異端児が異世界から来る。   作:全智一皆

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「言うべき時を知る人は、黙すべき時を知る。」
古代ギリシャの数学者、アルキメデス。


英雄もまた狂人

■  ■

 フォレスト・ガロのギフトゲームはノーネームが勝利を収めて無事に終わった。

 まぁ、諦はずっと自室に籠もって大地の研究に漬けていた為にそのギフトゲームは見ていないのだが。

 それから数日。しかし諦は、ずっと自室に籠もって大地の研究を続けていた。

 数日が経ったというのに。ずっと、自室に籠もっていた。

 十六夜がドアを抉じ開けようとしても、反射機能が作用されたドアに改造されている為にどうにもならない。

 黒ウサギと問題児三人は、出す事を諦めていた。

 そして、本日。レティシア=ドラクレアがノーネームにやって来て、十六夜と試し戦をし、更にはゴーゴンの威光に当てられレティシアが石化し、ペルセウスの騎士達がやってきたその時。

「なんだ、随分と客人が多いな。」

 窓から、諦が現れた。

「諦様! 生きていらしたのですか!?」

「…何故、死んだと思われているのかは、まぁ、さておいて。あの宙を舞っている奴らはなんだ? 客人か、それとも侵入者か?」

「侵入者でございます!」

「そうか。なら」

 さっさと帰ってもらおう。

 そう言って、諦は軽く指を鳴らした。

 突然だが。

 瞬間移動とは、超能力の一種であり、物体を離れた空間に転送したり、自分自身が離れた場所に瞬間的に移動したりする現象、及び能力のことである事は、誰もが知っている事だろう。

 テレポート、もしくはテレポーテーションともいう。念力の一種と考えられている。

 よく間違われるのだが、この瞬間移動と『空間歪曲』…ワープ、は、似ているが少し異なるものである。

 ワープ。空間歪曲。

 物理理論、もとい力学や相対論において、実数や要素が実数であるベクトルで表される質量や速度を負にしたり、複素数にしたりすることによって、数式上は既存の物理理論と整合性を保ったまま、光速を越えることが可能であることが理論的には示される。

 ここまで説明してしまえば、後はお分かりだろう。

 機械無くして量子世界に干渉する事が出来る諦が、此処に要るのであれば。

 

 彼らは、消え去った。

「『空間歪曲』に抗うこともできずに居なくなったか…実に呆気ない。(まぁ、どこに送られたかなど、使用した俺にも分からんのだがな。恨むならリーダーを恨んでくれ。)」

 澄ました顔をして、諦は内心でペルセウスの騎士達にご愁傷様と呟いた。

 自分でやったくせして何を言っているのやら、この異端児は。

「それで、何が起きたんだ? 今の所、敵が襲撃しに来たとしか把握していないんだが。」

「俺が説明してやる。黒ウサギはレティシアを頼むぜ。」

 十六夜が言うに。

 元【ノーネーム】所属であった、“箱庭の騎士”と呼ばれる純血の吸血鬼にして、吸血鬼の純血と神格を持ち合わせる魔王であった吸血鬼の少女、レティシア=ドラクレアが館に来訪した。

 紆余曲折あって『腕試し』と称して十六夜と戦い、敗北してしまった彼女は魔王としての力を失った事を黒ウサギ達に見破られた。

 ペルセウスに買われてしまっている事が判明した瞬間、ギリシャ神話の悪魔であるゴルゴーンの『ゴーゴンの威光』が放たれレティシアが石化し、そこにペルセウスの騎士が現れたのだと。

「ふむ…なるほど。では、『ノーネーム』の敷地へ無断で侵入した、という罪を犯した『ペルセウス』に謝罪とギフトゲームを要求するか。ギフトゲームの勝利報酬はレティシア、敗北した際に渡すのは黒ウサギにするとしよう。」

「なぜ黒ウサギを商品にするのですか!?」

「ノーネームの中では黒ウサギが一番の美人だろう? それでいて月の眷属だ。恐らくペルセウスのリーダーもお前を欲しがるだろうよ。」

「一番の美人と呼ばれた事を喜べば良いのか売った事を怒れば良いのか分からないのでございますよ…」

 困ったように黒ウサギは言って、そして硬直した。

「あの、諦さん…」

「どうした?」

「レティシア様は、何処に…?」

 諦と十六夜が黒ウサギの方を見る。

 石化したレティシアが其処に有った、という跡はあれども、其処には石化してしまったレティシアは存在していなかった。

「…………………すまん、レティシアにも使ってしまった。」

 

「―――このお馬鹿様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 勢いよく振るわれたハリセンが諦の脳天を叩き付け、気持ちいい音を出した。

 

             ✻

 結論を述べてしまえば、《ペルセウス》というコミュニティは《ノーネーム》というコミュニティに大敗を喫したのではなく、一人の問題児と一人の異端児によって大敗を喫した。

 逆廻十六夜という『正体不明』の問題児と『理解不能』という異端児の詰路諦。

 この二人によって、ペルセウスは大敗し、退廃した。

 その時の事を語るべく、その時間へと遡ろう。

 ペルセウスのリーダー、ルイオス=ペルセウスとノーネームの対談を白夜叉の店で行った時から、既に大敗への道をペルセウスは歩いていた。

「御初にお目にかかります。ギリシャの偉大なる英雄ペルセウスの血統、コミュニティを束ねるリーダー、ルイオス=ペルセウス。私はコミュニティ《ノーネーム》に所属する研究者もどき、『狂人』、『異端児』の蔑称を頂いている詰路諦と言う者だ。」

「へぇ…君が『狂人』か。噂は聞いているよ。元魔王様の白夜叉と対等に渡り合い、一桁に位置する『特異例』ヨグ=ソトースが興味を持った狂気の人間だってね。」

「恐れ多い。だが、狂気という点に関しては同意している。…まぁ、私のような狂人は兎も角、本題へと移らせていただく。

「まず、我々ノーネームが求めるのは敷地への侵入した事への有罪無罪を判決するギフトゲームに加え、そちらが物として扱っている神格を失いし吸血鬼、レティシア=ドラクレアの所有権の譲歩だ。

「レティシア=ドラクレアはペルセウスが所有する物となっている。物が動くという表現も些か可笑しい為に、ペットと表現させて頂こう。貴方にとってもその方が的を射ているだろうしね。

「レティシア=ドラクレアはコミュニティ『ペルセウス』から抜け出して我々ノーネームの敷地へと侵入した。手綱を強く握ってなかったが故にペットが駆け出し、他人の家に侵入したとも表現出来る。

「更にはそれを連れ戻す為とは言え、他者の敷地で勝手にアルゴルの威光を使用、且つ騎士を派遣しノーネームの一人に怪我を負わせている。(まぁ、春日部に怪我を負わせたのはレティシアであってペルセウスの騎士ではないがな。)

「とはいえど、私がペルセウスの騎士達を彼方の地へと転移させてしまい危険に身を晒させてしまったのも確か。

「しかしこれでは、我々だけが悪い事となっしてまう。それでは話しが成り立たない。証拠が無いと言われればそれまで。

「…が、私が手に持っているこの板に、その証拠が収められている。これは白夜叉も確認している。

「以上の事を理由に、我々ノーネームは我々へ領地侵入の謝罪の代わりに、ペルセウスの有罪か我々の有罪、そして無罪を判決するに加え、元ノーネームの一員たるレティシアを取り戻す為のギフトゲームを望む。…答えによっては、仲間を傷つけられたこちらもそれ相応の答えを見せるので、お好きに。」

 下手のようで、上。

 その場の空気は、ルイオスのものではなく詰路諦という一人の“嘘つき”によって独占され、支配されていたのだ。

 諦の言葉に、くそっ、と毒を吐いて「…分かった。ギフトゲームを受けよう」とギフトゲームの事を承諾し、苛立ちを隠すこともなくその場から去って行った。

 しーん…と、その場は静まっていた。

 その場に居た全員が、一つの感情を隠さず顕にしていたのだ。

 それは―――『ドン引き』だ。

「おんし…詐欺師か何かなのか?」

「白夜叉は確認なんてしてないし、そもそもスマホで録画すらしていない。…殆どが嘘だったわね、詰路くん。」

「春日部が怪我を負った理由はあくまでもレティシアが原因であって、ペルセウスが原因じゃない。そこをすり替えたな、お前。」

「ドン引きなのですよ、諦さん…」

「知った事ではないな。」

 怪しむ事もせずにその場の情報と空気に呑み込まれ騙される奴の方が悪い―――と、諦は悪怯れることもなく淡々と言った。

「詐欺師と呼ばれようが知った事か。どちらにせよ、奴らの不手際でこちらは(魔王を研究する為に必要不可欠な素材である)仲間を傷付けられているんだ。やるからには徹底的に、だ。」

 ギフトでも何でも使ってやる――と、諦は鋭い殺意を放ちながら白夜叉の部屋を出た。

 そんな諦に、面々は驚いて固まっていた。

「あやつ…あそこまで仲間想いな義理堅い人間だったかの?」

「ノーネームの為にケツァルコアトルの神格が宿った鳥の核もぎ取ってきた奴だぜ、アイツ。」

「マッドサイエンティストという認識は、少し改めた方が良いのかしら…?」

「諦さん…!」

 残念ながら、ノーネームの為ではない。いや、少しはノーネームを思っているのだろうが、行動の殆どは自分の為のものである。

 




言わない時を知る人は、発言すべき時は知らぬ。
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