【完結】流れ星の転校生~とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話~ 作:カンヌシ
年内完結させるという目標は果たせました。有言実行……出来ました。
マリンアウトサイダとハルウララの対決の翌日の昼食時間、トレセン学園の食堂の一角で『黄金世代』の5人とハルウララがテーブルを囲んでいた。
ハルウララに昨日のレース後の疲労は全く無いみたいで、むしろ逆に元気になっている様子だった。
「ごっはん〜ごっはん〜おひるごは〜ん♪」
「ウララちゃん、ご機嫌だね〜」
「昨日のマリンさんとのレースの後からずっと元気だもんね。慣れないレースを走ったのに凄いなぁ」
セイウンスカイとスペシャルウィークがハルウララの溌溂な様子を見て和んでいる。
「ふふ、そうですね〜。2人とも本気でぶつかり合って……少し羨まく感じました。エルはどうでしたか?」
「ムムゥゥゥ……エルはやっぱりアンフェアなレースは好きじゃないデェス。でも、あれも1つの勝負の形かもしれません……パパが言ってました。『ボコボコにされて地に倒れながら勝つ喧嘩も有れば、打ち倒した相手を見下ろして負ける喧嘩もある』って。昨日のレースはそんな感じだったのかもしれないデェス」
そんな団欒にカツカツと足音を立てて誰かが近付いてきた。皆がその方を見ると、威圧感を放つ目付きの鋭いウマ娘……ナリタブライアンが食堂のトレーを持って立っていた。その隣に姉のビワハヤヒデも居た。
「あれ、ブライアンさん。ハヤヒデさんまで、どうしたんですか? あ、もしかしてチームメンバーに招集がかかってました!? 私スマホチェックしてなかった!?」
スペシャルウィークが慌ててスマホを取り出す。
「違う、『シリウス』は関係ない。用があるのは……」
ナリタブライアンがギロリとハルウララを睨み付ける。
「??」
ハルウララはモグモグとオムライスを頬張りながらキョトンとする。テーブルの彼女以外の5人に緊張が走る。
ブライアンは背後にゴゴゴゴゴと文字が見えそうな威圧感を放っている。そして、ハルウララに言い放つ。
「軟弱な物を食べるな。肉を食え。肉を食えば、お前は強くデカくなれる」
そう言って、ゴトッ……とブライアンはハルウララの前に厚切りのステーキを置いた。
「ええっ、貰って良いの!? ありがとうブライアンさんっ!!」
すると、ハヤヒデも横から割り込んだ。
「ウララ君、私からはこちらを差し上げよう。デザートに食べると良い」
そう言ってバナナを一房置いた。
「身体を大きくするなら栄養バランスも考慮し、効率良く摂取するのが肝要だ。肉などのタンパク質だけでなく、食物繊維も……」
「姉貴、私は頭だけでっかちになって欲しい訳じゃないぞ。ハルウララ、肉を食って走れ、それで良い。邪魔したな」
そう言い残すとブライアンは去って行く。
「な! 待て、ブライアン! 頭でっかちとはどう言う事だ!? ちょっと、待つんだブライアン!」
そうしてハヤヒデも去って行った。まるで台風一過したかのようだった。しかし、続けて更なる来客がやってきた。
生徒会長のシンボリルドルフだった。
「やあ、ハルウララ。ブライアンに続いて恐縮だが、これを受け取ってくれ」
ルドルフはハルウララにグリーンスムージーを渡した。
「わぁっ! ありがとう、カイチョーさん!」
「ふふっ……では、失礼する。これからも意気軒昂に励んでくれ、ハルウララ」
そう言ってルドルフは去って行った。そして追い討ちをかけるが如く、今度はオグリキャップがやって来た。トレーの上には超山盛りのコロッケ定食が乗っていた。
「ハルウララ……ここのコロッケは絶品なんだ。食べてくれ」
オグリキャップはハルウララのオムライスの皿に、コロッケを5つ乗せて去って行った。周囲からは「オグリキャップが食べ物を分けた……!?」とどよめきが起こっていた。
「わぁ……なんでかな!? もしかして私、今日誕生日だったのかな!?」
嵐のような出来事が過ぎたが、ハルウララは満面の笑みで喜んでいた。それを見てキングヘイローが穏やかな笑みで、誰にも聞こえない声で呟く。
「みんな……認めているのよ。貴方の『強さ』を」
そう言えば……とスペシャルウィークが思い出したように言った。
「マリンさんは今日、病院の検診の後にそのまま実家に帰るみたい。おじいさんに長い間心配かけちゃったから、今は月に一度は顔を見せに行ってるんだって」
「ふーーん、そっかぁ……」
(私もおじいちゃんに暫く会ってないな……今度の連休に帰ろうかな)
セイウンスカイは自分のおじいちゃんの事を思い出した。あのマリンアウトサイダもおじいちゃんには甘えたりしているのだろうか? とふと考えるのだった……
………
……
…
ドダダダダッ……バダンッ!!!
古びた道場の床を黒髪のウマ娘が転がり、壁に激突する。何とか受身を取って衝撃を和らげたが、それでも痛いものは痛いようで、顔をしかめて立ち上がる。
「っ痛……帰ってきた孫を言葉交わす前にぶん投げるおじいちゃんって他に居ないよ……?」
「バカタレが。気が弛んでいるようだったから気合いを入れてやってるだけだ」
老人は腕を組み、ほんの僅かに声のトーンを落として言う。
「……ミドリ、病院に行ってきたんだろう。医者は何と言っていた?」
「それ、投げ飛ばした後に聞く事じゃないよね? 一応、特に問題は無いってさ。レースに出るのも大丈夫。私は走れるよ、思いっきり」
「……そうか、なら良い」
老人は安心したように息をついた。そんな彼にマリンは問いかける。
「ねぇ、おじいちゃん。私のこと、『マリンアウトサイダ』って呼んでなかった? さっきはミドリって言ってたけど、そろそろ真名で呼んでくれても良いんじゃない?」
「……はんっ、半人前が調子に乗るんじゃねえ。お前なんざ『ミドリ』で十分だ。それ以外で呼んだことなんざ無ぇよ」
「むぅ……どこかで呼んでた気がしたんだけどな……」
「気が弛んで夢でも見ていたか? 良かろう、今日は久々にしごいてやる。覚悟をしろ『ミドリ』」
ええっ……!と叫ぶ間もなく、マリンは再びぶん投げられる。武術の腕前で師を超える道のりは、まだまだ果てしなく続いていた。
………
……
…
「よし……忘れ物は多分無いかな」
翌る日の早朝、マリンアウトサイダは制服姿で母屋の玄関でトレーニングシューズを履いていた。腰には、いつもの緑色のパーカーを巻いている。
「もう出るのか、ミドリ。随分と早えじゃねえか」
甚平を着た老人がマリンの後ろに立つ。
「うん、走って行こうと思って。『飛脚』みたいに……ね」
マリンは屈んで靴紐を結んでいる。その背中に、老人は彼女の確かな成長を感じていた。武術家ウマ娘であり、レースウマ娘でもある孫の姿を見たら彼の伴侶は何を思うだろうかと、ふと考えたのだった。
そして、老人は彼女に尋ねる。
「ミドリ……楽しいか、トレセン学園は?」
「……うん、とっても!」
マリンは老人に、春の桜のような笑顔で返した。
「行ってきます、おじいちゃん! また来るね!」
「ああ、行って来な。夜中に雨が降ったみてえだからな。気をつけな」
マリンは玄関を出て駆け出した。あっという間にその姿が小さくなる。老人も外に出て、その背中が見えなくなるまで見送った。
「行って来な……『マリンアウトサイダ』」
そう小声で呟いた。
老人は母屋に戻って、茶で一服しようと玄関から上がった。
すると、外からダッダッダッと足音が聞こえて来て、ガララと引き戸が開いた。何事かと思い、振り返ると……
「あ、あはは……おじいちゃん。走ってる途中に子狸を見かけて、『ドトウさんに似てるなぁ』って余所見してたら水たまりで転んじゃった……」
玄関には泥まみれになったマリンが立っていた。『水たまりの鬼』とナリタトップロードに呼ばれた姿はどこへやら。
源六郎は大きなため息をついた。
「締まらねえ奴だな、おい。やはり当分、お前は『ミドリ』だな……」
老人は呆れ顔だったが、同時に穏やかな優しい目をしていた。
…
……
………
トレセン学園の寮から少し離れた一般道の脇に、2人のウマ娘が立っていた。マリンのクラスメイト、ナリタトップロードとアドマイヤベガだった。待ち合わせをしている様な雰囲気にも見えるが……
「ねえ、本当にマリンさんはここを通るの?」
「はいっ! 今日から登校するって連絡があったので、彼女はきっと山からここまで走って来ます。待っていれば、その内来るはずです!」
「そう……でも、そろそろ向かわないと私たちも遅刻するわよ。良いの? 学級委員長でしょ、あなた」
「あと少し! あと少しだけ待ちましょう、アヤベさん! マリンさんをびっくりさせたいんです!」
「普通に教室で待ってれば良いじゃない。はぁ……あと少しだけよ」
アドマイヤベガがそう言うと、遠くからタッタッタッタッと足音が聞こえて来た。彼女たちはその方向をじっと見つめていると、道の先から黒髪のウマ娘が走って来ているのが見えた。
「あっ! 来ましたよ、アヤベさん! おーーーい、マリンさーーーん!!」
ナリタトップロードが両手をブンブンと振ってマリンの名を呼んだ。それに気付いたマリンは2人の元へ駆け寄って来た。
「ハァッ、ハァッ……トップロードさん、アヤベさん、おはようございます!……もしかしてずっと待っていたのですか?」
息が上がっていたマリンは、2人に尋ねた。
「はいっ、おはようございます! マリンさんをビックリさせたくて!」
「おはよう、マリンさん。あなた、本当にあの山から走って来たのね。これから授業なのに汗だくじゃない、替えの制服は持っているの……って、あら?」
アドマイヤベガはマリンの格好に違和感を覚えた。いつもなら見慣れているはずの物が無かったのだ。
「マリンさん……あの緑のパーカーはどうしたの? 制服の腰に巻いてない姿なんて、初めて見たわ」
「あっ、本当だ! どうしたんですか!?」
マリンは少し恥ずかしそうに笑って言う。
「実は……山で転んじゃって、泥まみれになっちゃったのです。制服は必要なので、水で洗って袋に詰めて持って来たのですが、パーカーはそのまま庭に干してあります。また今度戻った時に取ってくるつもりです」
え!?と2人が驚いた顔をした。そして、トップロードが言う。
「マリンさん、確か転入したばかりの時、食堂で間違って誰かにパーカー汚されてから、その日1日は授業に出てませんでしたよね? パーカーが乾くまで絶対に側を離れませんでしたし」
「うっ……あの時は、あの時です。私も成長したのです。もうそんな子供みたいな事はしません」
アドマイヤベガが心配した顔で尋ねる。
「マリンさん……大丈夫なの?」
マリンは笑顔で答える。
「はい。私は大丈夫ですよ、アヤベさん」
その顔を見て、アドマイヤベガは安心したように微笑む。マリンの『願い』を知る彼女は少しだけ心配していたのだ。だが、それは杞憂だった様だ。もしかしたら、どこかでその『願い』は叶ったのかもしれない、とふと思ったのだった。
「……そう、なら良かったわ。急ぎましょう。3人揃って遅刻しちゃうわよ」
「そうですね! 行きましょう! 今日も1日、『全身全霊』です!」
そうして3人は歩き出した。ナリタトップロードとアドマイヤベガが前を行き、「待っていて良かったでしょ、アヤベさん!」「……そうね」と後ろをついて行くマリンの耳に会話が聞こえた。
マリンはふと立ち止まって、空を見上げた。
どこまでも落ちていきそうな、青く澄み渡る空は、まるで自分たちを見守っているかのように思えた。
出会いが有れば、別れも有る。誰にだって二度と会えない人は必ず居る。
マリンは空を見て、一抹の寂しさを覚えた。だけど、同時に心が穏やかになる。
何故なら空は繋がっているから。どれだけその色を変えても、いつか……別れた誰かと、また会えるはずだから。
そんな思いが、マリンの胸の中に溢れて来た。
(私は走れる……思いっきり、自由に駆け抜けて行こう……私だけの旅路を)
「マリンさーーーん! どうしたんですかーーー? 置いて行っちゃいますよーー!」
先を行った2人が立ち止まってマリンを待っていた。
「はい! 今行きます!」
マリンは駆けて行く。仲間たちと共に。
この先も、ずっと……彼女は走り続けるだろう。
またいつか、『ゴールの先のあの人』に出会える日まで……
とある山奥の古びた道場、その側の物干し竿には1枚だけ洗濯物が掛けられていた
どこまでも落ちていきそうな、青く澄み渡る空の下で
緑色のパーカーが、風に吹かれて穏やかに揺れていた……
『流れ星の転校生~とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話~ 』
Fin.
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。それしか言葉が見つかりません。
この物語が、少しでも皆様の励みになったのならばこの上ない幸いです。