もしも秋名スピードスターズが北関東最速クラスのチームだったら   作:にしむー

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拓海の運転によるS13の同乗走行の直後、走り込みに入った池谷。後ろの健二は全くついて行けないほどに、池谷のドラテクは向上していた。拓海のドライビングの感覚を忘れないうちに走り込みに移り、そこそこなダウンヒルの走りができるようになっていたが、ハチロクには出ない症状が、S13に出始める……


Act.16 S13の伸び代(前編)

 

 

 

池谷「気のせい……じゃないよな……?」

 

拓海「どうしたんですか、池谷先輩」

 

池谷「俺のS13、さっきよりブレーキの効きが甘くなってる気がするんだ……それに、フロントタイヤの食いつきも悪くなってる」

 

 

 

 

 

そう、ハチロクは小型軽量でそこまでパワーもないため、タイヤに大きな負荷はかからない。そのため、ダウンヒルの肝となるブレーキにも優しい。

 

しかし、S13シルビアは、K's前期型でハチロクより200kg程度重い。この差はダウンヒルにとって致命的だ。

 

そしてシルビアはフロントエンジンであり、ややフロントヘビー気味だ。それがより一層、フロントブレーキとタイヤへの負荷を増強させてしまっていたのだ……

 

 

 

 

 

池谷「だめだ……思うようにコントロールできない……」

 

走りに冴えがなくなってきた池谷とS13。

 

 

 

 

更に、追い打ちをかけるように症状は目に見えて現れ始める……

 

 

 

 

 

池谷「何だこの臭い……プラスチックの焼けたような臭い……もしかして、ブレーキに何か異常か……!?」

 

拓海「そんなに車の調子、悪くなってきてるんですか?」

 

池谷「ああ、そうだ……ブレーキとタイヤ、少し休ませないとダメだ……このまま走り続けたら危ない……」

 

拓海「そういうもんなんですね……」

 

 

 

 

 

ハチロクでしか秋名を走ったことのない拓海には初めての経験だった。

 

池谷「とりあえず、一旦展望台のところで車を止めよう、外から様子を見た方がいい」

 

拓海「わかりました」

 

 

 

 

 

一方健二の方も……

 

樹「そういや健二先輩、さっきから変な臭いしますよ」

 

健二「そういやなんとなく……言われてみればブレーキの効きがさっきからおかしいような……?」

 

樹「この先展望台のところで、車の様子見たほうがいいんじゃないっすか〜?」

 

健二「そうだな……もしものためだ、そうするか」

 

 

 

 

 

こちらもブレーキが限界のようだ。

 

しかし、タイヤには来ていない。これほど池谷との間にスピードレンジの差が現れているということだ。

 

 

 

 

 

スケートリンク入り口のある長い全開区間のすぐ先には、温泉街が見渡せる展望台がある。そこに数台車が止められるようになっている。

 

そこで、思わぬ人物と遭遇する……!!

 

 

 

 

 

???「お前ら、よく頑張ってるじゃないか」

 

池谷「!!てっ、店長!!」

 

走り込んでいるときはドライビングに集中していて気付かなかったが、店長が密かに愛車のビスタで、展望台に涼みがてら池谷たちの様子を見に来ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

店長「おいおい、すごいブレーキパッドの臭いじゃないか……相当攻め込んだなぁこりゃ」

 

池谷「なるほど……これは、ブレーキパッドの臭いだったんですね……」

 

池谷の読みは半ば当たっていた。

ブレーキがあまりにも加熱し、軽くフェード現象を起こしていたのだ。

 

 

 

 

 

ブレーキパッドが高温になるとガスが噴出し、そのガスがブレーキローターとの摩擦を阻害してしまう。それによりブレーキの効きが甘くなるのだ。この臭いは、そのガスによるものだ。

 

更にこのまま走り続けると、その熱でブレーキフルードに気泡が入り、ブレーキが全く効かなくなるべーパロック現象を引き起こす為、非常に危険だ。池谷の判断は正解だったのだ。

 

 

 

 

 

そして、正しい判断をした男二人組がもう一組……

 

樹「あっ!あの展望台のとこ……あれ、池谷先輩のS13じゃないっすか〜?」

 

健二「ほんとだ……まさか池谷も……!?」

 

 

 

 

 

店長「おっ、池谷の恋人がお出迎えだなぁ?」

 

池谷「ちょっ、店長!!(まさか、健二も同じことになってるんじゃないだろうな……?)」

 

S13の隣に停車する180と健二・樹。

 

 

 

 

 

店長「おう、お前らも同じだな?この臭い」

 

樹「てっ、店長!!来てたんですかぁ!?」

 

健二「まさか、池谷もブレーキが……?」

 

池谷「そうさ……ブレーキパッドが限界なんだってさ……それに、フロントタイヤも少しタレてるみたいだ」

 

 

 

 

店長・健二「なに!?フロントタイヤがタレる……!?」

 

 

 

 

店長「おい池谷、本当か、それは」

 

池谷「はい……こんなに攻め込んだの、初めてなもんで……」

 

店長「よく聞けよ池谷……フロントタイヤがタレるなんて、相当上手いやつに起こる現象だぞ!?それがお前の車にかぁ!?」

 

池谷「そうなんですか……?」

 

店長「ちょっと待て池谷、確か俺の車にエアゲージがあったはずだ……」

 

 

 

 

さすがはGSの店長、メンテナンスには抜かりがない。

 

 

 

 

すかさずタイヤの様子を見る。トレッド面はアツアツのお茶を入れた湯呑みくらいの熱さになっている。そしてタイヤの空気圧をチェックする。普段は適正空気圧の2.0(200kPa)にしてあるが、今ゲージが示している値は、なんと2.5(250kPa)にまで上昇していた……!!

 

 

 

 

 

店長「あのな池谷、タイヤの温度が上がると、それに応じて空気圧も上がるんだ……本気で下るときは、適正空気圧じゃダメなんだ」

 

 

 

 

 

なんとも耳寄りな情報を聞いた池谷達。

 

店長「(まぁ、昔バリバリやってた時、政志に指摘されたことなんだけどな……)」

 

 

 

 

 

店長「そして、適正空気圧が、一番速いとは限らない……一番速い空気圧は、サスペンションのセッティング、なんならタイヤの銘柄によっても変わる……走り込むのと同時に、一番速くて自分のフィーリングに合う空気圧を見つけてみたらどうだ……?」

 

 

 

 

池谷「なるほど……それは良いアイデアです!空気圧のセッティングなんて、なんにもチューニングしてない車にもできるセッティングですもんね」

 

店長「池谷、良いところに気がついたな……でも、ブレーキがここまで悲鳴上げてるとなぁ……すぐにそれは出来なさそうだな、ブレーキ冷えるまで相当時間かかりそうだぞこりゃあ」

 

 

 

 

 

店長「それまでにタイヤも冷えて空気圧が元に戻っちまう。今のタイヤがアツアツのうちに適正空気圧にしてみて、タイヤが冷めたらどれくらいまで空気圧が下がるか、その差を見て見るといいぞ?」

 

池谷「わかりました!」

 

 

 

 

 

タイヤが冷めないうちに、空気圧をとりあえず適正空気圧の2.0キロに調整する。

 

 

 

 

 

池谷「店長、タイヤの空気圧やってる時もそうですけど、ブレーキから臭いと一緒にすごい熱気が漂ってました」

 

店長「そうだろ?お前の走りが、このブレーキのキャパを超えてしまってるんだ」

 

店長「ラリーのターマックステージで、みんなマシンにデカいホイール履かせてるだろ?あれはハードブレーキングを見越して、大型のブレーキを入れるためなんだ」

 

 

 

 

 

ターマックとは、簡単に言えば舗装路のことだ。様々な路面状況でタイムを競うラリー競技において、アスファルトやコンクリート等の路面のことをターマックと呼ぶ。日本各地の峠も、ラリー用語で言えば一部例外を除き全てターマックステージというわけだ。

 

 

 

 

 

池谷「店長、ブレーキなら、実は凄いアイデアがあるんですよ!」

 

店長「本当か!?話してみろ!(興味あるな……池谷がどんなことを画策してるのか……タダでさえSSS-RのCA18に載せ替えたんだ……それが更にどんな進化をするというんだ……?)」

 

 

 

 

 




まさか愛車を休ませるために立ち寄った展望台で、店長に出くわした池谷たち。そこで池谷の提案を店長に話す。果たして店長の反応やいかに……!?
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