異端児が異世界から来る。   作:全智一皆

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もはや、誰も分からない。


第四章「理解不能」
理解できぬ存在


■  ■

 理解。物事のすじみちをさとること。わけを知ること。物事がわかること。もしくは、人の気持や立場がよくわかること。

 不能。可能でないこと。もしくは、それをする能力がないこと。

 『理解不能』。理解する事が出来ないという事。

 全知全能の悪魔、超越的存在であるラプラスの悪魔ですら理解する事が出来ないギフトというのは極稀であり、今の所は詰路諦のみである。

 "理解不能"、未だ使用されていない諦のギフトの一つ。

 諦が使用した事があるギフトは、今の所は"万全の能"のみであり、"理解不能"と"異端の狂力"は未だ使用されていない。

 否、改めて。

 “使用されていなかった”、だ。

『ゔぁ…ぁぁぁぁぁ………』

「巨人、巨人か。こうも数が多いとは―――実に、好都合。」

 《理解不能》、その力の一端は、このギフトゲームで明かされた。

 “捻れた巨大な体”は、諦の振り抜かれた拳によって引き起こされた。

 潰れたソーセージのようになった頭は、諦が振り下ろした蹴りによって、そうなった。

 目を縦横無尽に駆け巡らせて、発狂しながら同士を殺している巨人は、諦の言葉によって支配されている。

 こうなってしまったのは、全て詰路諦という人間が居るから。

 では、こうなる前の時間へと遡ろう。

 ペストとのギフトゲームを終え、黒ウサギと諦が共に夜を明かして、それから一ヶ月の話しだ。

「それだと黒ウサギが諦さんと初夜を迎えたみたいじゃないですか!」

「実に良かった。以上だ。」

「諦さんは怪しまれるような事を言わないでください!」

 またもやハリセンがスパァン! と良い音を叩き出した。

 しかし、不動。諦はいつもの如く、巨石のように不動であった。

 そんな二人のやり取りを見て、

「諦さんもノーネームに馴染んできましたね。」と、笑いながらジンが言った。

 ジンの言葉に、黒ウサギは勿論の事、レティシアや十六夜達もまた頷いた。

 何処となく距離を感じ、基本的に部屋に籠もりっぱないだった諦だったが、ペストとの戦いを終えて黒ウサギと話し合ってからというもの、子供達とも関わるようになった。

 結論から言ってしまえば、諦は子供達から大人気になった。

 『ベクトル操作』といった能力は子供達の遊びにはぴったりのものであり、更には博識である諦によって子供達にも様々な知識が身についた。

 諦本人も、悪い気はしなかったようだ。

「それで、ジン。ノーネームの農園区に、霊草・霊樹を栽培する特殊栽培の特区を設けようというのが本題だったな?」

「あ、はい。諦さんの研究のお陰で、大地全体は一般的な大地にまで回復しました。その分、農園などの事が幅広く出来るようになったので、新たに霊草といったものを栽培する特区を造ろうと思ったんです。」

「ふむ、なるほど。では、俺達にはその特区に相応しい苗や牧畜を手にれれば良いんだな?」

「あぁ、その通りだ。」

「牧畜って、山羊とか牛のこと?」

「あぁ。幸運な事に、南側の〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟から収穫祭の招待状が届いているそうだ。連盟主催だ、収穫物の持ち寄りやギフトゲームも開かれる可能性が高い。」 

 なるほど、と頷く十六夜達。

 しかし、と黒ウサギが言葉を繋いだ。

「この収穫祭ですが、二〇日、それに前夜祭からの参加を求められているので総計二五日。約一ヵ月にもなります。この規模のゲームはそう無いですし最後まで参加したいのですが、長期間コミュニティに主力がいないのはよくありません。そこでレティシアさんと共に一人残って欲し」

 

「嫌だ。」

 問題児三人は、全員口を揃えて否定した。

 だが、諦だけは否定などしなかった。それが、三人には意外だった。

「なんだ、諦は居残りで良いのか?」

「あぁ。基本的に前の世界で霊草といったものは調べ尽くしているからな。今はあまり興味が湧かないから、レティシアと共に本拠地に居残ることにしよう。」

 少しつまらなさそうに言う諦を見て、(あぁ、これが諦さんの特徴の一つですね。)と、黒ウサギは諦から話された自分の特徴の一つを思い出した。

 『興味が湧かないものには、本当に興味が無いしやる気も起きない』。諦が黒ウサギと共に話し合った夜の日に自ら教えた自身の事の一つだ。

 小さなため息を吐いて、諦は「そんな訳だ。頑張ってきてくれ。」と、半ば投げやりになったように言った。

「うわ、マジかよ。黒ウサギの言った通りじゃねぇか。」

「諦くんもそんな風になるのね。」

「うん。なんか、意外。」

「分かってはいたが遠慮が無いな、お前達は。」

 そうは言ったものの。

 諦は、ははっ、と笑った。

 

            ✻

 暗闇の中、冷たい地面に男は這いつくばっていた。

「ぐっ、うぁ、」

 黒衣を纏う男が呻き、苦しんでいた。

 穴が空いた胸を抑え、体中に稲妻が迸るが如く暴れ回っている激痛に耐えんと歯を食い縛りながら、苦しんでいた。

 男は、見下されていた。

 白い縁、黒い羽を持った一つの片翼を右肩から生やした天使のような姿をした青年が、流血が付着した一振りの戦斧を持って見下していた。

「実力差を理解していながら、態々襲い掛かってくるとは、実に愚かだな。私からすれば、あの娘と同じで貴様もその力を上手く扱えてはいないがな。」

「グッ…そ、れは、貴様が、げんざ」

 ぶぉん――と、戦斧が下から真上へと振り上げられた瞬間。

 膝から下が切り飛ばされ、肉塊と血飛沫が共に舞った。

「ぐぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 暗闇の中で、絶叫が響き渡った。

 どくどくと、血が滴っている。血が流れている。まるで、ビンが倒れて一気に溢れた水のように。

 青年の目には、強固な意思の如き鋭い殺意が宿っていた。

「それ以上、それを口にしてみろ。貴様の命は無いぞ。」

「」

 それは、遥か昔に存在していた無敵の英雄を苦しませ、激痛に苛ませて殺害した神々の毒。

 神が遣わした一匹の蟲が放った致死毒の一撃は、無敵の英雄の肉体を突き破り、その体内へと毒を渡らせて全身に広がらせた。

 神の血を引く英雄すら殺した致死の毒をもたらすその“太陽主権”に、ただ生命の力を扱えるだけの人間が耐えられる訳もなかった。

 まぁ、それ以前に。その青年の力が、あまりにも特殊だった故に耐えられなかったのだが。

「…もう喋ることすら碌に出来なくなったか。流石は英雄すら殺した力だ。…だが、貴様がここで死ぬことなど私は赦さない。貴様には、まだやってもらわなければならい事が残っているのだから。」

 そう言うと、青年は一つの瓶を取り出した。

 透き通った綺麗な水が、蒼穹の如き青色の水が入った瓶。その栓を外し、男の体へと傾けて中の水を少し、ばら撒いた。

 その瞬間、男の肉体から激痛が消え去り、また切り飛ばされた筈の脚が元に戻っていた。

「これは…『水瓶座の太陽主権』…!?」

「我が友から借りていたものだ。今日を返す日としていたからな。」

「貴様は、どこまでの繋がりを…」

「それを貴様に教える義務は無い。そして、深読みと勘違いをするなよ下郎。私と私の友の繋がりは、決して遊びなどのものではない。“俺”にとって、あいつ等は大切なものだ。誰にも奪わせはせん。その為にも、私はやらなければならない事を為す。」

 全ては、我が友と世界の為に。

 

       ✻

 本来ならば収穫祭に向かうのは諦ではなく十六夜だったのだが、しかし十六夜は自分のヘッドフォンが紛失してしまったが為に辞退した。

 それ程までに大切なものなのだろうと、諦は納得して十六夜の代わりに飛鳥達と共に収穫祭へと向かう事とした。

「耀。少し良いか?」

 西側へと向かう直前、諦は耀を呼び止めた。

「なに?」

 耀は振り返り、諦の方を向いた。

 諦は耀の眼の前に立って、少し体を屈めて耀の耳元まで顔を近付けて

「俺はお前の選択に口は出さん。だが、一応聞こう。お前は、これで良いんだな?」

 そう、問を投げた。

 耀は、驚いて、固まった。

 御二人ともー、どうかなさいましたかー? と、黒ウサギが言った。

「なんでもない。今行く。」後悔はしないようにな。

 小さく呟いて、諦は向かった。

 耀は少し悩んで、諦に付いていった。




自分ですら、理解できない。
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