海軍中将ガープ。英雄と話には聞いていたが、1体1になった途端に、尽くの隠し事を言い当てられるとは……
「個人的にあのハナタレ小僧のやる事とは思わんかっただけじゃ。ふんっ、海賊のやる事に乗るのは釈然とせんが……·子を想いやるというなら話は別よ。安心せい、この件はワシの胸の内に仕舞っておく」
そう言い残して部下の手伝いをすると部屋を出ていった後ろ姿を思い出し、疲れた、だが良かった、と息を着く。
しかし、大事なのはここから。これからだ。
私と彼らの誓いのため、そしてあの子の、ウタのためにも、今後の話をしなければならない。
さっき、中将と話す前に様子を見に行った時にはまだスヤスヤと眠っていたウタ。きっと、今はまだ何も知らないで夢の中に居るのだろうあの子に、……ウタになんと話して聞かせればいいだろうか。
できる限り泣かせたくないし悲しませたくはない。
できる限りあの素晴らしい海賊達を悪しく語りたくはない。
それでも、置き去りにされてしまったことだけは事実。
「いっそ……」
あの妙に陽気な中将殿に色々と相談してみようか。有難いことにエレジアが落ち着くまで、しばらく残って手伝いをする、と困り笑いをする文官たちの前で断言してくれたのだし。
そう考えると少しばかり胸が軽くなる心地だった。シャンクス達にも似ている、あのような御仁が海軍にも居てくれて、そしてエレジアにしばらくでも居てくれて本当に良かった。
「行くか」
いくらか落ち着いた気持ちを引き締めて、ウタの眠る部屋へと向かった。
そっと扉を開けると、ウタはすでに目が覚めていた。扉が閉まって、ベッド傍のイスに腰掛けてもコチラを見ない。
ベッド上で身体を起こしてはいるがまだ覚醒していないのか、壁の辺りをじっと見ていた。
「……おはよう」
呑気なものだと我ながら呆れる。だが先程、穏やかに眠っていたウタを思うとそんな言葉が出てきていた。
私の声で、私が部屋に入ってきた事にようやく気付いたウタが振り返る。
右の目、白の髪の下の左の目、両の紫紺の瞳を丸める彼女は、年相応に愛らしく。
「目が覚めたかと様子を見に来たんだ、ウタ」
これから私が、その目を曇らせる事を考えると、やはり心が重かった。
「目が覚めたかと様子を見に来たんだ、ウタ」
ベッドの傍から声をかけられるまで、全然気が付かなかったし、私自身今さっきまで何をしていたのかも分からなかった。
でもそこでようやく、目が覚めたような感覚になった。
振り返ると、とても、とても疲れきっている様子のゴードンの姿。頭に、体にと包帯が目立つ様子に、どうしたのだろうと首を傾げる。
それにそういえば、私はいつ寝たんだろう。ベッドに入った記憶がない。
もう夜は明けている。ベッド際の窓の外では曇天から激しい雨が降り続いている。
降りしきる雨音が、いやに響いて聞こえていた。
「ウタ、君が眠っている間の事だ。シャンクス達が──」
……たった一晩で街が焼けた事も、その晩のうちにシャンクス達が私を置き去りにしたことも、信じられなかった。
どうして? なんで? ──考えて、考えて考えて考えて……いくら考えても分からなかった。
ゴードンさんが、どうしてシャンクスが私を置いていったのかを話してくれている。けれども、その話もおかしい話で信じられなかった。
「悲しい事だが、ウタ。……実はシャンクス達は、君を、利用していたんだ。君の素晴らしい歌声を利用して、私達を騙し、昨日の晩、この街を……──この街を焼き付くし、財宝を奪って去っていったのだ。
今まで利用していた君を、歌を、唄い終わったなら用済みとばかりに、ここに置き去りにして……っ。
君は彼らに、赤髪海賊団に……シャンクスにずっと騙されていたんだ、ウタ」
震える声で話すゴードンさんが、怒っているのか、悲しんでいるのか、よく分からない。
というかその──いったい何のことを言っているのか、分からなかった。
だから私は、ゴードンさんはきっとおかしくなってしまったんだと思った。
一晩で自分の国が崩壊した。そんな悲惨な事実は、変な事を言うようになってしまっても不思議じゃない。
「……ウタ、大丈夫かい?」
大丈夫? だなんて、そんな事をそっちが聞く?!
少しムッ……としてしまう。
辛いのは国を失ったゴードンさんもだけど、シャンクス達に置いていかれた私だって泣いちゃうくらい辛いんだから! と、どうしてもそう思ってしまった。
この部屋に来て、シャンクスがどうして私を置いて行ったのか、エレジアがどうしてこんな事になっているのか、教えてくれるみたいだったから話を聞いていたのに。
なのに、あのシャンクス達が街を破壊したとか! 私の
あのシャンクス達が街を破壊なんてする訳ない。私を置いていった理由は分からないけど、きっとそうするしかない理由があったんだわ絶対!
だいたいそれに、歌声だなんて。それはきっと
あーあ、ゴードンさんも大変な思いを抱えているにしろ、さっきから見当違いなお話ばっかり! こんなのもう我慢の限界よ!!
怒ったふうに言ってしまっても仕方ないことだって分かってよゴードンさん? まったくもう!
「
「……ウタ? 何を突然そんな、
あれ──あれ? 通じなかった?
あれ──ああ! そうだった、口でなんて
そう──だ。そうだ
そう、だとし──たら、でも──
ん? 今私──はゴードン──さんに、えっと──?
わ──たし──は、──あれ──あ──れ? へんだ。
わたしは、今までど──う──やって
「──
「ウタァァッ!? そんな事をしてはいけないっ、辞めなさいウタ!! 辞めろぉっ!! どうしたというのだっ、やめろっ、……こ、この手をっ、抜きなさいっ、抜くんだっ! そんな事辞めるんだウタ!! ウ、──タ?
……ウ、ウタ……? ウタ! 大丈夫かウタ!? 目を開け……っ! 私の声が聞こえ、──い、息を、息をしなさいっ! 息をしろウタっっ!!
なんで……どうして……いったいどうしてしまったのだウタ! ウタァアーッッ!!」
──────
私は、私は──私はウタ。
赤髪海賊団の音楽家。
シャンクスの娘。
ただただ音楽が大好きで、ここには音楽の、……音楽の?
大好きな音楽……音楽のなにが、どこが好きなんだっけ。
私が、音楽を?
それは──どうして?
…………なんでだっけ。
……たぶん、
えっと、
……楽器の?
…………楽器の練習?
……そうかも。
でもなんの楽器だろ。
違うかも。そうかも。どうだろ。どうだったっけ。
わからない。
わからない。
わからない。
……えっ、と。
えっと、えっと私は、私は──ウタ。
私にとって音楽が、今はよく分からない。
私は、赤髪海賊団の音楽家、ウタだ。
シャンクスの娘、ウタだ。
いつか新時代を作る、ウタだ。
ルフィと2人、新時代を作る、ウタだ。
みんなが笑って、平和に居られる新時代を作る、ウタだ。
ど う や っ て ?
そりゃ新時代を作るには、あ、ああー、と──どうやって作るんだっけ。
私は何をやって作ろうとしていたんだっけ。
どうして私なら作れるって、私は私の
私には私に、
ねえ、ルフィ。……もう会えなくなっちゃったね、ルフィ。
私は、どうしたら新時代を作れるのかな。
「……っ」
この絵を描いてくれたルフィなら、教えてくれるかな……っ?
絶対に作るって、決めたはずなのに。
どうやって作ればいいのか、何をして作ればいいのか。
分かっていたはずなのに、今は何にもわからない……っ!!
……こんな私に何が出来るのか、新時代を作るなんてできるのか。
ねえ、ルフィ。
会いたいよルフィ。
教えてよルフィ。
ねえ……っ、ルフィ……ィ。
私に、教えてよルフィ……ッ。
私に、私の新時代を教えて……っ、私達の新時代ってなんだったのか、教えて……っ。
ねえ、ルフィ……ッ!
※ちなみに元々のサブタイトルは『ごーどんとかいう変な人』