最強伝   作:全智一皆

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事象からは誰も逃げられないよな。
銃弾は指を見たりで避けられるし、刀とかナイフも見切って避けられる。
でも、事象からはどうやっても逃げられねぇ。
事象、現象ほど理不尽なもんはないぜ。

じゃ、万象を操る奴が現れたなら、どうなるんだろうな?


第四箱「素直に裁け」

罪有る者に裁きを

罪無き者にも裁きを

 

 皆さん、私は今、何をしていると思いますか?

 斑雲と一緒に歩いている? もしくは二手に分かれてる?

 正解はそのどちらでもありません。

 私は今―――殺人鬼を相手に、戦っています。

「全く…殺人鬼を相手にするなんて、世も末ね」

「殺人鬼を相手取る事が出来ている貴方も、可笑しいと思うけどね」

「伊達に《最強》と一緒に何十年も過ごしてないのよ。あの人、日常を守る為なら軍事兵器にも立ち向かうような人だもの。殺人鬼相手に臆してなんかいられないわ」

 左右から同時に振るわれる日本刀の一閃を、私は屈んで回避する。

 そして、頭突きをする勢いで彼の眼前にまで迫り、器用に彼が握り締めている柄を掴んで取り上げ、地面に投げ捨てて彼の心臓部へと掌底を放った。

 …筈だったんだけど、彼もまた私と同じように屈んでそれを回避し、私から大きく距離を取った。

 八頭因幡―――験体名《底無しの峡谷》。

 『表の六人』でも『裏の六人』でもない十三組。

 『間の十三人』――計画に協力的ではない、しかし勝手という訳でもない。

 個々が其々、正確な意思の元に動いている。それが、『間の十三人』。

「しかし…面妖よね。暗器に関しては、貴方のお友達が既に使っているんじゃないの?」

「形が使っているのはあくまでも戦闘スキルとしての暗器さ。俺が扱っているのは『異常』としての暗器だよ。」

「“暗器のスキル『完全暗器』”。体の彼方此方に武器を収納する事が出来るスキル、ね。しかも重量が増えないとなると…まぁ、完全な暗器っていうのも頷けるわね」

 何ともまぁ…やっぱり『異常』よね、スキルっていうのは。

 私のが凄いちっぽけに感じるんだもの。

 なんて、考えられる程に、状況は全く楽じゃない。

 日本刀に続き、今度は十文字槍ときた。全く、対処が面倒なのだけどね、槍は。

 私に向けられた槍の切っ先が、直様私の頬を掠めた。

 やっぱり鋭い。何より、彼の動きが速い。慣れてるのかしらね。

 でも―――対処が出来ないこともない。

 だって、結局は長棒に刃を付けただけの、ただの棒でしかないんだから。

 私は槍の中心を右腕で掴み、左拳を槍に叩き込み、粉々に破壊する。

 左拳が槍に当たった、その瞬間に力を入れる。そうすれば、あら不思議。

 槍が粉々になりました。

「今のは、何なんだ…?」

「あー、今のは『ストライク』だな。」

 私達が戦っているのを見守っている宗像先輩と、斑雲がそんな事を会話している。

 どうやら、宗像には私が何故槍を破壊出来たのか分からなかったらしい。

 うんまぁ、だろうね。だって本来なら物を壊す技じゃないし。

 

「ロシアの軍隊格闘術『システマ』。近代戦における様々な状況を想定した実戦的格闘術、その技の一つだ。拳以外は全て脱力した状態で、拳がものに当たるその瞬間に力を込める事で、強い一撃を放てるんだが…まぁ、普通なら物は壊せないんだけど、アイツは色々組み合わせてるからな」

 斑雲の言う通り、私は色々な技を組み合わせている。

 技、というよりは格闘術を組み合わせている、というのが正しいんだけど。

 システマ、截拳道、クラヴマガ、ウェイブ、影武流、合気道、八極拳。

 この七つの武術を、私は組み合わせて使っている。

 まぁ、見ての通り、私が持っている技や使っている技は、主に接近戦だ。

 人吉のサバットなどとは違い、接近戦の対処が主で、遠距離の対処はほぼ出来ないと言っても過言ではない。

「ふむ――なら、これならどうかな」

 槍を手放し、大きく距離を取って彼は二丁の拳銃を袖から取り出し、そして両腕に拳銃を握り締め、銃口を私に向けている。

 GLOCK17Lとコルトパイソンか…合わないわね。

 しかし、どうしたものかしら。

 私、さっき言った通り近接戦闘が主で遠距離は苦手なんだけど。

 …まぁ―――。

 どうにかなるでしょ。

 私は真っ直ぐ走る。

 ぱんぱん、と乾いた音が響き渡ると同時に、幾つもの弾丸が放たれる。

 小さく、しかし深く、私は息を吸う。

 脳裏に浮かぶのは―――『自分が弾丸に貫かれて死ぬ』という危機。

 それを視て、弾丸が肌に接触するギリギリまで、私はどう避けるかを考える。

 弾丸がどこに当たるのかは危機の中に含まれているから分かる。

 問題は、どう避ければ次の危機も回避出来るのか。

 …よし、決まった。

 私は『ウェイブ』を使って、左肩と左脚を後ろに下げるように動かして、本来左肩と左脚を貫く筈の弾丸を回避する。

 出来る限り、動きは最低限に留める。そうじゃないと、右がやられちゃうし。

 そうした瞬間に、今度は右腕と右脚を下げ、そこから回るように動いて右方向の弾丸を回避する。

 そして、そのまま真っ直ぐ駆け出す。

 放たれる弾丸を、出来る限り少ない動作で回避し続ける。

「っ、な」

「…」

「ウェイブの可変とシステマの流れるような動作の組み合わせか。なるほど、互いに殆どが似ている軍隊格闘術の組み合わせ。少ない動作での攻撃の回避に、これ程適したものはないな」

「解説、ありがとね。っと」

 もはや眼前にまで、私は近付いていた。

 拳銃を『ディザーム』で奪い取り、銃身を掴んで左右から短く、しかし素早い動作で振るい、グリップを頭に直撃させる。

 多分、脳震盪くらいは起きた筈よね。

 でも、許せない。

 私、肌に傷付けられた訳だもの―――乙女の肌に傷を付けたんだから、少しくらいは痛い目みてもらわないと。

 銃を手の中で回し、構えて引き金を引けば、ぱんぱん、とまた乾いた音が轟いて、弾丸が彼の両肩を貫く。

 痛みで少し顔が歪んだ八頭先輩。でも仕方ないよね、是非も無し。

 銃を分解してその場に捨て置き、蹌踉めいた彼の腹部に、ワンインチパンチを食らわせる。

 多少、内蔵は傷付けられた筈。

 八頭先輩はそのまま膝を付いて、私の前に跪く。

「どう? 女後輩でもやる時はやるのよ」

「っ…あぁ。全く、恐ろしい後輩を、持った、ものだ…」

「いやー、怖ぇな、俺の幼馴染は。そうは思わねぇか? 宗像センパイ」

「怖い、という所には同意するよ、九十神くん。黒神さん程じゃないにせよ、十分脅威だと思うよ」

「ま、そりゃ黒神と比べちまったらなぁ。アイツの『異常』、めっちゃ馬鹿げてるし」

「ちょっと斑雲。八頭先輩をそっちまで運ぶから手伝いなさい。私、犬より重たいものは持てないのよ」

「…こんなんでも非力の部類に当てはまるんだよなぁ」

 斑雲と一緒に八頭先輩を岩まで運び、私と斑雲は次の階まで―――降りていった。

 

 曰く、黒神さんは『改神モード』? なるものを身に着けたらしい。

 乱神モードを制御する事が出来るようになったのだと言う。

 凄い事じゃない? それ。斑雲、貴方も出来ないの?

「いやな? 簡単に言うけど結構難しいからな? そもそも『強神モード』の下位互換の『強人モード』すら手加減が難しいのに、どうしろってんだよ」

「どうにかしなさい」

「んな無茶な…」

 やれやれ、と言った感じで言う斑雲。

 やっぱり難しいものなのね、怒りを制御するというのは。

 私、あんまり怒った事がないから分からないけれど。

「あれが、九十神斑雲くんと伽髮千紘さんか」

「あぁ。黒神の『完成』よりも遥か上を行くスキル―――あらゆる全てにおいて最強のスキル『最強』を持つ九十神斑雲と、これまで普通でありながら『最強』に並び続けた伽髮千紘だ」

 へぇ…斑雲の最強性はスキルとして認識されるのね。

 “あらゆる全てにおいて最強のスキル『最強』グレイトフル”…ね。

 『完成』と『最強』…もうこの二人だけで良いんじゃないかしらね?

 そんな事を思っていた―――けれど、次の瞬間にはそれが消え失せていた。

 開いた扉の先には、惨状が広がっていた。

 『裏の6人』、『チーム負け犬』』、『間の十三人』、等しく全滅。

 壁に、磔にされていた。螺子で、磔にされていたのだ。

「相討ちで、こうなるものかしら…?」

 

『いや?』『相討ちじゃあ』『こうはならないよ』

 

 

 気持ち悪い。そんな感覚が、体を蝕んだ。こんな感覚、いつぶりかしらね。

 

『二十六人全員が磔にされている』『どんな異常を使っても』『自分で自分を倒す事は』『不可能だよ』

 

 

 白々しい声。明らかに、犯人は貴方でしょうに。

 

 

『これは明らかに』『第三者の仕業に違いない』『誰がどんな目的で』『こんな面白おかしい事をしたのか』『分からないけれど』

 

 

 嘘ばかり。嘘しか、その言葉には込められていなかった。

 

 

『おっと、』『勘違いしないでおくれ?』『僕が来た時には』『最初からこうなっていたんだ』『―――だから』

 

 

 手に握られた螺子。頬に、学ランに付いている血が全てを物語っていた。

 

 

『僕は悪くない。』『久しぶり、めだかちゃん』『僕だよ』

「くっ…球磨川…!」

 まぁ、随分と―――凄い人間が出てきたものだわ。というか“懐かしい”わね。

「なんでお前が此処に居るんだ? 禊」

「察しなさいよ。転入生でしょ、明らかに」

 でも、残念。私達、これが平常運転だから。

 他の人達みたいに怖がったりとか気味悪くしたりとかしないのよ。

『やぁ!』『千紘ちゃん』『斑雲ちゃん』『久しぶりだね』

「おう。昔と変わらず随分と派手だなお前」

「派手、なんて使っちゃダメでしょ。あの人は『過負荷』なんだから。そうでしょ?」

『アハハ』『嬉しいよ、千紘ちゃん』『君みたいな美少女に』『そう言ってもらえるなんて』

「そう。素直に受け取っておくわ。」

 え? なんで平気なのか?

 伊達に長年最強と一緒に居てないのよ。この程度、『普通』でしょ。

 




八頭因幡。『間の十三人』の一人で、《底無しの峡谷》と呼ばれてる殺人鬼だ。
スキルは完全暗記。服の隙間とかに武器を暗記させる事が出来るスキルだ。暗記させた武器に重さは無いから、体が重くなる事もねぇのが強みだぜ。
人識みてぇだろ?
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