映画本編のウタとは別人、と念頭に置いてどうぞ。
──悪人ロロノア・ゾロ……は、実はルフィもコビーも気に入るくらいめちゃくちゃ良い奴で、海軍大佐の息子から街の小さな女の子を助けたために投獄されただけだった。
投獄から解放する約束をその息子としたけれど、息子はゾロを処刑する気満々で、話を聞いたルフィが怒ってソイツをぶん殴ってその勢いのまま海軍基地にゾロを助けに殴り込みにいった。
……っ、さ、最後ー……っ!!
「ちょ、ちょっとウタさん、笑ってる場合じゃくないですか……?!」
て、テーブル叩きすぎて手が痛いし声はまあ出ないから出してないけどお腹ちょっと痛い……つりそうっ!
息を整えながら。ごめんごめん、とちょっと引け腰になってるコビーに手で示す。
でっっも! 最後の辺りのルフィがもうルフィでルフィフィフィ……ッ!
「あー! もう分かりました落ち着いたら来てください! ぼくだけでも先に行きますから!」
っと! それは困る、道わかんないから。
椅子に引っ掛けていたホワイトとピンク基調のパーカーを羽織る。そしてニヤケ顔をスカーフで隠しながら、私の支度をなんだかんだ待ってくれてたコビーが「こっちは真剣なのにもう!」ってプンスカ怒りつつ駆け出したので、その後を追って走り出す。
……ふぅ。
……で。
……うーん。
…………ねえコビー。
走り込み、しなよ?
「ぜーっ、ぜっヒ、……っ、つ、つきまひ、た……」
ポンポンと、苦しんでいる背中を労う。
息も絶え絶えで膝に手をついているコビーと、海軍基地にまでやってきた。
でも港からここまでの距離を走っただけで、その息切れはコビー……海兵として今後大変そう。
ルフィやエースと比べてだけど、体力に自信の無い私がちょっと疲れた位で済んでる距離だったのに、それはマズイよ海兵志望。
まあコビー、意外にここぞって根性はあるから大丈夫か。さーてルフィは……この辺りが静かだからいないのは分かった。
ルフィの事だから騒がしくしてる所にいるはず。基地の外で拘束されて居るっていうロロノア・ゾロに会いに行ったって話だったけど、ここまで来て外に居ないってことは──基地の中だね。
「ふぅ! っと、ゾロさんは確か……こっちの方です」
息を整えたコビーにひとまずついて行く。
ルフィはゾロに会いに行ったって言うなら何処にいるか聞けるかも。十中八九で基地の中だろうけど。
「あ! あそこ、ですけど……ルフィさんは?」
コビーと並んで覗き込む、そう高くもない塀の中。
訓練目的で使うのだろう演習場のど真ん中に、誰かが手足を丸太に縛られ張り付けにして立たされている……あれがロロノア・ゾロかーってうわぉ目が合った。
おおー……すっごいギラギラした目付き。あれで9日間も縛り付けられてるのか。ホントに人間?
「よしっ──ぼく、とにかく彼を助けに行きます!」
コビー、会った時みたいに何だか燃えてる。覚悟、みたいなものを感じるような。ゾロの縄を解きに行く姿に迷いが一切なかった。
捕まってるけど実はとっても良い人だった、ってくらいしかまだ聞いてない。女の子がおにぎりがとか言われてもピンと来なかったし。
でもルフィもコビーもこんなに入れ込むような何かがゾロにはあったのだろう──ちょっと、楽しみだな、っと!
「いやそんな熱く、こんな海軍許せねえっつったってお前そんなの──おいおい結局2人ともかよ……何考えてんだ揃いも揃って」
「え? あ、ウタさん! そのルフィさんなんですけど、どうやら基地にゾロさんの剣を取りに行ったらしくて」
へえ、剣。ゾロって剣士なんだ。そしてルフィはやっぱり基地の中ね。
私としてはよく分からない彼を助ける気持ちが今のとこないから、ルフィの方にでも行った方が面白いかな、いっそ。
「驚か、ないんですね。まさか分かってたんですか?」
頷く。そりゃあ……幼馴染だもの? 10年も一緒に過ごしてればルフィが何するかなんてだいたい分かる……いや、やっぱり分かんない時の方が多いかもしれない。
7歳の頃に『崖登りで勝負だ!』なんて言い出すヤツだし。
基本的に困っちゃう所なんだよね、ルフィの後先考えない所。ただ、ルフィだけが持ってる、すっっごく素敵な所でもあるのが、まーた困りモノなんだよね。
まったく……。
考えていたら笑っていて、コビーは呆気に取られた顔をしていた。
どしたの?
「?」
「え? ああっとと」
縄を解く手が止まってるよー、と言うつもりで指差したら気を取り直して動き出した。
「……てめえがアイツの言ってた、もう1人の船員か?」
ジロジロ見てくるゾロに、たぶんルフィが言ったんだろうなと思いつつ素直に頷く。
厳密には
「っは。船長が船長なら船員も変わってんな。先に言っとくが勧誘しようなんざ辞めてくれよ。海賊になろうなんて誘いはお前んとこの船長だけで十分──おいなんで手を合わした? そしてなんでそんな気色悪く笑って肩を優しく叩きやがる……?!」
『あのルフィから直接声をかけられた? じゃあもう決定だから諦めて仲良くしようね?』ってポーズ。……体感4割くらい伝わったかな、これはまだまだ精度を上げないといけない。
これから一緒の船に乗る仲だから私の『微笑み』を『気色悪く笑って』って言ったのは聞き逃してあげよう! 次言ったら簀巻きにしてあげよう!
瞬間、銃声が1つ強く響いた。
「っ、ぅあっ!?」
「な?!」
「……っ!!」
コビー!? 撃たれた?! 倒れて血を流して……とにかく止血、止血しないとそうだ私スカーフあるっ!
「ぃ、ぁ、いた、あ゛あ゛、し、しぃぬ……!!」
駆け寄って視れば出血箇所は……良かった肩だ、いやものすごく痛い事に変わりないから良くはないけど、とにかく致命傷でもなんでもないのは幸い。
もう、コビーも大概不運なんだか違うんだか! ……良かった大事なくて。
ギュッ……と仕上げにキツく締めるようにして、ひとまずよしと。血止めにはなった、落ち着くまで寝てていーよと震える頭を一撫でして。
「生きてたか……」
応急処置から振り返ったら、撃たれたコビーを心配していたらしいゾロが分かりやすくホッとした顔をしてる……。ふんふん。
「おい、ソイツ連れて早く逃げろ。すぐ海兵達が集まってくる。俺は」
約束があるからこのままで構わねえ、と。ふんふん。
……他人の怪我を真っ先に心配して、無事を喜んで、こっちをこれ以上巻き込むまいと逃げろとまでわざわざ言う、と。
どう見ても極限状態になるまで追い込まれつつあるのに、誰かを慮って。そもそも捕まってるのだって街で、ここを取り仕切る海軍大佐の息子とかいう、とにかく横柄なヤツから単に子供を庇ったからで。
なるほど! ……ルフィもコビーも無茶する訳だね。
こんなに良い奴ほっとけない、助けなきゃって。
「っ! さっきからなにしたり顔で頷いてやがる、なに笑ってる?! 状況分かってんのかこんままじゃ死ぬんだぞてめえら!」
「そ、それは、ゾロさんもです! ゾロさんとの、約束なんか知らないって、……アイツらはもう、貴方のことも殺す気なんですよ! だからルフィさんも、ぼくも、それが許せなくてここに来たんです!!」
「は? んなはず、そんなはずあるかっ! 俺は確かにあのバカ息子と約束を──っておい女てめえ何を」
話の途中だけどナイフを手元に作って(縄を)カット……若干切れ味悪い辺り使い勝手が良いんだか悪いんだかこの能力。
結構耳が良い私には、すでに近くまで来てる集団の足音が聞こえている。彼らの装備のガチャガチャとなる物騒な音もそう。
さっき警告もなしに撃ってきたって事は
勘だけど、もうこれ以上ここに居たら私もコビーも、ゾロも命が危ない。
咄嗟に動けるようにはなっとかないと!
「つっ……ぐ、う、ウタさんぼくにも、
はいはいっと。
肩、すごく痛いだろうに。私と、何処かで暴れてるだろうルフィに任せて休んでていいし、なんなら逃げたっていいのに。
ルフィってばあの島でコビーと何を話したんだろう。
あーあ、見逃しちゃって残念。
「いまどっからナイフを……っち! てめえら2人、知らねえぞここまでやってどうなってもっ!」
「いいんですっ! こんな海軍、にっ、貴方が捕まる理由なんて、何処にも、なかったんだっ! こんな所にっ、こんな風にされる、なんて……っ! っぐ、……絶っっ対間違ってる!
こんな事を見逃したら──ぼくは正しい海兵になんてなれない、っから!」
それがコビーの夢だから、こんなの間違ってるって声を上げてるんだ。
ふーん? こんな場面でそう言って行動できる人が海軍に入るなんて、ルフィ、将来大変な事になりそうじゃない?
あーでも、それはそれでちょっと楽しみかも。
さて……よし、左半身終わり。コビーも、……切り終わり、と。
「……海兵になりたいなんて言う奴のやるこっちゃねえ。底抜けのバカのやる事だこんなん──ったく、笑っちまうぜ」
「へ、へへへ、……でも、本気で目指す、からには、本当になりたいものになろうって。ルフィさんを見てて、そう、思いました。あの人は、本当にスゴいんです……!」
「……そうかよ。んじゃ、お互い気合い入れて生き残らねえとな」
「え」
ポカンとしてるけどコビー、ここからが大変なんだよ?
早く逃げようにも縄を切ってる間にはもう、囲まれてたからさ。
出口を固める海兵達と、一際大きな体格の……顎もゴッツイ何かが着いてるけど何あの腕、斧? ってどうなって付いてるの?
「ロロノア・ゾロッ! 張り付けから抜け出したか、なら結構。今ここで刑を執行する
「っ……」
ゾロの歯ぎしりが聞こえてくる。ハッキリと約束を破るつもりだったて言われたからまあね。ここまでは耐えていただけあって腹の立つ事だろう。
「それにそこのガキ共もだ。ここは海軍基地の敷地、ここへの無断侵入はこの俺、海軍大佐斧手のモーガンへの反逆罪だ! ガキだろうと例外にゃならねえ、即ち──死刑だ……!」