良き才能は持ち主すら蝕み、他人を苦しませる。
悪き才能は持ち主を殺し、他人を巻き込む。
才能というのは、実に度し難いものだ。
全知とは苦痛である
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「君の脳は確かに異常なのかもしれないけど、それでも一気に処理する事が出来る情報っていうのは限度があるの。人間という存在である以上、肉体には必ず制限っていうのがあるからね。完全記憶能力を持ってる人が良い例かな。完全記憶能力を持つ人間は、体験した・見た物事を完全に記憶する事が出来る脳を持っているというだけであって大量の情報を一気に処理する事が出来る頭脳を持っているって訳じゃない。君は確かに異常な頭脳を持っているんだろうけど、それでも人間だから情報処理には必ず限界っていうのがある。君の意識が途切れた理由は、情報処理数が桁違いだったから脳がショートしてしまったっていう至極当然の理由だね。一気にかたをつけるつもりだったんだろうけど、元魔王のゲーム盤を甘くみたのがいけなかったね。」
ぐさり、と言の刃が諦の心へと突き刺さった。
「ぐうの音も出ない正論だ…。もっと冷静さを保っていれば、あんなミスは犯さなかったというのに…なんたる失態…!」
「反省すべきところはそこではないのですよ、お馬鹿様!」
パァン! と、諦の脳天を引っ叩いたハリセンが良い音を立てた。
だが、諦は一切微動だにしなかった。十六夜の如く。
「白夜叉も、済まなかった。煽るような言葉を発してしまった…」
「…まぁ、反省しているようだし、良しとするかの。しかし、警戒はしておくからの。憶えておけ。」
釘指すような視線を向けて、白夜叉は諦へと言葉を刺した。
「あぁ。以後気を付けるつもりだ。」
確信は無いが。
「あぁ、それと。これがお主のギフトカードじゃ。」
ぱんぱん、と白夜叉が軽く手を叩いた瞬間、諦の手元に一枚のカードが顕現した。
ホワイトグレイのカードに詰路諦・ギフトネーム“
「…理解不能、それに加えて狂力か。そこまでは俺に相応しいが…俺の頭脳に、貴方のような偉大なる先人が宿ってくれるとは思わなかったよ。」
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「魔が人を滅ぼす事は、確かにある。だが、人は魔では滅びない。」
薄暗い牢屋の中で、囚人が呟いた。
鎖に両手を繋がれ、全身傷だらけでありながらも、澄んだ声で。
「神が人を滅ぼす事は出来る。だが、人も神を滅ぼす事が出来る。」
神が人を作ったのではない。人が神を作ったのだ。
神が星を作ったのではない。無が星を作ったのだ。
神が地を作ったのではない。星が地を作ったのだ。
「人は星で滅びる。だが、星も人で滅びる。」
星に生き物が住み着いた。それが人間。
星に異常を発生させた。それも、人間。
星を荒廃させてしまった。それも人間。
「修羅神仏も魑魅魍魎も、神話や伝説も人が居なければ成り立たない。人に信仰が無ければ神は居ない。人に恐怖が無ければ魔は生まれない。あらゆる超常的存在は、全て人を通じて存在を確立させている。即ち、所詮は人間という存在が無ければ確立する事すら出来ない矮小な存在でしかなく、全て幻想妄想に当てはまるものであるという事だ。」
「魔は人に滅ぼされ、神は人に抗われ、星は人に荒らされる。人は強い生き物だ。しかし逆に言えば、人が魔を滅ぼし、人が神に抗い、人が星を荒らす害悪的存在であるとも言える。」
「魔にも神にも星にも、人は愚かしい存在であると同時に、恐ろしい存在でもある人間。だが、この世界は人を恐れていない。誰もが人ではなく、『魔王』と呼ばれる存在を恐れている。魔王そのものを、恐れている。」
「そんな魔王の中で、最古の魔王は、『人類最終試練』と呼ばれている。それぞれが、その特徴で呼ばれている。」
「では、ここで一つ、俺から君たちへ疑問を挙げよう。
「星霊やら魔物やらが成る事が多い魔王だが、もしも最古を生きた人間が、人類への強敵とされている人類が存在するとしたら、君たちはその人類を何と呼ぶ? 人類への害悪となる魔王である人類を、何と呼ぶ?」
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開かれた扉の先に広がったのは、草木生い茂る豊かな自然―――などではなく、その真逆。全くの反対。草木一つ無い、荒れ果てた大地だった。
その光景は、まさしく荒廃した世界と呼ぶに相応しいものだった。
「―――なんだ、これは」
諦と十六夜が、口を揃えて呟いた。
「魔王によって荒らされた、ノーネームの地でございます。」
「…魔王とのギフトゲームがあったのは、何百年前の話しだ。」
「わずか三年前でございます。」
「この惨状が作られたのが、たった三年前だと?」
「笑えるな。だが、断言出来る。数年前程度の出来事で、大地が死ぬなんて有り得ない。」
たかが三年。長いのか短いのか分からない曖昧な年月。
今より三年前に行われたギフトゲームで、この大地は死んだのです。そう、黒ウサギは答えたのだ。
にわかに、どころの話しではない。だが、眼の前に広がっているのは全てその事実そのものだ。
「これは事実なのです。魔王という存在は…それ程までに強力なものなのです。」
「土が死んでる…動物の気配も一切無い。」
「ティーセットはそのまま残されている…まるで、人が消えたようね。」
耀と飛鳥がそれぞれ、その荒廃してしまった地を見て感想を述べる。飛鳥の感想が、比喩ではなく事実であると伝えられようと、違和感はない。
そんな事を為す事が出来る存在―――それが、『魔王』である。
その認識を、四人は強く叩き込まれた。
しかし、そんな中で。
諦だけは、すぐに動いた。
「……」
体を屈め、死んでしまった地面の土を取って握り締め、その感触から成分、粒子などの微弱と化してしまった概念を頭脳で認識する。
成分は埃も同然。土という物体を構成する粒子すら、ボロボロかつよれよれな紙きれのようになってしまっている。
質が良い、それに加え新鮮、かつ神聖が付与された水が大量にあれば、この大地の完全な再構築は“一ヶ月”で何とかなるか…と諦は小さく呟いた。
それは本当に小さく、ぶつぶつ言っているような声だったのだが、しかしその言葉を黒ウサギは拾った。拾うことが出来た。
「あ、諦さん、今、一ヶ月でどうにかなる、とおっしゃいましたか…?」
「聞こえたのか…。まぁ、そうだな。ギフトゲームで、そういった水を大量に入手する事が出来れば、後は問題ない。それが無理となると、俺がこの大地について研究漬けになる。で、俺が研究漬けしたとして…そんじょそこらの地面と大差無いまでには直すには、今の所の予測だと3ヶ月は要…どうした? 黒ウサギ。」
「さ、3ヶ月…? たった、3ヶ月ですか…?」
「あ、あぁ。あくまで予測だが…まぁ、3ヶ月だ。長くても5ヶ月。」
「魔王に敗北し、荒れてしまったこの大地が一般的な大地になる時間が、たった3ヶ月…長くても、5ヶ月―――」
三年と、3ヶ月。もしくは5ヶ月。
その二つを比べてみれば、どちらが短いかの判断など簡単。至極単純だ。
「諦さん! どうにか、お願い申し上げ」
「頭を下げるな黒ウサギ。そう畏まってお願いされずともやるつもりだ。コミュニティの一員としても、研究者としても、気になるからな。」
諦はただ単純に、自分の研究欲を満たしたいだけなのだった。
✻
女子組は風呂へと入り、十六夜はジンと共に外の侵入者達の方へと向かい、諦は自室で研究に没頭していた。
「構成因子の殆どが紙切れ同然、物質粒子は埃のように脆い。酸素やらの原子から再構築して、組み替えて成功したとして…大地そのものに適応するかどうかの確信が不確定だ。となれば、やはり実験は必要不可欠。しかし失敗してしまえば更に悪化する可能性もある。となれば、スタイルは慎重で確定。水にも何らかの工夫を加えなければ。」
諦は、このノーネームの大地について深く考え込んでいた。
大地の土を持ち帰り、自分の部屋を自室と大差無い―――もとい、研究室のような部屋に変えて、そこで研究漬けになっていた。
「酷い荒らされ様だ。土にすらここまでの被害を与えるとは、魔王というのは本当に恐ろしい存在らしい。とはいえ…再構築が出来る程度の弱さがある、という事でもあるか。しかし白夜叉が魔王を辞めてもあれなんだ、現在を生きる魔王というのは、全く恐ろしい。…まぁ、今は良いか。今はとにかく、大地の事を考えなければ。」
魔王の事は確かに大事なことなのだが、しかし今の諦にとっては二の次の事。
今の諦にとって大切なことは、荒廃してしまった大地を研究し、出来る限りノーリスクで大地を再構築する事だ。
水があれば再構築するのは一ヶ月で済む。だが、今の所はその水が無い。
十六夜が勝ち取った水木も充分に素晴らしいものだったが、大地を再構築するには神聖がまだ足りない。
水無しで大地を再構築するには、朝昼晩研究し続けても、最短でも3ヶ月掛かる。
三年という時間に比べれば短い時間なのだが、しかしそれでも、長いは長い。
大地が回復すれば畑仕事が出来る。畑仕事は食料問題を解決する為に必要だ。
大地が回復すれば栽培が出来る。栽培作業は様々な効果を及ぼすものだ。適度の運動にもなれば、栽培して採れたものを食べるなり観察するなり出来る。
大地の影響は凄まじく、大地の有り難さは偉大なものだ。
ノーネームの為にも、所属している場所の為にも、やりきらねばならない。
…という理由は、正直に言えば二番目の理由。一番の理由は、間接的ながらではあるが魔王に勝つという諦の私情だ。
さぁ、いざ没頭しよう―――そう意気込んだ瞬間、
「諦、居る?」
扉の向こうから、耀が声を掛けてきた。
「タイミングが悪いな…」とは、言わない。言えば信頼に関わるから。
「春日部か。どうした?」
「お風呂、空いたから呼びに来た。」
「そうか。分かった、今の研究が一段落したら向う。」
研究をやり続けるのは絶対。だが、休憩は必要だ。
一先ずは今やっている課題を終わらせよう。湯に使って、それからの課題を考える事にしよう。
諦はそう考えて、課題に取り組み、終了してから風呂場へと向かった。
扱い方を間違えれば、天才であろうと罪人となる。
その逆として、才能の扱い方を正しくすれば罪人も天才となるのだ。