古代ギリシャの哲学者、アリストテレス
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白夜の魔王「白夜叉」。その挑戦を受けた問題児三人は、難なくその『試練』をクリアした。
が、問題なのはもう一人の方だ。試練ではなく、『決闘』を選んだ『異端児』詰路諦が何よりの問題だった。
「お馬鹿様なのですか!? 白夜叉様を相手に『決闘』など、愚行無謀も良いところでございますよ!」
「今回ばかりは俺も黒ウサギに賛成だぜ詰路。死ぬかもしれねぇぞ?」
黒ウサギは勿論、問題児である十六夜、飛鳥、耀の三人も今回ばかりは黒ウサギに同意せざるをえなかった。
相手は魔王。『ノーネーム』というコミュニティに仕立て上げ、壊滅させた相手と同格の異次元の超常的存在。
ギフトを持った人間程度には、相手が務まらないどころの話ではないのだ。
だが、そんな事は知った事じゃない。そんな風に、諦はこう言った。
「だからこそ挑む。挑まなければならない。俺たちの相手と同格の相手だからこそ、戦わなければならない。何より―――心底、興味深いのだから。」
真剣な眼差しと気迫を以てして、諦はそう断言したのだ。
「いや最後のが本音だろ」という十六夜の言葉を無視して、諦は白夜叉の前へと立った。
立ち塞がるように、魔王の前へと一人の狂人が立った。
「『決闘』をしよう、白夜叉。命を賭けてでも、俺は君の底を掴みたい。」
「何とも斬新な口説き文句だの、小僧。」
『ギフトゲーム名“夜叉と狂人”
プレイヤー一覧
詰路諦
・クリア条件 魔王白夜叉を打倒せよ
クリア方法 魔王白夜叉を倒す・気絶させる
・敗北条件 降参、プレイヤーが気絶させられる・殺害される。
宣誓 上記を尊重し、誇りの御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
『“サウザンドアイズ”印』
「先手必勝だな。」
ぎゅ、と拳を形作り、諦は腰を落すように構えを取って、躊躇なく白夜叉の顔面へと拳を放った。
白夜叉との距離は僅か1m。常人であれば、避ける事など不可能な速度で放たれた拳を、しかし白夜叉は少し体をずらすだけで難なく躱して見せた。
魔王、白夜叉。その反射神経やら動態視力やらもまた、その他の生物とは規格外のものであり、光速程度などであれば余裕を持って避けられる。
が―――避けた直後、白夜叉の右頬がゆっくりと凹んでいき、遂には体全体に衝撃が積み重なって白夜叉は明後日の方角へと呆気なく吹き飛ばされた。
「なんだと…!?」
「な、何が起こったの…?」
反応が乏しいもの、反応が激しいものと其々だが、しかし全員が共通して、『驚き』という感情を隠すことなく顕にしていた。
白夜叉は、確かに避けた。諦の攻撃を、諦の拳を、回避したのだ。
にも関わらず、白夜叉は吹き飛んだ。吹き飛ばされた。右ストレートを食らわせられたが如く頬を凹まされ、凄い勢いで殴り飛ばされた。
氷山の一角へと体が突撃しても、白夜叉は血反吐を吐くことなく立ち上がった。
だが、驚いていた。皆と同じく、不可解な現象に驚いた。
「今のは…攻撃の位置変換か? もしくは、因果律の干渉か…?」
難しい言葉を並べて、白夜叉は思考しながら諦の方へと突っ込んだ。
それこそ音速。当たれば全身の骨が木っ端微塵に砕けて即死するであろう速度での突撃だ。
しかし、諦は避けなかった。微動だにする事なく、ただ棒立ちする事を選んでいた。
傍から見れば、それは見えないが故に反応出来なかったと取れる行動。誰もがそう思うであろう事だ。
事実、黒ウサギはそうだと思っていた。
だが、三人は違った。十六夜、飛鳥、耀の三人だけは、「何か仕出かす気だな」と確信していた。
それは的確。事実だった。
パキンっ――と、何かが割れるような音が響いた。
そして、全員が直視した。
“魔王の腕が、本来曲がらぬ方向に曲がった”という現実を。
「俺の世界には、『オッカムの剃刀』という原理がある。哲学者オッカムが提唱した原理で、ある現象・事柄を説明する際には、より単純な仮定・理論を採用するほうがよいとする考え方だ。ジンのような子供が居る、それに仲間が居るのだから簡単に手の内を明かそう。
これは、『ベクトル操作』。あらゆる物理の向きを自在に操る、攻防最強の能力だ。」
そう言って、一歩踏み出した瞬間。
地面が、一直線に大きく凹み、そして割れた。
ベクトル。もしくは矢量。
それは大きさだけでなく、向きももった量の事。速度や加速度、力といったものを指す物理・数学の単語だ。
ある世界には、そのベクトルを操作する事が出来る能力者が存在する。
運動量、熱量、電気量といった、あらゆる種類のベクトルを観測し、触れたベクトルを自由に変換するという能力。
力が作用する方向を操るというそれは、力の向きを一点集中させてしまえば地面を揺るがす程の攻撃力を発揮する。
現に、そうなった。
「それが、おんしの『ギフト』、という事か?」
「どうだろうな。俺にも分からん。恐らくは違うだろうな。これはあくまで『開発』したものであって、俺のギフトには当てはまらないだろう―――な」
転けるような風に、体の重心を前へと向けて―――風圧を発生させて、前進した。
風量ベクトルを操作した事によって発生する風の翼、黒い翼。
それは山すら切り崩し、ビルすら崩壊させる程の風圧を発し続ける危険なもの。
それを、白夜叉は目視して理解した。触れてしまえば、自分であろうとただでは済まないと。
自然を利用した技術。それ程までに、恐ろしいものは存在しない。
故に、白夜叉は回避へ徹した。
「どうした、避けるばかりで反撃は無しか?」
「幾ら強い力で撃ち込もうと、貴様には効かんからの!」
それがギフトであったならば、白夜叉は容赦なく反撃していた。
神刀で切り裂いていただろうし、拳で殴っていただろうし、脚で蹴っていただろう。
だが、あれはギフトではない。
あれは自然そのもの。世界の常識、世界の理そのものを操っているに等しい芸当だ。
作用反作用。それは、気体ではなく物体である惑星に必ずしもある概念である。
地球や月といった惑星において、作用・反作用という概念が無ければ生命はその場に存在する事が出来ないし、建物を作る事も出来ない。
作用反作用の法則という、力が釣り合い、平衡を作り上げているからこそ『立つ』という行為が成り立つのだ。
彼が操っているのは、力の作用する向き。力の釣り合いを、限定的ながら一方へと向ける事が出来るのだ。
更には他所から集めることすら可能。
攻撃されてしまえば防いで骨を砕き、攻撃すれば肉を削って骨を砕く。一歩踏み出せば地面を壊し、空を舞えば山を崩す。
世界の原理を限定的ではあるが操る事が出来るその力を、警戒しない訳が無いのだ。
それは勿論の事。だからこそ、白夜叉は反撃しない。防御しても意味が無い。だから、回避に徹しているのだ。
「風と反射に警戒し続けては意味が無いぞ―――『天動説』。」
「―――貴様、本当に只者ではないようだの。」
白夜叉の小さな体から、世界を震撼させんとばかりの鋭く、そして大きい殺意が波の如く発せられた。
初見の時点で、普通ではないと理解していた。
だが、その単語を発した。初対面でありながら星霊である事を見抜いた事も含めて、白夜叉は確信した。
“この人間は、真に異常なる存在である”―――と。
遂に、白夜叉から躊躇と容赦が無くなった。意識が、『決闘』の方へと傾いたのだ。
「すまんな黒ウサギ。どうやら、此奴には本気で挑まねばならぬようだ。」
「ちょ、白夜叉様!? そ、ソトース様! どうにか白夜叉様を止めてください!」
「えー、無理だよそれは。白夜叉のやつ、久々にガチっぽいし。それに、心配しなくて良いと思うよ? あの人間、死なずに敗けるから。」
突然ながら。
地球という惑星は、地殻、上部マントル、遷移層、下部マントル、外核、内核という六つの層で構成されている。
地球以外にもそのような構成をしている惑星があるのかはさておいて、大抵の惑星はそのように必ず中心に『核』というものがある。
今、彼らが居るのはゲーム盤。ギフトゲームを行うが為に構成された、遊戯の為の世界。
『世界』だ。このゲーム盤もまた、一つの世界なのだ。
何かを作る時は、必ずと言って良い程に『台』がある。『核』がある。
ある地を元に作成したゲーム盤ではなく、零から百まで自分で創り出したゲーム盤であれば核となる概念があるのは必然。
であれば―――その核そのものを弄って、改造する事が出来たとしたら、このゲーム盤は誰のものとなるのだろうか?
「楽しくなるじゃないか、本当に。」
地面に屈んで、地面に触れた
その瞬間、意識が途切れた。
悪意で逆らう事を知らないと、悪人に反抗する事は出来ない。