「ごべんな゛ざい゛」
ふんっ。
「ごべん゛な゛ざい゛ぼん゛っ゛どに゛ごべん゛な゛ざい゛」
ふんっ!
「な、なあウタ、ルフィも謝ってる事だしよそのへんで──」
あ゛ぁ゛?
「──そうそう許せないことなんて誰にでもありますよね! あの私のことは気にしないでどーぞ引き続きやっちゃてくだぢゃいだからごっぢ見ないでごわ゛い゛ぞウタお゛めェよぉっっ!!」
「お゛でがわ゛る゛ヴございまし゛だあ゛だだだだだだだーっ!?」
おおぉおおりゃぁぁあああっっ──!!
※コチラ、前回からのちょっとした続き、そのイメージでした。あくまでイメージでした。
ほどほどに
ルフィの頬が両方とも酷いことになってるしウソップは私と目も合わせないけど、そんな些細な事はひとまず置いて辺りを見渡す。どうせ、ルフィのほっぺたはすぐ治るし、そしたらウソップもあまり気にしないってね()
ウソップに追いついたのは、ちょうど村の周辺に広がる森を抜ける直前といったところだった。
森を抜けた先の崖からは、崖下の浜辺に揺蕩うさざなみの音、傍を通り抜ける海風の音が心地よく聞こえてくる。
何となく、いい場所だと思った。
「はあ……なんだか勢いに呑まれちまったが。お前ら、そもそもなんでわざわざ俺を追ってきたんだよ」
ため息をつくウソップは、やっぱりまだ何かしらイライラしてるらしい。
投げやりに言いながら崖近くの芝生にウソップがドカッと腰を下ろす。その傍に近づくルフィの後を惰性でついて行きながら考える。
なんでって……なんで?
言われてみれば、なんで連れて来られたのか分からない。
ウソップの傍に足を投げ出して座ったルフィ、ニコニコとした顔をじーっと見ながら私もその隣に座った。
「さっきのお前と執事との話を聞いててやーっと思い出したんだ。懐かしい感じがすると思ってたらよウソップ、お前ヤソップの息子だろ?」
「は──親父のこと知ってんのか!?」
あれほど不機嫌だったウソップが、目を輝かせて聞き返してくる。不機嫌な顔もそんな顔もやっぱり似てる……二日酔いの時と宴を始めるって決まった時の顔みたい。
それにしても、ルフィも気付いたんだ。人の顔とか名前を覚えてって話は鈍感だと思ってたから意外だ。……シャンクスの船に居たヤソップの事だから気付いたのかな?
「昔な。子供の頃、俺の住んでた村に来てたんだよ。そんでこうやってウタを連れて来たのは、そん時こいつヤソップと同じ船に乗ってたからだ」
「なにぃい!? そうなのか!?」
そして話の流れがようやく掴めてきた私は、ウソップにギョッとして見つめられて苦笑いしながら頷きを返した……すんごく期待した顔をされた。
「お、親父は今どこにいるんだ?!」
「いやそれは俺たちには分かんねェよ。けど、今も間違いなく海賊やってると思うぞ。シャンクス達と一緒に」
「海賊……ははっ、そっか、親父は元気にやってんのか。そうかぁ、シャンクスってやつの海賊船で──」
なるほど……ウソップと執事との話、っていうのはなんの事か分かんないけど、ヤソップの話をしたいから私も連れて来たってことね。──でもだから、そういうこと、思い付いた事をするならさ、エースにも散々言われたよねルフィ?
指先がまた疼く。たださっき散々お仕置したし、わりと疲労もいっぱいいっぱいだし。……なにより、あんなに不機嫌だったウソップがこんなに嬉しそうな顔してるし、勘弁したげるか。
「──って、シャンクスゥウッッ!?」
いきなり声を裏返して叫ぶウソップに、「うわなんだ!?」と驚くルフィ共々仰け反っていた。
え? なに? ナミと船で話した時は別に驚かれなかったんだけど、なに?
「なんだ、ってお前、シャンクスといやぁ大海賊じゃねェか!? ほ、ほんとに親父がそんなとんでもない大物海賊の船にいるってのか!?」
「そんなに驚くくらいなのか? でもホントだぞ。なあウタ」
「……〖赤髪海賊団随一の狙撃手と言えばヤソップ〗」
「え? なんで手帳に?」
「……〖私喋れない。改めて、筆談で失礼〗」
「お、おう、そうか。大変なんだな? でも……はぁぁ、そうかぁ親父が……」
走り書きした手帳を読むウソップはじっくりと、あの船におけるヤソップについてサラッと書いた文面を何度も読み返すように目を動かしている。
少しづつ、事実を呑み込むように震えだして、湧き上がる歓喜を噛み締めるようにジワジワとしわくちゃな笑みを浮かべていった。
「そ、っかぁ……! 親父、俺の親父は、そんなすごい海の戦士になってんだな……!」
「すごい、そうだな凄かったなヤソップ。すんげぇ遠くに置いたリンゴをよ、ピストル抜いたと思ったら1発でど真ん中を撃ち抜くんだよ。しかも狙ってる様子なんて欠片もねェのに、とんでもねェ早撃ちだったぞ」
「ほー! 赤髪海賊団随一の狙撃手ってのは伊達じゃねェな!」
「アリの眉間だって外さねェって、あのセリフは本物だったと思ったなぁ」
「うほほー! さっすが親父ぃー!」
「あとはまあ」
チラッとコッチを見てくるルフィ。珍しく苦笑いを浮かべているルフィに、何となく察して同じような笑みを返す。
「あとは?」
「とんでもねェ息子想いだった」
「と、とんでもねェ──そりゃ、どんな風に?」
「ヤソップのやつ、酒に酔ったら決まり文句みてェに俺とかウタに詰めよって必ず言うんだよ。置いて来ちまった『ウソップ』って息子の事をよ。……こんなに想われてるウソップってやつがどんな奴なのか、会えるなら会って話してみたくなるくらい、ヤソップはいっっつも気にしてた」
「は、へ、へェ……っ」
震える声で「そうか」と呟くウソップ。
目元に光る物は、ルフィと一緒に見えないフリをした。……こんなに離れてるのに、お互い想いあえてる親子だなんて──羨ましいな。
「っ……な、なぁウタ。親父と同じ船に居たんだろ? 書くの、大変かもだけどよ、その」
意外に遠慮がちなウソップに、肩を揺らして笑ってしまった。何を気にしているのやら。
「な、なんだ笑うなよ! いいじゃねェか聞いたって」
照れ臭そうに憤慨するウソップに、違う違うと首を横に振ると怪訝な顔をされた。……話せないってやっぱりこういう時に不便だ、とたまに思う。
手帳、じゃ話しづらいし。仕方ない、振り絞るとしましょう。
「『ごめんごめん。変なとこで遠慮されてつい笑っちゃった』」
「え、あ、おう? そうなの……ってなんじゃこりゃあ!?」
「ウタ、疲れてんだろ?」
「『うん。だから寝そうになったらよろしくルフィ』」
「おう」
「……あのーお2人さん。見つめ合ってるとこ悪いんだけど、さっきから出てるその光る文字群はなんなのか教えてくんない……?」
なぜだか居心地の悪そうなウソップに、私の詳細不明な能力だと伝えると目を点にされる。
「悪魔の実……本当にあるんだな。へー、……手帳いるのか?」
「『少しの間ならいいんだけど、ずっとはちょっとね。コレで長々話してると疲れてへばっちゃうからさ』〖それに驚かれる。だから使い分ける〗」
「はー、なるほどなァ」
能力と手帳を同時に使って説明すると納得してくれた。ずっとコレで話せたらいいんだけど、疲れるのがどうしてもね。体力着いてきたから昔よりはマシだけども。
さてと、気を取り直して能力を使って色々と描いていこうかな!
「『話を戻すけど。ウソップはお父さんの事を聞きたいだけなんだから、遠慮なんかしなくていいよ』」
「お、おう! じゃあさっそく教えてくれ! 親父はどんな風に過ごしてたんだ? 特に、敵船が来た時の話が知りてェ!」
私は同じ船に乗っていたからこその話をするつもりだったど、そっかあ、1番気になるのは戦うヤソップのことか。
男の子だなそういう所、でも、いくら聞かれてもそればっかりはなあ。
「『ごめんね、そういう姿は知らないんだ。私が赤髪海賊団の船に居たのは子供の時だけ。子供だったから、いつも敵襲の時は奥の船室で待機してたの』」
そうか、と肩を落とすウソップには悪いけど知らないので何も答えられない。ただ「『代わりに』」と、ヤソップにはどんな仲間が居るかを教えていく。
「おおおお!?」
「お、シャンクス達か? 似てんなぁ、しししっ!」
「こ、これがか? なるほどデフォルメか……ほー」
能力を使って、キラキラと光る小さな音符で皆を描く。
どんな事が得意で、どんな物が苦手で、どのくらい仲が良いのかを……。
「? なんで泣いてんだ?」
ウソップに言われるまで、滲む視界に気づかなかった。
ただそう聞かれてもその答えは私自身──どう伝えればいいのだろう。
窮してすぐ、能力への集中を解いたからか一気に疲労と眠気に襲われて、「~っ」と大きく欠伸をしてしまった。
……ちょうどいいから、眠くって、ってことにしよう。
実際、島に着く前からと屋敷に行く途中と今ここに来てからとで、結構能力を使い過ぎた。
「〖色々あって眠くって〗」
「それにしてもなーんでそんな疲れてんだウタ……な、なんだよそんな目で」
だいたいルフィのせいだから、ジト目で睨んでも許されるはずだ。
ふぁ……あ、またあくびが……。
「とりあえずそんな眠いってんならもう帰るか」
立ち上がろうとするルフィの服の裾を、私は引っ張って留めた。
手帳に単語を1つだけ書きながら「ウタ?」と私の顔を見てくるルフィに向けて首を横に振る。
今のこの眠気は半分くらいルフィのせいだけど、私が眠いせいで2人が話す時間を無くすのはイヤだ。結局、ほとんど私が話してばっかりだったし、尚更。
「〖いい〗」
「いい、ってウタお前。そんなに眠そうなのに、1人で帰るには俺の村もお前らの船も遠いんじゃないか?」
「『まだ話し足りないでしょ? せっかくだし男同士で話しなよ。少し寝るだけなら私はここでじゅーぶん』」
けどおい、とウソップが呼びかける声を聞こえないフリをして、体を芝生に横倒しに──
「ん」
──する直前、隣にいたルフィが私の頭をそっと支えると膝を貸してくれた。
一気に意識の限界が来る。
ゴム特有の柔らかさを枕にしながら、眠気に逆らわず身を任せた。
※以下、長くなったので切り取った赤髪海賊団の紹介シーン。
能力を使って、キラキラと光る小さな音符で皆を描く。
麦わら帽子を被ってマントを羽織った……「『シャンクス、船長。剣の腕は世界一って自称してた、見たことないけど。子供みたいな大人だよ。皆に慕われてた、船の上での半分はいっつも二日酔いで唸ってたかも』」
タバコを咥えてライフルを携えている……「『ベック、副船長で、一味で1番冷静で、1番頼りになる。シャンクスも何かあればすーぐよく泣きついてた。あと女たらし……』」
丸々と……太らせ過ぎたかもしれない……お肉を持たせた……「『ルウ、コックさん。いっつもお肉食べてたな。陽気な顔でいっつも笑わせてくれたし笑ってた。結構暴れるのが好きで、誰かしらと酔っては殴り合ってたなあ。そう、あとルウの作るパンケーキ美味しいんだ!』」
大柄な体でギザギザな牙を剥き出しにした……「『ガブ、こんな大っきくて怖い見た目で、見た目通りすんごい怪力なんだけど、虫が苦手で面白いんだよからかうと!後が怖いけど』」
救急箱を持ってるけどラフなスタイルの……「『ホンゴウさん、船医さん。厳しかった。いっつも寝る前のオヤツはダメとかそもそも甘い物食べ過ぎとか、私以外にも皆お酒飲みすぎの時とか……ともかく皆してよく叱られたかもホンゴウさんには。頭上がんないかな』」
ヘビみたいになっちゃった……龍の刺青をいれた薄い色のサングラスをかけてる……「『スネイク、航海士でね、物知り。色々よく分からない言葉教えられたっけ……あんまり覚えてないけど、なんでか覚えてるのは一期一会。意味は曖昧……。あ、あとナイフが得意でナイフのジャグリングにはドキドキさせられっぱなしで、ナイフ捌きがかっこよかったなー!』」
ドクロマークの入ったバンダナを巻いてる……「『ライムジュース、たぶん一味で1番ノリの良い人だったかな。ルウとも、それこそヤソップとも特に仲良く肩組んで踊ってる事が多かったな。脚が自慢なんだってよく言ってて、ベックとかホンゴウさんによく使いっ走りさせられて渋い顔してたっけ。シャンクスのは断ってシャンクス不貞腐れてたな』」
スキンヘッドの強面……「『ボンク。ルウとよくじゃれてた。ルフィとも仲良かったよね。赤髪海賊団の2人いる音楽家……じゃないか、1人と1匹の音楽家、そのうちの1人だよ。ガブとも力比べをよくしてたくらい力持ち。でも見た目と違って親しみ易いんだよ意外と』」
どうみてもただのお猿さんにウソップが目を丸くしてる……「『モンスター、そうお猿さん。ボンクと同じ赤髪海賊団の音楽家なんだよ? 皆歌って踊り出すとモンスターがノリノリでリズムを刻んでさ、あと──何でかよく私の傍にもいたけど……何をしてたかな』」
で、最後の最後に一際構成を高めて紹介するは……「『ヤソップ。私が紹介した通り、ルフィが言った通り。赤髪海賊団、最高の狙撃手だよ』」
「……これが、親父と、親父の仲間達か」
デフォルメを辞めて、等身大に、銃を構えてふてぶてしい顔をしたヤソップを描いた。……10秒保たなかったけど。
「ありがとうよ、ウタ。よく分かったよ。親父がどんな人たちと居るのかがよ……こんな目に見える形で親父の事を教えて貰えるなんて。こんな日が来るなんて、夢みてェだ」
良かった。ウソップに喜んで貰えたみたいで、頑張ったかいがある……色々、思い出しちゃったけど。