さながら、って、なんだ(漫画読み返してて思った事)
「──!」
「ん? どうかした?」
作業の最中、唐突にハッとした表情になったウタ。
手帳を取り出しペンを走らせる様子が何処か慌ただしいが、はて。
……船への帰り道、バギー一味副船長モージとその相棒のライオン、リッチーに襲撃されるも撃退したウタとナミ。
2人は襲撃された際に散らばった宝を改めて回収し、船へと戻って収納している所。ついでに船の荷物も移動していた。
ルフィ達が乗っていた船にナミとウタ、バギーの手下達から奪った小船にルフィとゾロ、という組み合わせでそれぞれ乗る話になっている。
なお奪った宝は、事前の打ち合わせ通り9:1で山分けにされていた。
『私がお宝と海図の情報源だし? 航海士として同行するなら分け前はそう、9:1でいいわよね? もちろん私が9!』
『『問題ない! よろしくナミ! ルフィ ゾロと頑張ってね! 私も気合い入れるぞ!』』
『張り切ってんなウタ! おし、俺もやるぞお!』
『え、あの、もうちょっとそこは……いやいいんだけど私は、うん』
航海士として付き合ってくれるだけでこの上なく有難いウタと、理解していないがウタが張り切ってるし航海士が仲間になる(※手を組む)ならとルフィは諸手を挙げて喜んだ。
7:3がベター、ベストは8:2までと交渉するつもりで考えていたナミは、純粋な2人に少し心が傷んだ。
『zzz』
ゾロは話の間寝ていた。
閑話休題。
あとはバギー一味を倒してくるルフィとゾロを待つばかり、だったのだが。
ウタは思った。思ってしまった。
「〖ルフィとゾロ 迎えに行かないとダメだった〗」
「え゛? ど、どうして?」
……あるいは2人が負けている最悪の場合はここで別れる事も含め今後を考えていたナミは、ウタが手帳にそう書いて見せてきて困惑した。
ウタは後ろ髪をダラりと力無く下げ、口をへの字にしてサラサラと手帳にペンを走らせていく。
「〖ルフィ 東西南北 感覚で決める〗」
「感覚で決める?」
サラサラ……。
「〖北は寒いからあっち 南はあったかいからこっち みたいな〗」
「──は?」
伝えたウタも幼馴染の事であり、ナミの冷えきった反応が恥ずかしく頬が少し赤かった。
「で、でもゾロがいるじゃない? ……まさか」
顔を引きつらせるナミに、弱々しく頷きながらウタはペンを動かした。
「〖ナミと会う前聞いた話 ゾロは自分の島から旅立ったつもりはないって〗」
「旅立ったつもりはない……どういう意味?」
ならば、今こうして海を旅しているのは何なのか。
「〖帰り道が分からないから仕方なく海に居たんだって話してた〗」
「迷子かっ!」
どこかで、3本の刀を差した迷子がくしゃみをした。
……ちなみにウタは航海術の勉強をして知識を改めたのであり、子供の頃はルフィとどっこいどっこいの方向感覚だったりする。
そうして。ひとまず酒場まで迎えに行くことにした2人。
ウタは2人の勝利を確信しておりスタスタと。最悪のパターン、2人が負けていた場合も考えるナミは、そんな気軽に歩くウタに気が気でない固い歩みで。
「確かに誰もいない……それにしても」
遠目にも酒場は崩壊しかけていた。そして近付いてもその周辺の雰囲気は静かであった。
明らかにもはや無人と化している。が、念には念をと崩壊しかけの酒場の中を覗いたナミは、その様相に驚きを通り越して呆れる。
「2階無くなってるし。壁は穴だらけだし。煤だらけだし。無事なとこなんかどこにも無いわね。何やったんだかここで……」
確かにこの場が無人であると改めて確認したナミ。
その隣でウタが急に何処かへと振り向き、ヘッドホンを僅かに外した。
機敏といいピンと立った後ろ髪といい、ウタのそれにどこか動物じみた仕草を感じつつナミは声をかける。
「ウタ?」
声をかけてくるナミへと人差し指を立て「静かに」と伝え、ウタは目を閉じ耳を澄ます。
数秒後、微笑みながら目を開けたウタは能力で文字を中空に描いた。
「『この歩く音 このサンダルの間隔はルフィ この辺りまで近付いてきてるみたい』」
「そ、そう。無事で良かった……」
ナミはウタの耳の良さと
2人は音の聞こえる方へと酒場の周りを歩き……酒場の裏手へと向かう。
「ルフィは見付けた、となるとあとはゾロね」
「『元気な声でルフィ 何か話してる ゾロの声もする ただもう1人いる』」
「3人目? 2人と一緒にいるの?」
数秒、聞き慣れない声に耳を傾けて。
「『うん一緒にいる なんかこの声 おじいさんっぽい』」
「なんだおじいさんか……いや誰よそれ」
ウタとしても分からないと首を振るしかなかった。
…………
酒場の裏手側、倉庫が立ち並ぶ通り。宝と海図を回収した倉庫は少し遠い。
「まさか戻って来るとはねー」
「『ごめんね』」
「ウタは一切悪くないでしょ。迷子になってるあの野郎共が行けないの。まったく子供じゃあるまいし……」
「『まったく おっしゃる通りで』」
イライラしているナミを連れながら、付き合わせて申し訳ないと肩を落とし後ろ髪をしょんぼりさせるウタだった。
「お?おお!」
「ん?……ああ、いたいた」
「よー!合流できたな! 良かった良かった!」
倉庫の中から、麻袋を抱えたルフィとゾロが現れた。
いち早く気付いたルフィが喜んでいるが、ナミとウタは2人の怪我だらけの体にこそ目がいっていた。
「合流できて良かったけど、アンタら、特にゾロは大丈夫なの? それ」
「ああ、へーきへーき──大丈夫だってウタ大したことねーって」
「そ、大したことねェ。まあ見た目が見苦しいだけだ」
「ふぅん? そう」
ルフィは手足の一部に包帯している。その姿が軽傷に見えるほど、ゾロは顔の一部分、上半身のほぼ全体に、包帯をグルグルと半ばミイラのように巻かれていた。
むくれた顔で怪我をした2人を睨むウタは納得し難い様子だったが、当人がそういうならとナミはさておいた。
「中々来ないから迎えに来たんだけど、あんた達いま何してんの?火事場泥棒?」
2人が手にする麻袋……肉や酒の詰まった袋を携えるルフィとゾロにため息混じりに言うと、ルフィはムッとしながらしかし嬉しそうに袋を掲げ上げた。
「するかっ。失敬だな……あのプードルってじいさんがよ、デカッ鼻達ぶっ飛ばしてくれたから肉くれるって!」
「ブードルじゃ小童その2。おい、肉も酒もその位でいいのか? さながらまだ出せるぞ?」
「大丈夫だ! あとはとっといて皆と食えよ! 俺たちもう行かねえとだからさ!」
「だそうだ。こいつはありがたく貰ってくぜじいさん」
特定の犬を感じさせる特徴的な白髪頭の老人は「そうか」と苦笑いして倉庫の中の整理をしだした。
その老人のことも気になるが……デカッ鼻? 誰の事?
ウタとナミがゾロに目線を向けると「バギーのことだ」と補足された。
「俺は礼にくれるなら酒が良いつって、こーんなに酒を貰ったとこだ。気前がいい話だぜ」
「ふん。小癪にも海賊だと抜かしとるが、何かこの町にする訳でもないなら貴様らはさながらの恩人よ。遠慮なく持ってけ小童共」
「ありがとうプードルのじいさん!」
「ブードルだ。だからそれではさながら犬だと……やれやれ」