大分遅くなってしまったけど久しぶりの戦闘描写は書くのが楽しいですね。
それよりもとあるIFのイベントも木原唯一のかなり熱いストーリーですし、最高です。個人的には脳幹先生と神里の戦闘シーンがムービーで出てきてほしいですけど無いてますよね。
イマフェス引きたいけど石が圧倒的に足りてないのが悔しい。
垣根達が乗って来たガープ所有の軍艦の停まっている海岸とはまた別の海岸近くに聳え立つ、同じ島にある街並みとは似ても似つかない立派な五重塔。その天辺には海風を受けて揺らめく海賊旗が異質な存在感を放っていた。
その下にある五重塔の形はわざとなのか、偉大なる航路の中央にあるシャボンディ諸島の名物、シャボンディパークのものに似ているのは、一度見たことがある者ならすぐに気付けるだろう。
そして周辺の偵察に出ている魚人達もいるためフルメンバーとはいかないが、相当な数の魚人達はココヤシ村近くで根城にしているアーロンパークにいた。
海岸近くにあるアーロンパークの正面には海が見えるように建てられており最高の景観となっており、きっとシャボンディパークにも劣りはしないだろう。
しかしテーマパークと違う一番の要因は、アトラクションが無いこともあるが、他にも海と五重塔の間の地上に玉座のようなものがあることも挙げられる。
「相変わらずムカつくほどに静かな海だ。だが人間共が騒いでるよりは百倍マシだな。シャハハ!」
そこにはノコギリ鮫のような尖った鼻をした青い肌の魚人、魚人海賊団の船長であるアーロンが座っていた。
片側にある机の上には酒の入ったジョッキがあるが、机も酒も人間からすれば普通のサイズであるが、巨体のアーロンの横にあれば随分と小さく見えてしまう。
その傍らにはアーロン愛用の武器である、ノコギリ状の巨大な剣であるキリバチが立て掛けられていた。
斬馬刀をモデルに作られたキリバチは、その巨体に合わせて作られているため普通の人間では万全に振るうこともできないだろうが、アーロンはそれをパワーで振り回すことができ、キリバチは一振りで人間数人はまとめて斬り伏せることができる強力無比な武器になる。
「そういえばアーロンさん。ナミは昨日帰ってきてましたけど、新しい海図を書いてきたんですよね」
「シャハハハハッ!書いてきたぞ。やっぱりアイツには航海士としての才能があるみたいだからな。そう思ったら一億稼いでいなくなるは惜しいなぁ」
「船長も冗談きついな!逃がすつもりなんて無いくせに」
「全くだぜぇ!アーロンさんから逃げられると思ってるなんて、ナミも馬鹿だよなぁ!」
シャハハ!とほろ酔い気分で大きく笑うアーロンを中心として、その場にいる魚人達も笑い合う。
主にアーロンの話し相手としているのはその中でも魚人海賊団の幹部である、クロオビとチュウなどであるが、それよりも下の魚人達も時たま会話に混ざっていた。
魚人以外の他種族を見下しているアーロンであるが、同族であり同じ海賊団の仲間のことは大切にしている節があるからこそ、部下からの信頼は厚い。
たがその話題となっているのは仲間であるハズのナミのことであり、仲間なはずなのに笑い話としていた。
ここにいる魚人達の中で、人間であるナミを仲間だと本気で思っている魚人達はいないことがよく分かる。
そんな和やかな空気をぶち壊したのは、普段からしてみれば珍しいことに、偵察に出ていた魚人達が慌てた様子で帰ってきてアーロンの前へとやってきたため。
「アーロン船長、報告します!海岸の外れに海軍の軍艦が止まってました!」
「あぁん、軍艦だと?いつもの契約の周期じゃないが、なにか緊急のことでもあったのか」
部下の報告を聞いて顎に手をあてながら考えるが、今日に海軍の訪問が来ることなど、アーロンは知らされていない。
そのため幹部であるクロオビやチュウの方を見るも、他の幹部も含めて全員が首を横に振っているため、部下も心当たりがないのだろう。
前回の支払いから二週間も経っておらず、金の支払いの時期は当分先であるし、何よりネズミはアーロン達魚人海賊団を恐れているためコノミ諸島へと近付くことは皆無であった。
それなのにも関わらず、突然海軍の軍艦がやって来たことにアーロンは違和感を感じる。
「それで、海軍がどうしたってんだ」
「それが軍艦が海岸の近くに停まってるだけで誰も来ないんすよ。どうしますかアーロン船長。俺達が行って無理矢理にでも連れてきちまいましょうか」
血の気の荒い部下達は、既に鼻息を荒くしてヤル気満々。いつでも臨戦態勢は万端であるため、無理矢理にでも軍艦に乗っている人を連れてこようかと意気込んでいる。
だがそれは何より手柄を立ててアーロンに認められたいと思っているからである。
「なら放っておけ。あのゴミ人間のことだ、用があるなら直ぐにやってくるだろう。下手な事はしないように一応監視だけは付けておけばいい」
「りょーかいしやした!」
「おいクロオビ!お前が監視の奴等を率いて海軍の奴等を見張っておけ」
「エイッ!分かりましたアーロン船長。いくぞお前達!」
「「「「ウオーッ!」」」」
アーロンの命令と、幹部の一人であるクロオビの掛け声に合わせて両手を挙げる魚人達はヤル気に満ち溢れている。
「その必要はねぇよ」
しかし突如として、部下の魚人とアーロンとの会話に異物が混ざる。
それはこの場において、コノミ諸島における魚人達の楽園であるアーロンパークにおいては絶対に存在するはずの無い、人間という最大級の異物の声てあった。
確かに魚人海賊団には、ナミという例外的な人間がいるが、それを除けばアーロンパークに出入りしている人間は、契約関係にある海軍のネズミだけである。
少なくとも紫のスーツを着たホストのような風貌の男がいることなど有り得ないのだ。
「お前、何者だ」
「お前らの見つけた軍艦で来た海兵だよ」
玉座に座るアーロンは、ジロリと眼球だけを動かして声の主へと視線を向ける。
コノミ諸島を征服してから一度として見たこともない顔であるが、半ば予想は着いていたことである。
「ほーう。なら俺が誰だか分かった上で今、お前は一人でこの場に立っているんだな」
「ノコギリのアーロンだろ、知ってるさ。以前海軍に捕まっておきながらジンベエに助けられて、逃げて東の海にやって来た惨めな魚野郎だったよな」
何処かとぼけたような表情で話す垣根であるが、出てくる言葉は破壊力抜群の数々。
人間を見下して魚人こそが至高であると考えているアーロンにとってしてみれば、垣根の言葉は一番踏み込んではいけない地雷。
そこに加えてあまり良くない感情を抱いているジンベエの名前を出すことで、さらなる追加のダメージを与えていた。
海賊だろうと誰だろうと、何の躊躇いもなく土足でズカズカと踏みつけるのは、海軍であれば垣根にしか出来ない芸当である。
それでもアーロンは部下もいる手前、表面上は冷静さを保っているように振る舞う。
「なるほど、どうやら何処かの村の奴等に反逆者が出たみたいだな。この落とし前はどうつてけてやるとするか」
言葉だけを見れば、アーロンは垣根に対して興味を持っていないようにも感じられる。しかし内心では燃え上がる激情のため、既にアーロンは目の前にいる垣根を殺すことを考えている。
自分の事を絶対的な強者であると考え、目の前にいるのが一人の人間ということで、もはやアーロンからしてみれば垣根は敵になるレベルとは考えておらず、眼中に無い存在であった。
だが眼中にないというのはお互い様である。
アーロンパークまで一人でやってきた垣根としても、周りにいる魚人達含めて早々と事を終わらせて海軍本部へと帰るつもり満々である。
「まぁ、どうせナミの仕業だろうな。シャーッハッハッハ!あの女はまだ下らん希望を抱いたるらしいなぁ」
どこぞの村と言っていたが、アーロンは既に海軍がこの島へとやって来たのはナミの手によるものだと考えていた。
ナミがココヤシ村へと帰ってきたのは昨日の話であり、その翌日にアーロン達魚人海賊団を討伐しようと海軍がやってきたのだ。
泥棒猫として幾つもの海賊団へと侵入し、その度に裏切りを働いて財宝を集めるナミならば、今回は自分を裏切ったのだアーロンは考えていた。
実際のところ垣根がこの島へと来たことと、ナミの帰還には繋がりはないが、アーロンがその関連性を疑うのは至極自然な話である。
膝に片手を付き、もう片方の手はキリバチを掴むために伸びているが、それに待ったを掛ける者達がいた。
「船長が出るまでもねぇ、この人間は俺達で始末してやりますよ」
「そうですよ。船長は高みの見物でもしといてくだせぇ」
ゾロゾロと垣根の前にはいつの間にか出てきたのか、アーロンパークにいる全ての魚人達がそれぞれの武器や拳を構えて立っている。
その魚人達の軍団の後ろにも、アーロンとの間に魚人海賊団の幹部達も庇うようにスタンバっている。
海軍と海賊団が対立することは当然として、海賊団と海賊団の対立も今の大海賊時代には珍しいものではないが、今回のような一人対一つの海賊団の対立は、なかなか見ることは出来ないレア物。
垣根と比べても一人一人の体のサイズも一回りから二回り違うのは当たり前の魚人達が並んで生み出される圧倒的な数の差は、端から見ていて圧巻である。
それら全員が一人目掛け、雄叫びと共に武器を掲げて突っ込んでくる様は、子供であればトラウマ物の経験になるかもしれない。
だが残念ながら相手が悪すぎた。
「失せろ三下どもが。俺の視界に入ってるんじゃねぇよ」
一瞬閉じられた瞳が再度開かれると、垣根を中心としてドーム状に、見ることのできない何かが閃光のように駆け抜ける。それは確かなエネルギーとしてこの場にいる魚人達の体を通り抜け、アーロンパーク全体にまで広がるほどの規模となった。
それ以上広がることはなく勝手に消滅していくが、それは既に役目を終えているからである。
垣根目掛けて走り出していた魚人達が突如として石のように固まっていたかと思えば、次の瞬間にはまるで糸の切れた人形のように、バタバタと魚人達がドミノのように力無く倒れていく。
顔面から地面へと倒れる者もいれば、グニャリと膝から崩れ落ちていく者もいるが、その場にいるアーロン一味は下っぱから幹部まで例外無く意識を失っていた。
普段のアーロンパークの賑やかさや、先程の垣根がやって来た時の騒がしさから一転し、今のアーロンパークは騒ぎ声どころか足音すらも響いていない。
その場で健在なのは変わらずに立っている垣根だけ。
だがその場にいる誰も死んでいるのではなく、あくまでも意識を失って倒れているだけである。
「今のは、覇気だと!?バカな。この東の海に覇気を使えるような人間がいるはずがねぇ!」
「へー、流石に偉大なる航路にいた鮫なだけはあるな。覇気のことを知ってる魚なら水族館の目玉にでもなれるんじゃねぇか」
不思議なことにただ一人、アーロンだけは意識を保っていた。
だがその表情は驚きに染まり、大量に流れる汗と荒々しく乱れる呼吸と共に、無意識に片膝が地面へと付いているが。
能力を発動したのではなく、アーロンが言った通り、垣根は覇王色の覇気を発動させていた。
一海賊団の船長であるアーロンも持たない覇王色の覇気は、王の資質の証とも呼ばれている覇気である。
覇王色の有無で強さの基準が決まるわけではない。海軍の英雄であり、数多の海賊を捕らえてきたガープが覇王色の覇気を持っていないことから見ても分かるだろう。
覇王色の覇気による気絶が効くのは格下の相手のみであり、王の資質に明らかな差がある場合のみである。
使う場面は雑魚敵の殲滅のみと限りなく少ないし、鍛える方法も当人の精神の器の成長と簡単に行えるモノではないため、万能性を好む垣根としてはそこまで優先順位は高くない。戦闘の際にも能力を使うことの方が遥かに多い。
だがこの場面においては分かることが一つある。
それは垣根とアーロンの二人の間には、王として器の差に隔絶した壁があるを証明している。
限定的ではあるものの、肉体ではなく精神においての差を示すには手っ取り早い手段ではあるため、今回は能力ではなく覇王色の覇気を使ったのだ。
「なんか勘違いさせちまったみたいだけど、別にお前程度なら覇王色で十分落とせたんだぜ。お前一人だけ立ってられるように調節してやったんだよ」
やれやれと、垣根はあからさまに面倒だという表情をしているのを見て、アーロンの中の怒りの糸が千切れる。
ハッキリとではないが確かに聞こえたのだ。垣根の口から「この程度か」と、独り言として呟いた言葉が。
挑発的な態度に人間相手に膝を付いているという事実が、ただでさえ低いアーロンの沸点を引き上げる。既に何度も我慢の限界を越え続けられていたアーロンであるが、今の垣根の発言が最後の引き金となった。
「見下してるんじゃねぇぞ、人間がぁっ!!」
そのままの状態から立ち上がると言うよりも跳び上がったアーロンは、垣根目掛けて大きく口を開いて飛び掛かろうとする。
一噛みで垣根の胴体の半分はちぎれそうなサイズのアーロンの口の中に見える鮫の牙は、一噛みで人間を殺すことなど造作もない。
威力であればキリバチを使った剣術の方が威力は高いが、相手がどんな力を持っているか分からないいじょう、速度を重視する選択は定石である。
それき例え牙を折られたとしても、瞬時に何度でも牙は生やすことが出来るため、致命打にはならない。相手の手の内を知るという意味合いではアーロンの中では有効な手札であった。
小手調べとしての側面もあるが、即刻戦闘を終わらせることもでき有能手段だが、アーロンの牙が垣根に届くことはなかった。
「わざと残しておいたのが余計に勘違いさせちまったみてぇだな。テメェのターンは初めからねぇんだよ」
「グバァッ!!!???」
ズガァッ!と先程の覇王色の覇気とは違い、今度はアーロンの体がコンクリートの地面へとめり込むほど強く叩き付けられる。
背後から殴られたような衝撃に加えて絶えず掛かり続ける重量に、目を白黒させるアーロンであるが、倒れている背中の上には何もなかったはずである。
平然と立っている垣根と、地面から倒れた状態で見上げるアーロン。果たしてこの光景をナミが見ればどのような感想を述べるのか気になるところ。
「て、テメェ、何しやがったぁ!!」
とある地上最強の言葉によれば、勝敗は双方の頭の高さによって決まるらしい。
それはつまり、平然と立っている垣根と、背中に巨大な白いナニかを載せて地面へと倒れているアーロンでは、勝者は分かりきっていることだろう。
魚人としての出せるフルパワーでもって両手を地面へと着き、何とか立ち上がろうとするがびくともしない。
魚人海賊団の中では間違いなくトップクラスの怪力であるアーロンの腕力をもってしても、手の着いている地面を砕くだけで、体を起こすには至らない。
当然ながら行ったのは垣根である。
「言ったところでお前の頭じゃ理解できるはずねぇだろうが。ならわざわざ説明してやる必要もねぇな」
端からすれは突如としてアーロンが一人勝手に倒れたようにも見えるし、攻撃を受けているアーロン自身にも、何が起こっているかは理解できていない。
分かっているのは行っている本人だけ。
そもそもの話、垣根は覇王色の覇気を使うよりも前からどころか、アーロンパークへと到着した時から既に、目に見えない程度に細分化された未元物質をばら蒔き続けていた。
そのため垣根の周囲には、既にばら蒔かれ続けていた未元物質が垣根の演算処理を行われるのを今か今かと待ちわびていた。
理屈としては、周囲にばら蒔かれていた未元物質を一つの巨大な質量の塊として載せただけのこと。
「クソがぁっ!!能力か、なら一体こいつは何の能力なんだぁあああああああ!!!」
「何度も言わせるなよ。教える必要がねぇってよ」
「グボォッッ!?!?」
垣根の右手が下に押し込むような動きをすると、連動するかのようにアーロンの体がさらに地面へと押し付けられる。
押し付けられた重量に、アーロンの骨がミシミシと軋み圧迫された内蔵に、もはや呼吸すら儘ならなくなるほどの負荷が掛かる。
では何故あちらこちらに存在している未元物質を、アーロンは事前に察知することができずに地面に縫い付けられたのか。
幾ら垣根が弱いと思っていたとしても、アーロンはかつては偉大なる航路で現王下七武海のジンベエと並んで副船長をしていた猛者である。東の海に十年程いて実践の感覚が鈍っていたとしても、少なくとも一方的にヤられるほど鈍くはない。
その理由こそが未元物質の特徴の一つでもある。
わりと有名なことであるが、この世界においての物質の最小単位は分子や原子ではなく、素粒子であるということは知っているだろうか。
そして未元物質における最小単位もまた素粒子であり、つまり未元物質とはこの世界で最も小さな物質の一つともなる。
それぞれの未元物質か結合されていない状態、垣根が操っていたとしても素粒子単位の状態であっては、どれだけ神経を研ぎ澄ませていたとしても感じることは不可能である。
そして何より大切なのは、素粒子サイズの未元物質も垣根の能力の支配下であり、空中に散らばる未元物質にもコントロール権を握っているということ。
目に見えない素粒子レベルの未元物質であろうとも、垣根はそれが何処にあるかを理解している。
そしてアーロンの背後にて、素粒子レベルで存在していた未元物質は垣根の演算処理の結果によって結合。
アーロンの背中にのし掛かっている未元物質の質量と密度は、人間以上のパワーを持っている魚人であっても耐えきれるレベルではない。
「チクショオォオオオッッッ!!!」
地面をもがいてでも未元物質の重量から脱出しようとするものの、現実としてアーロンは声を挙げることしかできない。
あと数センチ手を伸ばせば届く距離にある、アーロンと同じように地面に倒れているキリバチが、アーロンには途方もない距離に感じていた。
実際のところは一ミリとてキリバチへとアーロンの腕は近づいてはいないが、パニックに陥っているため正常な判断ができていない。そのため体感としてどれだけ腕を伸ばしても届かないことがさらに思考の悪循環を加速させていた。
「た、立てさえすれば、テメェなんざ、簡単に殺してやれるのによぉ!!」
どれだけ立ち上がろうとしても立ち上がれず、地に付した状態から出てきた負け惜しみのような言葉は、どこまでもアーロンを小さく見せた。
その姿には、コノミ諸島を恐怖で牛耳っていた支配者の面影は残っていない。
まさしく陸に打ち上げられた魚のようになっているアーロンを、変わらずに垣根は冷めた目で見下ろし続ける。
「挑発のつもりかよ。そんなのノッてやる馬鹿はいねぇだろうが」
カツカツと革靴の足音を響かせながら、アーロンの元へと近づいていく。
それは一つの島を支配していたアーロンに、終焉を告げるべくやって来た死神の足音。
「ほらよ」
「グギィアアァアアアアアアアアッッッ!?!?」
アーロンの顔近くで止まっていた垣根の右足は、そのノコギリのような鼻目掛けて踏みつける。
軽い声とは正反対の、ベギャ!と嫌な音を響かせながら折れた鼻は、先程までの本来の向きとは違う角度へと曲げられた。
そんな垣根の新中はその辺の自販機に小銭を入れる程度の感覚。悲鳴を挙げるアーロンを見ても何の感情も抱いていないからこそ、その辺の草や蟻を潰すのと同じような感覚で行われている残虐な行為。
しかし垣根は躊躇わない。
それは相手の戦意、特に今後の垣根の行動に余計な影響を与えかねない相手ならばより確実に心を折ることを徹底している。
一度海軍に捕まった時もアーロンはジンベエに救われているのだから二度目がないとも限らない。
だからこそ例えもう一度アーロンが逃げ出せたとしても二度と余計なことをしないように、垣根のこれまでの、そしてこれからの道程に不必要に転がってくる石ころを取り除くためにもアーロンの心を徹底的にへし折るつもりでいる。
「こんなこと有り得ないって顔してるな。まさかだが本気で自分は支配者になったとでも思ってたのかよ。ハッ!お前もさんざん嫌ってた天竜人と変わらねぇじゃねぇかよ」
「お前さえ…お前さえいなければぁっ!?俺の計画は完璧だったんだよぉ!!」
垣根から発せられる言葉のナイフは、確実にアーロンの心を抉り続ける。
ただでさえ自分の自慢の鼻を靴で踏みつけられて折られるという、痛みと屈辱で弱っている心には垣根の言葉の一つ一つが的確に突き刺さる。
だからこそ例えその言葉の内容が真実でなかったとしても、今のアーロンはそれが自分にとっての真実として受け入れてしまう。
相手の言葉を理解しようとしないことは、相手の精神状態を理解していないことはイコールではない。
海美のような能力を持ち合わせてはいなくとも、その程度の心理戦は持ち合わせている才能で事足りてしまう。
「そいつはちげぇな。俺がここに来なかったとしてもお前は必ず負けてただろうぜ。何故ならテメェは偉大なる航路からも魚人島からも逃げてきただけの、根っからの敗北者なんだからな」
それが最後の言葉だと言わんばかりに、垣根は口を開くのではなく、左の胸ポケットにしまっていた拳銃を取り出した。
世界で最も分かりやすい凶器を手にし、倒れ伏して何の抵抗もできないアーロンの眉間へと、垣根は躊躇いなく照準を合わせる。
何とか逃れようとしても、未だに健在の未元物質によってアーロンは顔を動かすこともできないため、視線だけは絶えず垣根へと向いているため、自分へと構えられる拳銃の動きを逃さず捉えていた。
そんなアーロンの脳裏によぎるのは、かつて人間達の銃弾を何発も浴びたことによって、自分達の船の上で大量の血を流しながら死んでいった、かつての太陽の海賊団の船長の最後の姿。
目の前にいる残酷で冷酷な人間に、体がガクガクと震えながら心の底から恐怖していた。
「知ってるか、撃っていいのは打たれる覚悟のある奴だけなんたぜ。東の海で好き勝手してたんだ。当然お前にもそれぐらいの覚悟はあるんだろうな?」
静まり返るアーロンパークに、一発の銃声が響き渡るのであった。
アーロンとの戦闘描写を長くしようかとも思いましたが、どうしても垣根が苦戦する様子が想像できなくて呆気なく終わらせてしまいました。
次は魚人島に舞台を移そうと思っていますが、未だに誰をヒロインにするかを決まっていない今日この頃。