水平線で交わる空も海もゆっくりゆっくり白み出して、朝の訪れを感じられた。
夜の間の見張り役は仮眠を取っていたウタと、乗せてもらって居るのだからと言うコビーの2人。
ルフィは「風が気持ちいーなー……」と言ってる内に、2人が気が付いた頃には甲板でイビキをかいていた。
小さいながらそれなりの船室もついているにも関わらず、そんな自由な有様である。
もっとも、ルフィだしこんなんでいいか……とウタは毛布だけ掛けて気にせずにいた。コビーはチラチラとルフィを見ては気にしていたが。
そんな夜明けの海の、船の上。
「今は東風ですけどこれが例えば南風ならやる事は──」
「……」
めもめも。
「あの辺りに見えるあの雲と風向きによって警戒するのは──」
「……!」
めもめもめもっ。
「羅針盤の方角と海図の照らし合わせ方はこうすると──」
「……っ!!」
めもめもめもめもっ!
「この風と波の具合ならあと……4時間ってとこでぼくらの目的地が見えてくるかと思います。えーとこの海図で言うと」
ねぇコビー、とばかりにぽんぽんと肩を叩いてウタは手帳を見せる。
「? どうかしま──」
「〖海軍に入るの辞めなよ、で、私達の航海士になってくれたりしない? 〗」
「あの、ぼく海兵になりたいから海賊になるのはその、ごめんなさいとしか……」
ウタのキラキラした目は一転した。
心底からのため息をついて、ガックリ肩を下ろし、後ろ髪もしょんぼり垂れる。
たはは……と少し嬉しそうな顔で苦笑いするコビーだった。
「……タぁ……れは、ズルーzzz……」
「……なんだか唸るような寝言ですけど、ルフィさんはいったい何の夢見てるだろう……?」
負け惜しみだろうな、とウタは何となく察してつい、小さく笑った。
寝相ですっかり崩した毛布を仕方なく掛け直していると、やや緩んだ眼差しでコビーがルフィを見詰めつつ口を開く。
「そう言えば……」と喋りだす雰囲気も緩い。傍からも眠気が伺える。
「ルフィさんがゴムゴムの実を食べた、俺はゴム人間ーって言ってました……」
なら、
「ウタさんも何か、食べたんですよね? 悪魔の実……ぼくを助けてくれた時のアレって、なんの能力だったんですか?」
「──」
それは、そう言えば話していなかった事だった。でも、こればかりはルフィにも同じ事を話していて、聞かれた所でウタが伝えられる言葉と言えばそう無い。
「〖さあ
「え? そんな事が……でも使えてますよね」
コクリと頷く。
ウタからしても不思議な事だが、必要だと思った瞬間には当たり前のように現れて、しかも手足の延長位に扱えるのだ。
「〖何時でも使える でもすごく疲れるからすぐ寝ちゃうんだよね〗」
「へー。だから今日もあの後すぐに……ふぁ……るほど、ってああごめんなさい欠伸が」
眠そうなコビー、それもそのはず。
剣を持った相手にあんな啖呵を吐いて殺されかけた上、この長い時間の航海だ。
ウタの航海術が拙かったこともあって、コビーは休む間もなく働いている。
「……」
ウタは海へと、そしてルフィへと視線を向ける。
波も風も落ち着いている……寝た頃合いから考えるとルフィの事だからそろそろ起きるだろう。
そう考えつつウタは手帳にサラサラとペンを走らせる。
「〖そろそろルフィも起きる 少し寝たら? 〗」
「そうですか? ……ぁふぁ──正直もっと話してみたかったんですけど、ぅう……そうですね、結構辛い、かも。じゃぁ、お言葉に甘えますね……」
寝転がるルフィの傍に座ったウタは、「おやすみなさい」と船室に消えていくコビーに、微笑みながら小さく手を振るのだった。
◆
コビーの、そしてルフィとウタの目的地でもあるシェルズタウンに到着した。
ここには海軍基地があり、そこでコビーは海兵になるという夢を叶えるため。
ルフィは強い仲間を求めて、基地に捕えられているという賞金稼ぎ『ロロノア・ゾロ』に会うため。
ちなみにウタは先日の嵐で失った諸々を買い直す方が優先だった。
「にっしっし」
先に船着き場に降りたルフィが笑いながら見てくる中。
アルビダの手下達に用意させた、一等上等な船上。
ウタは一言記した手帳を片手に、もう片手には
船を降りようとするコビーを押し留め、詰め寄っていた。
「あの、あのおっ! あ、あははは……あの、大丈夫ですよウタさんこんな」
「『支度金だから』」
「その、それは大変、ありがたいとは思いますが」
「『支度金だから』」
「……は、はい。ありがとう、ございます……だ、大事に使わせて貰いますね? ははは……」
ウタの左右を抜けようとするも尽く阻まれ、ついに観念し、苦笑いするコビーが札束を受け取り仕舞った。
ウタはそれを見届けて後ろ髪をヒョコヒョコ上げたり、ほんの少し下げたりしながらも、満足したとばかりにニコニコ顔で頷いた。
海軍に入るというコビーとは、海賊として海を回る以上このように話せる機会は寂しい事だが今後ない。
海賊の前で無防備に寝ている所を護って貰った。それにここまでの道中、航海術を少しばかり教えてもらった。
こんな形でもいい。礼ができて、ウタはホッとしていた。
「だから言ったろコビー、断るだけ無駄だってよ。さてと、話が終わった所でさっそく、行こうぜっ!」
ルフィの掛け声にウタも、おーっ! と腕を勢い良く突き上げた。
「飯屋にーっ!」
「──さ、さっき食べましたよね……?」
「バカだなーコビーは。島に着いたらまず、その島のモンを食うもんなんだ!」
軽くズッコケたコビーの肩を、ウタは優しく優しく叩いてあげた。
ルフィにとって初めて辿り着いた、ゴア王国とは違う別の島。そこにしかない物(食べもの)を求めるのは、──ウタにもよーく分かっている。
──シャンクスあれー! あれは買いに行かないと無くなる前にっ!
──待て走るなウタまだサイフが、ベックが来てないっ! あと俺も欲しいっ!
──誰がサイフだってんだ、ったく。ウタもお頭も1つだけだぞっ!
「──」
……1つ息を吐いて、切り替えて。
ちなみにウタは2人に付き合いたくはあるものの、揃えるものを揃えたかった。
今は何よりもまず、服を買いに行きたい……
切実な想いを抱えて……。街中で食事処を探す最中、服屋を見つけて別行動と動き出す。
その際に改めて、海軍基地へ向かうコビーに別れの挨拶をしてから、一旦2人と離れるのであった。
…………
赤と白のスカーフを巻き、ガウチョを履いて。首の長いパンダのイラストが細部に至るまでこれでもかと描かれた長袖シャツが特に良いと、真新しい服に着替え終わり船室の整理もひとまず済んだ。
「……ーっ」
船室で1人、腰を落ち着けての数日ぶりのコーヒーブレイク、もといココアタイム。なおコップの柄にも首長パンダ入りである。
温かいココアのあまー……く抜けていく風味に酔いしれるように、ウタはほぅ……と深く嘆息した。
声を出せない事、それについて心配していたほどの滞りもなく、服屋に市場に船とを何度か往復し買い出しを済ませた。
そしてようやくの休憩だった。
買ってきたココアで寛ぐ、静かな空間に心安らぐ。港の海風と波の音がBGM……。
ああ、なんてことの無いこんな時もまた大事だったのだなと、ウタは噛み締めるように至福の一時を過ごす……
「ウタさーん! ──ああ、良かったここに居た会えたっ!」
別れを済ませたはずのコビーがただ1人、慌ただしく帰ってきてあからさまにホッとした顔を向けてくる。
目を瞬かながら、ウタはココアを1口飲んだ。
「その実は、ルフィさんがここの基地の──」
気分と筆のノリで。次回はウタ主軸一人称予定。