はるかなるワンダーランドに向かって   作:アンセンブル

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第1話 ワンダーランドへの一歩

 

 世界で一番のワンダーランド。そこには一体何があるのだろう?

 

 思い出すのは小さいころ食べたコッペパンの味。ずっとそれを追い求めているのに、見つからない。

 

 世界で一番のワンダーランド。きっとそこにいけば……。

 

 

 

 

 

 

 コッペパン。紡錘形の底が平たいパンで、よく真ん中に切れ込みを入れて様々な食材を挟んで食べる。

 

「かずま今日もコッペパン? よく飽きないね〜」

 

 僕はそのコッペパンが大好きだ。自分で作ったり、店で買ってきたり。学校の昼休みはほぼ毎日コッペパンを食べている。

 

「それどこの?」

 

「ニジガク近くのパン屋。そこのコッペパンがこの辺りじゃ頭ひとつ抜けておいしいんだよ」

 

「へぇ、じゃあ今度行ってみようかな」

 

「中須のおすすめするパンはどれもおいしいからな〜」

 

「虹ヶ咲学園といえばさ、これってかずまの姉ちゃん?」

 

「……ん?」

 

 そう言って友人のひとりがスマホを見せてきた。僕は嫌な予感がしながらも覗き込む。

 

 

『やっほ〜! 虹ヶ咲学園スクールアイドル、中須かすみで〜す!』

 

 

「……げ」

 

 映っていたのは、女の子が自己紹介をしている動画。その動画に映る奴はぶりっ子全開で、甘ったるい声を撒き散らしている。

 

「やばっ、似すぎだろ!」

 

「え、てかこれかずま本人じゃないの? 一年生って言ってたし……」

 

 本人な訳ないでしょ。

 

 でもそう勘違いするのも仕方ないかもしれない。だって実際、動画の女の子と僕の顔は瓜二つだから。

 

「……姉ちゃんだよ、双子の」

 

「やっぱり! 前に姉ちゃんがいるって話してたからそうだと思ったんだよ〜!」

 

「双子だったんだ」

 

 そう、僕は双子で姉ちゃんのかすみは虹ヶ咲学園、通称ニジガクでスクールアイドルをしている。男と女だというのに容姿がそっくりで僕は今でもよく女の子と間違えられる。

 

「この間ジョイポリスに行ったときニジガクのスクールアイドルがライブをやってたんだよ。それで調べてみたら見つけてさ」

 

「へ〜、ニジガクにもスクールアイドルがいるのか」

 

 世間では大スクールアイドル時代らしく、僕の通う東雲学院でもスクールアイドル部が存在して、校内で人気を有している。

 

「近江さんのお姉さんもスクールアイドルだったよ」

 

「え、そうなの!?」

 

 思わぬ情報に驚き、廊下側の席に座る女子、近江遥さんの方を見た。

 

 近江さんは東雲学院スクールアイドル部期待の新人でクラスメイト。人当たりも良く、僕たち男子にも明るく接してくれる。まさに文字通り学校のアイドルだ。

 

「さっき近江さんにも直接訊いた。ほらこの動画」

 

 友達がスマホを机の上に置く。みんながそれを覗き込んでいた。

 

「あれ、かずま見ないの?」

 

「見ない。トイレいく」

 

 しばらくスクールアイドルの話題が続きそうだ。姉ちゃんのことをあまり聞かれたくなかったから、僕は教室を抜け出した。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「かずおかえり〜」

 

 学校が終わり帰宅すると、ソファでぐうたらしている姉ちゃんの声が届いてきた。

 

「駅前のコッペパン買ってきたけど食べる?」

 

「食べる〜」

 

 パンを受け取る。姉ちゃんはコッペパン片手に自撮りをしていた。同じ顔をした人があざといポーズを決めているのを見るのは、すごい複雑な気分だ。

 

「同好会は?」

 

「今日は早めに終わった。明日はランニング練」

 

「土曜なのにようやるねー……」

 

「大変なこともあるけど、最近毎日が楽しいんだ〜」

 

 パンを頬張りながら笑顔で言う姉ちゃんを見て、少し安心感を覚えた。姉ちゃんの所属していたスクールアイドル同好会は一度廃部になった。理由はメンバーとの衝突とか生徒会長の横暴とかなんとか言ってた気がする。あのときの姉ちゃんはすごい寂しそうだった。

 

 とりあえず同好会が再始動してから姉ちゃんは前よりもずっと楽しそうにしていた。ずっと憧れていたスクールアイドルを思う存分楽しんでいる。

 

「でも明日午後から雨降るらしいよ」

 

「大丈夫大丈夫! 練習は午前だから!」

 

「風邪ひかないようにね」

 

「もぉ〜、心配してくれるの〜? お姉ちゃん嬉しいな〜♡」

 

 う、うざい……。

 

「心配してない。なんとかは風邪ひかないって言うしね」

 

「はぁ!? それどういうこと!? かすみんが馬鹿だって言うの!!?」

 

「馬鹿なんて言ってないでしょ。何? 自覚あるの?」

 

「ムッキー!! かずなんてもう知らない! ぷんっ!」

 

 姉ちゃんは拗ねて部屋に戻る。いや、ぷんってなんだよ。自分で言うな。

 

 正直に言うと僕は姉ちゃんのことを心配していた。上手く説明できないけど、良くないことが起こる気がする。姉ちゃんだけじゃなく、僕までも巻き込む何かが。双子の勘というやつだ。

 

 そんな勘が外れることを祈りながら、僕は自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

「あ゛ー……けほっ」

 

 日曜日。姉ちゃんは見事に風邪をひいた。降りしきる雨のなか、無謀にも走りにいったそうだ。

 

「ランニング練中止になったんだよね? どうして外出たの?」

 

「だっで家出たとき雨降ってながったし……せづ菜先輩とが走っでないがなと思って……」

 

 ベッドの上で姉ちゃんはガラガラな声で話す。顔も少し赤い。

 

「風邪引い゛たってことはかすみん馬鹿じゃな゛い……」

 

「馬鹿じゃない人は雨の中走らないから……」

 

 ピピっと体温計の音が鳴る。朦朧としている姉ちゃんから受け取って画面を見ると『37.8』という数字が見えた。

 

「熱もあるし、明日はお休みだね」

 

「そ゛んなあ゛……!」

 

 姉ちゃんは悲痛な様子で叫び、ケホッと咳を吐いた。

 

「どうしたの? 練習?」

 

「練習は゛ないけど明日は゛補習があって……」

 

 姉ちゃんは目に涙を浮かべ、この世の終わりというような顔をしている。

 

「りゅ、留年しちゃう……!!」

 

「それは……ご愁傷様」

 

 なんて運が悪い。まあでも風邪なんだから仕方がない。登校できる身体でもないし、学校側もそこら辺の事情は汲んでくれるだろう。

 

 姉ちゃんはそこまで頭が回っていないのか、赤い顔を青くして僕の手を取った。

 

「か、かずお願い! 代わりに゛補習受けて!」

 

「はあ?」

 

 姉ちゃんは何を言ってるんだ? 補習を代わりに受ける? ダメに決まってる。替え玉が許されるのならみんなやってる。

 

 ……いや、多分姉ちゃんが考えてるのはそうじゃない。双子だから分かる。分かりたくなかった。

 

「かすみんに゛成りすまして虹ヶ咲に゛行って!」

 

 ……やっぱり。

 

 考えていたことが当たってしまった。外れて欲しかったけど。僕が本当にそのまま代わりとして行くのではなく、姉ちゃんの制服を着て中須かすみとして補習に行ってほしいと言ってるんだ。

 

「やるわけないでしょ」

 

「一生に゛一度のおねがい!!」

 

「やだ」

 

 もちろん断固拒否した。女装して女子校に行ったらどうなるか。そんなのそのまま警察に連れてかれて最悪ふたりとも退学だ。そもそも何回目の一生に一度だ。

 

 これ以上話してもしょうがない。僕は姉ちゃんの部屋を出ようと立ち上がった。

 

「コッペパン同好会行ってもいいがら゛〜」

 

「……」

 

 足を止める。コッペパン同好会……ニジガクの数ある同好会のひとつで、コッペパンを作ったり研究したりしている。中学生の頃その存在を知り、それこそ女装して虹ヶ咲を受けることまで考えた。

 

 ただ僕はあれから大人になり、ものごとの善し悪しと割り切りがつくようになった。いくら憧れのコッペパン同好会を見学できるからといって女装なんてことしてはいけない。

 

 女装なんてするわけないんだ。

 

 

 

 

 

 

「でっ……かあ…………」

 

 月曜日。僕は姉ちゃんの制服を着て虹ヶ咲学園の校舎の前に立っていた。姉ちゃんが留年するのは可哀想だと思っただけで、断じてコッペパン同好会に釣られたわけではない。

 

 まずニジガクの敷地に入って思ったのは校舎がとてつもなくデカいということだ。姉ちゃんから送られてきた写真で見たことはあるけど、実物を目にするとその大きさに圧倒される。しばらくスカートの違和感を忘れてしまっていた。

 

「あ、かすみんだー!」

 

「ぎくっ!!」

 

 ぼーっとしていたところ後ろから声をかけられる。油断していた僕は変な声を上げてしまった。

 

「私、かすみんのファンなんです! 写真いいですか?」

 

 どうやら姉ちゃんのファンの人のようだ。姉ちゃんって本当にスクールアイドルなんだなと実感する。写真を要求されるなんてすごい……じゃなくて、早くここを切り抜けないといけない。

 

「もっちろん構いませんよー! かすみんのこと、かっわいく撮ってくださいねー!」

 

 姉ちゃんの声真似と、普通の女子ですらやらないようなあざといポーズをする。すごく恥ずかしい。死にたい。学校の友人にでもバレたら黒歴史確定だ。しかし全力でやらないと怪しまれ、正体がバレるかもしれない。姉ちゃんは基本写真とかサインとかは断らないからなるべく対応するように言われている。なんとか写真撮影をして切り抜けた僕は、逃げるように早足で校舎の中に駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 授業は思いの外順調に進んだ。姉ちゃんがクラスのメッセージグループに、風邪気味だからあまり話せないと連絡していたらしい。クラスメイトに心配されて嘘をつく度に良心が痛んだが、必要以上に話かけられないのはありがたかった。

 

 そして放課後の補習が終わり、いち早く学校を出ようとしたところで問題が発生した。

 

「ここどこだ……?」

 

 放課後の廊下は混雑しており、人混みの少ない道を通っていた。だけどそのせいで自分が今どこにいるのかわからなくなってしまった。もしかしなくても迷子だ。あまりにもニジガクが広すぎる。初めて足を踏み入れた僕が迷子になっても仕方がない……はずだ。

 

「ちょっと休憩しようかな……ん?」

 

 進めていた足を止めた。視界の端に映るそれを見てしまったから。

 

 芝生の上に人が倒れていた。

 

 ……え!? あれ、大丈夫!?

 

 急いで駆け寄った。無事かどうか確かめるために顔を覗き込んで……僕は息を呑んだ。

 

「綺麗……」

 

 オレンジブラウンの長い髪、陶器のような白い肌。昔姉ちゃんが好きだった絵本に出てくるお姫様みたいで、しばらく見惚れていた。

 

「すやぁ……」

 

 息があった。それもかなり穏やかな。……寝息? 寝ていただけ?

 

「あれ……今何時……」

 

 近くに人がいる気配を感じたのか、その人は瞼を擦りながらむくりと起き上がった。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「ん……?」

 

「その、体調悪いんですか?」

 

「いや〜? 彼方ちゃんは同好会前のお昼寝タイムだったのだよ〜」

 

「お昼寝?」

 

 よく見ると芝生の上に紫の枕があった。……なんだお昼寝か。自由だな、虹ヶ咲。

 

 お姫様の名前は彼方というらしい。リボンの色は緑。黄色じゃないということは先輩だ。

 

「よかった……。てっきり倒れていたのかと思いましたよ」

 

「ふむ……?」

 

「ん? どうしたんですか?」

 

「かすみちゃんだよね?」

 

「え? いや……あっ、はい。かすみんです。かわいいです」

 

 しまった。倒れてる人を見た衝撃で素になってたけど、今の僕は姉ちゃんなんだ。

 

「もしかして先輩、かすみんのファンなんですか〜♡」

 

「ほーほー……」

 

 僕の渾身の姉ちゃんの物真似を見て、彼方先輩は何やら考え込んでいる。

 

「あの大人気スクールアイドルのかすみんに会えるだなんて、彼方ちゃん感激だよ〜。ひとつお願い聞いてもらってもいい?」

 

「もちろんいいですよ〜♡」

 

 本当は断りたかったが、姉ちゃんはファンの人のお願いは断らない。ここで断るとかえって怪しまれるかもしれないから、僕は承諾した。

 

「じゃあ彼方ちゃんのここに頭を乗せてくれる?」

 

「……えっ?」

 

 彼方さんは芝生に正座して膝を叩く。……えっ?

 

「膝枕だよ〜。かすみちゃん膝枕が好きだって新聞部のインタビューに答えてたから、やってくれるよね〜?」

 

 何言ってるの姉ちゃん!?

 

 いや、そんなことよりも今どうするかだ。写真撮影ならまだしも膝枕は男としてアウトなんじゃないか? 本当に正体がバレたらまずい。ただここで膝枕を受けないのも不自然じゃないのか? それに女の人の膝枕とか多分一生できないぞ? どうしよう……。

 

「もちろん! かわいいかすみんが膝枕されちゃいます!」

 

 僕が選択したのは膝枕をされちゃうことだった。男って愚かだ。

 

「し、失礼します……」

 

 おそるおそる横になり、頭を彼方先輩の膝の上に乗せた。

 

 ……すごい。『トキメキ』が全身を駆け巡っている。正体がバレないかという不安や、一日女装したストレスが吹き飛んでいった。

 

「よしよし」

 

 彼方さんに頭を撫でられる。そうか、これが世界で一番のワンダーランドなんだ。

 

 ワンダーランドを見渡す。何故学校にあるのか分からない噴水、まるで学校が住処であるかのように堂々と歩く白猫、そして人、人、人……。

 

「……なんかすごい見られてません?」

 

「私たちスクールアイドルの知名度も上がってきたからね〜。こういうときは手を振ってあげよう〜」

 

「私たち……?」

 

「あれ、言ってなかったっけ〜」

 

「……?」

 

「彼方ちゃんもスクールアイドルなんだよ〜」

 

「……」

 

 ……、……え?

 

 スクール……アイドル? 姉ちゃんと同じ? それってつまり彼方さんと姉ちゃんは知り合いということで……。

 

「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の近江彼方ちゃんだよ〜。よろしくね、かすみちゃんのそっくりさん」

 

 

 

 

 

 

 僕が姉ちゃんではないとバレた。やばい、どうしよう……いや、でもまだ男だとバレたとは決まってない。最悪男とさえバレなければいいんだ。

 

「男の子だよね?」

 

 バレている。終わった……。もう逃げるしか道は……。

 

「まあ落ち着きたまえよ。今君は彼方ちゃんの膝の上、それが何を意味しているのか分かるかい?」

 

「わ、わかりません……」

 

「君の運命は彼方ちゃんが握っているということだよ〜」

 

「うっ……」

 

 頭を撫でられる。いや、押さえつけられてる? 分からない。ただひとつ言えるのは、僕はこの人に逆らえないということだ。

 

「『まな板の上の鯛』ってこういうとき言うんでしたっけ……」

 

「それを言うなら『まな板の上の鯉』だね〜。彼方ちゃん鯉は捌いたことないけど、鯛なら一度捌いたことあるよ〜」

 

 彼方先輩は手を縦にして僕の頭、そして首を軽く叩く。幸せな膝枕が一転、ギロチンの処刑台に立つ罪人の気分だ。

 

「君のお名前は?」

 

「中須かずま……姉ちゃん、かすみの弟です」

 

「あー、やっぱり君がかずま君だったんだ〜。本当にかわいい顔をしてるね〜」

 

「知ってるんですか?」

 

「かすみちゃんよく話すからね。そっくりって聞いてたけどここまでとは。彼方ちゃんもびっくりだ」

 

 近江先輩はのんびりな雰囲気で話すが、状況は変わらない。

 

「その、僕はこれからどうなっちゃうんでしょう……できれば警察にだけは……」

 

「そんなことしないよ〜」

 

 女子校に潜入するという警察に出されても文句が言えない状況で、近江先輩はそんなことを言ってくれた。

 

「彼方ちゃんの頼みを聞いてくれたらこのことは秘密にしておいてあげる」

 

「本当ですか! なんでもします!」

 

 今の僕にとって生きるための唯一見えた希望だ。土下座でもなんでもするつもりだ。

 

「かずま君は確か東雲学院に通ってるんだよね〜? じゃあ遥ちゃんのことは知ってる? 近江遥ちゃん」

 

「近江遥……はい、同じクラスです」

 

「おぉ〜、だったらちょうどいい」

 

 なんだろう。スパイでもするのだろうか。……ん、近江?

 

「遥ちゃんは妹なんだ〜」

 

 驚いて先輩の顔を見る。確かに近江さんと似て……なくもない。そういえば友達が近江さんのお姉さんもニジガクでスクールアイドルをやってるって言ってたな……それが先輩なんだ。あのとき動画見ておけばよかった。

 

「学校での遥ちゃんの様子を教えてほしいな」

 

「それだけでいいんですか?」

 

「もちろん~。お姉ちゃんとして遥ちゃんのことはなんでも知りたいんだ~」

 

「わかりました。といってもあまり近江さんとは話したことないんですけど……」

 

 僕は近江さんのことを思いつく限り話した。誰とでも分け隔てなく接するからクラスの人気者であるとか先生からの評判もいいとか。

 

「……あとは、お昼のお弁当が美味しいって女子の間で話題になってました」

 

「ふふーん、実はそれ彼方ちゃんが作ってるんだよ〜」

 

「え、近江先輩が?」

 

「彼方でいいよ〜。遥ちゃんと被っちゃうしね」

 

「じゃあ、彼方先輩」

 

 女の人を名前で呼ぶことなんて滅多にないからドキドキする。彼方先輩、彼方先輩……。いい響きだなあ……。

 

 それにしても彼方先輩が近江さんのお弁当を作っているのか。料理が得意なのかな?

 

「学校でも遥ちゃんが楽しそうで安心したよ〜」

 

「近江さんのこと大好きなんですね」

 

「それはもちろん。たったひとりの、世界で一番かわいい妹なんだから〜」

 

 世界で一番かわいい。姉ちゃんが聞くと怒ってしまいそうな言葉だ。同じ姉弟でも僕らと彼方先輩たちでは全然違うなあ。

 

「かずま君ありがとうね。遥ちゃんのこと聞けて楽しかったよ」

 

「そんな、お礼なんて言われるようなことは何も。むしろ男なのにこんなところにいて本当すみません……」

 

「ん~、別にいいよ〜。彼方ちゃんのことが心配で声掛けてくれたんだもんね。ありがとう」

 

 彼方先輩が頭を撫でる。優しくて暖かい手で、なんだかくすぐったかった。

 

「でも気を付けた方がいいよ〜。かすみちゃん人気者だから、あまり下手なことを言うとボロが出ちゃうよ〜」 

 

「そうですね……」

 

 確かに結果的に良かったけど、軽率な行為だった。彼方先輩じゃなかったら無事じゃ済まなかったかもしれない。

 

 次からは気をつけよう……。まあこれで成りすましも終わって次なんてないけどね!

 

 

 

 

 

 

「はあ!? 明日も!?」

 

 帰宅後、少し顔の赤い姉ちゃんから告げられたのは、明日もニジガクに行ってほしいということだった。

 

「一応聞くけどなんで?」

 

「明日彼方先輩の妹が同好会を見学するんだって。ぐぬぬ……」

 

 彼方先輩の妹というと近江さんのことだ。ニジガクに来るのか。

 

「なんでそんな唸ってるの?」

 

「彼方先輩の妹って東雲のスクールアイドル期待のホープなんだよ!? つまりこれは見学という名の敵情視察!!」

 

「敵ではないんじゃない?」

 

「甘いよかず! 同じ1年生なのにネットでチヤホヤ…じゃなくて注目されてて羨ましい、いや悔しい!」

 

 本音を隠す気のない姉ちゃん。というか近江さんってネットでチヤホヤされているの?

 

「私達が東雲学院のスクールアイドル部に負けてないってこと、部長のかすみん自ら証明してみせる!」

 

 姉ちゃん部長だったんだ……。大丈夫なのかニジガクのスクールアイドル同好会?

 

「でも可哀想なことにかすみんはまだ熱と喉の痛みが引かず明日も欠席……およよ……」

 

「喉の痛みは姉ちゃんが大人しくしないせいだけどね」

 

「うっさい! とにかく、そういうことだから明日もお願い!」

 

「ヤダ!」

 

「お願い! 一生に一度のお願い!」

 

「おばあちゃん、一生に一度の願いは昨日使ったでしょ?」

 

「侑先輩と一緒に同好会を案内するだけでいいから! なんでもいいから遥ちゃんにかすみんの名前を刻み込んで!」

 

「いやでも……」

 

「歓迎会にはコッペパンが必要だから、コッペパン同好会見学できるよ? 今日行けなかったんだよね?」

 

「……」

 

 コッペパン同好会……確かに今日は色々あって行けなかった。というか場所も分からないし、女装がバレるのが怖くて行くという発想すら湧かなかった。現に彼方先輩にバレちゃったし……。

 

 いや? 逆に言うと彼方先輩にしかバレなかったと言ってもいいんじゃないか? クラスメイトまで騙せたんだ。コッペパン同好会の人たちにも隠し通せる気がする。

 

「……じゃあ放課後になったら急いでニジガクに向かうよ」

 

「本当!? かずありがとう!」

 

 まあここまで来たら乗り掛かったなんとかだ。ここまでしてコッペパン同好会に行けないだなんて割に合わない。いざというときは彼方先輩もいることだし、明日も行ってやろう。

 

 

 

 

 

 

 翌日の東雲学院の昼休み。僕は近江さんの様子を観察していた。

 

 近江さんのお弁当、確かに美味しそう……彼方先輩が作ってるんだよな……。

 

「どうしたの中須君?」

 

 あまりにもじろじろ見過ぎたか、近江さんに気づかれてしまった。

 

「あ、いや、お弁当美味しそうだなって」

 

「これ? 実はこれね、お姉ちゃんが作ったんだ〜」

 

 近江さんはなぜか自慢げに胸を張る。彼方先輩もそうだけど、近江さんもお姉ちゃんのことが好きなんだな……。

 

「そうだ、前から訊こうと思ってたんだけど、ニジガクの中須かすみさんって知ってる?」

 

「うん。双子の姉」

 

「やっぱりそうなんだ! 自己PR動画見てびっくりしちゃった!」

 

 近江さんも姉ちゃんのことを知っていたようだ。まあ彼方先輩と同じ同好会な訳だし、メンバーにどんな人がいるかくらい調べるか。

 

「ねぇ、中須君はかすみさんから私のお姉ちゃんのこと聞いてない?」

 

「彼方先輩のこと?」

 

 近江さんは真剣な表情をして頷く。深刻な雰囲気を感じ取り真面目に答えることにした。

 

「マイペースで大好きな先輩って言ってたよ」

 

「うんうん」

 

「あといつでもどこでも寝てるから心配になるって言ってたかな」

 

「寝てる……」

 

 僕の言葉を聞いて近江さんはますます表情を険しくした。もしかしてちょっとまずいこと言った?

 

「お姉さんのことが気になるの?」

 

「うん。お姉ちゃんいつも私のことを優先してるから、ちゃんと自分のやりたいことをしているのか気になって……。だから今日、虹ヶ咲のスクールアイドル同好会を見学することにしたんだ」

 

 そっか、それが見学の目的だったんだ。

 

 なら近江さんの心配も問題ないだろう。昨日の様子を見る限り彼方先輩はスクールアイドルをのんびりと楽しんでいた。膝枕をするだけで注目を集めるくらい人気もあるみたいだし、今日の見学で近江さんも納得してくれるといいな。

 

 ……とりあえず一番の心配事は、近江さんや同好会の人たちに僕と姉ちゃんの入れ替わりがバレないかってことだな。

 

 

 

 

 

 

 帰りのホームルームが終わると同時に僕は急いで教室を出た。家に帰り姉ちゃんの手を借りながら虹ヶ咲の制服に着替える。コッペパンの材料を持って虹ヶ咲学園に向かった。

 

「お邪魔しまーす」

 

 姉ちゃんからもらった地図を元にコッペパン同好会へ向かい、同好会の人たちに出迎えられる。体調が本調子でないという設定の僕に任された役目は、近江さん歓迎用のコッペパンを作るというものだ。ついに憧れのコッペパン同好会に足を踏み入ることができた。

 

「あ、かすみんだー! 久しぶり!」

 

 ひとまず姉ちゃんじゃないと疑われていないようなので安心する。大丈夫そうなのでコッペパンの準備を始めた。といってもコッペパンは同好会の人たちが既に準備してあるので飾り付けをするだけだ。

 

「何作るか決まってるの?」

 

「はい! 今日作るのは『イチゴにこにこコッペパン』と『ベルガモットアイスるコッペパン』です!」

 

 まずはイチゴにこにこコッペパンから。コッペパンを縦に切れ込みを入れてイチゴソースと生クリームを塗り、最後にイチゴを4個トッピングして完成だ。

 

「載せるイチゴは4個。『にこにこ』だけにね!」

 

「あ、あはは……」

 

 コッペパン同好会の子が苦笑いしてくる。うん、ちょっと辛い。

 

 次に『ベルガモットアイスるコッペパン』に取り掛かった。

 

 ベルガモットはミカンの仲間の柑橘類。だけど生食や果汁飲料には使用されず、香料として使用される。『ベルガモットアイスるコッペパン』はベルガモットのかわりにミカンのスライスとアイスをトッピングしたコッペパンだ。

 

「じゃあミカンアイスコッペパンでいいんじゃない?」

 

「これには深いわけがあってですね〜」

 

 僕は理由を話す。もともとこれはアイスを使ったコッペパンを作ろうとしたときに思いついたものだ。アイスとコッペパンだけじゃ少し物足りない。何かもっと、もうひと工夫が欲しい……なにかもっと?

 

「なにかもっと……ベルガモット! そんな感じで思いついたのが『ベルガモットアイスるコッペパン』なんだ!」

 

「また駄洒落……」

 

「愛先輩の影響かなあ?」

 

「まあでもどっちもおいしそう! さすがかすみん!」

 

 コッペパン同好会の人たちが次々と誉めてくれる。うん、女の子からチヤホヤされるのっていいな……!

 

「ねえねえ。このコッペパン、図鑑に載せてもいい?」

 

「図鑑?」

 

 疑問を口にすると同好会の子が部室の引き出しからファイルを取り出した。ファイルの表紙には『コッペパン図鑑 Vol.2』と書かれている。中を見るとそこにはこれまでに作ったコッペパンの写真、作り方、製作者などがまとめられていた。

 

「すごいな……」

 

「これにかすみんのコッペパンを載せたいんだけどいいかな?」

 

「もちろんいいですよ!」

 

 こんなに詳しく書かれた図鑑に載るだなんて光栄だ。恥ずかしくならないように一応味見をしておくか……。

 

「え、すごく美味しい……なにこのコッペパン……」

 

 作ったコッペパンを一口食べ、あまりの美味しさについ素の声が出てしまった。自画自賛ではなく、同好会の人達の焼いたコッペパンがすごく美味しいのだ。

 

 食感、香り。どれをとっても一級品。僕の作るものはもちろん、イチオシの駅前のパン屋さんのコッペパンよりも美味しく感じられた。

 

「こ、このパンはどうやって作ったんですか!?」

 

「え? どうって、かすみんが教えてくれたふうに……」

 

「かすみちゃ〜ん、いる〜?」

 

 部室を開けて現れたのはツインテールで何故か先っぽが緑色の先輩。スクールアイドル同好会の高咲先輩だ。

 

「侑先輩〜♡ かすみんはここにいますよ〜♡」

 

「そろそろみんなが戻ってくる頃だけど大丈夫?」

 

 そういえば近江さんの歓迎会をするためにコッペパンを作ってるんだった。

 

「あー……はい! 大丈夫です、行きましょう」

 

 残念だけど仕方ない、最高のコッペパンが同好会にあることを知れただけで十分。作り方は本物の姉ちゃんを経由して訊こう。

 

 僕と高咲先輩はコッペパン同好会を後にした。

 

 

 

 

 

 

「かすみちゃん体調は大丈夫?」

 

「は、はい! 今日は無理ですけど明日なら復帰できると思います!」

 

「そっか。じゃあ今日はお手伝いしてもらっちゃおうかな〜」

 

「はい! なんでもします!」

 

 スクールアイドル同好会の部室までの道、高咲先輩とおしゃべりしながら歩いていた。

 

 高咲先輩も彼方先輩と同じスクールアイドル同好会の人。バレないよう気をつけなければならない。冷静に冷静に……。

 

「なんでも? じゃあ今部室でみんな着替えてると思うからタオル届けてくれる?」

 

「任せてください! ってえええ!?!?」

 

 予想外のお願いでつい叫んでしまった。

 

 え、タオル? みんな着替えてる? いいんですか? いやダメでしょ……でもタオル届けるくらい女の子同士なら普通じゃないか? よし、ここは毅然とした態度でタオルを受けとろう!

 

「かすみんに任せてくだ……」

 

「あははっ!」

 

 任せてください! と言う前に高咲先輩が突然笑い出した。

 

「ごめんごめん。実はもう知ってるんだ。かずま君だよね?」

 

「え?」

 

 当然であるかのように正体がバレており言葉を無くす。そんな僕に侑先輩はスマホの画面を見せてきた。そこには……。

 

 

……………………

 

 

『侑先輩〜』

 

 

『どうしたの?』

 

 

『今日訳あってかすみんじゃなくて

 弟のかずまが学校に来てるんですよ〜』

 

 

『え、どういうこと?』

 

 

『かすみん風邪ひいたじゃないですか。

 補習サボっちゃうと留年しちゃうかもしれないんで、

 かずに制服貸して代わりに出てもらってるんです』

 

 

『ええ!? そっちの方がまずいんじゃない? 

せつ菜ちゃんにバレたら……』

 

 

⦅ぶるぶる震えるスタンプ⦆

 

 

『そうならないためにも

 侑先輩の力が必要なんです!』

 

 

『バレないよう

 かずのサポートをしてください!』

 

 

『分かった! 

私に出来るか不安だけど頑張るよ!』

 

 

⦅サムズアップのスタンプ⦆

 

 

『あー♡ 侑先輩好き好き♡♡』

 

 

⦅ハートのスタンプ⦆

 

 

『かずのことは雑用でもなんでも好きに使ってください♡』

 

 

『あっ! 何か変なことしたらすぐに言ってくださいね!』

 

 

…………………………

 

「かす姉……!!」

 

 思わず地声が出てしまうがしょうがない。だって姉ちゃんは僕に内緒で高咲先輩に協力を頼んでいたのだ。なんでそんな大事なことを僕に伝えていないんだ。忘れてたのか? ……忘れてそうだな。

 

「大丈夫。かすみちゃんには紳士だったって伝えておくよ」

 

「ついでに説教もしといてください……」

 

「あはは! それにしても本当に似てるね、ときめくなあ……」

 

 そんな会話をしていたらスクールアイドル同好会の部室の前に着いた。高咲先輩がドアを開けると、そこには着替え中のスクールアイドルの人たちがいる……なんてことはなく、歓迎会のために椅子やら食器やらを運んでいた。

 

「かすみさん体調は大丈夫?」

 

「授業休んでたって聞いた」

 

 心配そうに声をかけてくれたのは確か……桜坂しずくさんと天王寺璃奈さんだったかな? 姉ちゃんがしず子、りな子って呼んでいる子だ。

 

「大丈夫大丈夫。ばっちり元気です!」

 

「遥さんが来るからっていたずらしちゃダメだよ?」

 

「僕はそんなことしないよ」

 

「僕?」

 

「あ、えっと……」

 

「さ、さっきまでかすみちゃんに『僕っ子』のかわいさについて語っていたんだよ!」

 

 ボロを出してしまったけど、侑先輩がフォローしてくれた。ありがとうございます……そして僕の馬鹿。

 

「そうなんですか……」

 

「何か違和感……」

 

 そんな感じで桜坂さんと天王寺さんから怪しまれながら歓迎会の準備は進んだ。高咲先輩のおかげでなんとかやり過ごすことができた……と、思う。

 

 

 

 

 

 

 しばらくしてニジガクを見て回っていた彼方先輩と近江さんが部室に戻り歓迎会が始まった。同好会のこれまでの活動を聞いたり、焼き菓子同好会の人たちが作ってくれたお菓子を食べながら歓迎会は進んだ。

 

「んんっ、遥ちゃん、これ彼方ちゃんイチオシ!」

 

「じゃあ……はむっ……」

 

 途中、彼方先輩が『イチゴにこにこコッペパン』を手に取って近江さんにおすすめしていた。そういえば今日彼方先輩に挨拶してないな、とを考えていたら彼方先輩と目が合い、ウインクしてくれた。不意打ちに胸がドキドキする。伝えてないのに彼方先輩は今日も姉ちゃんと僕が入れ替わってることに気づいているようだった。

 

「おいしい! これかすみさんが作ったんですか?」

 

「はい! ……えへへ」

 

 近江さんにも好評だったようだ。やっぱり自分の作ったパンを食べて喜んでくれるのは嬉しい。少し照れくさかった。

 

「私かずま君と同じクラスなんですけど本当そっくりですね!」

 

「あはは……よく言われます〜」

 

 キラキラした目で見る近江さんが眩しくて辛い。ごめん。目の前にいるの、あなたのクラスメイトのかずまです。

 

 心の中で土下座していたら突然、ガンッと鈍い音が耳に入ってきた。何事かと音の方を向くと彼方先輩が机に突っ伏していた。

 

「えっ!?」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

 突然のことに戸惑う僕と近江さんに対し、同好会の皆さんは落ち着いた様子だった。

 

「大丈夫ですよ、枕はちゃんとありますから」

 

「えっ……」

 

「この枕、彼方ちゃんのお気に入りなの。寝心地いいんだって」

 

 へー、そうなんだ……。

 

 ……じゃなくて。側から見たら異常事態だというのにみなさん対応に慣れている。これが同好会の日常なのだろうか。

 

「あの、お姉ちゃんはよく寝ちゃうんですか?」

 

「はい、私が知る限り、彼方さんは寝るのが大好きだと思いますよ?」

 

「特に膝枕で寝るのが好きだよね」

 

「「膝枕ぁ!?」」

 

「……かすみさんは知ってますよね?」

 

 近江さんと僕の声が重なる。しずくさんが怪しむ目で見てきたけど仕方ない。だって膝枕だよ? ……いや、僕もされたか。膝枕される方だけど。

 

 その後彼方先輩が起きるまで雑談しながらお菓子をつまみながら過ごした。近江さんは彼方先輩の学校での様子をしきりに聞いていた。彼方先輩は良くお昼寝をしているけど楽しく過ごしているのが分かったけど、近江さんはあまりいい顔をしていなかった。

 

 そして食器類を片付けはじめた頃、ようやく彼方先輩が目を覚ました。

 

「あれ……?」

 

「目、覚めた?」

 

「……はっ! くぅ~、遥ちゃんにお姉ちゃんの恥ずかしいところ見られてしまった~!」

 

 彼方先輩は枕に顔をうずめてしまった。……かわいい。

 

「疲れて当然だよ。いっぱい無理してるんだから」

 

「? 無理してるって何を?」

 

「やっぱり……。私、お姉ちゃんが忙しすぎて倒れちゃうんじゃないかって心配で、それで今日見学に来たの」

 

「そうだったの?」

 

「でも、今日のお姉ちゃんは疲れなんて感じさせないぐらい元気で楽しそうで、すごく嬉しかった。いつも私を優先してくれたお姉ちゃんがやっとやりたいことに出会えたんだって」

 

「遥ちゃん……」

 

「今のお姉ちゃんには同好会が大切な場所だってよくわかったの。だから私、決めたよ」

 

「ん? なにを?」

 

「私、スクールアイドルやめる」

 

 近江さんから告げられた衝撃的なの言葉。一瞬の静寂のあと、僕含めた全員の驚く声が部室に響き渡った。

 

「彼方ちゃんが寝ちゃったせいで、遥ちゃんのこと心配させちゃったの? 大丈夫だよ~」

 

「全然大丈夫じゃないよ!」

 

 彼方先輩は焦ったように取り繕うけど、近江さんの叫びに一蹴される。

 

「お姉ちゃんはお母さんが忙しいからっておうちのこと全部して、家計を助けたいからってアルバイトを掛け持ちして、奨学金もらってるからって勉強も頑張って! そのうえスクールアイドルもだなんて、誰だって倒れちゃうよ!」

 

「あ………」

 

「もういいの。私のことより、お姉ちゃんにはやりたいことを全力でやってほしいの」

 

「そんな……遥ちゃんは夢をあきらめちゃダメ!」

 

「お姉ちゃんが苦労しているのを分かってて、夢を追いかけるなんてできないよ!」

 

 ふたりの言い争いは続く。人様の家庭の事情とか近江さんの剣幕とかもあって誰も止めることが出来なかった。

 

「心配させちゃってごめんね。彼方ちゃん、もっと頑張るから」

 

 きっと近江さんが欲しかったのはそんな言葉ではなく、むしろ言って欲しくなかった言葉なんだろう。

 

「っ……! お姉ちゃんの分からず屋!」

 

 近江さんはそう叫ぶように言って、同好会の部室を出て行った。

 

 




かすみんって男装も絶対似合うよねという発想から生まれた作品。

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第2話 信じて We can FLY
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