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「? なんでウタが泣いてんだ?」
ウソップに言われるまで、滲む視界に気づかなかった。
ただそう聞かれても──ヤソップと一緒にいるシャンクス達、赤髪海賊団の皆を描きながら、思い出してしまった事……。
あれは──ガープさんにエレジアからフーシャ村まで連れて行ってもらって、ルフィと再開して、それで……色々あって、
『でもよウタ。ウタは、シャンクス達のこと、嫌いになっちまったのか? あんなに大好きだって言ってたあいつらに、大好きだって抱き締めてくれたシャンクス達に、もう、会いたくないのかよ』
ルフィに、そう聞かれた。私の、胸の真ん中を打つような言葉。
エレジアで迎えたあの日、あの朝。
シャンクス達は、私を
と、目を覚ました私にゴードンさんは語った。
私をどう利用した、とかはともかく。
宴三昧で飲んで歌って踊り明かすのが大好きな……私が知ってる赤髪海賊団からはまったく想像も出来ないそんな話。
けれど、どこもかしこも道も建物も何もかもが瓦礫の山になるまで崩壊し、何千何万もの人達が死んでしまったのは事実。
エレジアの惨状は、いつ思い出しても震えるくらい残酷な光景だった。
誰がなんのためにそんなことをしたのか。それが、もしもゴードンさんが言う通りだったらって思うと恐ろしい。
大好きなシャンクス達を、私を置き去りにして行った赤髪海賊団を、このまま信じていていいのか何も分からない。
ウタ、と。親愛を込めて私を呼んで、抱き締めてくれたあの人達の姿が、本物だったのか。
『もう、会いたくないのかよ』
──会いたいよ……!
大好きな
それでも、会いたいに決まってる──っっ!!
会いたいと、まだまだ真新しい手帳にそんなたった一言を書くことも出来ないくらい、べそかいて。
会いたいと、首を横に振って伝えることしか出来なくて、しゃくり上げる私の頭を、ちゃんと気持ちを掬ってくれたルフィが優しく抱き締めて笑った。
『ししし、俺も会いてえ! だからよウタ。いつか一緒によ、俺と行こうぜ! シャンクス達より立派な海賊になって、胸張って、一緒に会いに行こう!』
私はルフィの、その小さな腕がなんだか不思議とおっきく感じながら。とってもあったかい胸に縋り付いて、何度も何度も頷いていた。
あの日の想いが──私がまた海に出ると決めたきっかけ。私が海の彼方に見る、私の願いだ。
◆
真正面からウタの眼前に迫る、クロの
ウタは流線の間合いで対峙したはずなのに、瞬く間に距離を詰められた事に──距離を無視していきなり飛んでくるような、ルフィのゴムゴムの拳を避けるような、そんな奇妙なデジャブを感じながら膝を折るだけで回避した。
立て続けに、2つ目の
驚愕の顔をしていた割に的確に貫手を避けた事への驚きを、クロは思考と切り離して処理し、残りの
海賊時代。クロの初撃を凌いだ相手を、尽く殺してきた2連撃。
初撃にこそ幼馴染との
それでも、避ける手立てはあった。
しゃがんだ姿勢からさらに仰け反って倒れより低く、倒れ込む寸前の体勢で音符を足場代わりにして飛び退いた。
地面と平行的な体勢のウタを、5つの長刀、その1刀の切っ先が左腕をザクリと切り裂く。
引っ掛けられるように裂かれた左前腕から血が奔り出た。
ウタの体が裂かれた力で僅かに泳ぐ。が、そのまま左腕と右腕を交差させ、両手を突き上げ、見上げるような体勢そのまま流線をクロへと奔らせる! ──高速で移動したクロ、切られたウタ。ウソップは動揺を反撃するウタの姿を見て抑え込み、息を整えパチンコを引き絞る。
クロからすれば信じ難い体勢で致命傷を避けたウタが、腕を切られてなお怯むこと無く突き出した両手。その10指から伸びるようにして迫り来る光る線に目を剥いた。
──何も持たない手先から?! 悪魔の実か!? ならさっきカヤを攫ったのは……!
クロがウタを悪魔の実の能力者だと察し、光の線への警戒度を跳ね上げる。その──ウタの能力へと瞬間的に釘付けになった、意識の硬直をこそ予見し狙い澄ました一撃が放たれる。
「ガッ!?」
苦悶の呻きを漏らすクロ。器用に低空で身を捩り着地するウタと、木上に潜んで狙い通りに撃ち抜いたウソップがニヤリと笑った。
突如、横っ腹にねじ込まれたのは小さな硬い何か。
クロはウソップの存在をそれで思い出しつつ、気にしていられないと痛みを無視。
光の線から飛び退き、
「ぬっぅ!?」
だが鉛星で僅かといえど身体は鈍っていた。
計10本、その内9本を避けた上で
直後、クロは背後から誰かに左腕を強引に引き寄せられるような感覚に襲われる。
──なるほど面倒な能力だが、そうか。
光る線の動きを縛る拘束能力、カヤを移動させた音符群を思い出し、ウタの能力がサポート向きの能力である事を、攻撃性の低さを察した。
鼻で笑うと怯むことなく、クロも強引に力で腕の糸を引き千切った。──僅かといえど動きを鈍らせた所で「づっ!」先とは別の射角で胸に鉛玉を打ち込まれ顎が下がった。
出処の掴めない狙撃と悶絶しそうな痛みに怒りを燃え上がらせるも、とんっと何かが飛び跳ねた音に顔を上げた。
鉛星の一撃に苦悶していたクロが顔を上げた時には、ウタはクロの頭上から囲うように流線を放っていた。
ウタもウソップも、捉えた! と確信した。
直後、クロはその場から消えたように移動した。
クロの得意とする高速移動、まるで消え去るような
流線を掻い潜り、距離を取らざるを得なかったクロは──腸が煮えくり返るような怒りを覚えていた。
──屈辱だ。2対1。片方が能力者だとしても、小僧と小娘相手に……っ!
今更なぜウソップ達がここにいて、ウタという余所者それも能力者が出しゃばっているのかという疑問は無い。
こうしている間にもカヤが遠ざかる。そして、無視して追うには目前のウタの拘束技と移動技、どこぞに潜むウソップの高い狙撃能力の組み合わせ。
厄介な、邪魔者達。
──俺の計画を、3年かけた完璧な計画のためにも、なんとしてもコイツラは今すぐに殺さねばならないっ!
確実に仕留めんと、着地寸前の所を狙おうと、クロが
ウタはクロの二度目の
攻め立てる……宙に配した音符を蹴ってさらに跳び上がり、逃れたクロへと上から迫る。
「なっ」
驚愕に声を漏らしたクロへ、擬似的ながら宙を舞うウタが再び上から流線を放つ。
迫る流線を
「焦ったのが丸見えだ」
岩陰で、笑み一つなくウソップが呟く。
風切り音に気づいたクロが咄嗟に反応し、鉛星は耳の一部を吹っ飛ばした。
ウソップなら悲鳴を上げてのたうつような大怪我だ、だがクロは耳から血を滴らせつつ、顔を歪めながらも流線を切り払いまた消えるように移動している。
いっそ火薬星で良かったか、とひとりごちた。
ウタが傍にいるなら鉛星、離れていれば火薬星を放つ。爆風に巻き込まれたウタが隙を晒す可能性がある以上、当然の配慮だったが。
あまり遠慮は要らないかと、高速移動するクロを上から後追いするウタに、宙で二転三転してまるで踊るように跳び回る姿に信頼を募らせた。
「勝とう」
決意を籠めて呟き。木の上から、移動直後のクロへ火薬星を放った。
「!? っち」
流線の雨を払い、ウタから離れた直後の何度目かの飛来物。優れた動体視力で鉛ではないと気づいたクロは、払おうとした
爆風に煽られながら着地したクロは、ぐんっ! と足元がズらされた。
それは、先から宙を跳ね回るウタの能力によるもの、宙を蹴るときの足場になっている音符のような何か。
流線による拘束。
狙撃による直接攻撃。これらに加えて音符による移動の阻害という新たな攻め手──
──
クロはようやく
クロの体勢が、ウタの音符により崩れていく。
木々の茂みに移動したウソップが、火薬星をパチンコに番えた。
ウソップの一撃の直後に簀巻きにして拘束する。また宙を跳ね、ウタが構えた。
クロは、体勢を崩したような見た目で狙いを定め、音符の足場で
「……あぁ、さすがに損じたか」
それも仕方ない、とぼやく。不安定な足場から、クロは1つの賭けを成したのだ。
今後必要とは思えない稀有な経験だった。宙を生意気に跳ね回る小娘を撃ち落とすには必須だったのだ。
消えるような鋭い跳躍から着地し、ウタの左上腕から肩を切り裂いた
クロが気怠げに振り返った。
なんかもうこれでいい。俺のテンションはこういけと訴えている。