新たな仲間にウソップが加わって。
ルフィもウソップもノリよく絡んで、船の空気は騒がしく楽しく、一層明るくなって。
小さかったバルカ船から新たな船、キャラベル船、ゴーイング・メリー号に乗っている。
新しい仲間と新しい船に乾杯し、宴の終わった翌日。
心機一転の時だった。
……クロネコ海賊団との集団戦闘、クロとの戦い。
どっちも負ける寸前だった。
ルフィやゾロが間に合わなければ、ウソップがいなければ、……私は死んでいたと思う。
音符と流線での拘束と移動の補助を磨いてきた約数年。
結果使える場面、利便性の高い能力にはなって、そのおかげで勝ちを拾えたし、生き残る一助にもできた。
けれど、これからもルフィと一緒に海を行くなら、海賊王への険しい道のりの傍にいるには、私は少なくとも今のままじゃダメだ。
根本的な攻撃力の低さ、この問題を解決しないと。
攻撃力、単純にすぐ補うなら武器を使えばいい。武器といえば剣士がこの船には居る、いっそ勢いで聞いちゃえ!
今更気兼ねする仲じゃなし! 1人で悩んだ所で仕方なし!
「『この間戦って必要だなって感じたの。武器と言えばゾロだと思って』〚武器を教わりたい。協力お願いします〛」
「それで俺から刀をね……。お前がか──まぁいいかお前なら。ただ教わろうってんならまず……ほら、試しにコイツ振ってみろ」
船室で寝ようとしていた足を止め、ほんの少しだけ私を吟味するように目を細めた後。
意外に軽々しく、ゾロは刀を貸してくれた。想像よりずっと簡単に貸し出された重みにビックリした。
え、いいんだ。
素人が何言ってやがるー、とか反対されるとばかり思ってて、すんなり受け入れられて拍子抜けした。
「『ありがとうゾロ!』」
やったー! 何度も見てはいたけどちゃんと持ってみたかったんだよねー!
何倍にも広くなったこの船上なら、鍛錬だってできなくもない。
船首とメインマストには他の3人が居たので、船尾辺りのスペースのある所に移動して、いざっ!
「──雑には扱うなよ」
勢いよく黒い鞘から引っ張り出そうとするとちょっと怖い顔で言われて、慎重に慎重に引っ張り出した。
……おおぉ。
やっぱりカッコイイ! 剣はともかく、刀ってゾロに会うまで見たことなかったんだよね。
それに、意外と間近で見たら……日差しに、キラキラって波紋が煌めいててキレイかも。
よーし。さっそく振ろう!
構えなんてよくわかんない。
とにかくすっぽ抜けたら大変だからちゃんと握りしめて、……ふっ!
振り下ろして、振り上げて、振り抜いて──!!
「ま、そんなもんだろうな。身を以てわかったろ
振り回せたのは1分も続かなかったのではなかろうか。もう持ち上げるのも億劫だ。
こ、こんな重っっいの2本も持って、しかも1本は口にくわえて、よくあんな振り回せる……!
肩で息をする私から刀を受け取って腰に差すゾロが、こんなにも眩しく見える日が来るなんて。
「『ゾロの体って筋肉とお酒で出来てるの』」
「酒はともかく、筋肉は要る。武器を振るおうにも重い金属武器は、お前の体じゃ不釣り合いだ。使いたきゃまずはもっとメシを食って肉を付けるとこから始めるんだな」
ごもっとも。そうなるとこのままか……どうしよう。
ご飯を沢山食べるには無理やり詰め込むしかない。苦しい思いをしてまで食べるのも嫌だけど、仕方ないか。
「……重くない武器でも今すぐ使えるヤツがあるんじゃねェか? ナミやウソップあたりにも聞いてみろよ」
俺は寝る、とアクビをしながらゾロは去っていった。
……刀が目立ってたからゾロに聞いたけど、考えてみたらナミは木製の三節棍、ウソップはパチンコと私も使えそうな軽い物を使ってる。
なるほど! さっそく2人に話を聞きに行こう!
と、動こうとした時。
ルフィが甲板の真ん中に皆を集めて、何かゴソゴソとやっていた成果を晒した。
「できたぞ! 俺達の海賊旗!!」
「こいつは絵心ってのをどこかに置いてきたのか……?」
私はいつかの自分を見るような面持ちで、驚愕に顔を引きつらせるウソップの肩をポンと叩く。
「『ルフィは10年前にはこうだったよ』」「10年前から変わらずコレ? 筋金入りかよ。ゴムゴムの実も絵心までは効かなかったか」
「10年変わらない絵心だって言うなら、もうこれってもしかしてこだわりのある芸術家らしいデザイン……なのかも」
「海賊旗は相手への死の象徴、万人に通じねェだろ芸術なんざ。だいたいこんな旗の下で剣を振れってのか……」
相も変わらぬ下手な絵を掲げ、自信満々に笑うルフィに、4者一様に"ダメ"と訴える。
「『まったくルフィは仕方ないなあ、ここは私が描こうじゃない』」
「ったくルフィ、船長は絵も上手くねェと務まらねェとこの俺が見せて……」
ウソップとお互いの主張に気付いて目と目が会った途端、火花が散った。
うぉあわああああああーっっ!!
「『まいりました』……っ」
「はっはっはー! 素直でよろしいじゃなーいっ、ウタくーん!」
私が描いたら可愛過ぎてNOと男共に言われ、満場一致で「上手いっ」のコレ以上ない評価を得たウソップの手腕が買われる事になった。
鼻高々に見下された、悔しい……!
……それにしても。
ルフィの絵心は昔のまんまだったなと、ウェストポーチを撫でてそう思った。
ウソップは海賊旗にかかり切り。たださすがに帆を塗る時は手伝ってくれ、と言っていたので、指示してくれたら私がサクッとやると伝えてある。
なのでそれまでの間にせめて話は済ましちゃおう。
私が近寄っていくうち振り返ったナミに、腕にハグッと抱きつきっ!
「うん? 急にどうしたの」
「『決定的な火力が足りてないので』〚武器を教わりたい。協力お願いします〛」
「1万ベリーね♪」
わーい可愛いスマイル……授業料!?
あ、アルビダ貯蓄は確かまだある……ルフィの食費に主に半分以上消えてるけどまだ……。
ポンポンと頭に手を置かれた。
「嘘よ嘘、じょーだん。ウタが強くなってくれたら宝だってもっと簡単に手に入るもの。ま、私なんかの我流で良ければ相手になったげるわ」
──ナミーッ!!
さらにギュッとして「いい加減にしなさい」と軽く怒られた。ちぇっ。
………………
「あーその、そうそこの真ん中の、そうそうそうそこは慎重にねェ君ィ」
「いいねいいね実にイイネ、その色合い完っ璧、そそっ、べたっっと塗っちゃてねェおおいいねー」
「おっけーおっけーいい仕上がりだー! ……いやよ、やらしといてなんだがつくづく便利だなウタの能力」
音符頭の黒子くんたちを駆使し、ウソップ監督指示の元に完成させた、麦わら帽子を被った髑髏の帆。
メインマストの傍に皆で集まって、今、風を受け、弓なりに張り出す姿をじっ……と見上げた。
「完成だな」
海賊船、ゴーイング・メリー号!!
「うほーっ、なんか俺達の船って感じ増したなァっ!」
「存外、味わい深いもんだなこうして見ると」
「──……お疲れ様2人とも」
「へへっ、労え労えー!」「『頭撫でてナミ!』」
強気で近寄ってここぞとばかりに要求!
呆れ顔でため息をもらいつつ「はいはい」と頭をぽんぽんと撫でられる。
へっへっへー。シロップ村で散っ々子供扱いされちゃったし──もう開き直ってやる……!
「頭撫でてゾロ!」
「
「ちっげェよっっ!? せめて苦笑いくらいしろ本気で引くなボケだよボケッ!」
「なんなら俺が撫でてやろっかウソップー」
「だからホントに撫でて欲しい訳じゃ、ってお前なに運んでんだルフィ?」
ナミの手つき気持ちー……ん? ルフィがなんだって?
「ちょっとルフィそれ大砲の弾? そんなもの持ち出してきてどうするつもり?」
「にっししし! 大砲の練習やろうぜ! せっかくあるんだしよ!」
「大砲か! 俺もやるーっ!」
「おっしゃァいこうっ!」
「遊び気分でやることかよっ、たく。寝るか……」
だかだかだかだか……揃って大砲の方へと移動していく2人を、私はナミに寄り添いながら見送った。
「行かないの? ルフィはあんなに楽しそうだったけど」
「『昔っからあれは嫌い。単純にうるさい』」
「ああ、そういう理由ね。貴女耳がすごく聞こえるみたいだしそういう弊害もあるか」
そういうこと。
さて。
ナミを補給して気持ち、疲れは取れたところで。
船尾付近の大砲から離れ、船首付近へ。
ウソップに話し掛けるタイミングはなくなったけど、それはこの後でも明日でも良い。
さっき、帆を塗る前までに、ナミから教わった動きを思い出す。
船室から作りたての授業用の棒を持ち出し、素振りする。
ひとまずはナミに教わった振り方で、だ。
ゆくゆくは私なりの動きにして。
より鋭い動きに繋がるよう、
より重い一撃にできるよう、
色々と動きを模索しろとのこと。なるほど我流。
ちなみに船の修繕用の板をゾロに加工してもらった。
お願いした時の物凄く嫌そうな顔をしたゾロに、ああも上からなのか下からなのか分からない物言いで言う事を聞かせるナミ素敵だったな……。
ルフィ達の大砲の音を背景に、離れてても体に響く音にげんなりしながら素振りを続ける。
休み休み、額と掌にじっとりとした汗を感じつつ、ふと大砲の音が止んでるなと気付いた時。
「ウター、お茶でもどう?」
ふらっと現れたナミに、一も二もなく頷いてシャワーにまっすぐ駆け出した。
──お茶ー♪ ナミとお茶ー♪
気分よくササッと流し終わり。
髪はひとまず後ろに一纏めにして、服を着て、最後にパーカーとストールを手に取って……
「出てこいやクソッッ海賊共ぉおおおおっっ!!」
知らない大声に甲板へと飛び出した。
大振りの剣を手にした、頬に傷跡のある、サングラスをかけた男が肩で息をしながらそこにいて。
音を立てて現れた私にゆったりと振り向いて、怒りを顕に歯を剥き出す。
「女ァ……? っへ、女だろうが関係ねェ、テメェらはぶっ殺してやるっ!」
剣を振りかぶって声を上げながら襲いかかってくる。
なんでそんなに怒ってるのか、誰だか知らないけど、来るっていうなら!
「まざぁ1人ぃいいっ!!」
男は私に突進してきた勢いそのまま、剣を振り上げた。
間合いの寸前であろうその動きと立ち位置に合わせて半歩下がり、構えに対し半身になる。
怒気の籠った一閃が、私の眼前で大いに空振って床板をカチ割った。
「んなっ」
相当、何かに怒っているらしい。荒々しくも、素直な動きで太刀筋が見え見えだった。
とりあえず、襲われた以上はやり返す。
勢いを殺せず前のめりの姿勢でいる男、その後ろ襟を掴み、音符と足で男の足と腰から体勢を崩し、勢いを増して払う!
「ぬ、ガッ」
おおよそ前へと縦に一回転半し床に叩きつけた。
受け身も取れなかったか床を舐めるように伏し悶絶する男。
戦意を折りにいく。
「ぴ」
音符でひょいと拾った男の剣をその眼前に突き立てた。
しばらく震えて。
「か、紙一重、か……ぅう」
?? かみ? え? なにが?
何やら呟いた男はようやく息が整ったらしい。
深々と、深々と、大きな大きな溜息をついたと思ったら──いきなりダラダラと涙を流しながらダミ声で叫んだ。
「ご、殺゛すなら゛殺しや゛がれっっ! ……ぅうすまねェヨ゛サクぅ、先にい゛くこの゛不甲斐゛ない相棒を゛許せヨサグぅぅぅうう……っっ!!」
……ええ?
いきなり襲って来たと思ったらいきなり誰かの名前呼んで勝手に死ぬつもりでまたいきなり泣き出してああ丸まっちゃったよ。
結局なんなのこの男……お茶行きたい……。
「ほーらウタならやっぱし大丈夫だろ?」
「よーしウタ、俺様の手筈通りだよくやった」
「ウター? 終わったなら早く来なさいよ冷めちゃうわよ?」
はーい!
船室から出てきたナミの声に、男の剣を持ったまま駆け足で向かう。
武器を取上げたらまた暴れる事は無いだろう。今はルフィもウソップも出てきてるし。
擦れ違い様にルフィに剣を押し付けて、お茶ー♪ と気分よく手を洗いに行く。
「……いまアイツの声でヨサクって聞こえたような」
ムクリと起きたゾロが何かボヤいた。
倒されたら目の前に剣を突き立てて来て、無言でじっっと見下ろしてくるウタちゃんかわいいね()