もしも秋名スピードスターズが北関東最速クラスのチームだったら 作:にしむー
拓海「おはようございまーす」
店長「おはよう拓海、ところで拓海、お前宛に何か花束が届いてたぞ?高橋って人からだったなぁ」
拓海「なんすか、それ」
その花束に添えられたメッセージカードには、こう書かれていた。
「8月○日 午後10:00 秋名山山頂」
池谷「おい……これ……高橋涼介から直々の挑戦状じゃないか……!?」
拓海「………」
遂に来てしまった……北関東最速と言われ、全関東を含めた関東最速プロジェクトをも視野に入れていた高橋涼介から、秋名のハチロク、拓海宛に、直々に挑戦状が届いたのだ……!!
しかし、問題が発生する……!!
店長「どうすればいいんだ、この花束」
花束のやり場に困る店長。
拓海「俺が持って帰りますよ、一応、俺宛のなんで」
拓海が花束を持って帰ることになった。
帰宅した拓海
拓海「ただいま〜」
文太「おう」
拓海「これ、高橋涼介って人から貰ったんだけど、どうすりゃいい……?」
文太「………なんだそりゃ」
困惑する文太。
拓海「高橋涼介っていう、すげー速い人から、うちのGSに挑戦状が届いたんだ……それに一緒に付いてきたというか……その花束に挑戦状が挟まってたというか……」
文太「困ったなぁ……こういうの貰ったことねぇからなぁ……みんなどうしてるんだ?」
拓海「さぁ?でも、捨てるわけにもいかねぇだろ……」
文太「そうだなぁ……」
困ってこめかみをポリポリする文太。
藤原家は父子家庭だ。花瓶など持っていない。
文太「とりあえずそこに使ってねぇバケツあるから、そこに水入れて店先に飾っといたらどうだ」
拓海「うん……わかった」
なんと、高橋涼介からの花束は、ブリキのバケツに入れられて店先に飾られることになった。
まるて、そこで誰かが事故で亡くなったかのような風貌だった……(笑)
翌朝。いつも通り、配達前に池谷がやってくる。
池谷はその店先の花束を見て、顔面蒼白になった……!!
池谷「おい!拓海!まさか、親父さんに何かあったのか!?まさか……」
拓海「いや」
文太が顔を出す。
文太「人聞きの悪い……俺ならピンピンしてるぜ」
池谷「あぁ、こりゃ失礼しましたぁ〜(汗)」
文太「なぁ青年……池谷って言ったっけか?」
池谷「あっ、はい」
文太「こういう花束、貰ったらどうすりゃいいかわかるか?」
ふぬけた様子で安堵する池谷。
池谷「(なんだ……昨日の花束か……)」
拓海「昨日、高橋涼介って人から届いた花束、どうすればいいかわからなくて困ってるんですよ」
池谷「なんだ、そういうことか……こういうのは」
余っていた2Lペットボトルで、即席で花瓶を作る池谷。
文太「この青年……器用だなァ……」
池谷「こうやって、家の中に飾っとくんですよ」
文太「ほぉ……そういうモンなのか……もらった花束ってのは」
妙に感心する文太。
池谷「本当はちゃんとした花瓶とかあるといいですけど、失礼かもしれないですが滅多にこんなもの飾らないと思うんで、これで充分ですよ」
文太「なるほど……確かに店先にこんなモン置いてたら、勘違いされるよなァ……
拓海「『こんなモン』はねぇだろ親父」
文太「………(汗)ポリポリ 助かったぜ、池谷青年」
池谷「いえいえ、いつもこうやって、拓海の助手席に乗せてもらってるんです……これくらい、どうってことないですよ」
文太「ちょっと時間押しちまったなァ……拓海、早く支度して、配達行ってこい」
拓海「あぁ……」
いつものように店先にハチロクを横付けする。
そこに注がれた水は……!?
\チョボチョボチョボチョボ/
拓海「おい親父!何やってんだよ!」
文太「ゲン担ぎだ、いつもより張り切って行ってこい」
紙コップに注がれたのは、高橋涼介の花束が入った即席花瓶の水だった……!!
拓海「……にしても、さすがに多くないか?この水の量」
文太「ゲン担ぎだって言っただろう……その高橋涼介って奴のエキスが混じった水だ……絶対にこぼすんじゃねぇぞ」
拓海「おいおいマジかよ……(汗)」
文太「そして、その北関東最速とか言ってるその野郎に勝ってくればいい」
拓海「わかったよ、時間押してるし、さっさと行ってくるよ」
\フォン フォン フォオオオオオ/
配達に向けて出発した拓海と池谷。
池谷「おい拓海、お前は親父さんと、いつもあんな感じなのか……?」
拓海「あんなもんじゃないですよ……普段はもっとテキトーな感じですよ」
池谷「そうなのか……」
配達に向かうハチロクは、伊香保の温泉街を抜け、秋名山の峠に突入する。
いつもより多い紙コップの水。拓海は慎重にステアリングを操作する。
拓海「やっぱりだ……」
池谷「どうした?拓海」
拓海「ステアリングの舵角は小さい方が、速く走れる気がするんですよ」
池谷「そういや、いつもより紙コップの水が多い割に、そんなにペースが変わらないな」
拓海「この前のガムテープデスマッチで気付いたんですよ……あんまりステアリング切らなくても曲がるんだって」
池谷「そうなのか……?」
拓海「舵角を切りすぎると、かえって速度が落ちるというか……むしろ、ステアリングは真っ直ぐでスライドとアクセル操作だけで曲がっていくほうが、よく曲がるんですよ」
速くなるための大ヒントを、池谷は拓海の口から聞いた。
池谷は最近、テクニックの壁に当たっていた……
池谷の腕は、北関東でも中の上、いや上の下くらいには速くなっていた。
しかし、そこから全く伸びなくなった。走っても走っても、同じなのだ。
マシンのパワーさえあれば、拓海とバトルしたときの高橋啓介と、ヒルクライムでタメを張れるくらいには速くなっている。
その壁を打破するヒントが、ひょんなことから拓海の口から発せられるとは、思いもしなかった……!!
コミュニケーションを取りながらヒントを得られる……これが、同乗走行のもう一つの強みだ。
もっとも、拓海のように限界走行しつつも話す余裕のある者の同乗に限った話ではあるが……
池谷「(すごい……いつもより多い紙コップの水が、見事にこぼれない……それなのにペースは普段とそんなに変わらない……本当に凄いよ……拓海の運転は)」
頂上に辿り付くハチロク。その先は、これといった峠道はなく、ずっと長い直線が続いたあと、秋名湖の方へ右折し、食堂や旅館、ホテルにとうふを卸して廻っていく。
普段なら配達終了したら紙コップの水を捨てて、早く帰るために下りをかっ飛ばして行くのだが、今日は少し気分が違った……
拓海「高橋涼介の……水……」
拓海は湖畔近くにハチロクを停めた。
池谷「どうしたんだ?拓海」
拓海「いや、折角なんで、高橋涼介の水、秋名湖にお供えしようと思って……」
池谷「おいおいお供えって……(笑)まぁいいぜ、高橋涼介に勝つためのゲン担ぎだ、秋名湖に注いでこい!」
\チョボチョボチョボチョボ/
拓海「…………」
池谷「(どうか拓海が、高橋涼介に勝ちますように……)」
拓海はその時、何を思って水を秋名湖に流したのだろうか……?
この後、秋名山の下りをかっ飛ばして帰ることになる拓海と池谷。だがその走りは、いつもより水の多かった紙コップによる効果なのか、いつもと違う走りになっていた。果たしてその真髄とは……!?