とある海軍の未元物質   作:プックプク

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久しぶりの投稿にして、社会人になって初めての投稿。

にしてもまじで時間がねぇ。


第十一話

 

 

「ノコギリのアーロン。現在の懸賞金は、前見たときと変わってなければ二千万ベリーだったかしら。きっと東の海では一番の懸賞金額だったわね」

 

 

垣根がアーロンと戦っている、という言葉が適切かどうかは分からないが、ともかく垣根がアーロンパークへと赴いているため、一人暇になってしまった海美は何処へ行くこともなく、オレンジ畑の家で寛いでいた。

 

その寛ぐ様は、知り合って一日も経っていない相手の家だとは思えない。何度も来たことがあるか、もしくは自分の家と勘違いしてしまいそうだ。

 

そんな海美ではあるが、一応ここから移動してガープと合流するという選択肢もあった。

 

だが今の暇な時間を享受しているのと、ガープと共に村人への説明やらその後の対応など、更なる面倒事を引き受けるという選択肢を天秤に掛けたならば、迷わず前者を選択したという訳だ。

 

見ている側、特に優しい人間の多いココヤシ村の住人からしてみれば、そんな海美の姿は一人死地に送り込んで寛いでいる非常な女として写っているだろう。

 

だがもう二度と来ないと思っている島の住民たちに何を思われていようとも、それを気にする海美ではないが。

 

 

「それを分かった上で貴女は戦いに行かないのね。……本当に彼一人に行かせてもよかったの?」

 

「ええ、だって面倒だもの。あと私のことは名前で呼んでもらって構わないわ」

 

「……そこまで自信があるなら信じるわ。ならカイビって呼ばせてもらうわね。私のこともノジコでいいわよ。あとお茶のお代わりはいる?」

 

「分かったわノジコ。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうわ」

 

 

垣根を一人で行かせたことに、初めは責めるような口調であったのにも関わらず、外見的にも実際の年齢も自分よりは下の海美に、ノジコは既に友人のような感情を抱いていた。

 

海美の持つ独特の居心地の良さもあって、実際の年齢はノジコが少し上であるが、海美に対しては甘えてもいいと思える不思議な感覚が、自分の心の扉を開いてもいいかと思わせている。

 

何よりも、ナミがいなければココヤシ村でノジコと同年代の人間はいないため、久しぶりの同年代の女子と話が出来ることにノジコは

内心でテンションが挙がっていた。

 

それを表には出さないように気を付けているが、心理戦においては海軍最強とも呼び声の高い海美には筒抜けであるため、海美もそんなノジコの思いに答えるつもりで話している。

 

なにより普段相手にしているような人間と比べれば、ノジコは圧倒的な善性と無垢さもさなあり、海美としても話していることが苦にならないし、むしろ楽しんでいる。

 

 

「貴女達はアーロンのことを舐めすぎてるのよ」

 

 

時間も経って気持ちも落ち着いたのか、泣いていた状態から復活したナミが二人の会話に混ざる。

 

目尻はまだ赤く腫れ上がっているが、既に拭かれた涙と、普段通りの表情へと戻っているため、海美もノジコもそれを指摘するような野暮な事はしない。

 

 

「私の調べた限りじゃあ、貴女の言っている通りアーロンの懸賞金は二千万ベリー。東の海ではトップの額よ。それも前から変動していない状態でね」

 

 

ナミもただ海賊から泥棒をしてお金を集めていた訳ではない。

 

泥棒稼業の傍ら、アーロン達の情報は逐一集めてきた。そのため東の海にいる人間の中では、アーロン一味のことについては一番詳しいと自負している。

 

 

「もし海軍が正常にアーロンのことを取り扱ってくれてれば、懸賞金はもっと上がってるはずよ」

 

「私も同意件かな。ナミほどアーロンのことを詳しく知ってる訳じゃないけど、魚人海賊団は腹いせで村一つを平気で破壊するような奴らなのよ。甘く見すぎない方が良いと思うわ」

 

「それにアーロンだけじゃない。百は越えてる部下の魚人達だって他の海賊団で言えば幹部クラスの実力者もいる。

さらに魚人海賊団の幹部達の実力は懸賞金を掛けられてもおかしくないレベルなのよ。とても一人で戦える相手じゃないわ」

 

 

アーロンの懸賞金は海軍とジンベエの取引によって解放された後、つまりは東の海に来る前の額で固定されている。

 

懸賞金の額の変動は、純粋な強さのみならず世間への悪影響の度合いなどでも変化する。

もし仮に海軍が正常に機能していれば、一つの島を実質的に支配している海賊団のトップとして、アーロンの懸賞金は今の倍以上には上がっていただろう。

 

 

「あなた達こそ分かっていないみたいね」

 

 

それら全ての事情を理解した上でなお、ナミのアーロンへの評価は、海美からしてみれば過剰としか思えないでいた。

 

だがそれは普段から偉大なる航路で大物海賊を相手にする垣根と行動を共にしている海美と、東の海のことしか知らない二人という、それぞれの間にギャップがあるのだからある意味当然のこと。

 

その事に海美は気が付いているからこそ、二人に対して安心できるであろう説明をする気になっていた。

 

 

「私達は東の海の海兵じゃなくて、偉大なる航路にある海軍本部所属の海兵よ。アーロンを直接見てないからハッキリとは分からないけど、実力で言えば本部の大尉ってところかしら。下から数えた方が早いわね」

 

 

それも実際に会って測った訳ではないため、あくまでも海美主観の目安でしかない。

 

能力者と非能力者、さらには魚人族といった種族的な差違も考慮すれば、百パーセント海美の発言が正しいかと言われると安易に肯定はできないが、それでも高い精度であることは間違いない。

 

どれぐらいかと言えば、どんなスパコンが計算を繰り返したとしても勝率が100%で垣根に振られるだろうといえばいいだろう。

 

 

「それに彼、海軍本部中将に加えて歴代最年少で大将になることが決まっている天才よ。貴女達がアーロンに対して恐怖しているのは分かるけど、ハッキリ言って相手にもならないわ」

 

 

だから心配する必要はないと、言外にそう告げると海美はティーカップへと手を伸ばして口に含む。

 

誰にも言ったことはないし、これからの将来においても言うつもりは一切無いが、垣根の強さに対しての信頼は、この世界にいる誰よりも信頼していると断言することができる。

 

海美自身もそんなことを声を大にして言うなど、恥ずかしいのでやらないが。

 

しかし二人が反応したのは海美の垣根への信頼ではない。

 

 

「うっそ!?あれで海軍の次期大将なの!」

 

 

だがナミはそんな海美の心情は知らないため、机に両手を着いて立ち上がり、思わずといった感じで唖然とした顔をする。

立ち上がらないにしても、ノジコもナミと同じような顔をしていた。

 

その反応はもしかすれば、垣根がアーロンを倒すと言った時よりも驚いているかもしれない。

 

相当失礼な反応であるが、今この場においてそれを指摘する人間はいない。

 

何より言った張本人の海美がクツクツと面白そうに笑っていることが垣根のキレ線を刺激するであろうが、知らなければどうしようもない。

 

 

「まあ年齢的な問題もあるから、大将になるのはしばらく先になるでしょうけどね」

 

 

そんなことを気にしている状況ではないはずなのに、海美の何気ない仕草や行動から滲み出る品の良さに、思わず目を奪われる二人。

 

確かにアーロンの居場所を教えはしたが、ナミやノジコ等からしてみれば、垣根帝督という人間はこの僅かな時間だけしか関わったことの無い人間なため、それほどの信頼感はない。

 

だが海美の、普段のティータイムとと何も変わらないような平常さを見ると、少なくとも垣根の強さにおいての信頼は間違いないのだと納得できる。

 

 

「それにもしアーロン達が貴方達の言うように圧倒的な強さだとしたら、今から向かったところで間に合わないでしょ。だからどう転んでも私が行く必要はないのよ」

 

ね?とお茶目な少女が悪戯でもしたときのような顔も見せると、二人も先程までのシリアスな雰囲気とのギャップに空気を吹き出しながら笑ってしまう。

 

 

「まぁいいわ。それよりも私も貴方達に聞きたいことがあるの」

 

「まだ何かあるの?」

 

「ナミの方は東の海を回っているって言ったわよね」

 

「ええ。自慢じゃないけど海賊から泥棒するために色んなところに忍び込んだから、結構東の海については詳しいと思うわよ」

 

 

泥棒稼業など海兵に対して言うことではないが、そこは海美もスルーして聞いた。

 

幼き頃から航海士として海へと冒険に出ることを夢見ていたナミは、他の同年代の航海士と比べてもより多くの知識を持っている。

 

そこに卓越した航海士としての技術と才能を持っているため、ナミのこれまで旅してきた経験もあって東の海のことについては、どの船の航海士と比べてもトップクラスの知識を持っている。

 

 

 

「アーロン達の他に魚人の海賊を聞いたことってあるかしら」

 

「……無いわね。私もアーロン達の弱点とか、あわやよくば味方にして突破口にでもなればと思って調べたけど、東の海には他に魚人は居ないわ」

 

「そう、なら良かったわ」

 

「何か気になることでもあったの?」

 

「ええ。もし他に魚人がいるならまた動かなくちゃいけなくなりそうだからね。詳しいことは東の海の海軍支部に問い合わせてみるわ」

 

 

これは海美の仕事ではない。どちらかと言えば垣根の仕事に近い領分だ。それも正規の仕事というよりも趣味に近い領分の。

 

そのた態々海美がやる必要もないことだが、少しは情報を集めたというアピールのためである。

 

断じて垣根の役に立ちたいという甘い感情ではなく、万が一の小言を言われることをガードするため。

 

 

「因みにだけど、二人は今後アーロンがいなくなったとしたらどんなことがしたいだとか考えたことはある?」

 

 

話題を変えるためでもあるが、それを選んだのは純粋に海美が疑問として気になったからであった。

そもそも魚人についての情報が欲しいのは垣根であり海美ではない。深掘りするほどの気力も興味もない海美としては、早々と話題を変えるのは至極当然のこと。

 

だがナミとノジコにとって、その質問は簡単に答えることはできなかった。

 

両者の反応が芳しくないなかでも先にノジコが口を開いた。

 

 

「ナミは航海士になるのが夢なの」

 

「ちょっとノジコ!勝手に言わないでよ」

 

「別にいいじゃない。海美は海軍なんだし、言って損するようなことはないでしょ」

 

「確かにそうだけど、何か恥ずかしいじゃない」

 

「そうかしら?私は良い夢だと思うけど。ナミの航海士、応援するわよ」

 

 

微笑ましそうな表情を向けられて、どこか居心地を悪そうにして恥ずかしそうな表情をするナミ。

少しとは言え信頼し始めた相手から、真正面から応援してると言われたことが恥ずかしかったのだ。

 

この程度のこと能力を使うまでもなく分かることだが、一々指摘するような野暮なことはしない。

 

 

「因みにノジコの方は何か無いのかしら」

 

「そうねー……私はナミ程これがやりたいってモノに出会ってないから、今はなんとも言えないかな。でもベルメールさんのオレンジ畑は育ててると思うわよ」

 

「恥ずかしがることないじゃない。それも十分立派なことだと思うわよ。

比べるのも変な話だけど、確かにナミの航海士の夢はそうだいなものかもしれないわ。でも帰れる場所、帰りを待ってくれる人がいるっていうのは大切なことだと思うわよ。

それは誰にでもできることじゃない、少なくともナミの大きな心の拠り所の一つとして居られるのはノジコだけじゃないかしら」

 

「……カイビって、本当に同い年?」

 

「それは私もナミに同意件ね」

 

 

そうかしら?と子首をかしげながら頬に指を当てる仕草は元の顔の良さもあって見る人を容易く魅了する。

 

もし相手が垣根であれば一蹴しているであろうが。

 

 

「それに海軍の人なら、ほとんどが海賊と戦えって言うようなイメージを持ってたから。その点は意外だったかもしれないわ」

 

 

本来の年齢でいえば年上のノジコであっても、海美の発言には少なくない驚きがあった。

 

ナミ程海軍への考えが凝り固まっている訳ではないにしても、海美や垣根のような海軍らしくない海兵がいるなど、目の前にしなくては信じられないだろう。

 

 

「確かにそういう人達がいるのも事実よ。だからといって全員が全員、民間人に対しても海賊と戦うことを強要するのは、それこそ海軍の中でも過激派って言われるような人達しかいないんじゃないかしら」

 

 

名前こそ出してはいないが、海美の頭の中では明確に、過激派という言葉に当てはまるであろう人間の顔を思い浮かべて話していた。

 

それは現在でいえば垣根よりも高い地位に君臨する三体将の一角をなす大将サカズキ、通称赤戌である。

 

青雉ことクザンが保守的な立ち位置であり、黄猿ことボルサリーノが中間的な立ち位置であるならば、赤戌は間違いなく過激派であり強硬派である。

 

どんな事情があろうとも海賊を絶対に赦さない鬼のような姿勢と、自然系悪魔の実であるマグマグの実のマグマ人間としての圧倒的な殲滅能力。

 

能力と性格が絶妙なベストマッチを醸し出す赤戌は、良くも悪くも印象に残りやすい。

 

海賊絶対赦さないマンであり、そのためだったらどんな犠牲も厭わない能力と相まった激情。

 

かつて発令されたバスターコールという、海軍の軍艦が十隻、中将以上が五人以上が出動する大規模作戦の際にも、民間人が避難するため搭乗していた船を沈めるという、普通の海兵では絶対に行わない強行策すら平然と行ってしまえる。

 

その慈悲の欠片もない悪魔的な姿は海賊のみならず、争いとは縁も所縁も無いような善良な市民からも恐れられることは多い。

 

だが海賊に恨みを持つ人達からの、赤戌への指示は絶大なものがある。それは現在の大海賊時代においては少なくない数であるのは簡単に予想が着くだろう。

海軍の中にも平和を守るためではなく、海賊への恨みのために海兵となった者も数多くいるため、直属の部下からは熱烈な信頼を寄せられている。

 

 

「……どうやら終わったみたいね」

 

「え?終わったって、別に何の音とかもしないけど」

 

 

コトリ、と静かにティーカップをテーブルへと置いた海美の言葉に二人は戸惑いを隠せない。急に何を言い出したのか、一体何が終わったのかなど様々な疑問が湧いてくる。

 

しかし次の瞬間、ガチャリとドアノブが回る音がすることで思考が中断される。

 

バッ!と音のした玄関へと振り返るナミとノジコの二人。特にナミに関しては、顔から熱が引いていき背中に冷たい汗が流れているのを実感していた。

 

その頭の中には怒り心頭でアーロンがやって来たという、最悪の可能性だけが思考を支配していた。

 

ドアノブが回るのをやけにゆっくりと、スローモーションに感じながら、落ち着かなくてはいけないという思考とは裏腹の、徐々に激しくなっていく心臓の鼓動と荒くなる息遣い。

 

 

「お帰りなさい。随分早かったわね」

 

「あ?まぁそりゃあな。結局は予想通りの力しかなかったからな、あんなの只のゴミ掃除と変わらねぇよ」

 

「ね、私の言った通りだったでしょ?」

 

 

不安とは裏腹に、玄関の先にたっていたのは、やたらと機嫌の悪そうな顔をしている垣根であった。

 

仏頂面のまま入ってきた垣根の顔を見て、しばらくは現実を受け止められないのか呆然とした表情のナミであった。

しかし数秒も経てば理解できたのか、張り詰めた緊張の糸が切れたたように、思わずその場で膝から崩れ落ちて床へと座り込んでしまう。

 

ナミほどではないにしろ、ホッとした様子で胸を撫で下ろして椅子へと座るノジコ。

 

それが当然のことだと分かっていた海美とは対照的な反応である。

 

 

「何がね、だよ。あんなゴミ掃除ならガープのオッサンに任せるか、今もルフィの訓練に付き合わされてる方がマシだったぜ」

 

「随分ご機嫌斜めみたいね。そんなに退屈だったの?」

 

「そりゃあな。覇王色だけで終わる相手とのやり合いは戦闘とは言えねぇだろうが。ストレス発散にもなりゃしねぇ」

 

 

ゴミ掃除とは余りにも酷い言い方と、聞いて怒る人間もいるかもしれないが、この場においてはそれを咎める人間もいない。

 

むしろ海美が垣根の機嫌の悪さを気にしているのは、その程度の発言は二人からしてみれば日常茶飯事だからである。

 

垣根のストレス発散のためには最低レベルで億越えは必要とすれば、その頻度も分かりやすいだろう。

 

 

「アーロンと他の魚人も含めてその場に捕らえてある。あとはガープのオッサンに任るか、お前らで煮るなり焼くなり好きにすりゃいいだろ」

 

「随分早い出発ね。もう少しゆっくりすれば良いのに」

 

 

今度はナミへと向けて一方的に言うと、もはやアーロンへの興味は垣根の中からは消え去っている。そのためこの島には用はないと、そう言外に告げていた。

 

どこが反論するような雰囲気を出しながらも大した文句は言わず、既に海美も椅子から立ち上がっており、垣根の横へと移動していた。

 

海美に対しては何も言っていないが、それでも垣根の考えをすぐに理解して行動できるのはこれまでの経験故のこと。

 

そのあまりにもな怒涛の急展開に着いていけないナミとしては、頭の中は困惑で埋め尽くされていた。

 

 

「えっ、ちょっ、もしかしてもう行くの?」

 

 

「そりゃあな。年がら年中暇をもて余しているような人間じゃねぇんだよ、俺は。それに今回のアーロンの一件でやらなくちゃいけねぇことも増えちまったしな」

 

「面倒だけど、急ぎで行くなら私も着いていかなくちゃいけないしね」

 

 

ガープに今後の対応は任せるとするならばしばらく滞在することは間違いない。島民への説明やココヤシ村の復興の協力などをすることも視野に入れれば、海軍本部へと帰れるのは今日や明日の話ではない。

 

本部所属のためそこまではしないにしても、東の海担当の海兵達が来るまではこの島に拘束されることは必須。

 

そのため今すぐ海軍本部へと帰るというのなら、ココヤシ村へ来た時と同じように軍艦に乗って帰るという選択肢は存在しない。

 

寧ろ二人だけならば、軍艦で海を航海するよりも、垣根の能力で飛んで帰るか、海美の能力で跳んだ方がよっぽど速く海軍本部へと着くことが出来る。

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいっ。アーロンを倒したっていうので情報が多すぎるのに一気すぎるわ。もしアンタがアーロン達を捕まえたってのいうのが本当のことなら、私達は感謝することも何もできていないのよ」

 

 

今すぐにでも何処かへと行こうとしている二人を、慌ててナミは引き留めようとする。

 

垣根の戦っている瞬間も、ましてや捕まっているアーロンの姿を直接見たわけでもないため、ナミの心には現実味がまるで沸いてこない。

 

今さら垣根が嘘を言っているとも思っていないため、倒したと言うのならそれが本当のことだと分かってはいるが、その事実をまだナミの頭が情報として処理できていない。

 

自身の中に圧倒的な強者として君臨していたアーロンの姿、そして永きに続いていた島の支配がまさか、こんなにも呆気ない幕切れになるとは、この島にいる誰が予想できただろうか。

 

そのた夢にまで見たアーロン海賊団からの解放であるというのに、ナミの心には晴々とした爽快感や解放感はない。

それどころか、これからどうすればいいのかというモヤモヤが心に広がっている。垣根の言葉だけでは、アーロン達からの解放を人生の道標にしていたナミの心の霧までは晴らすことは出来ない。

 

だがそれを垣根がするかはまた別の話。

 

 

「この人は感謝されたいからやってる訳じゃないから、どれだけ言っても聞いたりはしないわよ。

だからそうね、どうしてもお礼がしたいってうなら、今度海軍本部に私宛にこの島で採れたオレンジを送ってくれればそれで十分じゃないかしら」

 

「お前は大して何もやってねぇだろうが」

 

 

小さく手を振る海美と突っ込む垣根の姿は、近所の家に遊びに来た帰り道のような気軽さであり、相手の言葉など聞かない我が儘さ。

 

家主である二人が止める暇もなく、海軍らしくない海兵の二人の姿は、次の瞬間にはその場から無くなっていた。

 

 


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