後半の展開がかなり強引気味になってしまいました。
言い訳じゃないんですけどね、本来なら昨日投稿の予定を忘れていた焦りと、次の話を書いてるのが楽しくなっちゃったんですよ。
いやー、垣根の戦闘描写って複雑で難しいですけど書いてるのは楽しいんですよね。未元物質をどう扱うかを日々考える毎日ですよ。
それではを本編どうぞ。
「海兵が今更何の用だ!今すぐナミから離れろっ!そしてこの村から出ていけ!!」
コノミ諸島へと到着し、すぐに出会った少女のナミに、ココヤシ村にある家へと案内されることになった垣根であったが、何故か今は案内された家にて銃口を突き付けられていた。
垣根の後ろにいて、その様子を見ながら静かに笑っている海美とガープの二人に苛立ちを感じながらも、どうするかと考える。
海岸近くの潮風と磯の香りからうって変わり、ナミの家の近くになれば畑から漂うオレンジの爽やかな香りに、普段では風情など気にしない垣根でも気分が良くなっていた矢先の出来事。
「へー、コイツは結構な出迎えじゃねぇかよ」
「ふふふっ。歓迎してもらえて良かったじゃない」
「こんな歓迎を喜ぶなんざとんだマゾ野郎だな。お前と変わってやってもいいんだぜ」
「遠慮しておくわ。貴方のこんな姿滅多に見られるものじゃないから見てる方が楽しいもの」
後ろでさらに笑う海美の声も相まって、垣根の頬が僅かに吊り上がる。
果たしてこの熱烈かつ刺激的な歓迎方法に対してどんな返しをしてやろうかと、垣根の中の狂暴かつ粗野な一面が顔を出そうとしていた。
ココヤシ村へと着いた時に村民達を刺激しないために、連れてくる人間を減らしたというのにこの対応。
ナミからの提案により、ガープの部下である海兵は軍艦へと残って待機しており、今いる三人だけの最小限の人数だけを連れてやってくることになった。
言葉数も少なく、ナミの口からは終始アーロンがーという事だけを伝えられていたため説得は難航していたが、最終的にはガープの命令という鶴の一声で、渋々と軍艦に残ることに納得した部下達であるが、どうやらあまり意味は無かったらしい。
そのことを忘れたわけでもないし、垣根としても村人達は傷付けないとナミと約束をした手前、簡単に破るつもりもなかったが、それも今後の垣根の気分次第で変わってくる。
気分良く案内された家についてすぐ銃を突きつけられるとは思っていなかったので、完全に不意を突かれる形になってしまったが、一方的にやられるのは趣味ではない。
「もうっ、ゲンさん!話を聞いてって!この人は普段この島に来てる海兵とは別なの。だから銃をおろして!」
ゲンゾウとと呼ばれた風車を頭に乗せている、ガープに近そうな歳の男性と、何かしそうな雰囲気を醸し出した垣根の間に、急いで庇うように立っているナミも声を荒げながらも説得を試みていた。
だが海軍の登場によってヒートアップしている頭に風車をのせた老人、ゲンゾウはそう簡単には止まらない。
構えている銃は手持ちサイズの拳銃ではなく、両手で構える必要があるサイズの火縄銃。
垣根とは三メートルもない距離で突き付けられれば、護身用と呼ぶには強力すぎる火力を誇る。
脅しとしては十分な代物である。だがそんな銃であっても島を支配しているアーロン達に対しては、致命傷を与えるまでには至らない程度の威力しかない。
そして当然ながらただの銃程度、垣根には通用しない。
引き金が引かれて銃弾が垣根へと着弾するよりも早く能力を発動するのは容易いことであるし、それどころか常時展開されている未元物質の鎧にヒビをいれることすらできない。
「止めとけよ。そんな玩具じゃ俺を殺すどころか脅しとしても通用しねぇからな。老い先短い人生だとしても老衰前に死にたくねぇだろ」
「なっ!?貴様それでも海兵か!」
「あーもう!だからゲンさんは落ち着いて!あとそっちも必要以上に煽ったりしないでよ。余計にややこしくなるんだから」
案内された家へと入るとすぐに銃を突き付けられたが、それを気にもせずに勝手に椅子に足を組んで座っているのが、どうでもいいという何よりの証拠。
重厚を突き付けられたとしても一切変わらない垣根の飄々とした態度と、海兵としては落第級の発言の数々が、ただでさえ敏感となっているゲンゾウの神経をさらに逆撫でしていた。
だがもしこれが違う島民であったとしても、垣根達、正確には海軍に向けられる態度にはそこまでの変わりはないだろう。
このココヤシ村というよりも、コノミ諸島に暮らしている島民内には、海軍に対して良い感情を持っている市民があまりにも少ない。それどころか皆無といっても間違っていないだろう。
それもそのはずであり、コノミ諸島の島民の記憶に強く印象付けられている海兵とは二種類だけ。
片方はアーロン海賊団に為す術もなく敗北していった弱い海兵であり、残りはアーロンとの取り引きによって民衆を見捨てた小悪党な海兵の二種類であった。
本来の存在意義として、海賊から民衆を守るためにいるはずの海兵のそんなあまりにもな実態と、そんな海兵とは対照的とも言える幼いナミの覚悟と行動を目の当たりにしたココヤシ村の村民だからこそ、海軍に対する信頼度は地に堕ちている。
特に駐在であるゲンゾウは、ナミとノジコの義理の母親であったベルメールが生きている時から親しい仲であり、半ば父親のような立場で接していたため、ナミに辛い選択を選ばさせる状況を作った海軍を憎んですらいた。
だがこの場にいる海兵三人の内の二人、垣根と海美は何となく察しはついているが、事情を理解したとしても、それを相手のためにわざわざ尊重して気にするつもりは微塵も持っていない。
その点においての優しさはこの中でも一番の変人であるガープが持っているというのに気付けていないのは、皮肉なことかもしれないが。
「ナミや、どうしてもコイツらの話を聞くというのか」
「ええ。少し話してみただけだけど、少なくともいつも来ている海兵とは違うって分かったから」
「こっちとしては別に聞いてやるつもりもなかったんだがな。余計な手間が省けるっつーから聞くことにしてやったんだよ」
どこまで行こうと、どんな相手であろうとも、垣根の上から目線の傲慢な態度は崩れない。
それでもナミの必死な説得のかいもあって、未だ全身から警戒心と敵対心を溢れさせているゲンゾウであるが、少なくとも話だけは聞く気にはなったらしい。
現に先程の垣根の言葉にも怒りの表情を出しそうになったのも、グッと堪えていた。
「ほらゲンさんも落ち着いて。これ、とりあえずお茶だけど出しておくわね」
「ほう、これは良い香りのする茶じゃのう。戴くとするわい」
お盆に人数分のカップを載せて、爽やかなフルーツの香りのお茶を並べるノジコと、それを豪快に飲み干すガープの図々しさ。
垣根と海美は普段の任務の際の航海の時など、暇な時にティータイムをすることもしばしばあるため慣れたものであるため、いたって正常な振る舞いを見せる。
それを見たからこそナミも、一人だけヒートアップしていることは浮いてしまうため、努めて冷製さを取り戻そうとして、同じくカップに手を伸ばす。
「さっさと本題に入るけど、本当にアーロンを倒せるんでしょうね」
「なっ!?ナミ、それは本気で言ってるのか!信じられるのか、この海兵達を!」
「ゲンさん、ちょっと黙ってて。それでアンタはどうなのよ」
「あー、そうだなー……」
ハッキリと驚くゲンゾウに、声こそ出していないが同じような表情のノジコ。
既にゲンゾウは先程までの垣根の態度への怒りなど忘れたかのようであった。
そのコロコロと変わる態度は受けていた側からしてみれば随分と烏滸がましくも感じるが、それほどナミの口から出た言葉は衝撃的であった。
そのため垣根もそのことについて何かを言うつもりはない。
そもそもの話、ナミに質問された垣根が今考えているのはアーロンのことではなかった。
「おい、ガープのおっさん。アンタは取り敢えずそこのじいさん連れて出てってくれ。このおっさんがいると五月蝿くてかなわねぇぜ」
「なっ!?五月蝿いとは何事だ!ワシはナミやこの村の住民のため、アーロンから守るために言っとるんだぞ!」
「それが余計なことだっつーのが分かってねぇから邪魔だっつってんだよ」
ゲンゾウの駐在としての正義感は有って然るべき物であり、それは本来ならばこの地区の海兵が持っていなくてはならない物である。
だが垣根からしてみれば、実力がない相手に余計なことをされる方がよっぽど迷惑である。
下手な正義感で勝手な行動をされ、それが自分の想定外となって盤面が崩されれば、成功の確率は減ることになる。
それが発揮されるのが村人相手の問題程度であれば、垣根もここまで邪険にすることもないだろうが、今回は相手は海賊である。人質にでも捕られれば邪魔にしかならない以上、余計は要素となりうるものは早めに潰しておくに限る。
「えー、ワシが相手したいんじゃが。予定よりも早く帰らされてストレスも貯まっとるし」
「駄目だね。今回の相手はそう強い奴じゃねぇけど、それでも万が一があったら困るんだよ。不確定要素は潰しておくに限るだろうが」
未だに会ったこともないような相手であるが、既に垣根はアーロンのことを相当下の実力だと決めつけていた。
それもそのはず。垣根にとってアーロンとは、ただの敗北者であり逃亡者という認識なのだから。
そもそもアーロンは、タイヨウの海賊団であった過去に、当時の中将、黄猿ことボルサリーノに捕らえられ、その後ジンベエが取引した結果として東の海へとやってきた。
つまりアーロンは、ジンベエの手によって偉大なる航路から東の海へと逃がされたのだ。
魚人に関しての報告者は全て目を通したと言っても過言ではないほど、垣根は海軍に保管されている魚人の情報を調べ尽くしている。
そのためアーロンがボルサリーノに捕まった時の情報も頭の中にインプットされている。当時の資料によれば、アーロンは一方的にボルサリーノに倒されたと記載されていた。
仮に東の海にやってきたアーロンが、それから鍛えていたと考えたとしても、想像の範疇の外となるような力を身に付けているとは思えない。
そのため垣根からしてみれば、陸上での戦闘ならばアーロンに負ける要素が皆無である。
「今は俺達に魚人の手はねぇ。海中に逃げられれば捕まえる手段は無いだろうがよ」
だからこそ垣根が心配しているのは、アーロン一味の魚人達が一目散に逃げ出してしまうというケース。
垣根の言葉通り、陸上でならば幾ら人数がいたとしても捕らえるのは難しくない。人数は少なかったとしても、海軍トップクラスの実力者とガープの優秀な部下達もいる。質では明らかに魚人海賊団を上回っている。
だがもしも海中に逃げられればかなり厄介なことになる。
海中は魚人のテリトリー。それは老若男女の誰しもが知っている事実であった。
人間にとって海中は呼吸が出来ないだけでなく、まともに動くことすらも儘ならない場所が海の中だ。その身のままに海に放り出されれば、人間にとってはただ生きるという最も簡単なことすらもとてつもなく困難になる。
それを地上にいるのと変わらないように、いや寧ろ海中でこそ真の実力を発揮するのが魚人である。
何の問題もなく生命活動が行え、魚と変わらない遊泳速度。
何よりも魚人の戦闘術は周囲の水分を利用することを前提としたもの。それはつまり周囲の三百六十度が水で囲まれている海中こそが最も力を発揮するのだ。
そのため特に能力者である垣根や海美は海中となれば戦力外となるし、戦うだけならば水中であろうともガープが勝利を納めるであろうが、泳ぐ速さでは比べるまでもなく魚人の方が上である。
魚人海賊団が逃げることだけに重きを置いてしまえば、幾ら垣根であったとしても逃がしかねないのだ。
もしこの島から逃げ出した魚人が別の場所で捕まるなりして、今回のアーロン一味の犯行が世に出るようなことになれば、再び魚人と人間の確執は強まることになりかねない。
偉大なる航路のほぼ中央に位置するシャボンディ諸島では、未だに大々的に奴隷の売買が行われており、それが暗幕の了解として認知されているほど、人々の中の選民意識は根強く残っている。
垣根としては態々出張るなど面倒この上無いことであるが、避けられる火種は消しておきたい。
「ガッハッハッ!それじゃあ仕方ないから譲ってやるとするかの。それじゃあワシも行くとするか」
豪快に笑いながら立ち上がったガープは、未だ落ち着かないゲンゾウの肩へと手を回すと、無理矢理家の外へと歩き出す。
年齢は大差ない二人であるが、横に並ぶと身長差がよく分かる。遠目から見れば親子と見間違いそうなそれは、どこか面白さのあるツーショット。
「なっ、何をするんだ!?離さんかぁっ!」
「ちょ、ゲンさん!?どこに連れてく気なの!」
だか相手からすれば堪ったものではない。
元々冷静でないゲンゾウに加えて、ナミも椅子から立ち上がってガープを止めようとする。
「そうカッカと怒るんじゃないわい。ワシの他の部下はまだ軍艦にいるんじゃから、連れてくるために村の住民達にはお主に説明してもらおうかの」
「勝手に決めるんじゃない!おい、そこの海兵!ナミに手を出すんじゃないぞぉ!?」
「あーはいはい、別にアンタに言われなくともなにもするつもりもねぇっつーの」
ジタバタともがくゲンゾウであるが、ただ掴まれているガープの素の力から抜け出すこともできず、せいぜいがドアから外へ引きずられながらも垣根に釘を刺すことだけ。
その風景に頭が痛そうにこめかみを抑えるノジコは冷静であった。
たが垣根からしてみれば、これでようやく静かに会話ができるようになったと万々歳である。
先程から話すことなく、一人優雅なティータイムを楽しんでいる海美のように、垣根も出されたオレンジの香りのするお茶を傾け口に含み、一呼吸着く。
「オレンジの香りのお茶ってのは初めて飲んでみたが、案外悪くないな」
「私も初めて飲んだわ。紅茶はよく飲んでるから近い感じだけど、酸味と甘味が強いわね。これが良いオレンジを使っている証拠かしら」
「女の子の方は詳しいのね。正解よ。使っているオレンジはそこの畑でついさっき、私が採ったやつだから新鮮なの」
ゲンゾウが連れていかれた事には大して触れず、ノジコを含めた三人は世間話を広げる。
何となく手も人となりが分かったからこそ、ノジコはガープがゲンゾウを傷付けるような人間ではないと思ったから大して言及することもない。
しかし誰しもが簡単に納得するわけではない。未だに鋭い表情をして黙っているナミを除けば、その場は和やかな雰囲気となっているだろう。
「それで、態々ゲンさんを別の場所に連れ出して一体どんな話をするつもりなのかしら」
だが部屋が静かになった状況に、一向に本題となるような話しを始めようとしない垣根に痺れを切らしたのか、ナミが会話を切り出す。
ただでさえ疲れて休もうとしていた日の出来事に加えて垣根の態度、圧倒的な実力さなどの様々な要素が、家という自分の素を出せる環境もあって、垣根と会った直後には抑えようとしていた自分の感情もなくなり、ナミからは苛立ちが滲み出ていた。
「いや別に、うるせぇから出ていってもらっただけで、お前らに話すようなことなんざ大してねぇな」
「はぁ?アンタ達が私に話せって言ったんでしょうが。なら私達にだってそっちの話を聞く権利はあるはずでしょ」
「聞いたところで何になんだよ」
だが垣根はその言葉を否定する。
ゲンゾウを家から追い出したのは、本当に五月蝿いからという理由だけであり、ついでにガープも行ってもらえば余計な手間も無くなって一石二鳥。
ガープの性格からして、実質的に島を支配しているアーロンと戦闘をするのだから、どれだけ一方的な戦いになると分かっていても民間人を保護しようとするのは、部下でない海兵の中では行動を共にすることの多い垣根には簡単に予想がつく。
むしろ今回の場合において、ガープと共に行動するよりも、別行動で動いてもらう方がメリットが遥かに多い。
およそ取る行動を勝手に予想しているが、ガープの性格上のことも考慮しているので、垣根のその考えが外れることはまずないだろう。
「お前らにとってアーロンがどれ程の脅威かなんて知らねぇけどよ、そんな雑魚のためにこっちの話をしなくちゃいけねぇんだ」
ココヤシ村の村民を傷付けないと約束したが、だからといって気を遣うつもりはないからこそ出た言葉。
海上でもない限り、アーロンよりも強いであろうジンベエであっても垣根の脅威にはなり得ない。
しかし言葉に衝撃を受けたナミはついに黙り込んでしまう。それほどに今の垣根の言葉は禁忌であった。
「あーあ、ガープのおっさんには俺がやるって言ったけど面倒だな。……海美、お前やるか?」
「それは私にアーロン一味を倒せってことかしら。それならNOよ。私だって面倒だもの」
「やっぱりかー。たかが東の海で粋がってる奴相手にするなんざやる気も出やしねぇ。さっきガープのおっさんに任せれば良かったかもなー」
足を組んで天井を見上げる垣根と、カップのスプーンをクルクルと回りしている海美。端から見れば遊びの予定でも決めるかのような二人の気楽な姿からは話の内容も、ましてやこの後に海賊相手に殴り込みにいく姿がまるで想像できない。
先程はガープに対しての発言とはうって変わってのやる気のなさ。自分でも相手をしなくてはいけない理由は分かっているが、それでも垣根にとっては面倒だということに変わりはないのだ。
難しい場面を攻略することや、強い相手と戦うことに比べれば、自分よりも格下の相手をすることは億劫でしかない。
比較的冷静であるノジコは、二人のそんな姿を見てもそこまで何も思っていないが、だがナミは違う。
ふざけているともとれる二人の姿を真に受けて、ワナワナと体を震えさせるとダンッ!と強くテーブルへと拳を叩きつける。
「いい加減にして!!遊び気分でいるなら今すぐにこの島から出ていってよ!」
下を向いているため表情は確認できないが、涙声の混じったような叫び声からも分かることがある。
それに対して三人が驚いた表情をしているが、とりわけノジコはその反応が大きかった。
義妹のナミがほとんど初対面の相手に、ここまで感情を見せる姿を想像していなかったからだ。
それも印象最悪な海軍相手にである。
ノジコがいたとしてもナミが感情を表に出すのは、例え村の人に対しても滅多に見せない。それを見せたのが相手か相手であるからこそ、ノジコは驚いていた。
普段の冷静なナミならばノジコの思っている通り、海軍相手に感情を出すことはなかっただろう。心が揺れていなければ。
幼き頃から自分を捨てて、それでも周りの人を助けるために一人アーロン達と戦い続けてきた。誰かが助けてくれるなど、これまでも、これから先も考えてもいなかった所に垣根達が現れたのだ。
ナミは希望を感じてしまった。
勿論垣根達の言った言葉が絶対に正しいとは思っていない。それでも、強く保ってきた心に少しの振動を与える程度には変化を起こした。
もしかしたらアーロン達に捕らえられている自分を助けてくれるかもしれないと思ったからこそ、少しでも希望を抱いてしまったからそのふざけているとしか思えない姿に、期待の感情は怒りへと変わり、より大きなエネルギーとして爆発したのだ。
「ナミ落ち着いて。別に二人はあなたのことをからかっている訳じゃないのよ」
「ノジコは黙ってて!アンタ達はアーロンのことを何も分かってないからそんな風にしてられるのよ!アイツ等がこれまでどんなことをしてきたか、どれ程私達が苦しんできたか、アンタに分かるの!?」
寄り添うように近付いてきたノジコの手を払い除け、ナミは今まで抑え続けてきた心の声を叫び続ける。
もはや深くは考えていない。海軍相手だからと取り繕ってもいない。親しい者以外に対して必ず行われる外付けの少女の仮面は取り外されている。
そこにいるのは、海賊相手に盗みを働く泥棒猫でも、一人で村のために戦う強い少女でもない。
心にしていた蓋が外れた、年相応に涙を流す少女であった。
そのナミの流す涙を見れば、どれ程の人間が心を揺さぶられるだろうか。きっとその涙を止めるために立ち上がるような人間は出てくるだろう。
だがここにいるのは正義の味方ではない。
「知るかよそんなこと。俺は当事者じゃねぇ部外者だ。お前達の気持ちを汲み取らなくちゃいけねぇって訳じゃねぇんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、椅子から立ち上がったナミは座る垣根の胸ぐらを掴み、無理矢理椅子から立ち上がらせる。
普段から愛用しているブランドのジャケットに皺が付くが、振りほどくことはしない。
「アンタ達海軍がしっかりしないから!私達はずっと苦しんできたの!それを理解する気がないなら出ていきなさいよっ!」
「それはあくまでもここの支部の海兵だろ。俺は本部所属だったんだからこんな辺境の事情なんざ知ってるはずねぇだろうが」
「そんなの私達には関係ないっ!アンタ達海軍がアーロンを捕まえてたらベルメールさんだって死んだりしなかった!!」
「死んだ奴のことなんて知るかよ。それこそ俺の領分じゃねぇだろうが。結局は弱いからだろ」
お互いの言い分は尤もである。
アーロンがコノミ諸島を支配し始めたのが十年近く昔の話であり、その頃垣根はまだ五、六歳であり、海兵ですらなかった。
だが実際に、海賊の被害を受けて苦しんできた者達からしてみれば、そんな垣根の事情なんてどうでもいいのだ。
大好きだった人を目の前で殺された。ただ海賊から救ってもらう。その願いを受け入れられなかった苦しみの積み重ね、失望、それらが今のナミの内から溢れ出していた。
それを垣根は理解はしても、相手に対して考慮することはない。
「悪いが俺は海軍だからって別に正義の味方って訳じゃねぇんだよ。むしろアーロンと似たり寄ったりな悪党だ。だから泣きたいだけなら他所で泣いてろよ」
胸ぐらを掴むナミの手を振りほどきながら言い捨てる。
相手が少女であったとしても、バッサリと切り捨てるのが垣根帝督である。
椅子に座ったまま表情を変えず言いきるその姿は冷徹そのものといえる。どこぞのヒエヒエな海軍大将と比べても、よっぽど冷たいその態度の方がヒエヒエの能力には合ってそうだ。
あくまでも冷静に、相手に感化されることなく自分の都合を優先する。
普段通りの変わらない垣根であるからこそ、横にいる海美は何も言わないし、言う必要がないと思っている。
自分で悪党を自称する垣根であるが、少なくともネズミのような悪徳海兵やアーロンのような海賊とは違う部類の人間である。
ある意味でその言葉の重みは、ただの正義を吟うだけの海兵とは桁違いである。
だからこそ垣根の言葉はそこで終わることはない。
「アーロンはここで必ず潰す。俺の今後のためにもな。だから教えろ、アーロンの居場所を」
自分でもよ見直してみましたけどやっぱりちょっとざつですね。
次はしっかり作りたいので誰か垣根の戦闘描写のアドバイスくださいな。