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ヨグ=ソトースとの雑談を終えた後、諦は十六夜達に連れられて白夜叉の支店へと赴く事となった。
曰く、北側にて大規模なギフトゲーム…"サラマンドラ"の火竜誕生祭とやらがあるのだとか。
諦本人としては研究に没頭したかったのだが、十六夜、飛鳥、燿、ジンの四人から「偶には休め」と口を揃えて言われたので渋々といった感じでついて行く事となった。
「数ヶ月ぶりじゃな、諦。まさか、おんしも十六夜達に付いてくるとは思わんかったぞ。」
「休め、と言われたからな…渋々だ。」
“万全の能”を用いれば何とも無いというのに…と、不機嫌そうに不服の言葉を零す諦。
研究者である諦にとって、神霊の浄化を使う事なく大地を回復させるという実験は有意義な時間であり、楽しみの一つである。
前提は定まった。故に後は実験と検証を繰り返すだけだった。
だというのに、休めと言われ半強制的に連れてこられたのだから、諦にとっては溜まったものではないのだろう。
だが、十六夜達にも意見があった。
「諦は殆ど自室に籠もってるんだ。レティシアの件が起こるまで、コイツが部屋を出た所を俺は見た事がない。」
「食事を摂る事もせずに数ヶ月も研究し続けるなんて、もはや狂気の沙汰よ。同じコミュニティの仲間として見過ごせないわ。」
「諦はギフトでどうにかっても、私達は諦が心配。」
「コミュニティのリーダーとして、見過ごす事は出来ません。」
全員が全員、同じ意見を諦へと突き刺してくる。
これには白夜叉も「それは仕方が無いのぉ。」と納得する他なかった。
「白夜叉まで…」
「意欲があるのは良いが、周りを気にする事を覚えた方が良いの、おんしは。」
呆れた、といった風に嘆息する白夜叉。
詰路諦―――"ノーネーム"の一員にして狂人、異端児。
その異常性を、白夜叉は実際に見ている。あの決闘の際に、目の当たりにしている。
ギフト、恩恵無しで自然現象を操作する、一切の情報無しで星霊である事を看破する、更には『天動説』である事すらも見破っている。
その上、十六夜の“正体不明”というギフトと似て、全知の一端であるギフトカードに『理解不能』と刻まれた謎のギフト。
全知の一端。全てを知る超越的存在であるラプラスの悪魔ですら理解する事が出来ない恩恵、バグアンドエラー。
十六夜と同じく、未だ訳の分からないギフトを身に宿す、底が知れぬ青年。
しかし、仲間想いで義理堅い(と、勘違いされているだけだが)青年である。
しかも黒ウサギ曰く、自分が狂人、異端児であるという事を無意識に気にして、子供たちと関わる事を避けている(これもまた、黒ウサギ達の勘違いである)のだとか。
最初こそ警戒すると言ったが、こうも人間らしい一面を見てみると、それもどうかと白夜叉は思ったのだ。
「では、さっそく北側へ向かうとするかの。その方が面白いとの事だし。」
ぱんぱん、と白夜叉が手を叩いたその瞬間、
「着いたぞ」
彼らは、北側へと到着した。
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黒ウサギは“月の兎”、その末裔であり帝釈天の眷属である。
それ故に、そのギフトは強力なものばかりである。
そんな黒ウサギは激昂すれば髪色が黒色から綺麗な緋色へと変化するのが特徴的なのだが。
「黒ウサギの髪質は一体どうなっているのだろうか…」
「唐突だね。」
白夜叉の私室で、黒ウサギに捕まってしまった諦は、黒ウサギの髪質について、唐突に呟いた。
「見ただけで麗しいのは理解出来る。艶があり、触れれば質の良い絹を触れているのではないかと錯覚してしまう程のものであると。だが、元の黒髪も確かに美しいが、緋色に変化した髪はその質も変わるのだろうか?」
「…諦もそういうのに興味あるの?」
耀にとって、諦は女性の体やらに興味を持たぬ人間に見えていた。一切興味が無いと、思っていた。
だから、耀にとって諦の疑問はとても意外だった。
「俺も男だからな。そういった事、もとい女性に対して興味が無いという訳じゃない。性癖と言うのかは分からないが、俺は女性の髪が好きだ。確か、髪フェチ、というんだったか。」
「おんしもそういった趣味を持つ同志だったか!」
バンッ! と勢いよく襖を開き、白夜叉が嬉しそうに、興奮したように現れた。
そういった趣味。それは、女性の肉体や服装についての事だろう。
黒ウサギにあのような格好をさせたのは誰でもない白夜叉なのだ。十六夜はグッジョブと言っていたが。
「黒ウサギは肉体美も勿論の事ながら、その髪も実に良いのだ。おんしが言ったように、質の良い絹を触れているのではないかと錯覚してしまう程のものであるというのは的を得ている。」
「やはりか。…まぁ、俺は黒ウサギの髪を触った事はないのだが。」
「あれだけ語ったのに触れた事はないのか、おんし!?」
「狂人ではあるがな、俺は男だ。そう簡単に女性の髪を触る事が出来る訳なかろうよ。そも、異端児かつ狂人である俺に黒ウサギが髪など触らせる訳が無い。」
はっきりと、そこだけを強調して諦は断言した。
異端児であり、狂人である詰路諦に自分の綺麗な髪など触らせないと。
その断言に、白夜叉は若干、驚いたような表示を浮かべた。
「…そうかの? まるで自分が黒ウサギから信用を得られていないような言い方だが、わたしはそうは思わんが。」
「私も白夜叉に同意。」
「違う。俺は信用なんて得られていない。黒ウサギからも、そして十六夜からも、な。」
「…何故そう思う?」
「十六夜も黒ウサギも、警戒しているんだ。俺が居る時、ギフトゲームに参加する時、常に小さく警戒している。それはつまる所、俺が怪しい動きをすると思っているが故のものだ。」
不満は無いがな―――と、零して。
白夜叉はそれを聞いて、「…まぁ、確かにの。」と頭を抱えながらも、納得したように言った。
耀だけは、その言葉を聞いて戸惑った。
「そ、そうなの…?」
「それ以外の理由が無い。俺を怪しんでいないなら、警戒する必要は無いだろ。」
「おんしが見せてきた技を見れば納得なんじゃが…しかし、黒ウサギまでもか。」
人を怪しむ事を覚えた事に喜ぶべきか。
十六夜ならば不思議な事ではなかったが、しかし黒ウサギまでもが諦を警戒しているというと、諦は本当に危険視されているのだろう、と白夜叉は諦を見ながら改めて思う。
自分も未だ警戒が完全に解けていない訳ではないが、だが前よりはマシな方だ。白夜叉は過去の自分を思い返した。
あの頃は、いざとなれば権能を使ってでも殺そうと考えていた。それ程までに危険だと判断していたから。
だが、今となってはそれも緩くなった。ルイオスとの対談でのノーネームに対する言葉に嘘は無かったから。
恐らく、黒ウサギは心を傷めながら警戒しているのだろう。ノーネームの為に自室で研究をし続け、レティシアや耀の為に全霊で動いた諦を警戒するのはどうか、と考えながら。
黒ウサギは善良だ。とても、善良だ。甘過ぎると言えてしまう程に、善良な娘だ。
仲間を疑う事にも心を傷めてしまう。特に諦は土地の研究に尽くしてくれているのだ。感謝もしているだろう。
まぁ、十六夜達がギフトゲームをしている中でも研究を続けているのは自己満足であって、ノーネームの為というのは二の次というのが事実なのだが、黒ウサギは知る事も無い。
「…して、おんしは不満は無い、と?」
「あぁ。して当たり前の事だからな。それに、そうしてくれた方が俺としても助かる。」
「助かる…って、どういう事?」
「俺が好奇心に負けて過ちを犯そうとすれば、彼奴等が止めてくれるからな。俺にもストップが効く。」
やらかすかもしれない自覚がある、もしやらかしたら十六夜達が止めてくれるから、不満は無い。諦は白夜叉が出してくれた緑茶を飲みながら、落ち着いて言った。
諦自身、この箱庭の世界をいつか壊すかもしれないと考えてはいるが、しかしそれは今ではない。
だが、そう決めてはいるのだが、もしも想定外の事態や興味を惹かれるものがあった場合、世界崩壊へ直行する手段を取ってしまうかもしれないというIFも考えられなくはない。
故に、十六夜と黒ウサギが自分を警戒してくれるのはありがたい事なのだ、と。
「春日部や久遠を巻き込んでしまう可能性は否めん。だから十六夜達には、俺はどちからと言えば感謝しているんだ。…最初の話題から大分ズレてしまったな。」
元の話題に戻ろう、と、諦が言った、その時に。
「ちょっと白夜!? いきなり北側に飛ぶって、何してんだお前!?」
晴れ空に浮かぶ雲の如き白い髪、焼けた空に沈んでいく夕日の如き赤い瞳を持った少年が、戸を勢いよく開けて現れたのだ。
「あー…俺はエデン。楽園、なんて名前してるけど、別に言霊がある訳でも神格が宿ってる訳でもない、ただの白蛇だ。白夜…白夜叉とは旧友の間柄。突然現れて御免な?」
申し訳なさそうにしながらも、白夜叉の菓子類を勝手に食べる少年――「エデン」に、諦と耀は「お、お構いなく…」と、戸惑いながら口を揃えて言った。
白夜叉は「謝るなら食べるのを止めんか。」と、扇でパチンとエデンの頭を叩き(決して軽くはない一撃)、白夜叉に叩かれたエデンはごふっ、と地面とキスを交わした。
星霊の一撃に、白蛇が耐えられる訳もなかった。
「力込め過ぎだろ!」
「おんしが礼儀知らずなのだから仕方無かろう。」
「…まるで姉弟のようだな。」
姉の友人が家に遊びに来ても気にする事なく、いつも通りにしている弟に恥ずかしいから止めろと叱る姉のようだ、と諦は白夜叉とエデンの二人を具体的な表現で、小さく呟いた。
具体的な表現を小さく呟くというのは、どちらかと言えば独り言なのではないか? という質問にはノーコメントだ。
「白夜みたいな姉は欲しくないな…」
「私も此奴のような弟は要らんの。」
「…仲良し?」
「それな。」
狂人だから、休まなければならないのだ。