都城王土(みやこのじょう・おうど)――――――創帝。
行橋未造(ゆくはし・みぞう)――――――狭き門。
名瀬夭歌(なぜ・ようか)――――――黒い包帯。
古賀いたみ(こが・いたみ)――――――骨折り指切り。
宗像形(むなかた・けい)――――――枯れた樹海。
八頭因幡(やず・いなば)――――――底無しの峡谷。
氷川矜恃(ひかわ・きょうじ)――――――壊頂。
秦野当月(はだの・とうげつ)――――――漁心衰心。
防府尾張(ほうふ・おわり)――――――胤無しの命。
球磨川禊(くまがわ・みそぎ)――――――大嘘憑き。
高雄幸(たかお・ゆき)――――――低下嗜好。
供犠橘(くぎ・たちばな)――――――必終架繆。
0
堕ちましょう
そして上がりましょう
1
そういえば、私はいつの間にかスキルを手に入れていた訳だけれど。
一体何故、私はスキルを手に入れているのだろうか?
相楽くんに殺されかけて、目が覚めた時には扱えるようになっていたんだけれど…本当に何故なんだろう?
あれだろうか。死にかけた時にこそ力が目覚める、みたいなものだろうか。
まぁ、それはさておいて。
私は今、この箱庭学園の校長である不知火火袴と、校長室で話し合いをしている。
いや、話し合いというよりは質問といった所だろうか。
「伽髮千紘さん。貴方は『スキル』を持っているのですか?」
「持っているわ。確か…『攻来眼』だったかしら。“自分に迫り来る危機を視る事が出来るスキル”だった筈よ」
「筈、というのは?」
「目が覚めたら使えるようになっていた、というのが正しいのよ。だから自分じゃ曖昧なのよね」
え、敬語じゃないのはどうなんだって?
私、誰に対しても敬語は使わない主義だから。使いたくないもの。
理由なんてそれで十分じゃない。敬語を使いたくないから使わない。これで十分だわ。
っと、話しがそれるわね。
私にも、どうしてこのスキルの名前が分かるのか、どういった能力なのか分かるのか、それが分からない。
でも…誰かに貰った、というのだけは覚えている。
「ふむ…分かりました。では、質問は終えましょう。しかし、伽髮さんには提案があります」
「提案? 何かしら」
「13組に来る気はありませんか? そして、あわよくば『フラスコ計画』に協力してほしいのです」
理事長は笑顔を浮かべていた。
しかし、対する私は無表情のままだった。
絶句、というか固まっていた、というか…どう表現すれば良いのか分からない感情だった。
でも―――私は今、珍しく動揺していた。
だって。
「そ、それは」
「はい?」
「それは、つまり…私が、斑雲と同じクラスに、なれる、ということかしら…?」
「―――えぇ。同じ13組に入る訳ですから、彼と同じクラスで過ごす事が出来ますよ」
理事長は笑顔を浮かべたままで、そう答えてくれた。
―――やった。
ダメ、笑みが零れそう。どんな事が起きようともポーカーフェイスを保っている私だけど、今回ばかりは抑えるのが難しいかもしれないわ。
だって、だって。
今の今まで、同じクラスになれなかった斑雲と、ようやく一緒になれるんだもの。
こんなに嬉しい事が、ある訳ない。
「…ふぅ。落ち着いたわ。13組には勿論入るわ。でも、その前にその『フラスコ計画』について、話してもらっても良いかしら?」
「えぇ。フラスコ計画について、説明します。
「フラスコ計画とは『完全な人間を作る』という目的の下、『異常』と呼ばれる人間を研究材料に様々な研究をしています。『天才がなぜ天才なのか』を解明し、人為的に天才を創り出すというのが、この『フラスコ計画』です。
「『普通』、『特別』、『異常』―――そして、『過負荷』。我々は人間をこの四つの分類に別けています。雲仙くんや黒神さん、九十神くんや貴方などは『異常』に分類されています。
「この計画は数十年も前から、多くの機関が協力して取り組んでいますが、しかし未だ解明には至っていません。
「しかし、我々は滅気ずに今も研究を続けています。『完全な人間』を作り出す為に。
「その為に、貴方に協力してほしいのです。ですが、強制はしません。
「何せ、貴方や九十神くんは『異常』の中でも『特別』な存在ですから。
「しかし、もしもその気があるのなら。
「どうか、ご協力をおねがいします」
私は考えなかった。考えるまでもなかった。
考えることもなく、考える必要すらないと理解出来る程に、すぐ答えは出ていたから。
「フラスコ計画についてはお断りするわ。でも、参加者と関わらせてはもらうわ。斑雲の為にも、私の為にも」
「…というと?」
「異常者と言えど、人間なのよ? しかも学生の身。高校生よ? 青春時代の最終期と言っても過言ではないわ。
なら――友達作りは大切じゃないかしら?」
後から不知火に言われたのだけど、私はこの発言をした時点で十分『異常』になっているらしいわ。
不知火曰く、『現実ではありえない事を引き起こす異常者の集団をただの生徒にしか見てなくて、尚且友達になろうとするなんて正気の沙汰じゃないね☆』だって。
私…そんなにおかしいのかしら?
2
「そんな訳で、斑雲と同じクラスになれました。ぶいぶい」
「お、おぉ…マジか。高校一年になって漸く同じクラスか…長かったな」
私と斑雲は、『拒絶の門』と呼ばれる場所を目指して歩きながら、私が斑雲と同じクラス――もとい、13組に入れた事を語り合っていた。
小学一年生、斑雲は1組、私は3組。
小学二年生、斑雲は1組、私は2組。
小学三年生、斑雲は1組、私は4組。
小学四年生、斑雲は1組、私は5組。
小学五年生、斑雲は1組、私は2組。
小学六年生、斑雲は1組、私は4組。
中学一年生、斑雲は1組、私は5組。
中学二年生、斑雲は1組、私は9組。
中学三年生、斑雲は1組、私は9組。
九年よ? 九年…あまりにも、長かったわ。
「えぇ…つい跳び上がりそうだったわ」
「それは見てみたかったな」
「貴方が居たなら抱き着いてたと思うけど」
「俺は大歓迎だがな。いつだってウェルカムだよ」
「…そう。なら、次から嬉しい事があった時は存分に抱き着くわ。覚悟してなさい」
「無論だな。覚悟なんてとっくに出来てるってもんだ」
いつも通り、ニカッと笑って見せる斑雲に私は呆れてものが言えなかった。
でも…そんな笑顔も、やはり私は好きなのだ。
私は人吉と違って素直だ。素直クールなのだ。自分で言うのもなんだけど。
だから、甘えたい時には甘えます。
まぁ、それはそれとして。
私と斑雲は門の前に辿り着いた。
「確か、パスワードを入力するんじゃなかったかしら?」
「六桁だろ?」
「えぇ。しかも突破する確率が10の6乗で100万分の1。…で? 何か方法はある?」
私は扉に触れながら、斑雲にこの扉を突破する為の方法を問う。
正直、私には見当もつかないし予測すら出来ない。
斑雲なら理事長から何か聞いてるんじゃないかな、なんて事を思って私は聞いたんだけど…
斑雲は私の思っている答えとは全く違う答えを出した。
「自力で開く」
「お馬鹿? 貴方はお馬鹿なの? 脳筋主義のお馬鹿様なの?」
理知的な答えを出してくれるかと思ったら、まさかの出てきた答えは脳筋的な解答だった。
脳筋だ…脳筋にも程がある。というか、それが出来るのは貴方だけなのよ。
私は本当に呆れて、ため息を吐いてしまった。
全く、私にため息を吐かせるなんて相当なものよ。
斑雲は扉の中心に立ち、その左右に手のひらを押し込むように載せる。
そして、力を込めて、扉を開かんとスライドさせようと―――した、筈なんだけど。
思えば、気迫だけで建物を崩壊させるような斑雲が、力を込めて扉に触れるなんて、恐ろしい以外の何でもなかった。
バギッッ!!! と派手な音を立てるし、ベゴッッ!! と扉は凹んだし…何だったら罅が全体に渡ってるし。
「あーあ…やっちゃった」
「やっべ…壊しちまった」
私達は互いに、『教室の花瓶を落としてしまった』程度のリアクションしかしなかった。
だって、大して驚くような事でもないし。
でも、その場面を見ていた金髪の男の子は、そうじゃなかったみたいだ。
「拒絶の、門を…壊した、だと…?」
有り得ないものでも見るかのような目で斑雲を見る金髪男子。
えっと…確か、都城王土さんだっけ。私達の先輩となる三年生の筈だけど。
「あー…わりぃな、センパイ。扉壊しちまって。これ、学校の金でどうにかなんねぇ?」
「先輩に言ってどうすんのよ。ごめんなさいね、都城先輩。私の脳筋幼馴染がやらかして」
「…あぁ、そうか。貴様らが九十神斑雲と伽髮千紘か」
納得したように、都城先輩は私達を見る目を、物を見るような目にかえて呟いた。
うわー、この人絶対に傲慢な性格してる人だわー、と私は心の中で思う。
対して斑雲は「おう。俺が九十神斑雲だ。よろしく頼むぜ都城センパイ」と平然とした態度で挨拶をしていた。
まぁ、斑雲ならそうなるわよね…
「…伽髮千紘よ。今日から13組になったわ。よろしく、都城先輩」
「偉大なる俺に敬語を使わんとは…まぁ良い。貴様らに奴隷としての資格があるか、試してやる」
―――平伏せ。
そう、都城先輩が言った瞬間に、私は体の自由が効かずに、平伏す―――事は、なかった。
都城先輩の言葉を聞いても尚、立っていた斑雲が右腕で私を抱えるようなにして助けてくれたから。
ありがとう斑雲。でも、これはちょっとキツいのだけど。
「ほぉ…偉大なる俺の『発信』が効かんとは。なるほど、被験名『果て無い英雄』とは名ばかりではなかった訳か」
「なんだよ、その名前…まぁいいや。千紘、大丈夫か?」
「一応は大丈夫よ。でも、離してくれないかしら? この体制意外とキツいわ。銀魂みたいに吐くかもしれないから」
「マジか。じゃ降ろすわ」
そう言って、斑雲は優しく私を降ろしてくれる。
私は立ち上がり、深呼吸をして―――素早く身構えて、地面を抉るような勢いで蹴って、都城先輩に殴りかかった。
私の拳は既に―――彼の腹部に、めり込んでいた。
「ガァッ――!?」
呼吸もろくに出来ないだろう。
でも、そんな事は関係ない。私は少し距離を取って、腹を抑えて膝を着こうとした先輩の脳天に踵落としを食らわせる。
グキッ――と、音が響く。でも、気絶させるに至らなかった。
「貴様ッ…! “跪け”!」
「別に跪いても構わないけど―――このままだと、貴方の脳天に私の頭突きが来るけれど」
そう。
都城先輩は膝をついて、私を見上げているかのような体制になっている。
そうなると、私がこのまま先程のような勢いで跪けば―――私の踵が落とされた脳天に、更に私の頭突きが飛んでくる事になる訳だ。
まぁ、その後は―――都城先輩が気絶する可能性が高い訳だけど。
私も怪我するけど、まぁ名誉の負傷よね。
「っ、“離れろ”!」
そう言われると、私はバク転して元の位置まで戻り、そして斑雲の隣へと立つ。
「大丈夫か?」
「問題無いわ。スキルのお陰で動きの対処は出来たし」
自分に迫りくる危機を視る事が出来る。それが私のスキル―――『攻来眼』。
まぁ、危機を視る事が出来るなら、それを通して相手の動きを予測して動く事が出来るのは当然よね。
あくまでも私の中での“当然”ではあるけれど。
構えを直していると、その時には都城先輩は立ち上がっていた。
憤怒の表情を顕にして、立ち上がっていた。
うわ、顔凄い事になってる。
「伽髮千紘…! 偉大なるこの俺を殴るだけに飽き足らず、偉大なる俺の頭を踏み付けるとは…万死に値するぞ!」
「いや、そんな英雄王みたいな事を言われても困るのだけど。そもそも? 貴方が人の事を奴隷呼ばわりしたのが問題な訳だし。人権について習わなかったのかしら?」
「偉大なる俺を除く人間は全て、偉大なる俺の道具に過ぎん!」
「はぁ…呆れる程の傲慢さね。可愛そうにも思えてくるわ」
やれやれ、と私は頭を抑えた。
こんなに傲慢な人間、現実じゃあ生まれて初めて見たわ。英雄王の子孫か何かなのかしら?
斑雲すらもが、『こいつは一体何を言っているんだ?』みたいな顔になってるんだから相当ね。
さて…どうしたものかしら。
この人と友達になるは少し難しいかしら?
でも、13人全員と友達になる予定だし…
まぁ、無理な時は生徒会を頼るけど。
あれ? でも確か生徒会も此処に来てなかったかしら。
「ん?…チッ。癪ではあるが、この良いだろう。偉大なる俺が貴様達を見逃してやる。感謝するんだな」
「消え失せろ英雄王」
「なんつー文句だよ…」
都城先輩は居なくなった。
…まぁ、気にせず私達は進むとしましょうか。
どうにもならなさそうだな。
さてさて、どうしたもんかな。