私も、ゾロもナミも、お互いの顔を見合わせる。皆怪訝な顔だ。
どういう事だと視線がウソップに再度集中する。震えながら、ウソップは語っていく。
「クラハドールは3年前からあの屋敷で働いてる。性格は厳格で誠実で、村の人間からの信頼も厚いヤツだ」
「ふーん? 大ぼら吹きのアンタとは正反対ってわけね」
「ズバリ言ってくれるな──ホントに、今回嫌というほどそれを実感したからよ」
私もナミと同じ事を思った。けど、ウソップの沈んだ反応は予想外だ、てっきりさっきみたいにツッコミを入れるかと思っていた。
傷ついた腕を見詰めて声を落とすように話すウソップをじっと見つめてから、目を伏せたナミは「話の邪魔してごめん」と素直に謝った。
ウソップは自嘲するように笑うだけ。
「いいんだ。本当の事だからな」
「それで、そのクラハドールって奴が、もう1人と話してたその計画ってのは?」
「……そもそもの、クラハドールの狙いが根幹にある計画だ」
ゾロに促されて。ウソップは大きく、大きく息をついた。
ルフィが珍しくも黙ってウソップを見つめる中、その目を見つめ返してウソップは目尻を上げる。
「なんで皆に信頼されてるクラハドールがそんな事をするのか……あいつは3年かけて、そう思わせるために人望を集めたんだ。それはいざ屋敷の主が死んだ時、その遺産を相続する相手として選ばれても不自然じゃないと思わせる、そうやって、合法的に大金を手に入れる、為……っっ」
絞り出すように言い切って、そこでまた大きく息を吸ったウソップが、叫んだ。
「そうやって
全身を震わせたウソップの、怒りと悲しみが綯い交ぜになったような絶叫が響いた。
殺す? 村の人みんな? カヤさんだけじゃなくて? 皆殺しに……遺産目当てで? 平穏が欲しいから?
信じられない、信じたくないぐらい残酷な話だ。
だけど、叫び過ぎて肩で息をするウソップの姿は、村を背に弱りきっていたさっきのあの姿が、私には真実を叫んでいる様にしか見えなかった。
「3年も傍にいたお嬢様に、この村の人達皆も……? 人をなんだと思ってるの」
「……おいウソップ、
ナミが目をギラつかせて拳を握り締めて、ゾロは冷静な声色で詳細を促していた。
……言われてみればゾロの言う通りだ。
執事やその男の2人だけで村1つをなんて、そんなことできると思えない。
息を整えたウソップが、ゾロへと重々しく頷いた。
「その通りだ、アイツらは2人でそれをやろうってんじゃない。もっと大勢だ、数はわかんねェ。確かなのは海賊団が攻めてくるってことだ! クロネコ海賊団がな!」
くろねこ……なにその可愛い名前ぅぇ?
急に頬をぐりぐりされた。ナミの指先が見えていて呆れた顔で「目が輝いてるわよ」と小声で指摘された。だって……はい、自重します、はい。
それにしても、どうして海賊が?
再度集まる怪訝な視線に、──ウソップはクラハドールの正体が3年前に処刑されたクロネコ海賊団の船長……海賊キャプテン・クロであることを。海軍を誤魔化した方法は傍らにいた男の術で、部下を身代わりに仕立て上げたのだと語った。
その男を利用して、殺す前にカヤさんに遺書を書かせるつもりだとも。
……書かせる、ってそんなことできるの?
「『さいみんじゅつって、なに?』」
「簡単に言うと、相手になんでも言うことを聞かせる術よ。身代りの部下が、殺されるにも関わらず代わりに捕まれって言われて素直に捕まったのは、たぶんそれのせいね」
不謹慎だけど面白そうなんて考えてしまった。やってることを考えたらワクワクなんて一瞬で消えたけど。
部下……同じ船の仲間じゃん。なんでそんなことできたんだろう。
「まあ実際は自己暗示、相手にいかにもそうだと思い込ませるだけの如何わしい、子供だましみたいなもののはずなんだけど……その話をしていた時にいた怪しい男って、もしかして私達が村で見かけた奴かも」
「え、村に!? いつだ!?」
「ルフィがウタを連れてってすぐあとくらいよ。ね?」
ナミに視線を向けられたゾロが「ああ、あのうさん臭い野郎か」と顎に手を当てて、思い出すように呟いた。
「そ、そいつは村で何を?」
「大したことは何もしてないわよ? 子供たちに催眠術師だって明かして、催眠術を見せてみろって言われるがまま披露して、子供たちに眠れ! って言って一緒に寝てただけ」
「最後!? ……え? なんで一緒になって?」
「さあ? とにかく、あいつは本物だった。変なクセがありそうだけど。お嬢様に催眠をかけることも確かにできるでしょうね」
両手を握りしめて、ウソップが「ああ」と震える声で返事をした。
「……まったくとんでもねェ執事がいたもんだな。まさか海賊で、3年がかりの計画を立てるような奴がいるなんざ、誰も夢にも思わねェだろう。
ウソップの腕を見ながら最後に言って付けたゾロに、ウソップは寂しそうに笑った。
「お見通しかよ。……ああそうだ、嘘つきの俺が『海賊が攻めて来る』『クラハドールは海賊だったんだ』って言ったところで、村の誰も、屋敷の他の執事も──カヤも。誰も俺の言葉を信じちゃくれなかった」
……──もしかして、あの腕の撃たれた傷はそういうことなの?
お店で、子供達からウソップが日頃この村で何をしていたのかは聞いている。
その目的も理由も。ウソップなりの、村への好意であり、村の人達もなんだかんだ受け入れて楽しんでるって子供達は楽しそうに語っていた。
村を必死になって走り回るウソップを想像して、……そうさせた奴らにこそ怒りがこみ上げた。
「誰もがアイツを、クラハドールを心から信じてるから! なのに!! っ、アイツは、クラハドールの野郎はその何もかもを全部裏切る気でいやがるっ! 全部を裏切って、皆を殺しつくしてっ、何もかもなかった事にするつもりで……!!」
そんなこと! 叫んだウソップは立ち上がって、身体が揺れた。
がくがくと膝が震えている。歯噛みしたウソップはそんな足を上げ、地面を強く踏みつけ、身体をのけぞらせて吠えた。
「っっ、絶っ対にゆるせねェ!! そんっなんさせるもんかよ!! 俺の育った大好きなこの村を、俺を育ててくれた大好きな村の皆を、ウソップ海賊団のあいつらも、カヤもっ!!大切な人達みんなに、指一本だって触れさせてやるもんかっっ!!」
だから! と燃えるような眼差しを海へと向ける。
「明日の明け方、連中はここから攻めて来る! だが俺はあの坂から先へ通す気はねェ! 連中全部を追い返してやるっ!! ……そうすれば」
傷ついた腕を上げて、そっと、赤く腫れた頬にウソップが触れる。
「俺が今日言ったこと全て
「え」
ここまで一切喋らずにいたルフィが立ち上がって、ウソップと目を合わせた。
「わかったって言ってんだ。いいぞってもう言ったろ?」
「ルフィ、お前、……信じてくれんのか?」
「え、嘘なのか!? まあいいけど」
「嘘じゃねェけど、いや嘘でもいいってなんでだよ!?」
「なんだっていいよ。俺はお前が困ってるなら助ける、そう決めたんだ!!」
「なぁ……」
宣言するように言い切ったルフィに、ウソップが金魚みたいに口をパクパクさせた。
まあ
ナミが、んー、と考えるような声を上げてから快活に笑う。
「私は嘘みたいだーとは思うわよ? けどアンタの村を想う気持ちは本当のことだって信じられるから、手を貸すわ」
「ナミ……」
「あ、宝は私のものだからそのつもりでね!」
「ア、ハイ」
俺は、とゾロが続く。
「単純な話。船長がヤルって言うんだ。船員として、船長に付き合うさ」
「よ、よろしくたのむ」
「ただお前の覚悟もしかと聞かせてもらったしな。バカみてェなお前の
「ぞ、ぞろぉ……」
「『もう少し真っすぐな言い方がさ』」
「恥ずかしいんでしょ素直になるのが」
「見えてるし聞こえてんぞそこ!!」
「ゾロなんか恥ずかしいのか?」
「んなこと聞いてくるなルフィ……!」
「へー! なんだゾロは照れ屋なのかよ!」
あ、刀抜いた。
「敵海賊よりテメェからまず切ろうか?この長い鼻からよぉ……!」
「ひぃい冷たい冷たい当たってるヒタヒタ当てんなごめんなさいすまんすまん調子乗った悪かったああー!」
「だっはははは!ゾロおっかねぇえ!」
「『さいてー、ぼうりょくてきー、こわーい』」
「図星突かれただけなのにねー」
「ずぼし?ゾロなんかされたのか?」
「……っ」
「……あー。なんつーか、あの2人が揃ってそこにルフィがいると、やりづらそうだ、な?」
「っち、ほっとけ」
舌打ちして刀を収めたゾロと入れ替わるようにして、鼻をさするウソップに私も近寄る。
「『私もだいたいルフィと一緒。嘘とか嘘じゃないとか関係なく、困ってるウソップを助けたい。今もきっとウソップのことを想い続けてるヤソップのためにも』」
「ウタ……」
「『私にとってはあの船の皆が、私の家族だって思ってるんだ。物心着いたころには、あの人達しか私にはいなかったから』」
「そ、そうだったのか」
「『私の家族が大切に思っているこの村を守る、私にもその手伝いをさせてね!』」
涙ぐんだウソップが俯く。引き攣ったような声で「どいつもこいつも」と零す。
俯いたその顔は、嬉しそうに微笑んでいた。
ウソップに爆弾を作るかどうかめちゃくちゃ悩んだけど一旦下げた。だが諦めてないぜぇ……