新時代を、それでも   作:ずーZ

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2つ










28話 バラティエ②

 

 

 

 

 料理を運んできたのは、どう見てもコックさんだった。

 給仕なのか? とウソップが聞くもそれは皆辞めたらしい。なんで? 

 

 なんだか妙に顔のイカついその人は、けれど置いていく料理一つ一つの材料やその産地、この時期ならではの醍醐味や拘ったという調理法、食べるタイミングに付け合せの好みなら匙1つにこの程度……と。

 流暢に語ってくれた。失礼ながら顔に似合わない丁寧な説明で、圧倒されてしまった。

 

 ではごゆっくりお楽しみくだせえませ、と去り際に奇妙な言葉遣いを見せた店員に、ナミがルフィの事をそれとなく尋ねる。

 

「麦わら帽子の……ああオーナーに散々蹴られてるってのにめげちゃいねェあの雑用の事か」

 

 蹴られてるってなに? 

 というか、そっか雑用仕事してるんだ。順当に予想通りと言えばそう。

 

「雑用ね。1ヶ月くらい働いて返せとか?」

「1年だ」

「そう1年……いちねん?」

「屋根ぶっ壊してしかもオーナーの治療費まで含まれてるからな。ま、余程の事がない限り変わらんだろうな」

 

 忙しいんでこの辺で失礼すんぜ、と足早にコックさんは去っていった。

 残されたのは”1年"の言葉に顔を引き攣らせた私達。

 いったいいくら返す話になったんだろう。

 

「雑用……アイツに何が出来るんだ」

 

 苦い顔でウソップが言う。そして私を見るな。

 扉の修理なんてした事無くて仕組みとかよく分かんなかったから直せなかっただけじゃん。説明されても分かんなかったけど。

 でも針と糸で直せる仕組みなら任せろ。

 

「辛辣なこと言うわねウソップ。分かるけど」

「だろ?」

「しっかし1年は長すぎる……まあ何かするにせよ、まずアイツ自身から状況を確認してからか」

 

 ここで働くならそのうち顔合わせんだろ、とゾロは続けた。

 

「ゾロの言う通り、俺達だけで悩んだって意味ねェか」

「そうね。とりあえず食べましょ」

 

 先行きを考え、沈んだ気持ちのまま食べ始める。

 

「ん──んんっ!?」

 

 美味しい(うめェ)──っ!! 

 

 丸くなった目を皆それぞれ見合わせ、声も無く感動を共有した瞬間だった。

 あまりの美味しさに私も皆も、それぞれ表情を綻ばせて夢中になって食べていく。

 

「おっほォ、こんの魚のフライ、かりっかり、ほろっほろ! ふほっ、ソースとの絡みがにくいなちきしょォ」

「あ、この付け合せのフルーツおいしっ。この組み合わせでお代わりしよっかな」

「ふぅ……ぁあ、酒との合わせも抜群だなこりゃ。たまらん」

「〜♪」

 

 名前からは想像出来なかった、珍しい料理の数々を、イカついコックさんに言われた通りに食べたり思い思いに食べたりと、食事を楽しんでいた。

 どの料理も1口1口の味わいが深くて、お腹は確かに膨れているのにもう少しという手が止められない……なんだか懐かしい感覚だった。

 

「あぁあっ!? お前ら!」

 

 皆が食後の一服と一息ついているタイミングの、待ち人の声だった。

 ちょうど真後ろからのその声に、勢いに任せるのを耐えながら、私は座ったまま余裕の表情を保って振り返る。……隣のナミから笑いを堪えるような声が聞こえるのは聞こえないフリをした。

 どこを見て笑ってるのかなんて見えない。私自身()()()()()()気はするけどわかんない。

 うぅう見るなー。

 

「ふふっ。はァい、()()()()()()雑用さん」

 

 意味有りげなイントネーションをつけるな、いやつけないで……。

 

「一年も雑用だってな。店壊したらもっと伸びちまうから気をつけろよ?」

「あんまり長くなるようならあの旗、描き直しちまうぞ?」

 

 エプロン姿のルフィ……初めて見た。

 麦わら帽子とで全然似合わなくって、おかしくて面白い格好! ……変、だけど嫌いじゃない。

 私とナミの合間に立ったルフィが腕を組んで、唸るように文句を言いだす。

 

「俺をさしおいてこんな美味いもん食ってるなんて──」

 

 こんな美味い? 知ってるってことはさては摘み食いしたな、まったくルフィめ。

 雑用のなんたるかを知らないルフィが迷惑をかけてる光景が目に浮かぶ。……うーん。

 

「いやいや俺達の勝手だろ! はっはっは……ん?」

「ま、働くお前にゃ悪いと思ってるが……ルフィ?」

 

 ウソップとゾロがキョトンとして固まって、ルフィを見ている。

 そんな2人に、私もナミも、思わず隣のルフィの顔を見上げると。

 にっこにこと、類を見ないほど上機嫌な様子で私と私の前のカラの皿達を見比べているルフィがいて。

 

 2人と同じように私も固まった。

 そこでようやく私達から視線を集めていると気付いたらしいルフィが、けれども顔はそのままに口を開く。

 私を、見つめながら。

 

「ししし、いやよ。ウタがよ、目一杯食ってるっぽくて、なんかめちゃめちゃ嬉しくってついよ! そっかぁ、美味いんだな、ウタがそんなに食うぐらい美味いんだな。やー、ここに来てみて良かったァー……!」

 

 い、いっぱい食べてるのをそんなに喜ばれても。

 気恥ずかしい事を臆面もなく言うな、しかも人前で。

 

「ルフィお前、そんなことになってるのに言う事がそれかよ……」

 

 ゾロが呆れた顔してんじゃんか。ぅああナミもウソップも似たような顔を……。

 

「そのために来たからな。それによ、いーいコック見つけたんだ。あいつぜってェ仲間にする! ウタにまた腹いっぱい食わせるためにも、俺が旨い飯食うためにも!」

 

 あ、これ。1年本当に居るかはともかく、その人が仲間になるまでしばらく店にいるつもりだ。

 

「へェ! 良さそうなやつがいたのか。けどそいつ仲間になってくれそうなのか?」

「仲間にする! 俺が決めた!」

「なんだそりゃ。どういうことだ?」

「なんか店を離れたくねェ理由があるみてェだけど教えてくんねェんだ。でも仲間にするって俺は決めたからよ、理由なんてなんでもいい、連れてく!」

「お前が横暴だってことしか分からねェんだが。話聞くだけでも嫌がってんじゃねェかそいつ」

「なァに大丈夫だ!」

「根拠もねェのになんだその自信……!?」

 

 ウソップとルフィの会話を、なんとも言えない顔でゾロとナミとただ聞いていた。

 どんな人が仲間になるんだろなー……。

 ルフィがここまで熱心なんだからいい人なのだろう、あるいはどこか変なのかもしれない。

 

 ふと、私達のテーブルに近づいてくる足音。

 ちょうどルフィで隠れてて私からだと見えない位置だ。 

 

「お。ちょうど来たな」

 

 え? 

 

「──ああ、海よ」

 

 ああ海よ

 今日という日の

 出会いを

 ありがとう

 

 ああ恋よ

 この苦しみに

 たえきれぬ

 

「僕を──」

 

 な、な、な、──なァ……!? 

 聞いてるだけで恥ずかしくなるくらい中々に情熱的で悪くないむしろ好きな感じの(ポエム)を諳んじてる……! 

 

「笑うがいい──」

 

 笑うがいい

 僕は君となら

 海賊にでも

 悪魔にでも

 成り下がれる

 覚悟が

 

「今できた──」

 

 ──そしてナミに言い寄ってるぅぅううっっ!? 

 

「こいつこいつ。ウタ、こいつだよ、おもしれェだろ」

 

 …………………………え。

 金髪で左目隠してるの、白の髪で左目隠してる私と被ってるし! 

 長身黒のスーツ姿とかいう長身黒の燕尾服を思い出させる嫌な服装だし! 

 本当に? と目で訴える。

 

「うん? おう」

 

 首を傾げながら肯定された。

 ……この人が? 

 

「──しかし」

 

 しかし

 なんという

 悲劇か!! 

 僕らには

 あまりにも大きな

 

「──障害が!!」

 

 ほんとにこの男が……っ!? 

 ナミに言い寄るこいつがルフィが誘ってる新しい……っ!? 

 

 ……えぇ。

 

「はっ、障害ってな俺のことだろうサンジ」

 

 サンジっていうのか、ってまた誰か来てる、し。

 年を感じる声に振り向くと、そこには。

 ものすごいコック帽を被った、

 ものすごい髭のおじいさんが、

 ものすごい険しい顔で立っていた。

 

 なにあれ。コック帽だけで体の半分くらい長い。

 それに髭。肩まで届きそうなくらい左右に三つ編みできる髭って相当な長さだ。

 そして顔怖っ!? ガープさん思い出した……。

 

「あぁ? いたのかよクソジジイ」

「雑用が働けるのか様子を見に来ただけだ。そしたらなんだまたテメェが女見て鼻の穴膨らませて、悲劇だ障害だとバカバカしい口上垂れてやがる。んなもん、とっととこの店辞めて出ていきゃいい話だろうが」

「俺はここの副料理長だぞ。ただでさえ人手不足だってのに、出ていけなんざよく言えたもんだ」

「客とはすぐ揉める、女には騒がしく言い寄る、料理もろくにできやしねェ。んなクソガキの1人、海賊になって居なくなってくれた方が俺の店のためだぜ」

「んだとっ!」

 

 気色ばんだサンジが、煽ったおじいさんに詰め寄る。

 海賊になるなら他所でお願いした──ああルフィがおじいさんの言葉に嬉しそうな顔して成り行きを見守ってるぅう……。

 

「言いたい放題っ、ふざけたことぬかすなクソジジイ! 俺がすることなすことけなすのは勝手だが、俺の作る料理までけなすのだけは許さねェぞ! 何を言われようと俺はここでコックを続けんだよ、わあったかっ!?」

 

 うっわ、おじいさんの胸倉掴んだ。なんて乱暴なやつ。

 

料理長(オーナー)の胸倉掴むとは何事だボケナスッ!!」

 

 んんんんん──っっ!? 

 激昂したサンジにおじいさんも激昂して、私達のテーブルに投げ飛ばして!?

 皆で咄嗟にいくらかテーブルの上の料理は回収した、けどさあ、なにこのバイオレンスな展開……。

 あああテーブルの脚がへし折れてるし……お高そうだったから結構頑丈だったんじゃ。す、すごいなあのおじいさん……この人がオーナーなのか。

 ルフィに皿を渡して手帳を取り出した。

 

「フン」

「ぐっ、くそ。テメェが何と言おうと、テメェが死ぬまで、俺はっ、コックを辞めねぇぞ……っ!」

「そいつぁ俺より長生きできるんなら言うこったな。俺はあと百年は生きるぞ」

「……っけ。あいも変わらず口の減らねェ」

「生意気な口を叩く暇があんなら、とっととそこ片付けな」

 

 よろよろと体を起こすサンジを鼻で笑って、おじいさんが離れていく。

 身じろぎした途端、カツン、という音に目を下にやれば片方が義足だった。

 けど、体幹にブレはない。

 白のコックコートで身体つきは見えないけど、この長身の男をあれほど簡単に投げ飛ばすんだから相当鍛え込まれてるのでは……。

 かといって、尻込みすることもまあ無い。

 

「ウタ?」

 

 立ち上がると、どうした? と言いたげに見てくる皆に、ルフィをチラッと見た後に、手帳を見せて返事をする。

 

「〚私も雑用やらせてくれないか、オーナーとちょっと話してみる〛」

 

 

 

 ………………

 

 

 

 どうせルフィが勧誘を諦めるなり成功させるなりするまで、しばらく働くのはどうあっても避けられそうにないし。……無理とわかっていても個人的には諦めて欲しい。

 という訳で。

 ルフィ以外の3人から生暖かい眼差しで見送られ、私は1人小さくない憤慨を経て現在。

 

「っかぁー! っったァく、偉く強情な嬢ちゃんだっ! あの小僧にして嬢ちゃんだな……いいだろう。コックとしてでなく、あくまで雑用としてだってんなら……働くのを認めて、やる」

 

 給仕さん皆に逃げられた話を挙げたのに、能力で色々と雑用仕事はこなせると見せたのに。

 予想外にも物凄く渋られたし、最後までそのセリフを苦々しい顔のままで絞り出すように言われた。とにかく、どうにかオーナー・ゼフから許可を貰えたから、良し!

 

「昼間の働きだけ見ても、あの小僧だけを置いとくのも考えものだしな。嬢ちゃんがアイツの手綱握れるってんなら、頼んだぜ……」

 

 私のことはそれはそれとしてと置き、ルフィの事を考えて頭が痛そうに話すゼフさんだった。

 分かってはいたけど想像以上の問題児らしい。私の幼馴染が変に苦労させて申し訳ないと気持ちを込めて頭を下げた……。

 

 とりあえず。

 

 お客さん達が帰った店内を、ルフィと能力の黒子達と一緒になって掃除中。

 

「んん〜。なぁなんでウタも働くことになってんだ?」

 

 床拭き用に水を汲んできた大きなバケツを置きながら、ルフィが言う。

 私は布巾でテーブルを拭くのを一旦やめて向き直った。

 

「『別に? ただ船で待つのも暇だなって』」

 

 それに、船で鍛錬をして待つにも集中出来そうにない。……何だかんだ10年間、半日と離れると落ち着かないなんて信じられないくらい恥ずかしい話はルフィにだけはバレたくない。

 

「ふーん? そっか。ま、一年も待たせねェよ!」

 

 オーナーはそんな事は言ってなかったけどどういう意味だろ、と首を傾げた。

 

「俺が決めた。1週間で許してもらうんだ、だからそんなに待たせねェぞ!」

 

 任しとけ! と笑うルフィは、謎の根拠を本気で言っていて。

 そんな事出来るわけないのに、そんな事をしてしまえそうだった。

 ……ルフィがここまで言うのだし、とりあえず1週間は傍で様子を見よう。

 

「その間にアイツを仲間にしねェとなァ」

 

 船の資金崩してナミに土下座してでも修理費と治療費どうにか払って、とっとと出ていきたいなァ私……!! 

 

 あの日から今日で3日目。

 未だ皆が寝静まる中、支度を済ませる。

 

 ちなみに、女性用の仕事着なんざ用意はねェ、とは何故? としか思えない話の後、オーナー・ゼフの着ているような、大きめの真っ白なコックコートを借りた。

 ブカブカで身体のラインを隠せて私からしたら助かるし、この店に勤める人達の言動と裏腹にものすごく清潔だしと言うことが無い制服だった。

 

 襟と自前の黒のスカーフで可能な限り首を隠し、髪型はお団子に纏めまして……さぁ行こう! 

 

「……おはようウタ。早いわね、昨日も今朝も」

 

 仕込みの手伝いに、とメリー号を降りようとしたら聞こえてきた声に振り返りつつ、駆け出す。

 仕事行く前に! 昨日は働き始めたら全っ然補充できなかったから! 今日は行く前に! 

 

「『よかったナミ起きてくれた』……っ!」

「ええィ勢いを落とせこの赤白ワンコッ!」

 

 ワン……でももうワンコでもいいーっっ! 

 駆け寄って、立ち止まる。じっと見つめる。

 まだ寝巻きのナミは、渋々と、深々とため息をつきながら「……ほら」と両手を広げてくれた。

 いやったー! 

 ぎゅっと抱きついて、ぽんぽんと気の抜けた手付きであやすように背を叩かれた。

 

「──私ってば、なーんでこんなにアンタに甘くしてんのかしら」

 

 そんなの決まってるじゃん! 

 

「『私がナミのこと好きで、ナミも私のことが好きだからでしょ!』」

 

 コレに尽きるってー! 

 うきうきで描いた直後、ナミの体が強張った。

 てっきりすぐにでも、照れ隠しなり呆れるなりの反応があると思っていたのに、何も無い。

 あれ? 

 

「はいはい。もう元気ねウタは。ほら、行くんでしょ? テキパキ働いて、いっそとっとと、ここを出られるようがんばってきてよね!」

 

 身体を離した時、笑ってるナミはいつも通りに見えた。

 任せなさいとばかりに大きく頷いた私は船を降りようとして「いってらっしゃい」とナミに手を振られて、急ぎながらも笑顔で振り返して。

 船を降り立ってすぐ、バラティエへと駆け出した。 

 

 

 

 

 

 

 











ハラハラドキドキしてる、はやまった感がある……
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