「覚えてなさいよあいつぅ……!」
ウタはすぐ目の前で怒りに震えるナミに、何処と無く毛を逆立てて威嚇する猫を連想した。
遠目に見える酒場から届いたルフィの一声。
それから少しして。
酒場近隣の家々で寛いでいた海賊達も酒場へ続々と駆け込んでいく。駆け込んだ傍から窓や壁をぶち抜いて吹っ飛んでいるが。
「始まった始まった。よし、行くわよ」
言い放ってナミが駆け出し、『下見も何もしてないから護衛が欲しいの』ということで付いてきたウタは、予定通りその後ろ姿を追った。
家々を縫って走り、通りは全力で駆け抜ける。
「何寝てんだ早く行くぞ!」
「俺の剣探してくれー!」
「素手でいけ素手で! 遅れたらバギー船長に殺されるぞ!」
「し、仕方ねえー!!」
「くそー、気持ちよく酔っ払ってたのによぉ! いったい何人がかりで襲って来やがった賞金稼ぎ共め!」
酒場付近からは未だ新手が現れ、これは鉢合わせも当然あるだろうと警戒を強めるウタ……だったが。
要所要所、ナミのハンドサインに従って、止まって、潜んで、時に駆けて、時に能力で宙に浮かんで、と。
指示の通りに動いているだけで敵とスレ違い、やり過ごせている。
何度となくそれを繰り返す。
敵を察知して避けるナミの勘が尋常ではない。
戦闘を繰り返すつもりで付き添っていただけに、ウタはしきりに感心してもう常に目を丸くしているような面持ちだった。
「──見っけ」
どうやらついに宝の場所を見つけたらしい。ただウタからは何を目当てに見付けたのか皆目見当もつかない。
ウタは気づかなかったが、ぐるりと酒場を大回りして裏手近くに回っていた。
そこは倉庫街のような所。家とは異なる大きな門扉が設えられた建物が何棟か並んでいた。
物陰に潜んで見詰める先、6人の男達が思い思いに腰掛けている。
どうにもただ雑談にこうじている様な姿ばかりであるのだが。
「どいつもこいつも酒場に向かってるのに、アイツらは動いてない。見張ってるのよ、大事な大事な、バギー船長の大切なお宝をね」
疑問顔のウタに説明しながら、一働きを期待した眼差しを向けナミが囁き声で続ける。
「という訳で。アイツら6人、もちろん私も手伝うけど、問題ない?」
得物の組み立て式の三節棍を懐から取り出すナミに、ウタはニコリと笑いながらトントンと軽く胸を叩いて見せて。
「え、ちょっと!?」
駆け出した。
後ろからは焦った声を上げたナミが、慌てて追いかけてくる足音。
ただ、手下6人程度なら、ウタからすればなんて事ない相手だった。
「なん、女ァ?!」
「どっちも可愛い、けどなんだあのパンダ」
「どっちと遊ぼうかな俺!」
「2人だけで来るとか──」
銃持ち2人、剣4人。だが銃を構えてすらいない。
分かりやすく舐められている。
「っ!」
であれば重畳、格下と見てるのはコチラも同じであるのだから。
海軍基地で使った目眩しは不要と、ウタは1発で勝負を
「へへ、こんなとこでお嬢ちゃん達がなにを、ってあれ?」
急停止したウタに戸惑う男と、その背後で怪訝な顔をする他5人。
ウタは不敵な、それこそルフィそっくりな笑みを浮かべ。そんな隙だらけの面々に腕を振るい、五線譜の光条を繰り出した。
「なんだこりゃあー!?」
「うごけ、ねえ?!」
「ぬおー! ぬおおおー!!」
「ま、まさか悪魔の実!?」
「船長と同じー!?」
瞬く間に、一人一人と絡みつく光の流線が、6人をしかと絡めて展開する。
呻いて叫んで藻掻く、そんな無様な楽譜はほんの数秒でその場に浮かび上がった。
……その中の1人はバギーが能力者だと明かしているが、それについては船でも「妙な奇術を使う」という噂から推測はされている。まああの2人なら、ルフィがいるなら大丈夫だろう、とウタは深く考えなかった。
さておいて。
うんうんと自分の仕事に満足するウタにナミが追い付き「やるぅ!」と笑った。
「さーて……ふむ……あんたね!」
「っ!? な、なんで!?」
「バカやろうなんでじゃねえだろ!」
「しまったぁ! おい可愛い服きてる女ァ! 俺はカギなんて持ってねえぞ!」
「バッッカ! このバッッカ!!」
ほんの数秒目を細めたナミが指差した途端、あからさまに慌て出した1人の男。
動けないからとナミは大胆に歩み寄ろうとして、そうだったとウタへ振り返った。
「あっと忘れてた。そういやこの状態ってアンタ疲れるのよね」
目配せされたウタがコクリと頷くと、「じゃ」とナミの持つ得物が鋭く風を切った。
「これで良し。能力解除しちゃっていいわよー」
都合6回丁度6人分。
海賊相手に容赦なぞ知らないナミが、男共の脳天に棍を強かに叩き込み意識を叩き落とした。
能力を解除して。
「あったあった。えーと──あの倉庫ね。んじゃ、宝と海図纏めて来るから、見張り宜しく♪」
見応えのあった棍捌きに、宝の仕舞われた倉庫の鍵を見つけ出した眼力に、宝を見つけ出すここまで一連の流れに。
ナミが宝の隠し場所へと行く後ろ姿に、プロフェッショナルを垣間見て。ウタはパチパチパチと拍手して見送った。
…………それから。
倉庫街から幾らか離れて、港風を感じるまで海に、船に近付いている。
小分けされたと言っても大きな大きな麻袋を、ウタとナミは手分けして船へと運んでいく最中にいた。
「んーっ! さっすが財宝好きのバギー、いい物ばっかり! あー早く落ち着いたとこでじっくり見たあい……!」
「♪」
アルビダの船のそれとは比べ物にならない量に、うっとりとするナミ程でなくとも、口元がニヤつき胸が踊るような心地でいるウタ。
……っ。
「っ」
「? ウタ? どしたの?」
だが。奇妙な音に立ち止まった。
耳に入ったのは、重々しい何かが力強く飛び跳ねるような音。
断続的に、ど、どん、どんっ……と何処かから、それも上の方から響いてくる。
段々と、大きく。それはまるで近付いてくるかのように。
「なに、この音」
ナミにも聞こえ、目を合わせ、2人は咄嗟に近くの物陰に身を潜めた。
どんっ! ……音がついに一際大きく、近くから響く。
そうして。
高所から静かに、男とライオンが着地し現れた。
「ん? リッチー? ……そうか、ここに居るんだな?」
男が跨っているライオンに声を掛けた。
するとライオンは返事をするかのように低く唸りながら視線を、ナミとウタが潜む方へと振り向く。
それに満足する風に男が頷き、声を張り上げて怒鳴った。
「なあ、ここらに居るのは分かっているぞ盗っ人共っ! 俺の相棒リッチーは鼻が効くんだっ! 大人しく、ウチの倉庫から持ち出した財宝を返しな!」
隠れた所で無駄、宝を返せ、と叫ばれて。
ウタは傍らのナミに目で尋ねた。ナミは無論のことと固く首を横に振った。
返す気はなし、それにはウタも同意見。
そもそもこれはナミの提案ではあるが、既にルフィとバギー、海賊同士の奪い合いの構図なのだ。
返して欲しければかかって来いとウタは戦意を滾らせ、自分の宝をナミに預けると静かに立ち上がり。
「大人しく出てくれば痛い目を見ずに済んだのになあ……やれ、リッチー」
物陰から出ようとしたその時、直感的にウタはナミを引っ掴み、跳んだ。
直後、爆発じみた炸裂音! 衝撃でナミもウタも、弾かれた石ころのように転がった。
だが即座に受け身を取ってウタは起き上がり、土煙の中に未だ敵が居ると確認し──視界が晴れない内にと反撃に動く!
「ほーら居た。隠れおおせると本気で思っていたのか? コソ泥共──ぬ? 1人だけ……?」
「ぃったー……え? ウ──タ?」
土煙が晴れる頃。敵の怪訝な声にナミも身体を起こし、その光景に息を呑む。
男が跨るライオン、その突き出された前足によるたったの一撃。2人が壁にしていた大きな木箱や樽は中身を散乱させ、粉々になっている。
だが息を呑んだ理由はその破壊力にではなかった。
既に敵の頭上から仕掛けているウタに、展開が早すぎて、理解が追い付かなかったのだ。
「は、ぬあぁあ上からだとぉおーっ!?」
ウタの放った五線譜が男だけを絡め取り、音符を加速して飛翔する、高々とすくい上げていく!
突然主の重みが失せて混乱するライオンと、自分よりよほど容赦ないウタに顔を引き攣らせるナミを、遥か地上に置き去りにする。
「た、た、た、た、たかたかたかたかああぁあーっ!?」
高く高く、町が一望出来るほどの高さにまで急激に引き上げられた所で。
ふと、その力が失せる。
「へ──ひっ」
男……バギー一味の副船長・猛獣使いモージは、音符に乗って浮かぶ慈愛すら感じるウタの微笑みに、ヒラヒラと振られる手に、光の線で簀巻きにされて手も足も出ず落下していく感覚に、……己の運命を悟り青ざめる。
「うううおおおおー!? そ、そうだり、リッチーっ! リッチー助けてくれええぇぇっっー!!」
だがそうだ、まだ己には
縋るように、急降下しながら相棒のリッチーを必至に呼ぶ! 助けてくれとモージが叫ぶ!
そんな主人の悲痛な叫びに応じ、落下地点へと辿り着き受け止める体勢に入るリッチー!
よし! とモージはリッチーが受け止めてくれればどうにか助かると安堵して。
「させないっ、ってのっ!」
主人しか目に入っていないリッチーが、ナミの三節棍により後ろ足を急襲された。
バランスを崩す相棒に「リッチーっっ!?」と悲鳴を上げるその寸前モージはリッチーへと激突し、……1人と1頭は深く意識を絶ったのだった。
「はぁっ! 良かった……」
ピクリとも動かなくなった敵に、心底安心したとナミは息をついて。その傍にひゅるりとウタが舞い降りた。
深く息着く顔に疲労の色が濃くあれども、ニコニコとしながら、後ろ髪をひょこひょこさせながら、ナミに向かって掌を向けてくる。
えっぐい攻めをしていた割に、子犬を連想するウタの振る舞い。
──恐ろしい事してたクセに、無邪気な顔しちゃってもう……。
「お見事ね、ウタ」
恐怖に怯え警戒すればいいのか、庇護欲にもう素直になればいいのか。
色々とこれからも振り回されそう、と内心苦笑しながら、パシンと掌を合わせるのだった。
感想評価、一喜一憂しながら楽しんでます。ありがとうございます!
宣誓!!
モンハンがまた始まったので更新頻度落とします!!
でも通勤時間に執筆はします、拙作を今後もよろしくお願いします。