リアル系ロボットゲームで世界観が違うやつ   作:紅乃 晴@小説アカ

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CASE13.奇跡の大馬鹿者たち(3)

 

 

デルベルト・ロッジ。

 

ゲーム開始時点の彼は、前線から後方送りにされたパイロットだった。

 

デルベルト・ロッジはナノマシン適正はないが、ノルマンディー反抗作戦後に志願したパイロットで、その空間認識能力と適切な判断能力から、「アインラッド隊」と呼ばれるハウンドアーマー小隊を任されていた。

 

彼はボルトのC型、B型を小隊メンバーとの見事なコンビネーション、的確な指揮で堅実に撃破していき、膠着状態であった南戦線を押し上げ、総司令部からも勲章を授与されるほどの活躍をしていた。

 

そんな彼の人生が暗転したのは、アインラッド隊が北部への敵戦力偵察に出た任務であった。

 

任務内容は文字通り、北部に集結しつつあるボルトのC型とB型の戦力調査。機体は機動性に優れたHA-11 エンフィールドに視認性を下げるべく迷彩処理が施されたものだった。

 

普段、アインラッド隊は前衛のレイブンアームズと、後衛のエンフィールドで運用していたのだが、今回は偵察任務。もし発見された場合でも素早く離脱できることから、エンフィールドが適用されることになった。

 

小隊のメンバーも普段からレイブンアームズとエンフィールドを操縦できるよう慣熟訓練を実施していたため、機体変更でもさしたる問題は発生しなかった。

 

そしてデルベルトも含め、小隊の全員がこう思っていた。いつもと変わらない手慣れた偵察任務だと。

 

その慣れに感覚が曇らされたことで、彼の目の前で悪夢が起こった。

 

作戦は順調に進み、北部に集結するボルトの戦力を確認したアインラッド隊は直ちに司令部へ、敵の情報を伝えたが……敵はアインラッド隊が使用した長距離レーザー通信機からの周波数を逆探知し、同隊に奇襲を仕掛けてきたのだ。

 

敵の集結地点から100キロも離れていること、そしてエンフィールドに迷彩が施されていたこと、何より慣れ親しんだ任務だと油断していた彼らにとって、その奇襲は致命的だった。

 

襲撃してきたのは蜘蛛型のC型が50体と、B型が1体。

 

偵察という任務に専念するため、軽武装のエンフィールドを採用したことが祟った。

 

すぐに離脱を試みたが、退路を遮断する布陣で奇襲を受けており、隊の人間は次々とコクピットを食い破られ、C型の蜘蛛の脚のようなアームに弄ばれ……死んでいった。デルベルトの眼前で体を引きちぎられた戦友もいた。

 

その瞬間、彼の中に確固たるものとしてあった自信や尊厳……その全てが崩壊したのだ。

 

メインストーリーでは、一人生き延びたデルベルトは失意の中後方へと送られ、ジェイスたち訓練生の教官として任務に就く事になるが……この世界においては、ほんの少しだけ変化点があった。

 

メンバーは史実通り全滅させられ、最後の一人となったデルベルトの前に、B型のボルトが立ち塞がる。

 

B型の胸部に備わる収束砲にエネルギーが充填されていく様を、ただ見ていることしかできなかった。あぁ、自分も仲間達と同じようにここで死ぬのだと覚悟した時。

 

 

《おおぉおおりゃあああぁぁあーー!!》

 

 

漆黒のハウンドアーマーが、今まさに収束砲を放とうとしていたB型の発射口目掛けて左腕を突き出し、そのままMMXで貫いたのだ。左腕を発射口から引き抜くと火を噴いて倒れるB型。

 

その炎が真っ暗だった森林地帯を照らす。轟々と燃え盛る残骸を背に、振り返る漆黒の影。それがレイブンアームズであると認識するまでデルベルトは呆気に取られてしまっていた。

 

群がるC型のボルトを卓越した操縦技術で躱し、右腕に装備した大口径のガトリング砲で薙ぎ払ってゆく。

 

近づけばMMXで貫き、離れれば75mmの6連ガトリング砲が飛んでくる。その圧倒的な力で漆黒のレイブンアームズは敵を蹂躙していった。

 

 

《……負傷した味方機を確認した。支援機は彼の保護を》

 

 

あらかた片付け終えた援軍機は、仲間の無残な残骸を目にする。しばらく沈黙してから無骨な機械音を響かせると、何もできずにいたデルベルトの前に膝を下ろし、その機体の肩に手を置いた。

 

 

《よく頑張った。……仲間の仇は、俺に任せろ》

 

 

それだけ簡潔に言い、膝をついていたレイブンアームズは立ち上がった。

 

 

《こちらはこれより残存兵力を掃討する。リン、ついて来い》

 

《了解です、隊長》

 

 

機体を翻し、スラスターを迸らせて進んでゆく機体。そのすぐあとにスカイブルーの同型機がデルベルトの頭上を飛び越え、漆黒の機体の後へと続いた。2機が向かうその先は……自分達が偵察したボルトの集結地点であった。

 

無謀だ。無茶だ。死にに行くようなものだ。

 

しかし……その声が出ない。

 

デルベルトの喉は仲間達の無残な死に様にすっかり潰れてしまっていた。

 

それでも、二機であの戦力を有する場所に向かった援軍機を……自分の窮地を救ってくれた相手を……デルベルトは見殺しにすることなどできなかった。

 

震える手で操縦桿を握り、ガタガタと音を鳴らす恐怖を噛み殺しながら、無理やり機体を起き上がらせて、先に向かった恩人の痕跡を辿った。

 

そして、森林地帯を抜けた先にある開けた場所にたどり着いたデルベルドは、信じられない光景を見た。

 

そこには集結していたはずのボルトの軍勢の残骸が横たわっていたのだ。

 

C型もB型も全てが的確に破壊され尽くしている。

 

目を凝らせば鬱蒼とした森林の奥でスカイブルーの機体が動き回っているのが見えた。その動きも自分のそれとはかけ離れた速さを有していて、装備するアサルトショットガンで追いつけないC型を尽く粉砕していく。

 

自分が辿ってきた道に動ける敵は存在せず、そこには静寂と、目に見えるような死が充満していた。

 

ふと、VRモニターの先で何かが貫かれるような音が響く。

 

暗視モードに切り替わった光景を前に、デルベルドはこれまで見てきた全ての〝強者〟という概念が、根こそぎ変えられてしまった。

 

モニターに映ったものは、MMXを使い〝A型〟の胴体を貫く……ガトリング砲を備えていたはずの片腕を失った漆黒のレイブンアームズ。

 

それは自分を救った機体だった。

 

拠点制圧を目的としたA型はB型とは比べ物にならない強さを有する敵だ。それを、自分が到着するまでの間に殺しきった。貫いた場所から溢れるA型のオイルが、まるで返り血のように刃を突き立てる相手を濡らしてゆく。

 

音を立てて崩れ落ちる残骸を見下ろし、相手が完全に途絶えたのを確認した漆黒のレイブンアームズはMMXの先端から生成されるエネルギー刃を消失させた。

 

それからすぐに救援部隊が到着した。

 

集結していたボルトの勢力を制圧したおかげで、バラバラと音を立てて輸送ヘリが何機もこの場に飛んでくる。

 

そのうちの一機が、サーチライトで敵の残骸の中にたたずむ漆黒を照らした。デルベルトの目に、眩いライトの中で返り血を浴びたソレが映る。

 

そしてそれが、彼が抱いた情景となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、回収されたデルベルトは仲間の遺体と共に所属する基地へと帰還。心身の負担を考慮した上官の判断で、訓練施設の教官職への異動を命じられる。治療を受けるヘリの中で、自分を救ったあの漆黒のレイブンアームズに乗っていたパイロットの噂を聞いた。

 

ダン・ムラクモ。

 

彼こそ、ミラクルイーグルスを率いてノルマンディー反抗作戦を駆け抜け、東部戦線では無類の強さを誇る歴戦の強者として君臨する……地球軍で唯一、単騎でA型ボルトを殺し切る……凄腕のパイロットだったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ダン……ムラクモ……中尉?」

 

 

特A型に一撃を叩き込み、そして目の前に降り立った漆黒のレイブンアームズ。その手にはアサルトマシンガンとMMXを装備していたが……見間違えることのない、あの日見た機体そのものだった。

 

そもそも収束砲を掻い潜るという事をしている時点で頭のネジが吹き飛んでいる所業としか思えない。

 

収束砲はビームなどの物理現象ではない。高次元のエネルギー砲だ。かすめれば分子レベルで分解され、装甲や防御材も為す術もなく消し炭にされる。

 

そんなエネルギー砲を紙一重で躱した上に……特A型に一撃を加えることが出来るパイロットなど、デルベルトには一人しか心当たりがない。

 

ダン・ムラクモ中尉。

 

最前線では生きる伝説とも言われた地球軍最高最強なパイロット。つい最近、司令部の意向で後方支援基地に左遷されたと聞いたが……まさか、この基地にいるとは考えてもなかった。

 

彼との直接的な面識は無い。

 

だが、こちらは一度命を救われている身だ。言いたいことも感謝したいことも山のようにある。

 

デルベルトが声を発しようとした瞬間。

 

 

《ぼさっとするな!特A型は手強い!とにかく動き回ってその手に持った銃を打ちまくれ!!》

 

 

ダンの真横に着地する灰色の機体。HA-12 アーマライトに乗るフレデリック・スミスの怒号のような指示によって、デルベルトは一気に現実に引き戻される。

 

そうだ、今は目の前に特A型がいる。自分が遭遇したことのない……とんでもなく危険で、想像を絶する敵。

 

恩人がいると言っても、油断をしていい相手でも、ましてや自分を見失ってもいい相手じゃない。

 

そうすれば、また繰り返すことになる。仲間を全員失ったあの日の夜と同じことを……!!

 

 

「各機!南アタリア基地のハウンドアーマーの言葉は聞いたな!とにかく動き回って特A型を牽制する!射撃開始!」

 

 

突然現れたダンの機体に、自分が面倒を見ている訓練生たちも困惑している様子だったが、その迷いを吹き飛ばすようにデルベルトはマシンガンを撃ち放つ。

 

呼応するようにジェイスたちも、ナノマシンでより早く動けるようになったレイジングブルを駆り、高速で地面を滑るように動き回って特A型に弾丸を打ち込んで行く。

 

その全てが敵の流体エネルギー膜に阻まれるが、そんなことはどうでもいい。自分達の役目は相手の注意を散漫にすること。

 

そして、アレを倒すのは自分達ではないのだ。

 

 

《チェェストォオオオーっ!!》

 

 

収束砲を掻い潜り再び、もう一撃のMMXを叩き込む。エネルギー膜を突破し、装甲までたどり着いた一撃は特A型をのけぞらせる。距離をとり、破壊された建物の壁を蹴って軌道を変える漆黒のレイブンアームズが炎の中に着地する。

 

その姿こそ、デルベルドが畏怖し、憧れ、情景となったそのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!

 

特A型の装甲が硬すぎてキレ散らかしそう。

 

近距離戦エネルギー突撃刃(MMX)はガルダリア・エンジンを瞬間的に高出力にしてエネルギー刃を形成し、それで殴りつけるという浪漫武器であるのだが与えられるダメージは折り紙付き。

 

しかしナノマシンがナイナイ人間ですので、ガルダリア・エンジンの出力が足りていません。

 

つまるところ、絶大な威力を誇るMMXが出力不足のためカスダメしか出ないということである。あぁああ!!辛すぎて死んでしまいます。

 

特A型は派手にのけぞったけど……ダメージ通った手応えが全くないんだよなぁ!!

 

しかも、特A型の装甲は他の敵よりも強力でA型と比較すれば、その装甲値はなんと2倍。装甲値2倍ですよ!?正気か!?

 

MMXのダメージは確実にあるはずだが……ゲームでも単純に装甲は貫くために2回、同じ場所にぶち込まなきゃならない。しかも鬼のように迫るエネルギー砲を避けながら。

 

はぁああ、まぁじインフィニティだわあ。やってられるかい、こんなもん。

 

リンとフレッドの援護に加え、偶然巻き込まれた三機の訓練用レイジングブルと、あーー……あれはエンフィールドかな?うん。そんな愉快な仲間たちの援護を受けてこの体たらくである。はーまじ自分つっかえ。

 

特A型とは一度タイマン張ったことあるけど、あの時は右腕と脚部、背面武装と引き換えに撤退させたくらいだったからなぁ。こりゃ勝てるかわからんぞ。

 

しかも仲間は訓練機。制式採用のレイジングブルなら、生存の希望が0.1%くらい上がるけど、訓練機が仲間は絶望しかない。

 

てゆーか、誰だよ、執行部の護衛に訓練機を付けたアホは。あ、執行部の人たちか。俺を銃殺刑にしようとしたし、その報いはあの世で受けてもらって下さい。

 

第一こんな時期に訓練機……。

 

あれ?待てよ?

 

この時期って……メインストーリーが展開される前で……主人公たちはまだ「リトルウイング隊」に入っていない時間軸で……。

 

 

《すまない!君たちはどこの所属の訓練機だ!?》

 

 

おっと、俺が特A型の注意を逸らしているうちにフレッドが聞いてくれたぞ!ありがたいけど、こっちの!援護も!よろしく!頼むよ!!リンも加勢してくれてるけど、二機のレイブンアームズでどうにかなる相手じゃねえんだわ!!

 

 

「はい!56訓練師団のジェイス・ディバイス訓練生であります」

 

 

ほほう、なるほど、ジェイス・ディバイスで……あっ、教官機に乗るのはデルベルト・ロッジ教官と。ふむふむそうかそうか。

 

って、ほげぇえええーー!?

 

それって、ボルトボックスのデフォルトネーム……つまり、ゲーム主人公やないかいっ!!!?

 

 

 

 

 

今後の展開について

  • 前と同じ展開でいい(勇者ロボルート)
  • 転生後の戦いを見たい(前日譚)

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