新時代を、それでも   作:ずーZ

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※微妙に長くなったので1.5話とセットです


2話

 

 

 

 

 

 

 

 

「──」

「ん、ん? んぁ? ……ああ、おはようウタ」

 

()()の寸前に、閃き(りせい)が脳裏を過ぎって、指先サイズの音符でルフィの顔を小突き起こすことが出来た。

 

 そして。

 

 起きたルフィからここがまさかの樽の中という事を「いやー! 死ぬかと思った!」と何故そうなったのかの経緯込みで元気よく笑って教えられた。

 

 ──昔隠れんぼで隠れたことあったなあ、そっか、ここ樽の中かあ、通りで……はぁ。旅の頼りはウエストポーチ(これ)だけかあ……。

 

 ……現実逃避をしばし挟み。

 能力を使用しすぎた結果寝てしまって、せっかくの()()がウエストポーチ以外全滅……と内心で深く嘆いて溜息を吐いていた。

 

 だが、とにかく、とりあえず。

 

 ウタは生み出した小さな音符を使って、外を見たいと蓋を小突いて訴える。ルフィも慣れたものでそれを察した。

 バカッとルフィが蓋を持ち上げた。

 突然差し込んだ陽光に目を細めつつ、ゆっくりとウタは樽から顔を出す。

 

「どうだ、島かなんか見えねえか?」

 

 続けて「そういや腹減ってきたなぁ」と呑気な事をボヤくルフィに、後ろ髪をピンッと立てたウタは力強い笑みを向けて──能力を発動する。

 大きな音符を生み出し、樽に引っ掛けた。

 

「っ」

 

 遠い。岩山が特徴的な島はどうにか見えるくらいの距離だ。

 けれど、必ず辿り着くのだと音符を操作し樽を動かす。

 

 2人分の荷重、樽の重み、波風……樽の移動速度は遅々としたモノ。それでも加速度的に疲労が溜まる。

 ウタの全身は冷や汗に塗れ、頭の中は猛烈な眠気に苛まれていく。

 

「ウタ」

 

 手を取って、握られる。遠のくウタの意識を支え、繋ぐ、優しい手だ。

 頷きを返し、集中していく。時折手を握り返して、意識を繋ぎ止める。

 

 そうして。ようやく、海岸に辿り着いたのだった。

 

「──にししっ、さすがウタ、おかげで助かったぞ。ありがとう、やっぱりウタはすんげぇヤツだな」

 

 2人とも樽から出た直後、体力の限界に倒れかけた所を抱き留められる。

 普段のルフィらしからぬ落ち着いた態度で、そっと頭を撫でられた。

 

「……」

「ん?」

 

 いつの日からか、ウタよりも背が伸びていった幼馴染。頭1つ高くなったルフィの、帽子の隙間。

 ウタは重くなる目で、何時もよりずっと近い位置にあるルフィの頭を。力の入らない指先で、その前髪の辺りをそっ……とさすった。

 少し寂しげな、けれども満足した笑みを浮かべつつ、ウタはルフィの腕の中で眠った。

 

 

 

 ……

 …………

 ……

 

 

 

「お──ビーッ! ──っけてんだぁっ!」

「イヤだこ──絶対にぃいっ!」

 

 ……埃っぽい、酒蔵のような所だった。

 所狭しと乱雑に箱や棚が配され酒瓶が置かれている中、あってない様な狭い通路に、2人居ることに気付く。

 壁にもたれ掛かって眠っていたウタの前。

 見覚えの無い少年の後ろ姿が、見覚えの無い柄の悪そうな男が対峙していた。

 

 男は今にも腰の剣を抜こうとして柄に手をかけている。

 少年は何か……おそらくナイフを突き付け立ちはだかるようにしていた。

 2人は睨み合って、怒鳴り合っている。

 

 騒々しく、殺気立った空気。

 

 すぐ目の前の緊迫した状況に、微睡みから覚醒したウタは目を見開いた。

 

「あのバケモノはてめえとこっから出てきやがったっ、ならぁ、そこで寝てたその女はあのバケモノの連れなんだろ!? 人質にすんだよっ、どきやがれへっぽこコビーっっ!」

「いいぃ──イヤだっっ!! ウタさんにそんな事はさせないっ、ルフィさんの幼馴染にそんな酷い事は許さないっっ! ここは絶対、絶対絶対っ、()()()()()どくもんかぁあっっ!!」

「っっんのやろうっ! なにが死んだってだぁ?! くそがっ、ブルブルブルブル震えながらウザってえんだよっ、とっとと死ねぇっ!!」

 

 男が剣を抜いて振りかざした。

 少年はと言えば傍からも分かるくらいヒザが震えていて、反撃にも回避にも、動けるようには見えなかった。

 

 だから。

 

「ひぃっっ、い?!」

「──ぁあ? な、なんだコイツ!?」

 

 咄嗟に音符の戦士を呼び出し、少年の体を引き摺り倒した。

 少年が棚を倒しながら尻餅をつき、男は空振った剣で違う棚を強かに叩く。

 数え切れない酒瓶が割れる。甲高い音が遠くまで響くようだった。

 

「て、てめぇ一体、どこから現れやがった……!?」

 

 いきなり現れた、不気味な仮面を被る音符の戦士を前に男が怯んでいる。

 ここだ、と。

 音符の戦士の攻撃力を当然よく知っているウタは、すかさず手を翳して拘束技を繰り出した! 

 

「ぬぁあ!?」

 

 ウタの手から放たれた5つの光る流線が、男を絡めとり簀巻きに仕上げた。

 

「ぐ、くそ、まさかこの女()かよ……ちくしょうっ!」

「え? え、これはいったい……?」

 

 こうして、明らかに敵意を向けていた男は拘束した。

 ウタの隣でへたり込んでいる少年も無傷で、簀巻きになった男とすぐ傍に佇む音符戦士とウタとを、忙しない様子でしきりに見ている。

 ウタは、ひとまず事態を収めたと判断して、ゆっくりと立ち上がって──

 

「……!?」

 

 唐突な目眩に襲われ、膝を崩した。……能力使用に、体力回復が追いついていなかったと察し、顔面が蒼白した。

 音符の戦士が、五線譜が、光の粒子になり解ける。

 

「よ、よく分からねえが、さっきのやつも今の妙ちくりんなのも、……てめえの仕業かよクソアマがぁっ!」

「っ!」

 

 自由になった男が再度ウタへと襲いかかり、遅れて事態が急変した事を理解した少年がどうにか立ち塞がろうとして、

 

「──スタンプッッ!!」

「バヅグッッ?!」

 

 酒蔵の壁をぶち抜いて()()()()()脚が、男の顔面を蹴り、さらに壁の向こうへと吹き飛ばした。

 

「ウタァッ! 無事かっ!」

「ルフィさんっ!!」

 

 壁の向こうから()()()()脚を戻したルフィが、砕いた壁をさらに砕きながら現れた。

 

「コビー? お前もここに居たのか」

 

「はい! 良かったルフィさんが来てくれて……実はルフィさんがアルビダをぶっ飛ばしてすぐに、さっきのやつが誰よりも早く走りだしたのがチラッと見えたんです。嫌な予感がして後を追ったら──」

 

 ウタを守ろうとしていた……いやおそらく寝ている所を襲われないよう守っていてくれたのだろう少年、コビー? と、ルフィが何やら笑顔で話し込む。

 その光景に。ホッ……と小さく息をついて、力が抜けたウタは床にまた座り込んだ。

 そして今度は、深く深く、心から安堵の溜息を吐くのだった。

 

「ところでルフィさん、よく壁越しに攻撃当てましたね」

「すげぇだろ! 勘だ!」

「……は、……勘、ですか?」

「おう!」

「…………ええ、っと、そ、そうですね、凄い、です、はい……」

 

 胸を張る幼馴染のそんなとんでも発言にドン引くコビー。

 振り返って頬を引くつかせる彼に、ウタは緩やかな笑みを見せて──首を横に振りつつ肩を竦めたのだった。

 

 

 

 

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