。少しだけ待っててもらえるかしら?」
アドマイヤベガがカレンチャン越しに、入り口のマリンに声をかけた。
「あ、アヤベさん、こんばんはです。全然構いませんよ、ここで待ちます」
マリンはそう言うと、目の前でポカンとしている可愛らしいウマ娘と視線が交わった。そして、何かを思い返すような顔をしてから、ピン!と思い出したように言う。
「あなたは確か……カレンチャンさん……ですよね? ウマスタグラムやウマトックで凄く人気な方だとアヤベさんとトップロードさんから聞きました。私、最近クラスメイトからスマホでウマトックを見る方法を教わったので、少しだけ拝見したことがあります」
「……そ、そうなんですか! カレンの事知ってて貰えてすっごく嬉しいです〜! あなたはマリンさんですよねっ? 私もアヤベさんから時々お話を聞いてました、よろしくお願いします!」
カレンチャンはニッコリと笑って挨拶をした。その持ち前のコミュニケーション能力により、今は特に不審には思われていないようだ。そして、マリンも笑顔で会釈した。
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。レースウマ娘としては私の方が後輩ですが」
そして、マリンが握手を求めるように手を差し出した。カレンチャンはそれを見て、ほんの一瞬だけ躊躇うが、すぐに笑顔で握り返した。
2人は笑顔で初対面の挨拶を交わす。
(うん、そうだよね。普通にしていれば多分バレないよね)
と、カレンチャンが心の中で考えていると……
ズシッッッ!!!!!!
「ッ!!!?」
カレンチャンを突然、巨大な岩をポンと放り渡されたような『重さ』が襲ってきた。それは、普通のレースウマ娘ならば絶対に知らない感覚……しかし、カレンチャンには馴染みのある感覚だった。
『合気』……マリンは握手した右手を介してカレンチャンに『技』をかけていた。
それに対して、カレンチャンは反射的に『技』をかけ返してしまう。されるがままだったら、次の瞬間には地面に膝をついていただろう。それは同じ武術家としての防衛反応だった。しかし、流石は「カワイイ」の探求者、一瞬崩れた笑顔を彼女はすぐに取り繕う。
ズシィィ……!!!
「……!?」
対するマリンも手から伝わる『重さ』に驚いていた。多少手加減していたとはいえ、ここまで対抗されるとは思っていなかった。しかし彼女の方も、その驚きを表情に出す事はなかった。
ギリリ……!と繋いだ手が音を立てた気がした。
周りから見れば、2人のウマ娘が笑顔で握手をしているだけのように見えるだろう。しかし、その裏では非常に高度な武術戦が行われていた。
「……あら? 確かここに並べておいたはずなのに…………ん?」
アドマイヤベガはふと入り口の方を向く。そこには無言の笑顔で握手をし続けるルームメイトとクラスメイトがいた。
「あなたたち……いつまで握手をしているのよ?」
その声に2人はパッと手を離す。カレンチャンは汗ばんだ手を隠すように後ろに回して振り返る。
「何でもないですよ〜、アヤベさん。ただ、格闘ウマ娘さんの手って結構柔らかいんだなぁって驚いて夢中で握っちゃってただけですっ!」
いつものニコニコな「カワイイ」笑顔で答えるカレンチャンを見て、アドマイヤベガの一瞬不信そうな顔になったが「いつもながらよく分からない子ね」とそれ以上気にする事はなかった。
「マリンさん、ごめんなさい。あの本、ドトウに貸していたのすっかり忘れていたわ。すぐに取ってくるから、中で待っててもらえるかしら? ここの椅子、座って良いから」
そう言いながらアドマイヤベガは足速に部屋を出ていく。彼女と入れ替わるようにマリンは部屋の中に入ったのだった。
………
……
…
カレンチャンはアドマイヤベガが離れたのを確認するとゆっくりとドアを閉めた。そして、マリンの方へ振り返り、普段の彼女なら誰にも見せない不満げな表情を見せる。そしてそのままベッドまで歩いて行き、ポスンと腰掛けた。
「……普通、初対面のウマ娘に『技』をかける? カレンがただのか弱いカワイイウマ娘だったらどうするつもりだったの?」
「その……すみません。前々からウマトックで見たり、校内であなたが歩くのを見かけた事があるのですが、どんな時でもあなたの姿勢が見た目に反して『あまりに体幹が整いすぎていた』ので気になっていたのです。そして、さっき手を握った時に『同類』だと確信して、つい……」
はぁ……とカレンチャンはため息をついた。
「……この事、他の誰にも言わないでよね。アヤベさんにも、お兄ちゃんにだって言ってないんだから」
「お兄ちゃん……?」
「トレーナーにもってこと」
「はぁ、そうなのですか……その話し方が素のあなたなのですか? さっきとは大違いですが」
「……カレンは年上には敬語を使うよ。でも、突然『技』をかけてくるような失礼な先輩には使わないもん。例え、同じ合気道家でもね」
ぷーん、とカレンチャンが頬を膨らませて横を向く。しかし流石はNo. 1ウマトッカー、その顔すらもカワイイとは恐れ入る。マリンは「そういえば、ライスさんもトレーナーさんをお兄さまって呼んでたな……よくある事なのかな」とぼんやり考えている。
「……それは、本当に申し訳ありませんでした。実力のある武術家だと分かるとつい血が滾ってしまうのです。ヤエノさんにも、初対面の時は失礼な事をしてしまいました……」
マリンは恥ずかしそうに目を潜めた。室内に沈黙が訪れる。そして、マリンが意を決したようにカレンに問いかけた。
「その……お尋ねしたいことがあるのですが、カレンチャンさんは……なぜ、武術家であることを隠しているのですか?」
カレンはツンと横に向けていた顔を戻してマリンを見る。
「カレン、で良いよ。大した理由じゃないわ。単にカレンの求める『カワイイ』とイメージが合わないだけ。カレンにはカレンだけの絶対のルールがあるの。ただ、勘違いしないで。別に格闘ウマ娘をどうこう思ってのことじゃないわ。カレンは自分の武術には誇りを持っているつもりよ、一応ね」
「はぁ……なるほど、です」
マリンは声を漏らす。
「後は、時代がまだ追い付いていないから……ってのもあるかな。最近は少しずつ変わってきてるけど、今でもレースと比べると格闘技全般は倦厭されがちだし、ウマ娘は『走るために生まれてきた』って言葉もあるくらい、レースこそがウマ娘にとっての至上の価値だって考える人は多いの。カレンがトレセン学園に転入したのも、純粋にレースウマ娘に憧れたからだし、その考えは間違ってはないと思ってるわ。個人的な意見としてだけど」
転入という言葉にマリンは驚いた。
「カレンさんも、転入生だったのですか?」
「そうよ。でも、流石にあなたほどの騒ぎにはならなかったわよ。カレンはあの時はウマトッカーとして有名だったけど、全国覇者の格闘ウマ娘と比べれば可愛いものでしょ?」
カレンチャンがニコッといつもの笑顔に戻る。
「でも……あなたのお陰で、格闘ウマ娘のイメージがちょっとずつ変わってきてるみたいよ。色んなSNSで、この前の宝塚記念の事が取り上げられて話題になってるわ。見てない?」
「う……私は、自分のことを見るのは……ちょっと苦手で……エゴサって言いましたっけ? 1度もそれをした事がないのです」
カレンチャンはため息をついた。
「カレン的には信じられないけど……まあ、仕方ないか。あなたが山育ちで機械音痴ってのは武術家の間では結構有名な話だし」
なんか同じことをどこかで聞いたぞ?とマリンは訝しんだ。カレンチャンはスマホで何かを検索しながら、話を続ける。
「あった、この呟きはかなり拡散されてるわ。『史上最大のフロック』と呼ばれる今年の宝塚記念、マリンアウトサイダが勝てたのは彼女の格闘ウマ娘としての実力からだ、という意見ね。武術の鍛錬により、レース中の転倒などによる負傷のリスクを軽減出来るのではないか。URAとUMADの関係にも何かしら進展が必要ではないのか……だってさ」
「!……そのようなことが……」
マリンの脳裏に、幼馴染みの顔が浮かんだ。
「……ルリイロバショウが言ってました。走らないウマ娘は無価値ではないと私と証明したかった、と……でも、華やかなレースの裏で暗く冷たい現実に涙を流すウマ娘も大勢いる……私の走りは、それを少しでも変えられるものだったのでしょうか……?」
カレンチャンはマリンの言葉に耳がピクンと動いた。彼女も知っているのだ。格闘ウマ娘とレースウマ娘、双方の現実を。
「……ま、そんな単純で簡単な話じゃないのは確かね。でも、風向きがほんの少しでも変わってきてるのは事実よ。だからゴチャゴチャ考えるより、ひたむきに走り続けた方が良いんじゃないの? マリンさんは」
ツンとした様子のカレンチャンにマリンは感心したように言う。
「カレンさんは凄いですね……ウマトックで見るあなたは非常に華やかなのに、その実とても見識が深くて、冷静沈着で、レースでも活躍している……とてもカッコイイです」
カレンチャンがジトっとマリンを見つめて、顔を横に向けた。
「そこはカレン的には『カワイイ』って言ってくれないと、嬉しくなんかないかな。でも……ありがと……『カッコイイ』なんて、言われたことなかったわ」
マリンの純真な賛辞に、カレンチャンは内心でたじろいでいた。
「それよりも! アヤベさんから、あなたの実家にクラスメイトと行くって聞いたんだけど。あんまり危険なことさせないでよね」
突然の話題転換にマリンは目をパチクリとさせる。
「今度の連休の話ですか。多分、大丈夫ですよ。おじいちゃんは格闘ウマ娘以外には基本的に優しいですから」
「……だったら良いけど。もしアヤベさんに何かあったら、カレンがあなたをボコボコにするから……本気で」
カレンチャンは一瞬、武術家の顔になった。それだけで彼女がどれだけアドマイヤベガの事を気にかけているのかが分かる。
「…………」ゴクリ
「そこで嬉しそうな顔しないで! 全く、格闘ウマ娘たちって好戦的過ぎると思うわ! カレンが合気道有段者って言ったら、絶対に喧嘩売られるに決まってるもん……それもカレンがこの事を黙ってる理由の1つなんだから」
カレンチャンは自分が角間源六郎の孫弟子にあたることは、とりあえず今は伏せることにした。余計なことを言わないのはSNS発信者の基本なのだ。
「その……カレンさん。何はともあれ、あなたと知り合えたのは本当に僥倖でした。トレセン学園にも同じ『格闘ウマ娘』が居るのは……何というか、心強いです。良かったらですが、私たち……お友達になれませんか?」
ジッと見つめてくるマリンを、カレンチャンは見つめ返す。そして、ピョンとベッドから立ち上がると、マリンの所まで歩いて行く。そして、ゆっくりと手を差し出した。
「……技、かけないでよ。さっきはかなり手加減してたでしょ。格下相手に遊ぶのは武術家の恥よ」
「……手加減はしてましたが、あなたが格下とは到底思えません。あの『合気』を真っ向から返せるのは相当な手練れだけです。いつか……本気で闘ってみたいです」
2人は笑みを浮かべて、ガシッと今度こそ本当にただの『握手』をする。2人の武術家がお互いを心から認め合った瞬間だった。
ガチャリ
とそこへ、ちょうどアドマイヤベガがドアを開けて入ってきた。
「マリンさん、待たせてしまったわね。ドトウが貸した本を取り出す時に、本棚を倒しちゃって……」
アドマイヤベガは握手する2人を不思議そうに見つめた。
「……あなたたち、そんなに握手するのが好きなの……?」
そして、ポツリと怪訝そうに呟くのだった。
タヒぬほど忙しくなってきました。今年中には完結させたいと思ってるので、とにかく急ぎます……!