新時代を、それでも   作:ずーZ

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6話 シェルズタウン④

 

 

 

 

 

 

 あの凍りついた空気を一気に氷解させたのは、急に倒れたゾロだった。

 大怪我でもした!? って一瞬の心配は盛大なお腹の音で杞憂に終わったわけだけど……

 

「くはぁーっ、食った食った!! いやもう生き返る気分だっ!」

 

 出る料理出る料理出た傍から平らげる姿は、9日も飲まず食わずでいたっていうからで。

 その話に納得するより前に「なんで生きていられたの?」って疑問が来る。

 ……ゾロってホントのホントに人間なの? 

 

 猛烈な勢いで重なっていく汚れた空の皿が、ゾロが食べ終わった事でようやく落ち着いてきた。

 また何枚か洗って拭き終わったお皿を重ね持って、隣で調理中のリカちゃんって子のお母さんに視線を向ける。

 

「ん? ああ、ありがとうウタさん、じゃあその皿はこっちに、1番下のだけはご近所さんからのだからそっちに……ええありがとう! 

 それにしてもやっぱり悪いわ、貴女にも寛いで欲しいのに」

 

 眉を下げてそう言われましても。

 厚意に甘えて美味しいパイは頂いてる。苦笑いでお腹をさすって、もう満腹だと示す。

 

「そう……ならいいけれど」

 

 その視線が何か言いたげに、私の腕や首に向けられる。

 洗い物をするのに少し服を巻くって晒した腕、スカーフをコビーの手当に使って今は何も巻いてない首元。

 

 お肉が薄いと言えば聞こえは良い、そんな見てくれ。

 

 気にされてる……ダダンさん達からも何だかんだ気にされて「もっと食えどうにか食え!!」って半ば怒られたこともあった。

 

 食べててどうしても飲み込む事に疲れて、疲れてるうちにお腹が膨れちゃうから食べれなくなってしまう。

 それでも日々頑張ってなるべく食べてはいる、能力を使うにも船旅するにも体力は欠かせないもの。

 果物とか甘いお菓子とかの間食、また増やそうかな。

 ルフィに、あとゾロにもか。勝手に食べられないようちゃんと言っとかないと……ホントにちゃんと。

 

「おばちゃんお代わりー!」

「……俺が言うのもなんだが、遠慮ってのを知らねえんだなお前」

 

 ルフィ達がガツガツ食べ終わった後のお皿を、コビーやおさげの可愛いリカちゃんから受け取って、また洗っては拭いてを繰り返す。

 

 ……にしたって別に良いんだけど、なんでお店じゃなくて民家に来てるんだろ私達。

 モーガン親子をぶっ飛ばした報告をどうしてもしたい人がいる、ってルフィが言うからついて来てみて経緯を伝えたら、様子を伺ってた街中の皆が大いに喜んでその流れでこうなった訳だけど。

 

「すいませんぼくまでご馳走に」

「いいのよ! むしろもっと食べて早く怪我治しちゃいなさい!」

 

「お兄ちゃん達凄かったんだね!」

「あったり前さ! でももっともっと凄くなるぞ!」

 

 リカちゃんも、リカちゃんのお母さんも、窓の外にいる街のみんなも嬉しそうだし、気にしなくていっか。

 

「それでこれからどうするつもりだ?」

偉大なる航路(グランドライン)に行こう!」

 

 ゾロとルフィのやり取りにツルンッ! と手元から皿を逃がした。いきなりのルフィ節は止めて! 

 咄嗟に音符でキャッチしたから無事だけど危なかった。

 隣から目を丸くして音符と私を交互に見られているけどそれどころじゃない! 

 

「まった無茶苦茶言ってますね!? 3人でなんて、こればっかりは無理無茶無謀と言わせてもらいますよ!!」

 

 いくら何でも今はまだ早いです! って言ってくれているコビーにもっと言ってやってと後ろで何度も頷く。

 ……やっぱりコビー付いてきてくんないかな。

()()()を私達3人でなんて、はっきり無理。

 あんな船と私の航海術じゃすぐ死んじゃう、間違いない。

 

「おい船長、船員も1人反対みてえだが、それでも行くのか?」

「ええ? ダメなのかウター……?」

 

 ぐ……そ、そんな、悲しそうに見ても、……もうっ。

 単にダメって訳じゃない。

 コビーも言ってるけど「今はまだ」ダメってだけで……仕方ない。

 ちょっと疲れるからあまり頻繁には使いたくないんだけど! 

 

「お、相変わらずキレーだなあ」

「へえ」

「うわ……文字と絵?」

 

 能力を使って宙に次々描いていく。

『今スグは』と文字を、『私達3人』を、『今の船』を、『大きな帆船』を、『航海士』を、『人員』を、そして『偉大なる航路(グランドライン)』を──

 

 ──ということ! 

 

「要するに、偉大なる航路(グランドライン)へ向かうなら最低限、デカい船とそれを動かす人員、航海士なんかを仲間にしろって話だった訳だな?」

 

「なーるほど! なんだよウタそういう事か! もっとすげぇヤツら集めてすげぇ船用意すりゃいいって事か! うしっ、この島を出たらまず仲間舵いっぱいだー!」

 

「……改めて考えると()()が船長の船か。ははっ……腹括るしかねえなあ」

 

 遠い目をしてるゾロには心配要らなそうだけど、ルフィの反応が若干心配……ま、まあ良かった通じて。()()()()かいがあるー! 

 

「ところでよ? 俺もだが、他のやつらが()()なってるのは結局何でだ?」

 

 ヤケに十字架が似合うような刺繍がされてる紅と黒のタキシード。そんな姿になっているゾロが、自分の、変わってしまった服の襟元を摘みながら呆れた顔を向ける先には……うーん。

 

 ルフィはシャンクスの格好をモチーフに豪華にした衣装を着ていて、さっきも話しながら、マントを無駄にバタバタしつつ「うひょー!」とはしゃいでいる。

 

 コビーは昔見たガープさんのコートをふと思い出して、それっぽい衣装を着せたら姿見を前に涙目でガチガチに固まってる。

 

 目をキラキラさせて喜んでるリカちゃんには、私が子供の頃来てたワンピースタイプのドレスをお姫様みたいにアレンジして、花モチーフのティアラとセットに。

 照れながらもその傍に寄り添ってるリカちゃんのお母さんには、リカちゃんのから装飾を減らして色合いを落ち着かせたロングドレスを着てもらっている。

 

 うん──やっぱり我ながら良く()()()()と思う! ぁあぁでも能力使い過ぎたねっっむぃぃい……! 

 そ、そろそろ解除しよう。うぅう、もう今日はしばらく能力使えそうにないやー……

 

「眠そうなくせにやりきった顔しやがって。船長が船長ならって訳か」

 

 どういう意味だー。

 抗議の睨みは「おおこわいこわい」と鼻で笑って流された。むう。

 

 

 …………

 …………

 

 

「お姉ちゃん魔法使いみたいだった!」

 

 そう大いにはしゃいでくれたリカちゃんに、こっちも嬉しくなりながら、またねー! と言われつつ手を振りあって別れる。

 リカちゃんの家の傍で、背景と化している海兵達は若干気まずげな面持ちで、私達3人を目線だけで見送っていた。

 

 

 …………

 …………

 

 

「失礼、ここに海賊が来ていると聞いてね」

 

 そう言ってこの街の海軍基地から海兵達がリカちゃんの家の周囲に現れたのは、私が能力を解除した直後くらい。

 

 ……モーガンを下して恐怖に縛られていたこの街に自由を与えてくれた、それには期待している。が、私達が海賊とあらば立場上黙っては居られない。──と、固い表情と口調で退去をお願いしてくる海兵()()

 その義理堅さに、3人してつい小さく笑ってしまいながらも、私達を歓迎してくれたリカちゃんの家をお暇する事にしたのだ。

 

 出てくるまでの合間に──

 

「なんだよ彼らは恩人だぞ! だっていうのに追い出すなんて!」

「だいたいそこの女の子が色んな文字とか絵とか宙に出し始めたら、俺たちと一緒になって『すげー!』なんて興奮してたクセになんだい偉ぶってよ!」

「そうだそうだ! 『俺達もあのコート着てみてえー!』とか、こそこそガキみてえに騒いでただろうが! それをなに急に大人ぶって」

「そこの民間人達をまず避けておけ恥ずかしいからー!!」

 

 ──なんて、空気が弛緩するやり取りもあったりした。

 

 …………

 …………

 

 

 でも──コビーは結局海軍に入るのかあ。

 ただあの様子を見てルフィとゾロも話してたけど、めちゃくちゃ手強くなってまた会うことになりそうで……少し楽しみだったりする。

 

 

 …………

 …………

 

 

 

 さあ、と私達3人がリカちゃんの家を出ようとしたまさにその時だ。

 訪問してきた海兵が、1人残されたコビーに向けて口を開いた。

 

「君は彼らの仲間じゃないのか?」

「……いいえ、違います。ぼくは彼らの()()じゃありません」

「ふむ……彼はこう言っている。だがそこの麦わら帽子の君、本当にそうかな?」

「……あーそういやそいつ「ぼくはっ!!」っと」

 

「いつか彼らを捕まえてみせます! ぼくは海軍に入るためにここに来ました! ぼくは夢を叶える為に、──海軍将校になる為にここに来ました! 

 今はまだ弱くて、彼らには到底叶わない。()()()()()()()()()()()けど! 強くなって、いつか彼らだって捕まえてやるんです!! 

 だからぼくを、海軍に入れてください!! 雑用からでも何でもやります、そして必ず登り詰めてみせます! お願いしますっっ!!」

 

 

 …………

 …………

 

 

「にししし。あーあ! こええ海兵の追っ掛けが出来ちまった」

「くくっ。こりゃ早くでねえとすぐにでも捕まっちまうかもな」

 

 心から楽しそうに笑う2人。私もきっと似たような笑顔でいるだろう。

 

 3人して出港の準備を進めていく。

 別れの寂しさは多少ある。でもそれ以上に、友人の門出を喜ぶ気持ちで胸がいっぱいだった。

 

「ウタ、ここの帆の角度は──」

「羅針盤のこの方位だな! 任しとけっ!」

 

 いざ港を離れ始めて。

 今日ここまでの能力使用で限界である事を2人に伝えて、とりあえずの進路と操舵方針を定めて託す。

 

 正直……不安!! 

 

 とはいえもう瞼が限界近い。

 ううう、ゾロもルフィと似た空気があるからどこまで頼っていいものやら。

 ああ。──ねえコビー、やっぱり海軍辞めなよ……なんてね。

 

「ルフィさーん! ウタさーん!」

 

 想像していた人物のまさかの声は、離れつつある港からだ。

 ここ数日で目に馴染んだ姿がそこにあった。

 

 どっかの誰かみたいに泣き虫なクセに、いざと言う時に奮い立っていた男の子。

 

「ありがとうございました!! ぼくは、立ち向かう勇気を貰ったこの出会いを、その恩を、一生忘れませんから──っっ!!」

 

 まだまだ全然、不格好な敬礼をしながらの力強い別れの挨拶。

 そんなコビーの後ろに整然と並んだ海兵達もまた、海賊に向けて海軍からまさかの、一様に洗練された敬礼を送ってきた。

 

 大笑いするルフィとゾロと一緒に、なにがなんだか可笑しくて、お腹も頬も痛くなるくらい笑ってしまった。

 

 そして、声を出せない分、力いっぱいを込めて大きく大きく、港が見えなくなるまで手を振った。

 

「ん?」

「ぅおっととウタぁ?!」

 

 ──あ、むり、寝る。よろしくルフィーゾロー……。

 

 

 

 

 

 

 









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