大海原の船から船へと跳ぶ……しかも手足を何倍にも有り得ないくらい長さまでビョーン! なんて伸ばしてである。
すわバケモノか! と恐怖し警戒するナミの前にそんな奇天烈極まる登場をしたのは、麦わら帽子と陽気な笑顔のよく似合う少年だった。
「俺ルフィ! よろしく!」
ニカッ! なんて眩しい笑顔。
悪意の欠片も感じない元気な挨拶に、まずナミから緊張感が飛んで消えていった。
会話する内、ルフィの人柄は良く言えば純真、悪く言えば……まあ子供のよう。
変に警戒するのも馬鹿らしいとなって警戒心が失せた頃。
「ウタ……俺の幼馴染がめちゃくちゃ頑張ってるけど、アイツ結構参ってると思うんだ。頼む、助けてくれねえか」
幼馴染が日夜焦っている姿は、力になれないルフィにはどうにも見ていて心が苦しいのだと頭を下げられて。
そんな日が陰ったような表情に、つい。
「あー……近くの町まで連れて行くだけでいいのよね?」
「え? いいのか? ありがとう!」
「……アンタがその幼馴染ってヤツを大事にしてるのが伝わってきちゃったからね、仕方なくよ。ホントならお代も考えるとこだけど、そういうわけだからマケといてあげるわ」
「──にししっ! ホントにありがとう!!」
屈託の無い笑顔にすっかり毒気を抜かれ、かつ、木っ端な海賊達から中々の逸品をせしめた直後。
緩く、気を良くしていたからこそのナミの応対だった……のだが。
「いやー! 良い奴だなお前! なあ、俺の船で航海士にならないか? 海賊船の!」
「……は?」
話の流れから航海士を探しているというルフィが「海賊」を名乗った。
──こんなガキみたいな奴まで海賊だなんてっ、なんてほんっと最悪の時代っ!!
「海賊なんて私がこの世で一番大嫌いな連中よ!! 好きなのはお金とみかん──!!」
弾かれるように、嫌悪剥き出しでナミは確かにそう言った。……なんなら海賊なんて口にするのも汚らわしくて、ついつい好きな物を述べて口直し気分になるくらい叫んだ……なのにルフィは「ふーん」とまるで他人事だった。
「海賊嫌いなのに海賊船に乗ってんのか? 変な奴だな」
「……これは馬鹿なヤツらからついさっき盗んだのよ。海賊専門の泥棒なの私」
「へー」
なんなら話も聞いてるんだかいないんだか。
……海賊を嫌いになった理由を話した時だけはウソみたいに「……そっか」と神妙な返事をしていたが。
「でも俺はお前みたいなやつが好きだ! 海賊嫌いだって俺は構わねえ、一緒に行こうっ!」
「話聞いてた!? 私が構うからイヤよ!」
そうしているうち。……後悔先に立たずと言うが正しくそう。
とんでもないマイペースを発揮するルフィの勢いに流されに流される内。
なんと彼が跳んできた船に追いつかれてしまったのである。
ナミが奪った海賊船よりふた周りほど大きいその船。
乗っていたのは、ルフィの言う通り2人だけだった。
1人は3本の刀を腰に差す、ここいらの海域では海賊狩りの異名で知られる男、ゾロ。
もう1人は白基調のヘッドホンを被った、珍しい赤と白の髪色と少々ダサ──パーカーの下の何、あれ。……竹のチェック柄にどーん! ってふてぶてしい顔のパンダがど真ん中に描かれた長袖ってうわ凄いの着てる、いや今はどうでもいいけどこの子凄いの着てる……──
──容姿も、羽織ってるピンクと白のパーカーと赤のグラデーションスカーフも、シンプルな白のパンタロンも色々と可愛いのに……なにその竹とパンダ。……パンダならせめて可愛い顔してるやつを、いったいなんでそんなブサ……可愛くないのを?!
ナミは色々と言いたくなるのを必至に堪えた。結構頑張った。
だが何にしても海賊3人に囲まれ、ナミの胸中は再び警戒と恐怖に溢れていた。
「くっ──」
海賊達3人に対し己は1人……危険だ。大変だ。迂闊だった。これは最早万事休すか? いやいやここらでなんとか一芝居打ってでもしてなんとか大逆転といこうじゃないやーってやるわ!! ──背水の覚悟を秘めたナミは、
「〖助けて欲しい〗」
そう書かれた手帳と航海日誌を差し出され、出鼻をくじかれたのである。
差し出す当人のウタは頭を下げて、ほんの少し上目遣いで窺ってくる。
一瞬「ちゃんと口で言ったらどうなの?」という嫌味も喉まで来た。
だが。
ウタは紫の瞳をうるませて酷く、酷く落ち込んでいる雰囲気で……。
責めるような言葉も引っ込んでしまった。
「ぅ……いや、いや私は海賊なんて……」
見詰め返し続けると、どうにも世話焼きの気があるナミは湧いてくる情に絆されそうで。
ついと視線を逸らした、……その先は少女の背後。立ち尽くす男2人。
居心地悪そうに腕を組み直したり咳払いしたりを繰り返す海賊狩り。
ナミは知らないが極めて珍しくも、指先をつんつん合わせてしょぼくれた顔の麦わら帽子。
男2人揃って、思いの外追い詰められていた、思っていたより辛そうだった、ウタの姿を至近で目の当たりにして。
負い目を感じているのか、明らかに落ち着きが無かった。
ナミはハッキリ『情けない男共……』と『こんなのの面倒見てたのね……』そう感じるのだった。
「…………はぁ」
そう感じては、もう危機感など何処へやら。
ナミは拍子抜けすると共に、深く、深ーく……溜息をついてウタへと振り向き。
目と目を合わせ、頷いた。──負けた、と何ともなく思った。
「わかった、わかったわよ。近くの町まで連れてくし、
ただし、連れていくのは私が言い出した事だからマケとくけど、──私の指導は高いからね?」
言った途端。
後ろ髪をピンッと立てながら顔を上げたウタは、花が咲くように愛らしい笑顔になった。ナミもナミでつられて少し嬉しそうに、ただこちらは苦笑い。
ただ、そもそも……差し出された航海日誌を見た時からすでに、ただの海賊、とは思い辛かった。
差し出されたのは見るからに付箋だらけの日誌。これまで必要に駆られて学んだ航海術だが、元々は大好きで堪らなくて学んでいた日々を、その見てくれに少し思い出していたのだ。
「よっしゃぁー! 航海士が仲間になったー!」
「これで
「誰も仲間になるなんて言ってないわよ! ほんっとに話聞け特にそこの麦わら帽子っっ!!」
「ん? おう! 改めて、俺はルフィ、よろしくな!」
「聞けってのぉ……!」
ルフィ節に振り回される同年代らしきナミが顔を覆って伏せるので、さすがに幼馴染として申し訳なくなったウタは眉尻を下げてペコペコと頭を下げた。
ナミはその、奇妙なまでに無口な様子に引っかかりを感じつつも、せめてウタには優しくしようとふと思ったのだった。あと服についても言えるようなら物申したかった。
その後。
ルフィ一行の船室に移動して雑談したり、勧誘されて断ったり、ウタの航海日誌やその試行錯誤を採点したり、また勧誘されていい加減手を出しながら断ったり。
そして話はお互いの行き先がオレンジの町である事へ。
仲間にはならない。が、ルフィ達とナミは手を組む流れになる(もっともルフィはナミに仲間になれと譲らないが)。
海賊狩りと恐れられるゾロがここにはいて、その海賊狩りからも腕を見込まれている船長ルフィとウタ。
この面々なら申し分ないだろう、とナミは一時の航海士になる代わり、ルフィ達に交換条件だと提案した。
とある海賊へと、戦いを仕掛ける話を持ち掛けたのである。
4人が挑むは現在オレンジの町を拠点としている海賊・道化のバギーの一味。
狙いは財宝好きと噂になるほどのバギーが持つお宝と、そして
◇
オレンジの町。現在、海賊・道化のバギーの一味によって支配されている。
町で一番大きな酒場に陣取る一味は、住民が避難した無人の町から金品と物資を尽く漁り、日夜関わらず宴騒ぎをしていた。
「船長! 北も南も東も西も、全班の回収終了致しやした!」
「そうか。ご苦労。お前らも下行ってハデに飲んでこい! 今日で〆だからな!」
「おおっす!」
「ありがとうございますっ!!」
気色満面で部下達は階下へと走り去った。
小さなリンゴのような赤い鼻にピエロメイクの奇抜な顔、正しく道化のような見た目の男……この海賊団の船長・バギーは椅子から立ち上がった。
黒いマントを翻しながら、部下が収集した品を近くに寄って検分すると、良質な様に目を弓なりにして悦んだ。
「……ん?」
「どうしたぁ~?」
「何見てる? んん? あんな奴ら~っ、いたっけかぁ?」
「しらねぇー、ひはひひっ」
「増えたもんなぁウチもまたー増えた増えっふえっおえぇぇっ」
「まーた吐いたよコイツアハハッ」
町1つ分の宝がまた溜まった。
ここを拠点に部下達も海に出ては付近で暴れてまた宝を、金を奪ってきている。
そうやって膨れ上がる己の財宝を思い、喉を震わせて一頻り笑うと。控えていた部下に命じて一時の宝物庫へと運ばせた。
──そういやあの騒いでるヤツらは見張りじゃなかったか? まあ今日でこの宴騒ぎも終わりだし、町からもロクな抵抗は無かった。今ぐらいハデに大目に見てやるか。
自分達がこのオレンジの町を根城にしているのは、そろそろ海軍に、賞金稼ぎにもバレている頃。
そんな連中と一戦交えるよりもトンズラを考え、今日にも移動する手筈は整えている。
あとは今日中に海へ出た部下達の物も含め、奪いに奪った品々を一纏めにし、とバギーが目処を付けていた頃──その少年と青年の合間にあるような声が轟いた。
………………
「
"──? 誰だそれ?”
道化のバギー一味、一同の声だった。
「おいルフィ、バギーだって話だったろ」
「? 違うぞゾロ。海賊ナミーじゃなくて私はナミ! ってアイツ言ってたぞ? ならここに居るのは海賊ナミーじゃねぇか」
「ああ? ああ、そうか。じゃあ俺が間違ってた」
”──いや違ぇょ!!"
その2人組とまず対峙する階下のバギー一味、一同はツッコんだ。
「いい加減にしろなんだテメェら! 吊るしてなます切りにしてやろうか!?」
「今ここが海賊道化のバギーの縄張りだって、分かってんのか?!」
「バギーだってよ。ほらルフィ、てめえはもうちょい話を聞けよ」
「あるえ?」
「っざけやがって……おい!」
恫喝を意に返さない2人組に、シビレを切らした幾人かが歩み寄って掴みかかる。
「ぶっ」
「なあ゛」
瞬間、目にも止まらぬ速さで彼等は高々と吹き飛んだ。
落ちてきた男達が椅子やテーブルや食器をひっくり返し、砕けて割れる音と共に悲鳴と呻きが店内に木霊した。
「なんなんなんなななっ!?」
「なんだ、なんなんだてめぇら何しに来やがった!?」
冗談みたいに何人もが一瞬で叩きのめされ、動揺の広がる一味達からの誰何の声。
平然と、不敵に、戦意に高揚した顔で笑う2人が応える。
「航海士を仲間に入れたくて来た」
「お前らを潰す交換条件でここに来た」
"──海賊だ!”
風を纏って伸びてしなるゴムの嵐が巻き起こり、荒々しい剣士の3刀が連々と閃き、階下の一味を瞬く間に蹂躙していく。
「バ、バギー船長ーっ!!」
…………
「刀3本? ゾロと呼ばれてた? ほほぉー? 海賊狩りたぁハデな野郎が遂に来やがった! おいカバジ、行けるな?」
「無論です船長。噂の三刀流、是非とも俺にやらせて下さい」
「仕方ねえ譲ってやる。……モージの野郎は散歩たぁ、間の悪いヤツだ」
◇
そんなに怖ェのか、そのナミーって海賊は
↑このセリフどうしてかツボで凄く好きなんです。