異端児が異世界から来る。   作:全智一皆

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『多くの愚者を友とするより、一人の智者を友とするべきである。』
古代ギリシャの哲学者、デモクリトス


語る事は軽く、しかし言葉は重く。

           ✻

「――――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

「いいからさっさと進めろ。でなけりゃ詰路がマジで呼び出すぞ」

「任せろ」

「任されないでください! 説明します、しますから!」

 半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは(内心結構ガチで焦りながら)何とか話を聞いてもらえる状況を作り出した。本当に、何とか作る事が出来た。

 四人は黒ウサギの前の岸辺に座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。

 黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて、

「それでは良いです、御四人様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さぁ言います! ようこそ、"箱庭の世界"へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加出来る『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚しました!」

「ギフトゲーム?」

「そうです! 既に気付いていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその"恩恵"を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」

 両手を広げて箱庭のアピールをする黒ウサギ。飛鳥は質問する為に挙手した。

「まず初歩的な質問からしていい? 貴女の言う"我々"とは貴女を含めた誰かなの?」

「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある"コミュニティ"に必ず属していただきます♪」

「嫌だね」

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの"主催者"が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

「……"主催者"って誰?」

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが"主催者"が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。"主催者"次第ですが、新たな"恩恵"を手にすることも夢ではありません。

 後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて"主催者"のコミュニティに寄贈されるシステムです」

「後者は結構俗物ね。………チップには何を?」

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然―――ご自身の才能も失われるのであしからず」

「……………なるほど。」

 黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せ、諦は深く考え込むように仕草する。

 挑発ともとれるその笑顔に、同じく挑発的な声音で飛鳥が問う。

「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

「どうぞどうぞ♪」

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催してるので良かったら参加してくださいな」

 飛鳥は黒ウサギの発言に片眉をピクリとあげる。

「………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えても良いのかしら?」

 お? と驚く黒ウサギ。

「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞な輩は悉く処罰します―――が、しかし! 『ギフトゲーム』の本質は全く逆! 一方の勝者だけが全てを手に入れるシステムでございます。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」

「そう。中々に野蛮ね」

(犯罪は無理か…ちっ。)

「ごもっとも。しかし、"主催者"は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰ぬけは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 と、殆どのルールを黒ウサギが説明し終えた時だった。

 それまで大人しく説明を聞いていた諦が、突如として立ち上がって、南の方向に歩き出したのだ。

「ど、どうかなさいましたか?」

「いや、黒ウサギの説明を聞いて更なる興味が溢れた故な。我慢が効かなくなった。取り敢えず手始めに、この箱庭という世界の果てまで探査兼冒険しよう思ってな。」

「えぇ!? こ、困ります! 諦さんにも我々のコミュニティに属していただきますのに」

「安心しろ。君達のコミュニティとやらにはちゃんと属するさ。向こうにあるドームで覆われた街に行くのだろ? なに、冒険した後に、君たちと合流出来るよう其処に向かうさ。まぁ、少々周囲に天災の被害が残ってしまうだろうが…そこは寛大寛容な心で赦してくれ。それでは諸君、また会おう」If you can meet and make friends.

 

 狂人に、友が出来るか否かは君たちが決めなさい。

 

 

            ✻

 心地良い風が吹いて、木々の葉が揺れる自然地帯。

 ナイアガラの滝よりも長く、大きな滝の水飛沫によって虹が架かっているその光景は、まさしく絶景と呼ぶ他無い。

 そんな、景色に―――滝のような鮮血が、溢れて架った。

『―――…………』

「ふむ。これはこれは…中々に興味深い。『神格』が“原典”よりも薄くなってはいるが、それでも神格の保持者か。流石は“アステカ文明の最高神ケツァルコアトル”、その力を与えるに相応しい力を持った蛇。人類に火をもたらした太陽神の力は、伊達ではなかったな。」

 諦の眼の前には、血の海とその上に大きな死体が出来上がっていた。

 諦が作り出した、凄惨な現場。アステカ文明の最高神、平和の豊穣の創造神にして人類に火をもたらした太陽神であるケツァルコアトルの『太陽神』としての力を授けられた蛇神の死体。

 鮮血は、諦のものではなかった。

 神格を与えられた蛇神の、切り裂かれてしまった腹部から零れる程に溢れ、滝のように流れた綺麗な真っ赤の液体。

 眠っていた所を突如として現れた人間に襲われ、噛み付かんと開いた口の中に仕組まれた大きな牙を呆気なく折られた蛇。

 木の枝で目を貫かれて潰され、蜻蛉の翅を毟り取るように簡単に白い翼を根っこから引っこ抜かれ、更には内臓が有る部位を的確に殴打し続けて破壊された。

 そして遂には、心臓が有る部位の腹を引き裂かれた。

 無論の事、蛇神は絶命した。太陽神の力の一端すら使う事を許されずに呆気なく、その命を終えられた。

「まぁ、取り敢えず。貴様の心臓は抜き取らせてもらおう。太陽神の力が宿った心臓、神格の根源だ。売れば高値だろうしな。」

 自ら引き裂いたその腹部に腕を突っ込み、その中心部に有る物を掴み取って引き抜いた。

 あまりにも眩しく、常人であれば失明してしまう神々しい光を放つ熱き球体の心臓。

 溶岩のように赤く、そして太陽の如く熱い。これこそが、太陽神の神格を象徴する力の塊。

 神格の根源である力の塊を売ってしまえば、その値段の桁は八を越えるだろう。

「とは言え…このままは忍びない。というか、俺が勝手に殺しただけだが。重要な物は頂いた訳だし、その礼として」肉体と意思の再構成はしてやらねば、な。

 パチンッ―――と、指を鳴らす。

 物質や物体というものは、粒子という概念が基本のものであり、粒子が無ければ物質や物体は構成されていない。

 素粒子、原子や分子なども粒子という概念に当て嵌まるものであり、それらが有るからこそ物質や物体は構成されている。

 また、量子も物質や物体の構成に必要なものであり、生命という物理的物体が引き起こす物理現象における物質量の最小単位だ。

 人類だけに限らず、生命とは肉体と魂の二つが有って成り立つものであり、それは神も例外ではない。

 神が肉体や魂を必要としていない、光やら宇宙やらの超次元的かつ超越的存在であったとしても、宇宙や光を構成するのは必ずしも粒子である。

 あらゆる物質や現象は、必ずしも何らかの『源』がある。

 分子や原子、または電子などの微視的な物理現象を記述する量子力学や一般相対性理論などを元にして、古くからそれらは証明されてきた。

 世界を構成するのは粒子。現象を構成するのもまた、微小で極小な因子である。

 ここまで少々長々しく、そして理解が困難なことばかりを述べてきたが、これは彼が何をしたのか説明する為のもの。

 彼が蛇神に何をしたのか?

 その答えは、やった事自体を理解する事は実に簡単だけれど、しかしどうやってそんな事をしたのかは理解不能な、偉人の御業。

 彼は、量子世界に一時干渉し、視界に入れた量子を観測して、そこに『肉体と意思の再構成』という入力をして蛇神の肉体という物質と意思という現象を再構成したのだ。

 常人では決して行えないし考える事も出来ない、辿り着く事も出来ない異常の境地。

 量子力学に支配された世界を量子世界と呼び、その量子世界は亜空間のようにありとあらゆる法則が存在せず、何が起こるか全く分からない未知に溢れた世界である。

 その世界を観測し、しかも干渉までするというのは常人の域から大きく逸脱した行為だ。

 かの有名な大天才アインシュタイン博士であろうとも、量子世界の観測をした事は無いし、したという証拠も見つかっていない。

 だが、詰路諦はそれを為した。

 呆気なく、いとも簡単に。

「ではな、蛇神。またいつか会おう。復讐であれ何であれ、友になれれば良いな」

 

           ✻

「諦さんはなんて馬鹿げた事をやらかしたんですか!?」

「馬鹿げた事ではあるが、しかしコミュニティの為になるものだっただろう? ケツァルコアトルの太陽神としての神格が宿された蛇神の心臓。桁が八になるのは予想外ではあったが、実に良い利益だった。」

 パァン! と黒ウサギが振るったハリセンの良い音が響き渡る。

 だが、諦は一切動じなかった。黒ウサギの力で振るわれたハリセンが脳天に直撃したにも関わらず、一ミリとして体を動かさず、太陽神としてのケツァルコアトルの神格が宿った蛇神の心臓を売り払った事で手に入れた大金をジンへと投げ渡した。

「重っ!?」

「桁が八だぞ? 重たいのは当たり前だろう。」

 大金が入った袋がジンの手に触れたその瞬間、ジンの腕に錨が落ちてきたのではないかと錯覚してしまう程の重さが乗ってきた。

 十一歳のジンにそれが持てる訳もなく、ジンの手に袋が触れた時点でジンの体は重力に逆らえずに地面へ向けて落ちていく。

 地面と打つかる。ジンはそれを確信した筈だった。

 が―――いつまで経っても、ジンの体に衝撃が迸る事は無かった。

「……………え?」

「すまん。子供の君に、このような重たい物が持てる筈無かったな。配慮が足りなかった。言い訳という訳ではないが、何分人と関わる事が無かったものでな。気遣いが上手く出来ないんだ」

 ジンの体は、停止していた。

 諦はジンに投げ渡し、持たせた袋を取ってジンの服の襟を掴み、体制を元に戻して謝罪する。

 体制が元に戻され、諦がジンに謝ったその瞬間にジンの体は自由を取り戻した。

「い、今のは…」

「ん? 大した事は無い。君を一時的にだが空間に固定しただけだ。肉体そのものがその空間に固定されれば、重力による落下もしないし自由落下に関する法則も働かない。俺なりにアレンジを加えて応用した『量子力学的空間固定』だ。」

 簡単なように諦は言ってみせるが、しかし十六夜は心の中で、

(おいおい…コイツ、自分がどれだけスゲェ事言ってるか分かってんのか?)

 表に出さず、諦の異常さに少なからず驚いていた。

 物体が空間に固定される事はまず無いし、物体を空間に固定するなんて事も本来なら出来る訳が無い。

 物体が地面に落下せず、その落下している空間に固定されるなんて事は時間停止などの能力が無い限り不可能な筈だ。

 しかし、諦は『量子力学的空間固定』だと言った。

 つまりは、量子力学を利用してジンという物体を空間に固定させたという事だ。

 何の機械も使わず、何の動作もなくそんな事が出来る。

 これが異常でないなら一体何だと言うのか。

「さて、黒ウサギ。俺たちは次に何処へ向かう?」

「えっと、次は"サウザンド・アイズ"というコミュニティの店まで行って、ギフト鑑定をしてもらうんです。」

「ふむ…ギフト鑑定か。つまり、俺や逆廻、久遠や春日部の持つ“恩恵”が判明するという事か」

「YES! その通りでございます。」

「そうか。では黒ウサギ、案内をよろしく頼む。」

 “と言っても”。

 “自分の恩恵が何であるか、なんて。もう随分と前から分かっている事なのだがな”。




愚者が身近に居るからこそ知者が輝くのである。
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