ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
──スイジンタウンから電車に揺られること数時間。
ポケモンセンターで調べてみてもらったところ、ユイの体調そのものに特に異変は無く、問題なく旅は続けられるという。
しかし、先日の一件は少なからず彼女の身体に疲労をもたらしたのか、電車の中では彼女はずっと眠っていた。
かく言うメグルも長い電車旅で既に座り疲れていた。
何も無い平坦な穀倉地帯が続いたかと思えば、徐々にビルが車窓から見えてくる。
『セイランシティ─青い海、青い空、世界の窓』
※※※
──セイランシティは、サイゴクでも屈指の港湾都市として知られている。
観光地としても、工業地としても、そして漁業の拠点としても、更には交通の要所としても重要な場所だ。
しかし、それだけに留まらず、ポケモンを祀った神社も多数存在しており、それを巡る歴史マニアも多いらしい。
このような事情もあってか人通りも多く、駅前はかなり賑わっている。
「”おやしろまいり”に来られたトレーナーですね。それでは、トレーナーカードの提出をお願いします」
「これですか」
「ええ、ありがとうございます。キャプテンを呼んできますので少々お待ちくださいね」
「……なあ、俺達ゃおやしろまいりに来たんだよな」
受付の人が内線で話している間に、思わずメグルはユイに問いかけた。
駅前からバスで10分ほどで、おやしろのある場所には辿り着いた。
しかし、ゲートの向こうに見えるのは砂浜だ。
青い空。白い雲。そして青い海。
セイラン海水浴場──セイランシティでも有数の観光スポットのひとつなのだという。
「何処におやしろがあるってんだ!? どっからどう見ても砂浜と海しかないじゃねえか!」
「落ち着きなさい。おやしろはあっちよ」
ユイが道路を挟んだ山を指差す。
見るとそこに、古びた石段があった。
その先におやしろさまが建てられているのだという。
「山の上か。でも何でわざわざ海水浴場に?」
「かつて、セイラン近海は暗礁が多くて船が通ることが難しかったの。通る船を見守るために、そして海の安全を願う為に、このおやしろは建造されたと言われているわ」
「はえー……成程ね。だから、小高い場所におやしろさまが建っているのか」
「おお、おお!! よォ来たのぉ!!」
そうこうしていると、やってきたのは──アロハシャツを身に纏った腰の曲がった老人だった。
歳は80歳はゆうに超えていそうであるが、その割には元気な声であった。
目は、髭のように長い眉毛に隠れてよく見えないが、元気に入れ歯を剥き出しにしてくる様からは人柄の良さが伺える。
「っと、
(ショウブ? ああ、ユイのお父さんの名前なのかな)
「御無沙汰してます、リュウグウさん」
「オニドリルの件は、
「はい……」
「そんな難しい顔はしなさんな! 今日は実家に帰ってきたつもりでくつろいできぃや!」
「いえ、あたしは──彼の試練を見届けなければならないので」
──リュウグウ。
それが、このセイランシティのキャプテンの名前だ。
言うまでもなく、キャプテンたちの中では最長老であり、立ち位置も実質的なリーダーのようなものらしい。
その名前からメグルは、竜宮城から帰って来た浦島太郎を連想した。
「して、あんたが挑戦者か」
「は、はい……」
一瞬、真剣な面持ちになったリュウグウ。
しかしすぐにメグルの手を掴むと、ぶんぶんぶん、と振り回すのだった。
「よぅ来たのぉ! セイランは良い所やから、楽しんでいくといい! 市場には行ったか? あそこでは寿司が──」
「リュウグウさん、試練、試練!!」
「おおすまんすまん、忘れるところやった」
「……元気だなあ」
「さて、試練か」
「!」
リュウグウの纏う雰囲気が変わる。
「おやしろまいりの試練。それは、おやしろさまと謁見するに足る人間かを確かめる神聖な儀式。故に、おぬしにも相応の心持で挑んでもらう」
「……その試練の内容とは?」
「このリュウグウ、キャプテンをやって早60年。試練の課題が厳しいとよう言われる。覚悟は出来てるか?」
「ッ……」
(そう言えば、ヌシとは直接対決しない分、試練はキャプテンの裁量で決められるのか。一体どんなお題なんだ──?)
周囲は海。
だが、内容は全く想像できない。
ただならぬ空気を纏うリュウグウの姿は、さながら歴戦の猛者。
それが提示する試練なのだから、さぞ険しいものに違いない。
「おやしろさまの見守る中で行う課題。それはズバリ──
(ええええええーッ!?)
※※※
「オフシーズンの海岸のゴミ拾いついでに、浜辺に打ちあがったポケモンを海に戻しちょいてほしいんじゃ!」
──曰く。
セイラン海岸は海水浴場として知られているものの、やはり海である以上は色んなものが流れ着いてくるのだという。
「リュウグウさんの課題は日によって変わるけど、大体は海水浴場の手伝いよ」
「地域ボランティアじゃねーか!」
「オンシーズンだと海の家の手伝いをやらされるらしいわ」
「どっちもアレだな……」
「証が3つ以上なら、ヌシ様との直接対決が待ってるらしいけど、課題は据え置き。不十分ならヌシ様との謁見は叶わないわ」
「バイトが欲しいだけなのでは?」
浜辺には、ポケモンが流れ着いていることがよくある。
ただ生息しているだけならば良いのだが、種類によっては海に人間の力で戻してやった方が良いポケモンも居るのだという。
例えば、おはぎのような姿をしたナマコのポケモン・ナマコブシはその最たると言えるだろう。
気に入った場所から、飢えても動かないので、無理矢理餌を食べさせるために海に戻してやるらしい。
アローラ地方のハノハビーチでもナマコブシを投げて海に戻すバイトがあるのだが、こっちはボランティアである。当然だがお賃金は発生しないのだった。
(そもそもナマコブシ、サイゴク地方に生息してたんだな……ナマコブシなら日本モチーフの地方なら、どこにでも居そうなもんだし別に良いのか)
「因みにこれは試練。その途中でモンスターボールを使う事は出来んぞ。お題はポケモンを海に戻すこと、じゃからのぅ! 戻すポケモンの種類は、このメモ紙を見てくれい」
「海岸清掃ボランティア・はじめてガイド……マジでボランティアなのか……」
「例えばここにイキの良いナマコブシが転がっておるじゃろう?」
「ぶっし(ナマコブシの鳴き声)」
「オメーが返事すんのかよ」
リュウグウの足元に転がっているナマコブシは浅瀬や浜辺ではポピュラーな存在だ。
おはぎのような人畜無害な姿の通り自ら攻撃することは無いが、危険を感じると内臓を拳のように膨れ上がらせて殴りかかってくる、なかなか恐ろしいポケモンである。
そして、なかなかサイズが大きい。全長は30cm程度。メグルは勝手に掌サイズくらいに思っていたが、実際には潰れたドッジボールのようなナマコがお出しされた。確かにこれでは観光客が気味悪がるのも無理はないだろう。
それを躊躇なく右手の掌に乗せると、リュウグウは大きく振りかぶるのだった。
「よぅ見ちょき。トゲや口を触らず、このように投げるんやぞ!」
「ちぇーすと!!」の掛け声と共に、ナマコブシが海へと投げられていった。
このご老人、御年87歳にしてなかなかの健肩の持ち主のようであった。
「因みに、うっかりトゲや口を触ると”とびだすなかみ”でブン殴られるんだから。あたしは数日顔が腫れたわ」
「こっわ……」
ユイが頬をさする。
当時の事を思い出すと、未だにナマコブシに恐怖を覚えるらしい。
「というわけで──”すいしょうのおやしろ”の試練、開始じゃ!」
※※※
(まあでも、ナマコブシ投げボランティアすれば証が貰えるんだから、そう考えれば楽っちゃ楽なのか……ん?)
メグルは顔を顰めた。渡されたリストに書かれたポケモンを見る限り、海に戻すのはナマコブシだけではない。
ナマコブシはまだ良かった。拾って海に向かって思いっきり投げれば良いだけだ。
「ぶっし……」
「おらよっ」
「ぶっし……」
「……うわぁ、結構転がってんね」
「ナカミィ……」
肩をぐるぐると回しつつ、ゴミが落ちていたらゴミはさみトングでゴミ袋に入れていく。
そうこうしているうちに額にだんだん汗が浮かんできて、日差しが憎たらしくなってきたころであった。
「あ、ハリーセンだ」
今度は力無くハリーセンが浜辺で横たわっていた。手渡されたリストに記されたポケモンの一匹だ。
ハリセンボンのような姿をしている見るからに危なそうなポケモンであるが、打ち上げられているのは気の毒である。
だが、ハリーセンの針には毒がある。ナマコブシのように投げて海に戻すことは出来ない。
「ぷぴふぁー!」
「おああーッッッ!?」
突如、甲高い鳴き声を上げてハリーセンが飛び掛かってくる。
すんでのところで避けられたものの、もう少しで顔面が毒針塗れになるところであった。
「用心しちょけ、浜辺に転がっているハリーセンは、ただ昼寝してるだけだから、起こすと元気に襲ってくる!!」
「弱ってるって何だったんだよ! じゃあ寝かしておいてあげましょうよ!」
「海水浴場にハリーセンが居ったら、危ないやろ」
「そりゃそうだ、すいませんでした!!」
「大体のポケモンは打ち上げられたくらいでくたばりゃしないわよ。力が弱すぎて自力で戻れない子もいるけど」
「やっぱポケモンってすげぇや!」
ナマコブシならばまだ良い。しかし、毒針を持っているようなハリーセンは、確かに海水浴場にいると危険なポケモンである。
成程、ベテラントレーナーの強さを煩わせるほどではないが、観光客にとっては危険なので、海岸清掃は初心者トレーナーの課題になるのだろう。
「──オドシシ、”ねんりき”!!」
「ぷぴふぁーっ!?」
しかし、毒タイプである以上はエスパータイプの技は効果抜群。
念力で浮かび上がったハリーセンは、海へと放り投げられてしまったのだった。
だが海岸清掃は終わらない。海水浴場はかなり広く、まだ先が見えない。
「うげっ……今度はコイツか……」
「うにうに」
【バチンウニ ウニポケモン タイプ:電気】
最早投げて戻すとかそういうレベルではなくなってしまった。
バチンウニ。見た通り、発電器官を持つウニのポケモンだ。
こいつに至っては浜辺どころか草むらにも生息しているので、打ち上げられているとかどうとか関係なさそうである。
(あ、でも、可愛いなあ、やっぱり)
「うにうに」
キラキラ、と綺麗な目でバチンウニはこちらを見ている。
「うにうに」
「かわいいなー、家に一匹置いてやりたいよな」
「うにうに」
「でもそれはそれとして海に帰れ! 投げ飛ばしてやれイシツブテ!」
「うにうに!?」
試練は無情であった。
幾ら放電する危ないウニと言えど、地面タイプには通用しない。
そのまま、イシツブテ自慢の怪力で海まで投げ飛ばされてしまうのであった。
「すまんな……やっぱ危ないんだわ」
このポケモンのサイズも凡そ30cm。
ナマコブシとそうそう変わらない。
それで放電するのだから、そもそも海水浴場に居て良いポケモンではないのである。
※※※
──陽も傾きだしたころ、漸く海水浴場の端から端までの清掃が終わった。
疲れ切ったメグルは、リュウグウとユイと一緒にゲートの前に戻り、肩で息をしていた。
中腰でゴミを拾うのはなかなか疲れるものがあった。
「ほっほ、ようやってくれたの! おかげで海岸は綺麗そのものじゃ!」
「……ほんとだ」
夕陽に照らされた海岸は、海はとても綺麗だった。
ずっしりとした重さのゴミ袋を置くと、思わずメグルは座り込む。
言葉を失うほどに、茜色が鮮烈に海を彩っている。
「ワシは──セイランの海が好きじゃ。若い頃からキャプテン、退職するまでは船大工。ずっと海を見て生きてきたつもりじゃ」
海を眺めながら、リュウグウは語る。
ずっと昔から見てきて、その変化を見届けてきた海岸が両の目には映っている。
「海岸が海水浴場になった後、観光地になって人が来るのは良かったが……海や浜辺がゴミで汚れるのは心が痛かった。最初はワシ一人で始めたことじゃったが、だんだん町の人、外の人も手伝ってくれて」
本当は、海水浴場なんて作らない方が良かったのではないか、と考える時期もあったという。
「そのうち、若いトレーナーたちにも
「……分かる気がします」
「そうか。お前さんは真面目にようやってくれた」
にぃ、とリュウグウは笑みを浮かべてみせる。
「──だが、まだ試練は終わっておらんぞ?」
「……え?」
「ぷぴふぁーッッッ!!」
その時だった。
メグル達の目の前に巨大な波が立つ。
全長1メートルほど。巨大なハリーセンがその場で咆哮を上げるのだった。
「仲間を海に戻してもらったハリーセンは、嬉しさのあまり戦いたくなるのじゃ!」
「通らねえよッ!!」
思わず突っ込んだ。どんな理由だ。
「出たわね……近海の主」
「……これが試練の最後。このハリーセンを、おぬし一人の力で海に戻してみせよッ!!」
【ハリーセン ふうせんポケモン タイプ:水/毒】
【キャプテン1】
リュウグウ 男 87歳
セイランシティのキャプテンを務める男。穏やかで陽気な性格。海を愛する生粋の海男。若い頃は船大工とキャプテンの二足の草鞋を履いていた。現在は海水浴場の管理人もやっている。挑戦者が居ない時は、海岸清掃に精を出しており、海水浴場が綺麗なのはひとえに彼や、彼に協力する人達のおかげである。
ちなみに、ポケモンの人物の名前は植物の名前からとられている。今作のキャプテンは全員、同じ植物の名前の一部を切り取ってモチーフにしている(原作に同じ植物の別名モチーフの名前のキャラが居るが無関係としておく)。