異端児が異世界から来る。   作:全智一皆

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寿命? 伸ばせば良い。狂人にはそれが出来る。
病気? 治せば良い。狂人にはそれが出来る。
事故、事件? 生き返らせれば良い。狂人には、それが出来る。


狂人にとって、死など乗り越えられる壁である

            ✻

 ギフトゲームの謎を解いたのは、諦ではなく十六夜だった。

 諦は謎解きの全てを十六夜へと任せ、一人で調査に出ていたのだという。

 更には―――黒死病を改造した新たなるウイルスを、ペストの仲間の二人にこっそりと、感染させて。

 まぁ、それはさておいて。

 諦は今、十六夜達と共にペストの前に――否、ペスト達の真上に、立っていた。

「ペスト。お前の敗因は実に単純だ。黒ウサギをゲームに参加させてしまった事、そして―――俺の能力を詳しく知らなかった事だ。」

 背中には、6つの黒い翼が生えていた。

 それは、“オリジナル”よりも“オリジナル”らしさを追求した結果であり、“あの時”、「彼」が目にして、そして至った境地の力でもある。

「白夜叉が封印された理由には納得がいった。それと同時に、お前を苦しめるに最適なものであるという事も分かった。だから、この能力は実に良い。」

 その力の名前は、『未元物質』。この世に存在しない素粒子を生み出す、もしくは引き出して、操作する事の出来る能力である。

 諦の背中に生えた黒い翼もまた、その未元物質によって創られたものである。

 月光が翼を通して、ペストを照らし出すと共に、

「なっ…!」

 ペストの衣服から、黒い煙が上がったと同時に、彼女の肌が少しだけ黒ずんだ。

 ペストはそれを見た瞬間、すぐにその場を離れ、同時に黒い風を発生させてそれを諦へと投げ捨てるように放った。

 黒い風、死の恩恵が乗せられた殺人の黒い台風。一度喰らえば与えられるは絶死、奪われるのは其の生命。

 だが、狂人は畏れる事なく、翼を翻して真正面から翔け抜けた。

 黒い死が、全身を覆い尽くさんと襲い掛かる。だが、それら全てを狂人は畏れぬ。見向くことすら、一切しない。

 ボウッッッッ!!!!!! と、黒い風が炎に包まれ、そして消え去った。

「黒い風が、燃えた…!? 貴方、一体何をしたの!」

「簡単に言えば、月光を殺人光線へと変えたのと似たようなものだ…と、言った所で分からんだろうしな。簡単に言えば、流れ動いた空気を燃焼させるように、月光に素粒子を創り出した。」

「なら、なんで貴方は巻き込まれて…」

「ん? あぁ、そうか。お前には見せていなかったな。『ベクトル操作』、あらゆる力の向きを操る能力を使って、風と炎を反射したんだ。」

 まるでそれが、誰でも出来た当たり前の事であるように。諦は、平然と言い放った。

 あらゆる力の向きを操作する? 素粒子を生み出す?

「なにを、言っているの…?」

「…分からないのか? 簡単に言った筈なんだが…」

「単純に、素粒子などの単語が分からないだけだと思いますよ、諦さん。」

 黒ウサギの言葉に、「あぁ、そういう事か。」と納得した諦は、敵であるペストに「なら教えてやる。死ぬ前の授業だ。」と言って、新たな素粒子を生み出し、それを操作してペストを拘束した。

「いいか? あらゆる物質、物理的現象には力が伴い、そしてそれには力が作用する向きがある。例えば、生物が地面に立っていられるのは作用・反作用の法則という力の釣り合いによって成り立っている。地面が物体、もとい生命を押す力と物体が地面を押す力の両方が釣り合い、立つという行為が成り立っている。俺が操るのは、そういった物体の力が作用する向きだ。例えば、矢が飛んでくれば俺はその矢の力を反転させて、別の方向へと反射する。これがベクトル操作だ。

「次に、素粒子とは物質を構成する最小の単位の事。俺の…というより、この『未元物質』は、本来ならばこの世界に存在しない素粒子を作り出す、もしくは引き出して操るものだ。月光という物質を殺人光線に変えた後に、動くものを燃焼させる燃焼光線に作り替えた。

「理解したか?」

 

「なに、よ、それ…」

 規格外。圧倒的。

 信じられない現実。人でありながら、神のような力を持った人間。

 狂人である事は知っていた。だが、それはただ精神が可笑しいだけだとばかり思っていた。

 異端児である事は知っていた。だが、それは常人よりも変わっているからだと思っていた。

 それが甘かった。

 最初から、ペスト達に勝ち目など無かった事を知っている上で嘲笑い、弄んだ。

 伝承を解き明かしたにも関わらず、仲間には一切伝える事もなく別の事をしていた。

 興味があるから、嘲笑った。仲間を、仲間の主の力で蝕んだ。

 お前は、狂って、いる。

「何を今更。それを知った上で、お前は戦いを挑んだんだろう?」

 呆れたように、諦は言って。

 黒死斑の魔王に向けて、数多の命を奪った魔王へと死を告げる為に、失墜した天使の如き黒翼を、はためかせた。

「さようなら、魔王。隷属した際には、たっぷりと実験させてもらおう。」

 絶望は、もう眼の前に立っていた。

 綺麗な月の光が、ペストの体を焼き尽くした。

「―――あ、ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!????????????????????!!!!!!!??!?!?!?!?!?!?!?」

 あつい、あつい、あつい。

 もえてる、もえてる。わたしのからだが、もやされている。

 さむくない。つめたくない。でも、わたしはひとり。きえるのは、わたしだけ?

 いやだ、いやだ。あのときよりも、こわい。きえたくない、きえたくない。

 たすけて、たすけて、たすけて。だれでもいいから、たすけて。

 

「甘えるな、魔王。誰もお前を助けはしない。死者の霊群、その代表者よ。お前がどんな過去を背負っていようとも、お前は魔王だ。箱庭の最悪、天災へと至る者だ。そしてだからこそ、滅ぼされる。ゆめゆめ忘れるな、魔王というのはそういう存在なのだ、と。」

 物語を着飾るのは、物語最大の敵が葬られる時だ。

 どんな死に方であれ、なんであれ、敵は死ぬ。殺される。それこそが、世界に平和をもたらすものだから。

 魔王とは、誰かに倒されるものだ。

 どんな相手であろうと、何百年と時が経とうとも、いつかは敗れるのだ。

 そういう、ものなのだ。

 

             ✻

 ペストは、焼死した。そして、誰一人として嬉々とはしなかった。

 その次の日の夜。黒ウサギは、寝る前に開けていた窓を閉めようとした時に、大地に座り込む諦を見つけた。

「諦さん…?」

 諦は大地に座り込んで、俯いたまま、ぶつぶつと口を動かしている。

 そんな諦が気になった黒ウサギは、寝間着のまま靴を履いて、外へと出て、邂逅日のようにこっそりと、うさ耳を立てた。

 

「(しまった。よく考えてみれば、月光を殺人光線に変えるのは過去にやった事があった。検証するべきは黒い風を上書きして跳ね返すことが出来るかどうかだったというのに…)また間違えた…あんなやり方じゃなくても良かった筈だ。もっと、良い方法が有った筈だ。深く考え込めば、いや、そんな事はしなくとも苦しめる必要は無かった筈だ(あのやり方は時間が掛かる。まだ調べ尽くしていない事があったというのに、それを忘れるとは…)苦しめる事なく、逝かせれば…」

 それは、後悔だった。自分がした過ちに対する、後悔だった。

 決して綺麗なものなどではなく、あまりにも汚れた後悔。ペストを殺した事を後悔しているのではなく、ペストを殺す為に取った手段そのものを悔いている訳でもなく、その手段以外にもやる事があったのにやらなかった事を悔いている。

 だが、黒ウサギは真意を読めない。例え黒ウサギでない者であろうとも、誰も諦の真意は理解出来ないのだけど。

 未だ使用されていない諦のギフト『理解不能』。その一端が作用しているからだ。

 それすらも、黒ウサギには分からない。故に、黒ウサギからすれば、諦がペストに対して後悔しているように聞こえるのだ。

「諦さん…」

 狂人と呼ばれ、異端児と呼ばれた男。全知にも等しい頭脳を持ちながらも、選択を間違え続けた男は、後悔の多い人生を歩んできた。

 最初から狂っていた訳ではない。最初から異端だった訳ではない。

 最初は好奇心から科学に触れた。そして、それがいつしか狂気へと変貌した。

 人は離れ、遂には街すらもが彼を手放した。

 狂人へと至った彼が恐ろしかったが故に。異端児へと至った彼が怖かったが故に。

 その時は、まだ後悔する事が出来た。自分の人生を、自分の誕生を。

 だが、時が経てばそれも薄れ、そして今が出来上がった。今の、詰路諦が出来上がった。

 しかし、黒ウサギには、諦の事は分からない。少しとは、十六夜と共に警戒すらしていた黒ウサギには、諦という人間の底にある過去の異物が分からない。

 だからこそ、

「諦さん。」

「黒ウサギ…?」

「少し、夜更かしいたしませんか?」

 黒ウサギは、そんな子供っぽい言葉とは真逆の、優しい微笑みを浮かべて、諦に近付いた。

 純粋に、彼の事を知りたいと思ったが故に。




狂人の心に、優しさは届くのか。
それは未だ分からない。
だが、理解を示すことは出来るだろう。
そしていつか、その狂った心を癒やしてくれる。
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