もしも秋名スピードスターズが北関東最速クラスのチームだったら 作:にしむー
中里「フッ……32が本気を出せばざっとこんなもんだぜ……このまま突き放してやるぜ!!」
しかし、相変わらずのグリップ走法。それを拓海は、リアタイヤを使えていないという。
池谷「どういうことなんだ拓海、リアタイヤを使えていないってのは」
拓海「ほら、俺なんかも、高橋啓介って人もそうでしたけど、後ろのタイヤを流す走り方をするじゃないですか……そうすると、本来は前のタイヤだけで仕事をする分を後ろに分散して、曲がる限界を上げてるというか、力を分散してるんですよ」
池谷「それって、普通のドリフトとは違うのか?」
拓海「ドリフトって、いわゆるカニ走りのことですよね?ただカニ走りさせるだけなら簡単なんですけど……何て言ったら良いんでしょう……後ろのタイヤで曲げる……って言ったらわかりますか?」
池谷「後ろのタイヤで曲げる……!?」
拓海「そうです。後ろのタイヤを流すと、アクセルの掛け具合で、それができるんです。でもあの前のGT-Rの人、それを全然やってないなって」
拓海「そのうち来ると思いますよ、前のタイヤが」
拓海は無意識のうちに読み切っていた。その兆候が、少しずつ現れ始める……!!
後ろから付いてきている高橋涼介は、相変わらず口を閉ざしたままだ。本気を出しているのだ。そのペースにも関わらず、拓海はおろか、いつのまにか池谷まで、会話できるレベルに慣熟されていたのだった。
中速セクションの最後に、ヘアピンが待ち受ける。そこを過ぎれば、再び長い全開区間に突入する。そして軽いS字の後、再びヘアピン、そして中速S字区間に入る。
直線で一気に差を広げた中里だったが、ヘアピンの後のS字区間で……!!
中里「なん……だと……!?」
後ろには、ハチロクがピッタリと張り付いていた。
中里の32GT-Rは、1500kgもの巨体でフロントタイヤとブレーキを酷使し続け、このダウンヒルでコーナリングとブレーキングは限界を迎えていた。
そして、5連ヘアピン前のストレート。
わずかにアドバンテージを得るのもつかの間、その跳ね返りがブレーキの負荷に直に現れて帳消しだ。
\キィイイイイイイ/
中里「くっ……タイヤとブレーキが言うことを聞かねぇ……」
拓海「ほらやっぱり……あの車、後ろのタイヤは十分余力が残ってるんですよ、だけど、フロントばっかり使ってブレーキも真っ直ぐばっかり使うと、あんな風になるんですよ」
池谷「ブレーキを真っ直ぐ……それは当たり前じゃないのか……?」
拓海「ほら、俺なんかだとコーナー入る前に、車を滑らせるじゃないですか、あれで曲がりながら減速もしてるんですよ」
池谷「……!!(そういうことか……!!スライドさせながら減速することで、ブレーキ本体の負荷を減らしてるんだ……!!)わかったぞ拓海!このまま行けば勝てる!この調子だぁ!!」
池谷は、拓海のダウンヒルの速さの秘訣を読み切った……!!
あとは、実践できるようになるかどうかだが……
中里のペースが格段に落ちてきているので、涼介にも余裕が出始めた。
涼介「案の定だな……中里の奴、フロントタイヤとブレーキがタレて、もうこれ以上攻め込めない」
啓介「アニキ、つまりそれは……」
涼介「中里の32は……負ける!」
中里「どれだけタイヤがキツくなっても、インさえ閉めれば入る隙はない……!!」
ギリギリのコンディションでなんとかインを閉める中里。しかし……!!
中里「!!なに!?外からだと!?」
中里「ふざけんじゃねえぞ!外から行かすかよォッ!!」
だが何とかその場をしのいだ中里。少し安堵する。しかし、それが命取りとなった……
啓介「次のヘアピンで、インとアウトが入れ替わる!!」
中里「落ち着くんだ……インにさえ入ってこられなければ、車体がギリギリ入れないくらいアウト側に寄せてもいいはず……」
半車身マシンをアウトに寄せる中里。ところが……!?
\スッ/
池谷「おっ、おい拓海!?そっちは半車身しか空いてない……まさか……!!」
拓海「こういう時は、こうすればいいんっすよ」
拓海は、雪道でよく使うテクニックを、またも応用し始めた……!!
中里「…………!?そんな所にコースはないはずだ……お前まさか……!?」
ハチロクは、明らかにコース外を走っていた……路肩に乗り上げて無理やり中里のインを差したのだ……!!
\ガシャンガシャン/
思いっきり縦揺れしながら路肩を使って曲がるハチロク。
\コォオオオオオオ/
中里「だめだ……クルマが言う事を聞かねえ……!!」
涼介「終わりだ」
アンダーステアのマシンで、無理やりハチロクの立ち上がりに付いていこうとする中里……そして……!!
\パァアアアアン!!/
\ドヒュウウウウウウッ/
32をガードレールにヒットさせ、スピンして停止した。その後ろから、高橋兄弟の乗るFC……!!
\シャアアアアアアアア/
\プォン プォン/
華麗に中里の32をパスした。
勝負あった……拓海の、ハチロクの勝ちだ……!!
中里「フゥ〜、痛ぇなぁ、板金7万円コースか」
池谷「拓海、お前すごいぞ!!あのR32の中里を……破ったぁ!!」
拓海「そんな……大した事……確かに直線は速かったですけど、タイヤの使い方、下手でしたし」
池谷「リアタイヤで曲がる……かぁ……今度走り込むとき、今回体感した拓海の走りと併せて、じっくり練習してみよう」
涼介「フッ……これは本当に面白いターゲットだ……」
啓介「(このハチロク……兄貴ならやってくれる……!!)」
群馬最速候補と謳われる一人、中里毅のR32GT-Rを破った拓海とハチロク。そしてその走りを体感した池谷。後ろから目の当たりにした高橋兄弟……秋名スピードスターズ、赤城レッドサンズ、それぞれに大きく衝撃を与えた。大きなヒントを得た池谷はこの後「リアタイヤで曲がる」事を意識し、猛練習に励んでいく。そんな中、とんでもなく危険な刺客が舞い込んでくるとは、予想だにしていなかった……!!