「ウタちゃん! 4番テーブルにメイン! あと11番にこっちの前菜!」
「そのあとこっちは仕上げとくから、取りに来てくれウタちゃん!」
「13番にデザート! ついでに隣の5番から注文聞いてきて!」
ぐっと親指を突き出して了解の意を伝え、数字を描いた音符に各テーブルごとのお盆を乗せ、私自身は伝票とコックさんから料理を預かりながら聞き取ったメモを持って、いっぺんに仕事に取り掛かる。
「『お待たせのメインディッシュです! 食べる時はまず──』」
「『前菜持ってきたよ! これは──』」
「『コレが今日の美味しいデザート。紹介していきます、ここのね──』」
テーブルに届ける際、届けた料理名と一緒に能力でキラキラをつけて見栄えを演出。
メモを見ながら皿の上の各食材に矢印をしき、調理法やこだわりを紹介。
物珍しい悪魔の実の能力による演出と、細かな説明にしきりに感心を受け。
そして次のテーブルへ。
「『お待たせしました! 注文どうぞ!』」
「おおお? い、いったいそれは」
「『秘密です! 注文はないですか? ありますか?』」
「そ、そうなのか? 気になるけど……ならじゃあええと」
聞いた傍から能力で料理名を見えるように羅列。
ついでにどのような物かも簡単な絵として描いて提示。
「『ご注文は
確認は一瞬。礼をして厨房に引っ込み、似たような工程を繰り返す。
バラティエは海上レストラン。お客さんは大概いっぺんにやって来る。私達のように個人船で来る客は少ない部類だ。
一度今いるお客さん達にデザートまでの配膳と下膳を済ませ、皿洗いも能力の黒子達と音符でサクッと片付ける。
雑用としての業務をすぴーでぃに片付ければ、私の能力使用による疲労回復に当てる時間も作れるという寸法だ。
「『少し休憩入っちゃいます』」
厨房でりんりんと鈴を鳴らし目線を一瞬集めた上でそう伝え、一旦3階にある従業員用のスペースに足を向ける。
「おう! このあともよろしくな! そうだ賄に俺の作ったデザートを持ってくといい!」
「ばっかやろうカルネお前のなんざウタちゃんが腹壊したらどうするんだ!? お疲れのウタちゃんにゃここは俺のスープを!」
「はいはいパティとカルネの馬鹿野郎どもは放って置いてさ。俺の作った疲労回復にいいレモネードの差し入れが上に置いてあるから、お好きにお飲みよー」
抜け駆けかてめぇ、うるせぇ、と暴れ始める光景に呆れる。
こんなに暴力的なのに、作る料理の仕上がりはどれも芸術的なのだから不思議だ。
他の強面のコックさん達からも口々に、乱暴だけど暖かみのある労いの言葉をもらいながら、改めて階段を上がっていった。
……一昨日、ルフィと一緒にがんばりますと自己紹介で伝えた瞬間、私の能力に驚いていた顔が苦々しい顔に変わっていった。
初日の私が働き出すまでの合間だけで、ルフィが何をしでかしたのかがありありと分かる変化だった。
ま、何年もコルボ山で磨いたテクニックで雑用業務を次々とこなせば、あっさりと払拭できる程度だったけれど。
このあとはまた定期便で次の時間帯、遅めのお昼にとお客さんが来る流れまで一旦待機だ。
せっかくだしと、業務用の大型冷蔵庫、の傍らにあるふつーサイズの冷蔵庫に用意してあったレモネードを一杯注いで、ちびちびと飲む。
濃厚かつ爽やかで、芳醇な風味を堪能する。
賄いもチラッと見てみると、見た目から香りからどれも魅惑的でゴクリと喉がなっていた。
美味しく、癒やされながら考える。
今日の賄いをいつ食べようか、と。
我が事ながら食事を楽しみにしてる事実に驚きながら感心する。
本当に美味しいものばかりなのがすごいよここ……。
次のお客さん達が来るより少し前に、皿洗いに向かうとルフィがいた。
「おおウタ。今からか? 寝坊でもしたのか?」
「何言ってんだ雑用!」「寝坊はお前だけだ!」「お前が言うなお前が!」「雑用は黙って皿洗え!」
「俺は寝坊はしてねェよ。朝飯と昼前飯をちゃーんと食ってただけだぞ」
「「なお悪いわっ!!」」「なんだ昼前飯って……」
怒られてばかりのルフィだ。ま、今は私ががんばって挽回すればいいだけってね。
さて。
山のような皿洗いを始めているルフィに近寄って手伝い始める。
私がスポンジで洗って、これ濯いでとばかりにルフィに手渡していく。
初日こそポイポイと皿を割りかけてばかりだったルフィも、慣れてきたのか皿で言うなら5〜10枚に1枚、
「ぅぉお、っとと。ふぃー、ありがとなウタ」
そのくらいの頻度で落としそうな皿を音符で受け止める程度で済んでいる。
「あ、なんだよちょっとくらいいいじゃんか」
たまに、摘み食いしようとする手を音符で塞ぎ。
「あり? なんだこれまだ捨てちゃダメだったか」
不意に、目についたのか持ってきた寸胴の中身を捨てる寸前で止めて。
「終わった終わった!」
サクサクと作業を終わらせた。
「おい雑用、皿洗い終わったか? っとぉおお、ウタちゅぅうわあんっ! ああ今日もとっても可愛らし──」
ルフィの背中に張り付く。
サンジ、私の苦手な部類の男。
ダメだ、初日にナミに言い寄る姿、正しくアレが軟派男……私の周りにはこれまで居たことがないタイプなのだ。
強いて挙げるならベックが近い、女好きだったし。ただベックはむしろ言い寄られる側だったから全然違う。
「あぁ、すまない、つい心が弾んじまう。怯えさせちまった」
私が嫌がることを察して接し方を変える辺り、そして現れる度に乱れ1つない服装といい、几帳面で気遣いのできる一面は見えていた。
ただ私がまだまだ慣れなくて
「ウタちゃん相手に
「はっはっは、軽薄さ染み付いてんなァ」
「クソうるせェぞ雑用。あーあ、こーんなかわ……いい子の幼馴染がいるとか羨ましいんだよテメェ」
「ウタ、そろそろ動きづらいから離してくれよ」
「もっと大事に接しろよクソ野郎……っ!」
「『結局ルフィになんの御用だったんです?』」
「え、ああ、次の客が来る前に今でてる皿下げてこいと言いたくてね。それはそうとウタちゃんもっと俺にはフランクに接してくれて」
「『どりょくします』」
「あ、そう」
肩を落とすサンジ。申し訳ないという気持ちがこみ上げる。
実質ジョニーと似たような事を私がしてるというのも嫌だった。
もうサンジが仲間になるのはルフィが言う以上ほぼ確定事項。
ちゃんと話す時間作って、慣れるしかない。……その時はルフィに無言でいいから、その場に居てもらうよう頼もう。
……なんて、考えてる所じゃなくなった。
突然、階下でたくさんの悲鳴が上がった。
「なんだなんだ?」
「おいどうした!? 何があった!?」
サンジが階下に呼びかけると反応はすぐ返ってきた。
「そ、外だ。戻ってきた、……あ、あいつ戻ってきやがった!!」
あいつ? 外?
顔を見合わせてルフィ達と下へ。
「おお、でけぇ……」
目を丸くしてルフィが言った。
どこの席からでも海がよく見える店内だけれど、窓の外にはその海を覆い隠すほど巨大な船が迫っていた。
やって来たのは、メリー号の何十倍、バラティエの何倍も大きい、海賊船。
ただ、……今にも沈みそうなくらいボロボロになったガレオン船だった。
「ドクロの両脇に警告を示す砂時計……ひぃいいい!!」
「ま、間違いない、あの海賊旗は、ぁ、ぁぁあ」
「海賊艦隊の船長、
その海賊船からボロボロのコートを纏った巨体の男が現れたその時、コックさん達やお客さん達が呆然と呟く。
あれが船長の
1人では歩けないようなクリークに肩を貸して一緒に騒然とする店内に現れたのは、サンジとルフィは顔見知りらしい、ギンという男だった。
ギンは自らの船長クリークは餓死寸前なのだと、助けが欲しいと声高に叫んだ。
「どうか
切実な想いが伝わるような叫び。
ただ、遠巻きに様子をうかがうお客さん達も、バラティエのコックさん達も、皆全く同じ反応。
自業自得だと、苦しめと、そのまま飢えてしまえと冷たく叫び返す。
どうやら私は知らないけど、悪い意味で有名な海賊らしい。
よほど嫌われるような事をしたのか……いや、海賊だからこんな反応なのかな。
なんと言われようと、それでもと、ギンが必死に、クリーク当人も頭を床に擦り付ける勢いで頭を下げる。
「頼むよ、助けてくれよっ! ほんの少しだけでいいんだ、食事をくれっ、水をくれっ!!」
「お願いします、……残飯だっていい、お願いします、どうか助けて下さい……」
「うるせえっ! 何一つとしてやるものかっ!」
「どうせ私達をすぐ襲うつもりなんでしょっ!!」
「さあ取り押さえよう、海軍に連絡を! っは、東の覇者もこうなりゃおしまいだぜ!」
「ざまあみろ海賊!」
「海賊がいくら辛そうでも知ったことか! くたばれ海賊!」
そんな2人の懇願に、容赦なく罵声が返される。
……あれも海賊の末路の1つだ。
海を行く海賊にとって、陸を離れる以上は飢えと乾きの危機と常に隣り合わせだ。
仮に餓死寸前になるまで追い込まれた時、救いを求めても救われることはない。
それが悪行の限りを尽くして、悪名を轟かせた結果だ。
海賊として当然の末路。……当然の末路。
気付いたら、隣のルフィの手を取って握っていた。
ルフィはちらっと私を見ただけで、何も言わない。
そのまま2人並んで事の成り行きを見守る。
「ちょっと横失礼するよ」
え? と思ったのも束の間。
美味しそうな湯気を立ち昇らせる大皿をいつの間にか持ってきたサンジが、そう言って私の横を通り過ぎた。
真っ直ぐな足取りで、クリーク達へと向かっていく。
道中のコックさん……バラティエで1番ガタイのいいパティさんを、手に持ったピラフの米一粒も零さず鮮やかに蹴り倒す。
小さな悲鳴と懐疑の声にざわつく店内、その中で。
よく通る声で一言、なんてことない、という風な声色でサンジは言った。
「ほれギン、食わせてやれ」
「さ、さん、じ、さん」
「ぉぉあ──す、すまねぇっっ!!」
……驚いた。
サンジは誰の声にも耳を貸さず、迷うことなく食事を差し出した。
クリークが皿を抱くようにしてピラフを貪り食べていく。
私も、誰もが、唖然とする中。
「ば、ばっか野郎サンジ早くそのメシを取り上げろっ! そいつがなんて通り名で呼ばれてるか知らねェのかっ!? "騙し討ち”のクリークだ、食うだけ食ったら今に襲ってくるぞっ!!」
「ソイツが海兵に扮して軍艦を奪った話や、海軍旗をかがげて町を襲った話を知らねェのかよっ!?」
「ひぃいいっなんだっていいよぉおっ! 誰だっていいからあいつから早く飯を取り上げろよっ、止めてくれアイツをっ!!」
ハッとしたようにコックさんやお客さんの何人かが声を上げ、慌ててサンジに辞めるよう訴え出る。
「うらぁあっ!!」
「首領《ドン》っ!?」
けど、クリークの行動に一切の躊躇も無かった。
「サンジィイイッ!?」
「野郎やりがったっ!」
突然起き上がったクリークが、猛然と目の前のサンジを殴り飛ばした。
床を跳ねながらテーブルを1つ粉砕して、ようやく留まる。
激しい一撃に見えたけれど、「そうくるかよ」と呟きながら体を起こしていくサンジは意外に平気そうだった。
物凄い頑丈さに、ルフィやゾロを見たような気分になる。
私だったら最悪死んでたんじゃないかな? 体格差考えると。
サンジを殴り飛ばしたクリークは「約束が違う!」と声を荒げるギンを片手間に痛めつけ黙らせると。
「気に入った、この船を貰おう」
堂々とした態度でそう言い放った。
……さっきまで懇願していたあの態度は本気だったと思った。
今は違う。
「あとそうだ、ウチのあの船にはまだまだ大勢、腹を空かせた俺の部下がいる。ざっと100人分の食料をすぐに用意しろ。それから、お前らにはこの船を降りて貰おうじゃないか」
「この期に及んで飯用意しろ、だあ……!?」
「船を貰う……?」「ふざけんな出ていけっ!」「こうなるから辞めろって言ったのに!」「何も渡すか失せろ海賊!」「失せろ!」「帰れ!」
「ははははっ、威勢がいいコック共だ。だが、──
傲岸不遜な態度を隠すことなく前面に出すクリークの圧に、唾を飛ばして叫んでいた全員が押し黙る。
コックさん達が敵意むき出しで睨んでいるのに対し、たった1人で微塵も怯まずふてぶてしく笑う姿は、確かに
やってる事それ自体は、まっったくそうは思わないしもーあったまにくるけどっ!
ギンって仲間なんじゃないの!? 平然と傷つけてるし! サンジだってせっかく餓死寸前の所にご飯くれたのに何あの仕打ち! あんまりじゃんっ!
恩を恩とも感じてない最低な奴だ。私の中でクロに並んで嫌いなやつになったよクリーク!
さっきはちょっといたたまれないと言うか空気が切なくてついルフィの手を掴んでたけど、今は自制のために握ってる。……なんか落ち着く。
「どこ行くんだサンジ?」「サンジ?」
周りがサンジを呼ぶ声に顔を上げる。
1人、クリークに背を向けてサンジが言う。
「厨房だよ。聞いたろ? あと100人腹空かせてんだ。用意してやるのさ」
それが当たり前だと言うように、サンジの声色は平然としたままだった。
今さっき殴ってきた相手の言う事をそんな素直に?
しかも明らかにその後は襲ってくる気満々なのに?
やめろ、ふざけるな! 何考えてるっ!
そう口々に言われて一斉にコックさん達が銃を突き付ける。クリークの回し者かよ!? とも詰られて。
「撃てよ」
それでも。
両手を広げ、無抵抗を示して。
怯えも何も無いただ芯のある声だけが、静まった店内に響く。
「撃て、俺を止めたきゃヤレ。──救いようのない悪党だと分かってた所で、その後にどうなろうと。
だから止めたきゃ撃て、と。
静かに、けれど強くサンジはそう締め括った。
サンジ、私が考えていた以上に意外と……。
ルフィからふと手を握り返されて顔を見れば、どうだアイツと言わんばかりに笑って私を見ていて、悔しいけれど、小さく頷き返す他に無かった。
コック姿お団子頭ウタと肩を並べて皿を洗うルフィが見たい妄念
女性に紳士的な所、それを貫く姿勢、男の鑑みたいな所あるよねサンジ(作者的な意見)