もしも秋名スピードスターズが北関東最速クラスのチームだったら   作:にしむー

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京一の挑発を受け始まった、桐生の梅田での講習会(セミナー)が、思わぬ形で終焉を迎えた。しかしその頃に、妙な胸騒ぎがし、動き始めていた人物。拓海は壊れたハチロクを前に絶望していた。そしてその前に現れた人物とは……?


Act.56 文太の勘

 

 

 

 

拓海「………………」

 

 

 

エンジンブローで動けなくなった拓海は、どうすればいいかわからず、ただただ運転席に座り続けていた。突然の出来事が、あまりにもショックで、あの瞬間が脳裏に映し出されては、それが何度も繰り返されていた。ところが……?

 

 

 

 

 

\ボォォォォォォォォ/

 

 

 

 

突然ハチロクの前に、一台のトラックが現れた。そして……

 

 

 

 

???「よォ」

 

拓海「!?……おっ、親父……!?」

 

文太「やっぱ俺の勘は正しかったなぁ……」

 

拓海「なんだよ、それ?」

 

文太「まぁいい、ちょっと見せてみろ」

 

 

 

 

ブローして油まみれのハチロクを、澄ました顔でじっくり見る。全てを解っているような顔で、全く動揺もせず状態をチェックした。

 

 

 

 

拓海「親父、お、俺……」

 

文太「話は後だ……さっさとやることやっちまうぞ」

 

拓海「おっ、おう……」

 

 

 

 

作業が終わったら何を言われるのか、不安で仕方がない拓海。そんな中、文太と共同で壊れたハチロクを積載車に載せる作業を手伝う。

 

 

 

牽引フックにワイヤーを引っ掛ける拓海。

 

そして文太はワイヤーの巻き取りボタンを押す。

 

ゆっくりと積載車に引き上げられていくハチロク。

 

積載車の荷台をリフトアップし、ハチロクに輪止めを掛ける。

 

作業は終了し、ハチロクは完全に積載車に搭載された。

 

トラックの高い位置に置かれた、最後まで戦いきったハチロクの雄姿。

 

 

 

 

拓海「なぁ親父、俺」

 

文太「ほら、行くぞ、さっさと乗れ」

 

拓海「あっ、あぁ……」

 

 

 

 

\ブォオオオオオオ/

 

一息つく暇もなく、ハチロクを載せた積載車は梅田を後にする。

 

 

 

 

ギャラリー1「おい!あれ、さっきのハチロクじゃねえか!?」

 

ギャラリー2「どうしたんだ!?油まみれだぜ?エンジン逝っちまったのかぁ!?」

 

 

 

 

その噂が流れていたのは、ここだけではなかった。

 

 

 

 

涼介「一体どういうことなんだ、京一」

 

京一「ふっ……折角ヤツに本気の走りとは何かを見せてやろうと思ったんだがな……」

 

涼介「はっきり説明しろ!」

 

京一「説明するまでもねぇ……これからって時に、エンジンブローでハチロクはオシャカだ」

 

啓介「何!?エンジンブローだと!?」

 

京一「これであのハチロクはもう終わりだ……再び走ることはない……」

 

レッドサンズ一同「……………」

 

 

 

 

 

一方、ハチロクを載せた積載車の中。

 

拓海「なぁ、親父」

 

文太「ん?」

 

拓海「俺、スタンドでバイトして貯めた金、全部出すから、エンジン直すのに、使ってくれ」

 

文太「だめだねぇ……」

 

拓海「えっ……」

 

文太「直すのは無理だと言ってるんだ……」

 

 

 

 

予想外の返事に、戸惑う拓海。文太の返事には2つの思惑があった。文太は続ける。

 

 

 

 

文太「コンロッドとクランクシャフトを繋ぐピンが折れた……暴れたコンロッドが、内側からブロックを突き破って、ボックリ大穴が開いちまってる……このエンジンはもう使えねぇ……」

 

拓海「そんな!折角親父が手ぇ込んで仕上げたエンジンなんだろ?それなら、何としても、直そうよ!足りないなら、借金してでも……」

 

文太「出来るもんならそうしてやってもいい……だが、ダメなものはダメだ……」

 

 

 

 

コンロッドとは自転車で言う人間の脚、クランクシャフトはペダルを繋ぐ棒の部分(クランク)だ。

 

つまり、文太の説明を自転車で例えると、自転車を全速力で漕いでいたら、突然ペダルが折れて、力を掛けていた脚が勢いで他の部分を蹴ってしまう、そんなイメージだ。今回は、その脚であるコンロッドが、ブロックを内側から蹴って穴を開けたということだ。

 

文太の言う「ブロック」、つまりエンジンブロックは、エンジンの外骨格のことだ。アルミ製のものもあるが、ハチロクの4A-GEエンジンは、鋳鉄(ちゅうてつ)というタイプの鉄系素材で作られており、硬いが脆いという性質を持つ。つまり、変形はしないが割れるタイプの素材だ。エンジンパーツの損傷でも、シリンダーブロックだけは修復が効かない。破壊された鋳鉄は、修復が不可能なのだ。

 

ましてやミクロン単位の精度を要する上、高強度に高熱に、大変な環境下で仕事をしているエンジンの部品の一つだ。

 

エンジンブロックは、鋳造(ちゅうぞう)という、型に溶けた金属を流し込んで作る一体成型部品で、修理が効かない。穴が開くなどもってのほかだ。どう頑張っても、修復することは不可能なのだ。

 

 

 

 

拓海「…………………」

 

拓海は後悔と不安で押し潰されそうだった。京一の言う通り、ハチロクとお別れするしかないんじゃないかと……ずっとずっと一緒に、家族のように暮らしてきたハチロク。それが、自分のせいで廃車しなくてはならないかもしれないのだ。ところが……!?

 

 

 

 

 

文太「…………………」

 

黙って拓海の頭に手を添える文太。

 

 

 

文太「拓海、お前、ハチロクが壊れたの、自分のせいだと思ってるだろ……」

 

拓海「…………ヒッ……ヒッ……」

 

珍しく親の前で涙してしまう拓海。だが文太から発せられた言葉は、意外なものだった。

 

文太「たまたまお前が運転していただけだ……お前のせいじゃねぇよ………」

 

 

 

文太も珍しく、拓海の前で父親の顔を見せた。

 

 

 

 

ハチロクを載せた積載車は、静かに国道を進み、渋川方面へと帰っていく………

 

 

 




ブローしたハチロクは、文太の勘により登場した積載車に載せられ、一旦は救われた。だが、今後どうなるか拓海は不安と自責の念で感情がグチャグチャになっている。しかしこれは、文太にとっては全くの予想通り、計画通りなのだった。一方近づく涼介対京一の魂のバトル。果たしてその運命やいかに……!?
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