【完結】流れ星の転校生~とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話~ 作:カンヌシ
時系列的にはメインストーリー第一部のその後ってイメージです。
「トレーナーさん、紅茶をご用意致しましたわ。どうぞ」
カチャ……と優雅な動きで、メジロ家の至宝『メジロマックイーン』は自身のトレーナーのデスクにティーカップとソーサーを置く。
「ああ、ありがとうマックイーン。すまないな、メジロ家の令嬢に召使いみたいなことをさせてしまって」
「もう、またそんなことをおっしゃって。
「ははは、そうだったな。マックイーンの入れる紅茶は美味しいからね。これからも入れてもらえると嬉しいよ」
「ふふっ。ええ、お望みなら……これからも、いくらでも、ご用意致しますわ」
チーム『シリウス』のトレーナー室の一角から、ほんわかと甘〜い香りが漂っている。
それを部屋の中央のソファに座って見つめるのは異次元の逃亡者『サイレンススズカ』
シリウスのトレーナーからチームメイト全員に招集がかかったとメールで見て、先程トレーナー室に到着したところだった。
メジロマックイーンは当然のように先にトレーナーと一緒にいた。
(……今週に入ってから、トレーナーさんとマックイーンの同じ様な会話を5回は聞いたわ。この2人は本当にお付き合いしてないのかしら……?)
そんな甘々な2人を横目にサイレンススズカは「スペちゃんはまだかしら」と尻尾を揺らしていた。
「スズカさんも、紅茶はいかがですか? お茶菓子も抜かりなく、ご用意してますわ」
「ありがとう、マックイーン。頂くわ」
マックイーンは2人分の紅茶を注ぐと、スズカの正面のソファに腰掛ける。
「トレーナーさんも、私たちを呼び出しておいて、いつまでパソコンと睨めっこしていますの? こちらで一緒にお茶に致しませんこと?」
「うーん、ごめん。ほらウチのチームのあの娘たち、これから重賞レースに挑戦するだろ? その資料を早めにまとめておきたくて」
あの娘たちとは、シリウスに所属する前髪ぱっつんのウマ娘、タレ目のウマ娘、黒髪ボブのウマ娘の3人である。
他の主要メンバーと比べると活躍の機会は少ないが、地道な努力を重ねて、ついに重賞にまで手が届きそうなほど成長していた。
「まぁ、そうでしたの。相変わらず、チームのこととなると仕事に没頭してしまいますのね。それにしても感慨深いですわ……私もあの娘たちの先輩として、精一杯応援しなくては」
マックイーンが優しく微笑む。
スズカはお茶菓子を食べながら「これ、スペちゃんが好きそうだわ」とか考えている。
「それはそれとして、私たちを呼び出した理由もお聞きしたいですわ。次のファン感謝祭についてですの?」
「いや……」
ガララっとトレーナーはホイールチェアを引いて、マックイーンたちの方を向いた。
「みんなが集まってから言おうと思ってたけど、君たち2人には先に伝えておくか。もしかしたら……このチームに新メンバーが加わるかもしれない」
「えっ!」「!」
と2人のウマ娘は驚いた。
「この様な時期に? 一体どなたが……」
「あ、もしかしてですけど……あの転入生でしょうか?」
「そう、スズカの言う通り。マリンアウトサイダだ。ただ、まだ決まった訳じゃない。むしろ、それを決める為にみんなで集まって話し合おうと思ったんだ。僕たちと彼女は、お互いをほとんど知らないからね」
マックイーンが紅茶を見つめる。
「マリンアウトサイダさん……格闘ウマ娘から、突然レースウマ娘へと転向した噂の方ですわね。私はまだお会いしたことはありません。確か今は、基礎づくりのために教官指導トレーニングを受けていると聞いた覚えがあります」
「ああ、まさにその教官から話を持ちかけられたんだ。実は彼は僕の昔馴染みなんだ。それでもし可能なら、彼女の面倒を見てやれないかって頼まれてね」
そして、腕を組んで俯いた。
「教官いわく、そのウマ娘は『迷子』のように見える……って。その言葉がどうしても気になってね」
トレーナーの真剣な眼差しにマックイーンはドキリとした。そして、それを誤魔化すように紅茶を口にした。
(はぁ……この人は、そんなウマ娘を放っておける性格ではありませんものね。そこが良いところでもあるのですが……)
彼女は自分の恋心を自覚しているが、少なくとも学園を卒業するまでは胸の内に秘めておくと決めていた。
チームの皆の為に、何よりもトレーナーさんの為に、この気持ちを悟られてはいけない……と考えている。
(トレーナーさん以外のみんなにはバレバレだけど……)
と、スズカは心の中でツッコむ。
「それで先にここに来ていたライスシャワーとスペシャルウィークに、マリンアウトサイダを連れてくるようにお願いしたんだ」
ブホッ!ケホッ!とマックイーンが咳き込む。
「わ、私が1番乗りではなかったんですの!? あ、いえ、特に深い意味はありませんが」
「??? いや、たまたまその2人は近くにいたらしくてな。すぐにここに来たから頼んだんだ。ああ、でも……」
トレーナーの表情が曇る。
「例によって、何故かゴルシがタンスの中から飛び出してきてな。『ゴルシちゃんに任せろー! オラァ行くぞ、スペシャルライス!』って言って2人を引っ張って行ったんだ。何も起こらなければ良いんだが……」
ブホッ!っとマックイーンが吹き出すこと2回目
「そ、それは、危険しかありませんわ! トレセン学園とUMAD間の大戦争が引き起こされても不思議ではありません!」
「そうかな?」
コンコン!
と、トレーナーがのんきな返事をしたところでノック音がした。しかし、誰も入ってくる様子がない。
「おや、誰だろう? 入ってこないならチームメンバーではないのかも。僕が出るよ」
席を立ち、入り口に向かったトレーナーがドアをガチャリと開けると……
そこには真っ黒なサングラスを掛けたライスシャワーが立っていた。
プルプルと震えていて、見えなくてもサングラスの下が涙目になっているのが分かる。
「お……お兄さまぁ〜〜〜!!! うわぁ〜〜〜ん!!!」
ライスシャワーは泣きながらトレーナーに抱き付いた。
「なっ……!!! ライスさん、羨ま、コホン!! どうされたのですか!?」
と、マックイーンは口をパクパクさせる。
スズカも驚いた様子だ。
「ライス! 一体どうしたんだ?」
と、トレーナーがライスシャワーの肩を掴んで引き離すと
「失礼します」
ツカツカと黒毛のウマ娘が入ってくる。
左右の肩にダランと脱力したゴールドシップとスペシャルウィークを担いでいた。
「ゴールドシップさん!?」
「スペちゃん!?」
と、2人のウマ娘が驚いているのも気にせず
「ここが『超・秘密結社シリウス☆ザ☆パクパク』日本支部の拠点ですか?」
マリンアウトサイダはキリリとした目つきで言った。
ーーーーー
遡ること、十数分前……
「よーし、スペシャルライス! 覚悟はいいか!? アタシたちはこれより例の外宇宙から飛来した未確認宇宙生物の捕獲作戦を決行する! ほれ、このグラサン掛けろ。宇宙生物と戦う時にはグラサンだってワイマール憲法にも書いてあるんだ」
ゴールドシップがポン、ポンとライスシャワーとスペシャルウィークの手にグラサンを乗せる。
「あのーゴールドシップさん、私たちは転入生のウマ娘を連れてきてって頼まれただけで……」
「そ、そうだよ、ゴルシさん……それに転入生さんを宇宙生物って呼ぶのはちょっと失礼だし……ワイマール憲法にそんなの絶対書いてないし……ライスたちの名前合体してるし……」
2人は案の定困り顔だ。
「じゃあかしいわい、シャワーウィーク! お前たちはトレーナーの、あの言葉の裏の意味に気付けなかったのかよ!」
ゴルシは涙を目に溜めて熱弁する。
「あれは助けを求めていたんだ! 既に真実を口にしたら頭の生え際が無限に前進する改造を施されてしまっていたんだ! アタシたちはトレーナーを救わなきゃならない! その為にあの宇宙生物を生捕りにするぞぉ!」
「生え際が前進するんですか!? それは……怖いですね」
「ライス……もう、嫌な予感しかしないよぉ……」
バサッとゴルシがどこからか謎のズタ袋を3枚取り出し、1人1枚ずつ配る。
「これが捕獲装置だ。扱いには注意しな!」
「あ、あれ……何故でしょうか……この袋見てると何かを思い出しそうな……」
「ライスも……なんでかな?」
もしかしたら、2人は別世界で拉致されていたのかも知れない。今回は拉致する側だが。
「おぉ! 噂をすれば……ヤツだ! こっそり近付くぞ。バレないように気をつけろ」
そして、ゴルシが歩道を歩いてるマリンアウトサイダを発見する。
彼女は授業が終わり、自主トレーニングの用意をするため寮に戻る途中だった。
スペとライスは、もう半分諦めてゴルシに従っていた。3人はグラサンを掛け、木やベンチの陰に隠れながらマリンの後を尾行する。
「……そこのお方々、私に何かご用ですか?」
まあ、バレないわけがないのだが。
「とぉう!!!」
ゴルシは颯爽と飛び出して、マリンの前に立ちはだかった。
「我々は『超・秘密結社シリウス☆ザ☆パクパク』日本支部の者だ! トレーナーの毛髪を守る為! マリンアウトサイダ、貴様の身柄を拘束する! スペ、ライス! フォーメーション・Gだ!」
「え、ええ!? 何ですかそれ!? ああもう、何とかなれー!!」
スペシャルウィークはズタ袋を構えて、ゴルシと共に突撃した。
「えっ! スペさん!? こんな悪い人みたいなこと、ダメだよぉー!」
流石はライス、良い子だった。
そして……
チーン………という感じで、ゴルシとスペは地に臥していた。
もちろんマリンは2人の連携を事も無げに躱して、首を後ろからトントンとやっただけだ。
「……喧嘩を売られたかと思いましたが……これは何かが違う様な……」
ライスシャワーはガクガク震えるばかりだった。
「そこのあなた」
「ひ、ひゃい!」
「その『超・秘密結社シリウス☆ザ☆パクパク』とやらの拠点へ案内してください。リーダーは別に居ますよね? もしもこれが本気の喧嘩ならば、場合によっては……」
マリンが闘気を出して威嚇する。
「ひ、ひぇ〜〜ん!」
ライスは涙目で、マリンをトレーナー室まで案内したのだった。
ーーーーー
「と、気絶させた2人をその場に放置するのも忍びないので、ここまで担いで来たのですが……」
と、マリンが事の経緯を説明する。
『シリウス』のトレーナー室のテーブルを挟んだ2つのソファで、片方はトレーナーとマックイーン、もう片方はマリンアウトサイダが向かい合って座っている。
「「うちのゴールドシップが本当にすみませんでした」」
トレーナーとマックイーンが綺麗にシンクロして頭を下げた。
「……なんだか、子供が悪さをした夫婦みたいですね」
「えっ、そんな、夫婦みたいだなんて///」
「ははは、そうだよ。マックイーンはまだ学生だし、みんな手のかかる子供みたいなものだ痛たたたたたた!!!!」
マックイーンがテーブルの下で足を踏んだようだ。
気絶した2人はというと、床にゴザを敷いて寝かせている。サイレンススズカはスペシャルウィークを膝枕していて時々「可愛い…」と呟いてる。
ライスシャワーはソファの側で落ち着かない様子で立っていた。
すると、「こんにちはー!!!」と元気な声でウイニングチケットが入ってきた。続いて後ろから3人のウマ娘も入ってくる。
「あれっ? マリンさんだー!!! どうしてここに? もしかしてウチのチームに入るのー!?」
「チケットさん……チケットさんも、もしかして『超・秘密結社シリウス☆ザ☆パクパク』のメンバーだったのですか?」
「え、何それ? というか、トレーナーさんは何で足抱えて悶絶してるの? あと、スペちゃんとゴルシは、何で寝てるの?」
トレーナーが座り直して
「あー……とりあえず、状況を整理しようか。みんな、適当に座ってくれ」
そう言って、トレーナーは皆に事情を説明するのだった。
…
……
………
「……という訳で、どうかな? マリンアウトサイダさん。もちろん、即決する必要はないよ。まずは仮メンバーとして、少しの間一緒にトレーニングをしたり、他のメンバーと交流してから決めて貰いたい」
チーム『シリウス』のトレーナーはとても爽やかな人柄で、マリンは好感が持てた。
彼は数々の経験を経て、ベテラントレーナーへと成長していた。
マリンは考えていた。走りについて色々と学べそうだし……もしかしたら、自分の『夢』についてヒントを得られるかもしれない。
レースへの出場もゆくゆくはチームを通しての事となるし、間違いなくメリットの方が大きい。
「……それは、私のようなレース未経験者には願ってもないことです。ご迷惑でなければ、是非お願いしたいです」
トレーナーはにっこりと微笑んだ。
「うん、分かった。さっきも言ったけど、まずは仮メンバーとしてやっていこう。よろしく、マリンアウトサイダ」
「はい、こちらこそ。よろしくお願いします。トレーナーさん」
「うおおおおおおおお!!! やったあああああ!!!! マリンさんが仲間になったあああああ!!!! 嬉しいよおおおおおお!!!」
チケットがマリンの後ろから抱き付いた。
スキンシップに慣れていないマリンは困り顔だが、嬉しそうだ。
「チケットはマリンアウトサイダとはクラスメイトだったよな? 他のみんなも自己紹介しようか」
そうして、皆が(寝ている2人はしばらく後で)自己紹介を終えると、少しの間マリンは『シリウス』メンバーとの談笑を楽しむ。ナリタブライアンはどこかで昼寝しているのだろうから、顔合わせは後日とのことだった。
レースにあまり詳しくないマリンでも、話を聞くと、とにかくここのチームは凄い事は理解できた。メンバーは皆レースで輝かしい成績を収めている。
メジロマックイーン、ウイニングチケット、ライスシャワー、ナリタブライアン、サイレンススズカ、スペシャルウィーク、ゴールドシップ
聞くだけでもどのくらいのレースを制したのか想像がつかない。
前髪ぱっつんのウマ娘、タレ目のウマ娘、黒髪ボブのウマ娘の3人もOPリーグを合わせて何勝かしており、これから重賞にも挑戦すると言っていた。
詳しい事はまた、後日するとして、マリンはチーム『シリウス』のトレーニング室を後にするのだった……
………
……
…
「トレーナーさん、彼女の印象はいかがですか? とても真面目で実直そうだと私は思いましたが。ストイックな武術家のイメージそのままでした」
マリンが去った後、マックイーンがトレーナーに尋ねた。
「うーん、僕もほとんど同じ印象だなぁ。まだ初対面だから、そこまで分からなかったけど、あの教官の勘は結構鋭いからね。とにかく僕は全力でサポートするさ」
「そう……ですか、私もお力になれることがあれば、何でもおっしゃって下さい。あなたが認めるならば、あの娘はもう、私たちの大切なメンバーなのですから」
マックイーンはトレーナーに微笑みかける。同時に、レースウマ娘の苦しみも悲しみも知り、そして見てきた彼女だからこそ、マリンの今後の幸せを願わずにはいられなかった。
少しずつ、レースへの準備が整ってきました……
あと、マックイーンはシリウストレーナーの正妻