遥視点
お姉ちゃんは世界で一番優しくて、私の憧れだ。
小さいときからお姉ちゃんは、私が世界一可愛いなんて言ってお姫様のように甘やかしてくれた。私もそれが当たり前であるかのように何の疑問に思わず、お姉ちゃんに甘える日々を過ごしていた。
中学2年生になったとき、デパートの屋上で可愛い服を着た女の子たちが歌とダンスのパフォーマンスをしているのを見た。
「すごい! かわいい!」
「ダンスも揃っていてすごかったね〜。スクールアイドル……っていうんだって」
それが私とお姉ちゃんのスクールアイドルの出会いだった。キラキラした衣装を着て一生懸命踊る姿を見て、すっかり私はスクールアイドルの虜になった。
「お姉ちゃん、私高校生になったらスクールアイドルやりたい!」
「わあ! 遥ちゃんだったら絶対に世界一のスクールアイドルになれるよ!」
「お姉ちゃんはやらないの?」
「お姉ちゃんはいいかな……遥ちゃんを応援したいし」
この日からスクールアイドルになるために体力作りやダンスの練習を始め、東雲学院に入学した私はスクールアイドル部に入った。お姉ちゃんも虹ヶ咲のスクールアイドル同好会に入部したと聞いて驚いたけど、お姉ちゃんとアイドルをやれると思い嬉しかった。
本当に嬉しかった。だけど……。
「へー、遥ちゃんのお姉さんもスクールアイドルやってるんだ!」
ある日のレッスンの休憩中、かさね先輩とクリス先輩と話しているときだった。
「そうなんです! ニジガクで最近になって活動を再開したんですよ!」
自慢のお姉ちゃんを先輩たちに紹介したい。そんな気持ちで私はスマホでお姉ちゃんの自己紹介PR動画をかさね先輩とクリス先輩に見せた。
「え? この人……」
「あれ、お姉ちゃんのこと知ってるんですか?」
お姉ちゃんを見たふたりは、顔を見合わせて困ったような表情を浮かべていた。お姉ちゃんを知っているけど私に伝えてもいいのか迷っている、そんなふうに思えた。
「えっと……なんて言えばいいのかな……」
「お姉ちゃんのこと知りたいんです。教えてください!」
嫌な予感がして頭を下げる。妹として、知っておかなければならないことだと感じた。
そんな私の気持ちが伝わったのか先輩たちが口を開いてくれた。
「先週私たちがランニングをしていたとき、道で倒れている方がいまして……」
「それが、この人だった」
「えっ……」
頭を殴られたような衝撃を受けた。お姉ちゃんが……倒れてた?
「あ、全然病気とかじゃなくてただ寝不足で寝てただけみたいだよ? 気持ちよさそうに呼吸してたし、起きた後も元気そうだったし……」
先輩がフォローしてくれたけど、私は全く安心できなかった。
だっていくら寝不足とはいえ、道で寝るなんておかしいもん。
寝不足……。お姉ちゃんは毎日お母さんの代わりにご飯を作ってアルバイトまでもしている。さらにはニジガクの特待生で、奨学金のために夜遅くまで勉強をしている。
心当たりなんてたくさんある。寝不足どころか、身体を壊してもおかしくない状況だ。どうして今まで気が付かなかったんだろう。
お姉ちゃん……大丈夫なの?
いや違う、大丈夫なわけないんだ。無理をしていても何も言わないのは私たち家族に心配をかけさせないため。私にやりたいことをやりたいようにさせるため。私はそんなことにも気づかないまま、お姉ちゃんに甘えていたんだ。
自分が恥ずかしいし、許せない。私はお姉ちゃんのおかげでスクールアイドルをやれて、次のライブではセンターを任された。お姉ちゃんのおかげで夢が叶ったんだ。だったら次はお姉ちゃんが夢を叶える番で、私がお姉ちゃんを支える番だ。
◇
そして私はニジガクのスクールアイドル同好会を見学することにした。あんなに忙しくても続けている同好会。そこにお姉ちゃんのやりたいことがある気がしたから。
ニジガクに着いてからはまず校舎に驚かされた。とにかく大きい。特待生のお姉ちゃんのすごさを改めて思い知った。
同好会のお姉ちゃんの姿にも驚かされた。いつものんびりしているお姉ちゃんがあんなに早く走っているのも、筋トレを真面目にやっているのも見たことなかった。
そして何より楽しそうだった。それぞれの個性にあった練習をしていて、みんなが楽しそうだった。私がスクールアイドルを始めたからお姉ちゃんもやっているのかと思ってたけど、お姉ちゃんにとって同好会が大切な場所で、夢の場所であることを理解した。
異変が起きたのはレッスンが終わり、かすみさんのパンを食べながらお姉ちゃんのことを聞いていたときのこと。突然お姉ちゃんが気絶したように机に頭をぶつけたのだ。それがただ寝ているだけだなんて、近くに駆け寄るまで気がつかなかった。
「大丈夫ですよ。枕はありますから」
しずくさんはそう言ってくれたけど、そういうことじゃなくないですか!? 急に寝出したんですよ!?
同好会の皆さんは急に倒れたお姉ちゃんのことを気にしていなかった。まるでいつものことであるかのようにお姉ちゃんの下に枕をおいて、雑談をしている。
「あ、あの! お姉ちゃんはよく寝ちゃうんですか?」
「そうですね。私が知る限り彼方さんはお昼寝が大好きですよ」
「特に膝枕が好きだよね」
「「膝枕ぁ!?」」
なぜかかすみさんと声が重なった。かすみさんはお姉ちゃんのことよく知っているはずなのにどうしたんだろう?
とにかくお姉ちゃんは皆さんに膝枕をしてもらうほど頻繁に眠っていることが分かった。練習しながら寝ちゃったり、全然起きないくらい熟睡しちゃったりしていたそう。お姉ちゃんはやっぱり無理をしていたんだ。私には悟られないように学校では気絶するようにお昼寝して、スクールアイドルの活動にも影響が出てき始めている。このままじゃお姉ちゃんが壊れちゃう。
……決めたよ、お姉ちゃん。
心の中で決意した私は、スクールアイドルを辞めることを起きたお姉ちゃんに告げた。
「遥ちゃんは夢を諦めちゃダメ!」
「そんなの気にしなくていいんだよ。だって遥ちゃんは大事な妹なんだもん」
「心配させちゃってごめんね。彼方ちゃん、もっと頑張るから」
お姉ちゃんの反応は、ある意味で予想できたものだった。
それでも、少しくらい私の気持ちが伝わって欲しかった。
「お姉ちゃんの分からず屋!」
耐えられなくなった私は部室を飛び出した。
◇
次の日はいつもより早く家を出た。朝ご飯も食べてないし、お弁当も作らなくていいって言ったから持っていない。空腹に耐えながら向かえたお昼休みで問題が起きた。
「む、蒸しパン一個だけ……」
まさかお昼の購買があんなに混んでいるとは思わなかった。なんとか買えたのは小さな蒸しパン一個だけ。これじゃあ部活まで持たない。どうしよう……。
「近江さんどうしたの?」
そんな私に声を掛けてくれたのが中須君だった。かわいい顔をした男の子で、男子からも女子からも人気がある。そしてニジガクのスクールアイドル、中須かすみさんの双子の弟。本当に似ていて、一瞬かすみさんに話しかけられたかと思ってしまったのは内緒だ。
「コッペパンいる?」
「いいの?」
「うん多めに作っちゃったから」
「ありがとう……」
昨日の今日でこれまであまり話したことのない中須君に声を掛けられたのは少し怪しかったけど、素直に受け取った。とにかくお腹が空いたから。
「おいしい……!」
少し辛めのソースをかけたミートボールのコッペパンで、お腹が空いた私にぴったりなパンだった。味ももちろんおいしい。昨日のかすみさんのコッペパンもそうだったけど、普通のコッペパンと一味違うような感じがした。
「分かる!?」
「うわあ!?」
そう伝えると中須君は興奮したように身を乗り出して私の手を掴んだ。顔が近い!
「そうなんだよ! メインはあくまでミートボールでサルサソースなんだけど、それでパンの味が隠れないように……」
中須君は水を得た魚のようにパンのこだわりを語り始めた。その豹変ぶりに困惑する。途中で中須君は我に返ったようで顔を赤くして恥ずかしがっていた。……かわいい。
「……そういえば姉ちゃんとは昨日会ったんだよね」
中須君は恥ずかしいからか話題を変えてきた。
「……うん。中須君に似ててすごく可愛かったよ。コッペパンもおいしかったし」
「それで風の噂で聞いたんだけど……」
あ、これ昨日のこと訊いてくるやつだ。
「ところで中須君コッペパン以外も料理できるの?」
やっぱり中須君は昨日のことを知っているようだった。かすみさんから聞いたのかな? 私を説得するように頼まれたのかは分からないけど、昨日の話をするつもりはない。
だから私から強引に話を振って、昨日の話に持っていかせなかった。私が言葉を遮るようにして質問をすると、中須君は困った顔をしながらも答えてくれた。押しが弱いなあ。
次の日も中須君がコッペパンを持ってきて、一緒にお昼を食べるようになった。かすみさん……いや、お姉ちゃんに頼まれたのかな? じゃないとおかしいもん。それまで私と中須君はあまり話したことなかったんだから。
……それでも中須君の持ってくるパンはおいしそうだったから受け取った。
「今日のコッペパンは名付けて『たまごハンバーグコッペパン』!」
「今回のこだわりポイントは……」
「近江さんってドラマとか見る?」
中須君と話すのは楽しかった。同じお姉ちゃんを持つ者同士だからなのかな? なんか波長が合う。
「……中須君はどこまで聞いてるの?」
だから、自分からお姉ちゃんとのことについて話を振った。
「私、間違ってるのかな……」
何回も決心したことなのに、何回も不安になる。本当にこれがお姉ちゃんの幸せになるの? 多分あの場にいたみんなが、私がスクールアイドルを辞めるのに反対なんだと思う。
「間違ってないと思うよ」
だから、中須君から肯定してもらえるなんて思ってなかった。
「姉ちゃんが言ってたけど、ここ最近の彼方先輩は変だったんだって。だから近江さんが彼方先輩の代わりになって負担を減らすっていうのは間違ってないと思うよ」
「中須君……」
「勉強に部活に家事に……僕だったら壊れちゃうよ」
「そうだよね!」
中須君が言うことは私が考えていることそのものだった。やっぱり中須君は話が合う。少し感動した。
その後はお互いのお姉ちゃんのことを話しながらお昼休みの時間を過ごした。これだけ楽しい時間は久しぶりだったかもしれない。
◇
ライブの前日の金曜日、当日の最終確認を済ませ早めに解散した私は、中須君のいる調理部を見学しに行った。これから私が料理をつくることになるから、その勉強がしたかった。
「盛り合わせて……できた!」
「ありがとうかずま君! じゃあ私バスケ部に持って行くね〜!」
コッペパンを受け取った女の先輩はご機嫌そうに家庭科室を出て行った。このあと彼氏さんとデートらしい。
「近江さんって好きな人いるの?」
「え!?」
変に上ずった声が出てしまった。まさか中須君からそんなことを聞かれるなんて思わなかったから。
好きな人……お姉ちゃんかな? 話の流れ的にそういうことではないんだろうけど。
「中須君はいないの? 好きな人?」
誤魔化すため、逆に聞いてみた。中須君は男子だけじゃなく女子からの人気も高い(かわいいという意味で)。そんな中須君に好きな人がいるのなら結構なニュースだ。私も少し気になる。
「……いないよ、好きな人」
少し間をおいて中須君が答えた。
……怪しい、すごく怪しい。だって今絶対だれかのこと考えていたよね? 好きとまでいかなくても、その人のこと気にはなっているんじゃない? ……私には関係ないことだけど。
そして当初の目的通り、中須君から料理を教わった。教えてもらったのは卵焼き。お姉ちゃんの作るお弁当に必ず入っている私の大好物だ。
だけど上手く作れなかった。形が崩れてボロボロになっちゃっている。味は多分ひどくないと思うけどまだお姉ちゃんに見せられるものじゃない。これは自分で食べちゃおう。
「僕も食べていい?」
「え、でも……」
私が言うよりも先に中須君は卵焼きを口に運んだ。一緒に作ったから大丈夫だとは思うけど緊張する。
「うん。すごくおいしいよ。形なんて気にならないくらい」
中須君はかわいい笑顔を向けてそう言った。
「あ、ありがとう……」
……ずるいなあ。そんなこと言われたら嬉しくなるに決まっている。顔が熱くなった。
その後は食器を洗いながら夢の話をした。中須君の夢はやっぱりというかパン屋を開くこと。近くにあったら絶対に行きたい。中須君は子供っぽい夢と恥ずかしがっていたけどそんなことはない。
「近江さんは夢ってあるの?」
「私の夢……」
考える。……お姉ちゃんを養うこと? 他には……。
「……将来何になりたいとかじゃないけど、この間まではラブライブで優勝するのが夢だったかな?」
スクールアイドルをやっている人だったら誰もが一度は見る夢。お姉ちゃんたちも最初はラブライブ優勝を夢見たはずだ。
そんな夢を私は諦めようとしている。そもそも私がスクールアイドルをやれているのは、お姉ちゃんがひとりで家のことをやっていたからだ。普通の人では壊れちゃうほどのことをお姉ちゃんはしており、現にニジガクでは気絶したように眠っているのを知った。お姉ちゃんが苦労しているのを分かってて、これ以上夢を追いかけるなんてできない。
「近江さんは優しいんだね」
「優しくないよ」
本当、優しくなんてない。最近までお姉ちゃんの苦労に気付きもしなかった。本当馬鹿だ。
だからこれからは私がお姉ちゃんがやってきたことをする。そのためにも私はスクールアイドルを辞める。お姉ちゃんがそれで納得するとは思ってないけど、これは決めたことだ。誰も賛成してくれなくても、ひとりでやりきるつもりだった。
「僕は近江さんのこと応援するよ」
「え?」
だから中須君の言葉を聞いて、すぐに理解することが出来なかった。
「家のことをやるって言ってもさ、いきなりは難しいと思うよ。だからもし何か困ったことがあったら言って。料理とか教えるし、コッペパンならなんでも作るから」
「ありがとう……。でもどうして中須君がそこまでしてくれるの?」
中須君から料理を教えてもらえるのなら心強い。でもどうしてそこまでしてくれるの? そもそもかすみさんやお姉ちゃんから頼まれているなら、中須君は私を止める立場なんじゃないの?
「うーん……多分、近江さんのファンだからかな」
「えぇ、そうなの!?」
初耳だった。そっか、中須君私のファンだったんだ……嬉しい。
「だから明日のライブ頑張って。」
「うん、中須君も見に来て」
正直なところスクールアイドルを辞めたところでお姉ちゃんの代わりが務まるか不安だったし、側に誰もいないというのは辛かった。でも中須君が隣にいるなら、なんとかやっていける気がした。
だから悔いが残らないように明日のライブは精一杯頑張ろう。
◇
そしてライブ当日になった。私のスクールアイドル最後となるライブ。お客さんもしっかり入っているみたいだ。
2階の方を見るとニジガクの皆さんの姿があった。だけどお姉ちゃんの姿はない。お姉ちゃんに限って来ないなんてことはないと思うけど少し不安になる。今日だけは絶対に見に来て欲しいから。
「遥ちゃん、こっち!」
「かすみさん?」
差し入れを届けに侑さんとかすみさんが来たかと思うと、引っ張られて客席側まで連れて来られてしまった。そこには目を丸くして驚いている中須君もいた。中須君も事情は知らないみたいだった。
そして突如照明が落ちた。まだ始まる時間ではない。予定にはない演出に戸惑っていると、ステージの真ん中にスポットライトが落ちた。そこにいたのは……。
「お姉ちゃん……?」
~~~♪
きれいな歌声だった。小さい時から大好きだった、お姉ちゃんの歌声。歌いだしてすぐに私に向けた歌なんだと理解した。
自然と涙がこばれていた。
曲が終わる。私はしばらく動かずにいた。
「近江さん」
中須君に叩かれて我に帰る。
「もうすぐ出番でしょ? それに彼方先輩に言いたいこと、あるんじゃない」
「うん……そうだね」
お姉ちゃんに言いたいこと、いっぱいある。私はお姉ちゃんのいるステージ裏まで走り出した。
「お姉ちゃん!」
「うおっ! おおっと〜」
お姉ちゃんを見つけて飛びつくと、しっかりと受け止めてくれた。
「遥ちゃん」
優しく頭を撫でられる。小さい頃に戻ったみたいだ。
「ごめんね。遥ちゃんのこと分かってなくて。彼方ちゃんのこととっても大事に想ってくれていたんだね」
「ありがとう」
「あ……」
また涙が出そうになる。固く誓った決意が溶けていくのを感じた。
「あのね。ふたりとも同じ思いならお互いを支えあっていけると思うの」
「支えあって……」
「これからはうちのこといっぱい手伝ってね。お互い助け合ってスクールアイドル続けていこ? 2人で夢をかなえようよ」
「お姉ちゃんはそれでいいの? アルバイトしながらスクールアイドルってやっぱり大変だよ?」
「平気平気、だって遥ちゃんもスクールアイドルをするのも彼方ちゃんの夢なんだもん」
「お姉ちゃん……」
「スクールアイドルではライバルだよ? お互い頑張ろ!」
「うん!」
お姉ちゃんの手を取って喜びを分かち合った。お姉ちゃんって本当すごい。たった少しの歌と言葉で私の心をこんなに動かすんだから。
「遥ちゃーん! そろそろ出番だよ!」
「あ、はい!」
先輩に呼ばれてお姉ちゃんと離れる。そうだ、これからライブなんだ。
今日引退するつもりだったこと、グループの人たちには黙っていた。でもこうしてお姉ちゃんがライブをしたということは、みんなにはバレていたってことだよね。
「あの、みんな……」
「いいよ、何も言わなくて」
「遥さんの気持ち、私たちにも伝わっています」
グループのみんなの言葉に胸を打たれる。本当に私は自分勝手で周りの人に恵まれていたんだな。
「今日のライブ、お姉さんのより盛り上げないとね!」
「……はい!」
今いるお客さんは私たちのライブを見に来てくれた。それなのにみんなすっかりお姉ちゃんに心を奪われている。今からそれを取り戻さないといけない。
『近江さんのライブ楽しみにしているよ』
中須君のことが頭をよぎった。様子をみるとかすみさんと談笑していた。並ばれると本当に似ている。
見ていて。お姉ちゃん、中須君、見に来てくれたみなさん……これが私、近江遥の始まりです!
「東雲学院スクールアイドルです! 一緒に盛り上がっていきましょう!」
◇
ライブはあっという間に終わり、大盛り上がりを見せた。今までやってきたライブの中で一番の盛り上がりだったんじゃないかと思うくらい。先輩たちにもよくやったと褒められた。
「おーい遥ちゃーん」
「お姉ちゃん!」
ステージ袖からお姉ちゃんが顔を覗かせて手を振っていた。
「最高のライブだったよ~。いろいろ感想をいいたいけど、うちに帰ってからにするね。晩御飯はどうする? みんなと食べてく?」
「うーん……今日はおうちで。久しぶりにお姉ちゃんのごはんが食べたい」
「遥ちゃん……!!」
お姉ちゃんに抱きつかれる。ふたりで協力すると言ったけどそれはそれ。今日はお姉ちゃんのご飯が食べたかった。
「じゃあみんなを待たせているから帰るね~」
「あ、待ってお姉ちゃん!」
「なぁに〜?」
「中須君もいる?」
「いるよ~。今頃同好会のみんなとお話ししてるんじゃないかな〜?」
「私ちょっと行ってくる!」
スクールアイドルを続けることにしたこと、お礼、中須君に伝えたいことがたくさんあった。
「中須君!」
「あ、近江さん! ライブすっごい良かった! ときめいたよ!」
「うん、ありがとう……」
出会い頭中須君の笑顔を見て言葉が出せなくなる。スクールアイドルを知らなかった中須君を満足させられたのは嬉しい。
「……それでね。私、スクールアイドル続けることにしたんだ。家のこと、お姉ちゃんと二人で協力することにしたの」
「そっか。近江さんたちなら絶対うまくやれるよ」
「……今回のこと、本当にありがとう。中須の言葉に救われたし、中須君がいなかったら本当に取り返しのつかないことになっていた」
「そんな大したことしてないよ。ただパンを作って近江さんと話しただけ」
「そんなことないよ。ひとりで意地になっていた私を、中須君が支えてくれた。だからお姉ちゃんの歌を聴いて、素直にふたりで頑張る道を選べた」
「そう、なのかな……。そう言ってもらえると、僕の方もちょっと安心したよ」
「それでね……その……」
一度呼吸を整える。
「私がスクールアイドルを続けても、中須君は応援してくれる?」
「もちろん。近江さんがどんな道を選んでも、必ず応援するよ」
悩むそぶりも見せずに中須君は即答する。中須君は優しいから、そう答えてくれるのではないかと期待はしていた。ただ、私をまっすぐ見つめるその瞳がキラキラと輝いていて目が離せなくて……。
「……ありがと」
なんとか声を絞り出すことができた。顔が熱い。鼓動が大きく、早く鳴っているのを感じる。
あぁ、私……。
中須君のこと好きだなあ……。
「それじゃあ僕たちは帰るね。またね、近江さん」
「うん……ばいばい、中須君。また学校でね」
また明後日になったら中須君に会える。それは嬉しいことだけど、これからどういう風に中須君と接すればいいんだろう……。にやける顔を隠しながらそんなことを考えた。
◇
その日の夜。久しぶりにお姉ちゃんのご飯を食べて、部屋でくつろいでいた。
「明日からは私がご飯作るからね」
「はーい。でもいきなりは難しいと思うから彼方ちゃんと一緒にね。遥ちゃんは今日頑張ったんだから〜」
「お姉ちゃんだって頑張ったでしょ? 本当、すごいライブだった」
「びっくりした?」
「それはもちろん。私、お姉ちゃんのライブを見るまで本気でアイドルを辞めるつもりだったんだよ? 中須君も応援してくれるって言ってくれて、なんとかなるかもって思ったのに……」
「かずま君そんなこと言ってたの?」
「うん。お姉ちゃんが頼んだんじゃないの?」
「いや。かずま君にはただ遥ちゃんの話し相手になってあげてって頼んだだけだよ」
そう……なんだ。じゃあ応援してくれるって言葉は中須君の本心から出た言葉なのかな? 本当に私がスクールアイドルを辞めても側にいてくれたんだ。
「遥ちゃんにやにやしてる。か~わいい~」
お姉ちゃんに頬をつつかれて我に返る。
「恋する乙女って感じだね〜」
「うん……」
特に否定しないで頷く。お姉ちゃんに誤魔化す理由もないしね。
「そっか。ついに遥ちゃんも恋……嬉しいような、寂しいような」
後ろから抱きしめられる。お姉ちゃんヤキモチ妬いてるのかな?
「今度お礼しないとね」
「そうだね」
「じゃあお礼としてデートに誘おうか」
「で、デート!?」
お姉ちゃんの提案に声が裏返ってしまう。デートって、いきなりそんな……。
「無理だよ!? 無理無理!」
「じゃあかすみちゃんも誘って4人デートにしようか~。彼方ちゃんもかずま君にお礼言いたいし」
「でも……」
「決まり〜。早速かすみちゃんに連絡するね〜」
お姉ちゃんはスマホを操作して連絡してしまった。
もう覚悟を決めよう。デートと言ってるけどつまりは4人で遊びに行くだけ。そう考えたら気持ちも楽になったし、楽しみにもなってきた。
その後もおしゃべりを続け、お姉ちゃんがひと足先に寝入ってしまった。今日は2段ベッドじゃなくて同じ布団。狭いけどお姉ちゃんの顔がよく見える。
お姉ちゃんは本当優しい。私のために家事も勉強も頑張って、恋を応援するためにデートの約束も取り付けてくれた。
明日から私が朝ごはんを用意する。しばらくはお姉ちゃんが見てくれると思うけど、早く上達してたっぷり寝かせてあげたいな。
今までありがとうね。世界で一番大好きだよ。
お姉ちゃんの手をとって目を瞑る。温かい。失うかもしれなかったぬくもりを感じながらゆっくりと眠りに落ちていった。
次話9月23日更新予定
にじよんアニメ化おめでとう! 侑ちゃんやったぜ!
この物語は全10話くらいの予定です。
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第4話 ねじれる4人デート