もしも秋名スピードスターズが北関東最速クラスのチームだったら   作:にしむー

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沙雪・真子たちとプールに遊びに行った拓海と池谷達。拓海は沙雪に振り回され、健二と樹はそれを見て羨ましがるしかなかった。一方、池谷と真子は、ほとんど会話するだけで終わってしまった。そして、真子に告げられた池谷への本心……池谷は、真子の気持ちにどのように答えるのだろうか……?


Act.44 池谷、勝負の日

 

 

 

 

 

〜真子の約束の日当日、夜8時〜

 

 

 

 

 

例の釜めし屋の看板の下にて……

 

 

 

 

 

真子「(池谷さん……来ないなぁ……)」

 

時間になっても現れない池谷。

 

まだ携帯電話など普及していない時代だ。個人間でリアルタイムに連絡を取り合うことは不可能だ。

 

 

 

 

 

綺麗なワンピースに見をまとい、ハイヒールのサンダルを履く姿は、天使そのものだった。誰が見ても一目惚れするような、最も美しい姿で待ち続ける、一人の女性。

 

 

 

 

 

…………しかし、30分経っても、池谷が姿を現すことはなかった。

 

 

 

 

連絡の取れないこの時代、まだ交通渋滞や不測の事態など、許容できる範囲内だ。真子は待ち続ける。

 

 

 

 

 

その頃………

 

 

 

 

 

店長「何ィ!?8時ィ!?もう30分も過ぎてるじゃないか!!」

 

池谷「!?」

 

店長「どうしてお前はいつもそうなんだ!!女の子はそんな単純なもんじゃないんだぞ!!行かなきゃクビだ!!お前も走り屋なら、全力でかっ飛ばして行け!!説教はその後だァ!!」

 

 

 

 

池谷のあまりの鈍感さに、激昂する店長。

 

ようやく池谷は、事の重大さに気づいた。

 

 

 

 

 

池谷は、真子の水着姿を見れただけで、そしてそんな子と横で会話できただけで、もう満足だと思っていた。しかし、気付くのが遅すぎた……

 

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュキュキュ/

 

\フォアアアアアア/

 

 

 

 

 

池谷のS13の、スペシャルチューンのCA18DET-Rが、マフラーから全開のエキゾーストノートを奏でる。まるでそれは、池谷が真子に申し訳ない気持ちと、待ち続けてほしいと願う気持ちを届けるようだった。

 

 

 

 

 

渋川から釜めし屋の看板のある横川までの所要時間は、およそ1時間だ。そこを、全てを賭けて高速道路を全開で走る池谷。スピードメーターはとんでもない位置を示していた……!!

 

 

 

 

 

\フォアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアア/

 

 

 

 

 

池谷「たとえオービスに引っかかってもいい……警察に見つかってもいい……とにかく間に合ってくれ……!!」

 

 

 

 

愛車のS13にすべてを委ね、全開でかっ飛ばす池谷。

 

 

 

 

       \シュン/

 

 

  \シュン/

 

 

           \シュン/

 

 

 

 

 

まるで他の車を、止まっているかのようにパスしていく池谷。

 

 

 

 

 

今まで培ってきた全知全能を、全て真子への願いに託す。

 

 

 

 

 

ところが………

 

 

 

 

 

不幸にも、池谷に最大の試練が訪れる……

 

 

 

 

 

\パパァーー/

 

    \ピーッピーッピーーー/

 

 

 

 

 

池谷「ウソだろ!?事故渋滞!?何でこんな時に限って……クソっ!!」

 

 

 

 

池谷は自分のしでかした過ちを心底悔いた。

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

 

 

真子「もうすぐ9時……池谷さん……何かあったのかな……それとも……」

 

いよいよ不安になり始める真子。さすがに予定時刻から1時間経っても現れないのだ。不安はどんどん深さを増していく……

 

 

 

 

 

 

池谷「どうか神様仏様、お願いします!!俺にチャンスを……他はどうなってもいい……今日だけはチャンスを下さい……!!」

 

 

 

 

 

渋滞から抜け出せないでいた。非常にもどかしい。

 

 

 

 

 

事故の処理が終わり、ようやく流れが正常に戻った高速道路。

 

 

 

再び全開で走り、予定の高速道路を降りた。

 

その時、既に9時30分。予定から1時間半も遅れていた……!!

 

 

 

 

 

下道も片側1車線の道路で、前の車をパスしてでも飛ばす池谷。

 

もう周りのことなど見えていなかった。

 

真子のことで頭が一杯になっていた。

 

 

 

 

 

池谷「頼む……真子ちゃん……待っていてくれ……!!」

 

 

 

 

 

 

真子「…………」

 

時計を見る。時刻は9時40分を示していた。

 

 

 

 

 

真子「サンダル……痛い……」

 

 

 

 

普段はしないくらい、美しい装いをしていた真子。だが、美しさの代償には痛みが付きまとう。

 

足は赤くなり、靴擦れを起こしていた。こんな姿、池谷に見られる訳にはいかない。

 

 

 

 

そして、とうとう真子は決心した。

 

 

真子「(私、もうサンダルなんて、二度と履かない……!!)」

 

 

元の靴に履き替える真子。そして……

 

 

 

 

 

 

\フォンンンン フォン フォンンンンンン/

 

\ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア/

 

 

 

 

 

 

\フォン フォン フォアアアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアアアアア…………/

 

 

 

 

 

 

 

釜飯屋の看板の下で、全ての想いを拭い去るかのようにドーナツターンを決め、そして走り去っていった。

 

 

 

 

池谷はとうとう、自分の過ちから、真子の気持ちを受け止めることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

\フォンンンンンン フォンンンンンン/

 

 

釜めし屋の看板の下。そこには、真子の姿はなかった。

 

 

池谷の眼前にある、ドーナツターンを決めたブラックマークには、タイヤの焼けた匂いが、かすかに残っていた……

 

 

 

 

 

 

 

池谷「俺の……俺の……バッカやろォォォォォォ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュ/

 

\フォアアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアアア/

 

 

 

 

 

 

旧国道18号線、碓氷峠へ向かう。

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

\フォン フォン フォアアアアアアア/

 

 

 

 

ヤケになり、キレた走りをする池谷。

 

もはやそれは、真子と沙雪のコンビ、インパクトブルーの走りと、ほぼ変わらなかった。

 

 

 

 

 

普段では考えられないステアリングの切り返し。豪快かつ的確なアクセルワーク。ブレのないシフト操作とヒールアンドトゥ。全てが完璧だった。いや、完璧を通り越していた。

 

 

 

 

土曜日の夜だ。ギャラリーや他の走り屋がいてもおかしくない。

 

 

 

 

ギャラリー1「おっ、この180の音……インパクトブルーのシルエイティか……?」

ギャラリー2「シルビアの顔!シルエイテイだ!」

 

 

 

しかし……

 

 

 

\フォンンンンン/

 

\ギャアアアアアアアアア/

 

 

 

 

ギャラリー1「何!?ツートンのS13!?」

 

ギャラリー2「ここいらでは見たことないマシンだぜ!?」

 

 

 

 

前を行く他の走り屋に追いついた池谷。

 

 

 

 

走り屋「後ろから迫ってきてる……この排気音……あのヘッドライト……インパクトブルーのシルエイティ……?」

 

 

 

池谷「………っ!!」

 

 

 

前を行く走り屋のインに飛び込む池谷。

 

 

 

 

走り屋「うわっ!!突っ込んできたァ!!」

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

\フォン フォン フォフォン フォアアアアアア/

 

 

 

 

走り屋「何……!?S13……!?」

 

 

 

池谷「……………」

 

 

 

 

S13を無理やりインに飛び込ませ、スピンモード直前のオーバーステアから一気に立ち上がり、前の走り屋をオーバーテイクした。

 

 

 

もはやこの時の池谷は鬼神と化していた。もはやビジターの走りではなかった。周りのギャラリーや走り屋は、ヘッドライトの形状からインパクトブルーのシルエイティと勘違いした。それほど、池谷の走りはキレていた。

 

 

 

これまでモヤモヤしていた鬱憤、手が届きそうだった幸福を自ら手放してしまった後悔。池谷はその全てを碓氷峠に捨て去るような、そんな走りだった。もはや誰にも手が付けられなかった。

 

 

 

 

 

そして、碓氷峠を走り切り、車通りの少ない路肩に愛車を停める池谷。

 

 

 

 

池谷「グスッ……グスッ……うぁあああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

言葉にならない雄叫びを上げる池谷。池谷の精神錯乱状態は、相当なものだった……

 

 

 

 




自らの不覚と不運から、とうとう真子の想いを受け止めることができなかった池谷。その悔しさから、碓氷峠でとんでもない走りで周囲を圧倒した池谷。まさかこの鬼神の走りが、後の北関東最速伝説、ましてや関東全域にまで影響を及ぼすとは、誰もが知る由もなかった……!!
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