最強伝   作:全智一皆

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ストックが無くなった。
次回は長くなるかもだが、まぁ堪忍してくれや。


第7話

第七箱「素直に負けを否定しろ」

 

意志は曲げないし、他の意思に負けもしない

 

 何か戻ってきたら色々終わってたんですけど。

 黒神さんが球磨川くんに勝利して、それでいて球磨川くんを生徒会副会長に任命。

 それでいて、球磨川くんの『却本作り』で封印されていた安心院なじみさんと不知火半纏さんが復活して、箱庭学園に現れたらしい。

 何なら一皆も現れていた。

「…えっと、その、なんだ」

「なによ、いつになくぎこちないわね」

「いや、そりゃ…ぎこちなくも、なるだろ。なんでお前はいつも通りに戻ってんだよ」

「だって、いつまでも挫けてたって仕方ないじゃない。それに、ようやく貴方に近付きつつあるんだし」

 私のその言葉に、斑雲が目を見開いて驚愕した。久々ね、驚いた表情を見るの。

 でも、事実なのよね。私が斑雲に近付いているのは。近付けるようになってきているのは、確かな事だもの。

 『凌眼』というスキル、一皆含む《善平等》の人達の協力もあって、私も結構戦えるようになった。

 それこそ、人吉をボコボコに出来る程度に。リハビリということで一戦交えた結果である。

「お前が、俺と…?」

「少しずつ、ね。貴方の隣にちゃんと並べるようになってきてるから」

「…」

「お互い、頑張りましょう。これまでより、私は頑張るわ。貴方の強さになれるように、貴方が私の弱さにならない為に。」

 今は、これで良い。

 

 ちゃんとした仲直りは、まだ、良い。今はまだ、そうするべきじゃないから。

 お互いに、今はこれで良いと納得する。

「えー? それで本当に良いのかな?」

 そんな私達の間に、いきなり入り込んで来た人間が、一人。

 殴り飛ばすぞオイ。

「そんなに怒らないでくれよ、怖くてガタガタと膝が震えそうだ。まぁ、“嘘”だけど。実際は震えてもいないし怖いとも思ってないよ。“嘗めてる”人間が“俺”に対してどんな事をしようがどんな事を言おうが別に気にする必要も無いし。しかしまぁ、随分と都合が良い王道青春ラブコメ漫画みたいな展開に甘えているみたいじゃないか、うん? “莫迦”みたいだね、実に滑稽だ。あまりにも滑稽が過ぎて笑いの“ツボ”がどん底にまで落っこちってしまったようだよ。おっと、嗤ってくれよ? これもまた“人間という善性と悪性を両立させている尊き存在”が開発して人々を笑顔にさせる『冗談』の一つなんだ。

「常套句ならぬ冗套句、なんつってね。え、スベッてるって? 違う違う、“総べってる”んだよ。あーあー、“きーこーえーなーい”。今の“僕”には何一つとして聞こえないよ。君たちの言葉は一切“私”には届かないし聴こえないんだよね。関係無い話しなんだけどさ、一説によれば人間は他者の心どころか自分の内心すら完全に理解する事は出来ていなくて、自分を見つめ直す事なんてのは不可能であるらしい。例えそれが読心が出来るさとりのような人であろうとね。でも、そんなのは結局の所、ただの“一説”だし何なら“持論”なんだよね。関係とか言っちゃったけど、でも関係無い“からこそ”関係があるって言えるんだよね、全く言葉ってのは面白い。まぁ、こんなのは所詮、ただ一人のお喋りが語るだけの“戯言”に過ぎないんだけどさ。全く、世の中“傑作”だらけだぜ。

「まぁ? だからなんだって話しなんだけどさ。“無駄話”ってのは花を咲かせないと意味が無い。君たちの声なんて聞こえてないし、何なら今“動く事が出来無い”んだから、これは“独り言”にも等しいものだ。“動くな”、そう命令したのは俺だけどね。でもそれこそ、こんな長話こそ、無駄話の頂点とも言えるんだろうけどね。あー、“自分語り”してなかったね、ごめんごめん。」

「“括弧”変えるけど、まぁ許してよ。あー、俺、もしくは私、もしくは僕、もしくは妾、もしくは我の名前は黒鳥鳶。くろとり、とんび。そうだねー、『鶴喰』の分家って言うか、遠い親戚って言うか。まぁまだ“設定”があやふやなんだよね。“言葉を使う言葉”こと『言語使い』の持ち主でさ、この通り舌に『言』が刻まれてるんだ。しかしそんな事はどうでもよくてさ。

「問題は、私が此処に居ることだ。ちょっと早い登場で、本来ならばこの場には居ないし、この世界には“存在していない”存在なんだけども、まぁ―――『だからこそ』存在していると言えるんだろうね。でもまぁ、互いに本来なら居ない存在である同士、よろしく仲良くしていこうじゃないか、僕“達”の天敵達」

“言葉を使う言葉”―――『言語使い』。

 鶴喰、という名前に聞き覚えは無い。黒鳥という名前にも、聞き覚えは無い。

 だが、『言葉』という単語には聞き覚えがある。

 一皆が語っていた事を、思い出す。

『異常性でも過負荷でもない、新たな戦闘スタイル。それこそが《言葉使い》だ。漢字とか誤変換など、文字通り《言葉》を武器とする奴らでな。めだかの分家の頭首がそれぞれ違った言葉使いだ。多分、いつか戦うんじゃねぇかな。ちなみに開発者は鶴喰梟っつー悪人な? いやまぁ、俺からすりゃただのシスコンなんだがな?』

 言葉を使って戦うスタイル。現実干渉非現実能力―――『スタイル』。

 彼は、それを『使う』スタイル。

 存在する全てのスタイルを、使う事が出来るスタイル。

「『私語使い』、『虚言使い』、『駄弁使い』、『誤変換使い』、『罵倒使い』、『挑発使い』、『言説使い』、『逆説使い』、『善説使い』、『悪説使い』、『持論使い』、『冗談使い』、『六形使い』、『戯言使い』―――『造語使い』。今さっき我が扱ったスタイルだ。ちなみに、半分が妾の相方である白鳥鴉が作り出したスタイルだ。『造語使い』、スタイルを作るスタイル。スキルを作るスタイルがあるなら当然だな。」

 舌を出しながら、彼は棒立ちしている私達にそんな事を言ってくる。

 だが、私達は反応しない。いや、反応が出来ない。

 『六形使い』―――もとい、『命令形使い』。命令形の言葉で相手に命令する事が出来るスタイル。

 故に私達は、動けない。動くなと、命令されてしまったから。

「嘗めてるかどうかは知らねぇが、敢えて言っとく。嘗めてんじゃねぇぞ、《最強》。テメェがメアリー・スーを体現したような人間だろうがなんだろうが、んな事は関係無ぇんだ。ぽっと出であろうと、俺たちは俺たちだ。『与えられた』言葉を使いに使って、お前を倒してやるよ」

「…いや、突然現れて何言ってんだよ」

 斑雲は、口を開いた。

 スタイルによって喋る事も動く事も出来ない筈だったにも関わらず、口を開いて、体を動かして、彼へと進む。

「嘗めてるとか嘗めるなとか…好き勝手言いやがって。いきなり現れて、いきなり訳の分からない事ばかり言ってきて。しかも、俺と千紘の会話に勝手に入り込んで―――俺と千紘の、覚悟に入り込んで、何がしたいんだ。

「黒神と人吉は仲間割れみたいになっちまっうし、安心院とか一皆とかいう訳の分からん奴らも現れるし。何より―――俺も千紘も、ギクシャクしちまうし。いや、これに関しちゃ俺…って言うと怒られちまうから、俺と千紘の問題だから、こうするのは間違ってるんだろうがな。でも、その会話にお前は入り込みやがった。俺たちの会話に、テメェは土足で踏み込みやがった。

「俺は黒神と違ってよ、スキルのコピーなんざ出来ない。俺に出来るのは、ただ殴る蹴るだけだ。それ以上の事は出来ない。つーか、これからやるのは半分八つ当たりだ。だが、それでも俺は日常を守る人間だ。お前のこれからの日常を考慮して、この学園の生徒達の日常を考慮して、俺と千紘の日常を考慮して、手加減に手加減を重ねて細かい工夫を加えながら抜かりなく手を抜いて戦ってやる。」

 

 斑雲は変わらない。どんな事が起きようと、変わらない。

 

「黒神めだかが何故、人吉善吉に執着しているのか。それは黒神にとって善吉が珍しいから。『異常』である黒神からすりゃ、『普通』でありながら必死に黒神に並び立とうとする人吉が物珍しいんだ。だからこそ、信頼してるんだ。そして、なじみはそれを利用して、善吉と黒神を対立させた。黒神の周りを『普通』で囲めば、善吉は物珍しくも何とも無い。だから見捨てられた。では、伽髮千紘と九十神斑雲の関係性は何なのか? どうすれば対立するのか?

「答えは、残念ながら簡単だ。“絶対に対立しない”。こればっかりはどうしようもないんだわ。

「だって、そもそも斑雲は伽髮を物珍しいとか思ってないし、伽髮もまた斑雲を珍しいとも思ってないんだから。斑雲は伽髮千紘という存在の隣に立ち続けたいと思っているし、例え伽髮が前に進んだとしても斑雲はそれを見届けると決めている。それは伽髮も同じだ。彼奴等はその差を悔しく思わない。

「寧ろ、相方が前に進んでくれた事を嬉しく思っている。自分が置いていかれる事なんて一切考えていない。何故なら実際に置いていかれている訳じゃないんだからな。あくまでも置いていかれたと感じているのはそういった表現故であって、実際に置いていかれている訳じゃないんだ。それに加えて、彼奴等は常に一緒に居るんだ。

「基本的な生活をしていれば、そんな事を感じる事はないんだよ。だって、家で普通に暮らしてるだけならそんな事感じる訳ねぇだろ? 戦いで置いていかれているような感覚に陥るならまだしもよ。

「まぁ、つまりはだ。対立させる事は諦めて、対等に出来るか出来ないかを試せば良いんだよ、なじみ。異常に近付きつつある凡人と、理想の最強が崩れつつある最強。こいつらが対等になれるのか、平等にする事が出来るのかを試せば良い。そのためにも、伽髮を主人公にするのは必要だぜ。んー、そうさな―――善吉の検体名が『持たざる者』なら、伽髮の検体名は」

 

「『在り続ける者(アレフ) 』。異なる種類の無限を表すℵが元だ。最強と並び立つ事が出来る彼奴には無限の可能性が秘められてる。」




投稿速度は気分次第なんだ。どうか寛大な心で見逃してくれよな。

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