ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第11話:誰か原種ハリーセンに進化系をください

「ぷぴふぁーッッッ!!」

 

 

 

 

 近海の主──ハリーセンは待ったなしと言わんばかりにメグル目掛けて飛び掛かってくる。

 大量に水を吸っているのか、それとも元々これほど大きいのか。

 52番山道で遭遇したあのムウマージを思い起こさせる体格差だ。

 先ほど通常サイズのハリーセンを見た後なので、余計に際立つ。

 

(でも目は赤くないし、あの”オヤブン?”とは関係ないのか」

 

「弱点技で攻め落とすか──オドシシ!! 念力で攻撃しろ!!」

 

 念動力を送り、ハリーセンを攻撃しようとするオドシシ。しかし、相手の方が仕掛けるのが早かった。

 ぷくーっと更に膨れ上がるハリーセン。

 その体躯は、最早人のそれよりも遥かに大きい。

 そして、体中を覆うトゲが光り輝いたかと思えば、まるでスティンガーミサイルの如く飛んで行くのだった。

 

 

 

【ハリーセンのミサイル針!!】

 

 

 

 それはフィールド中に撒き散らすかのように飛んで行き、そして爆発する。

 しかも誘導性が高いのか、ポケモンであるオドシシは愚か、メグルにまで向かって行く始末だ。

 

「危ない危ない危ない!?」

「ぶるるるるるる!?」

 

 被弾するオドシシ。

 悲鳴を上げて、その場に転がってしまう。

 

「ッ……あんなミサイル針があってたまるか! オドシシ、まだいけるか──ッ!?」

「ぶるるるるるるぅぅぅ!!」

 

 自らを奮い立たせるように吼えると、オドシシは立ち上がり、両角を目玉に見立てて念力を放つ。

 しかし、今度はハリーセンの身体が縮んでいき──

 

「プシュゥゥゥゥーッッッ!!」

 

 

 

 

【ハリーセンの ちいさくなる!!】

 

 

 

 

 ──その場から消えたようであった。

 オドシシも、メグルも敵を見失い辺りを見回す。

 あれほど巨大だったのに、見失うはずがない。

 

(何の技を使った!? まさかマジで”ちいさくなる”か!? それで念力を回避したってのか!?)

 

 次の瞬間、オドシシの身体が揺れる。

 スーパーボールサイズの何かが、その頭に突っ込んできたのである。

 よく目を凝らすと、それは全身にトゲがついた魚のような何か。

 つまり──ハリーセンのそれであった。

 

「げっ、まさかこのちっこいやつが、ハリーセン!?」

 

 伸縮自在。

 大きくなるのも小さくなるのも自由な敵を前に、メグルは歯噛みをする。

 ミサイル針を連発してオドシシにぶつけるハリーセン。

 小さく捉えづらい上に、今度は素早さが増している。

 

(大きい時はミサイル針で範囲爆撃、小さい時は当然回避率アップと速度アップか……だけど、オドシシのバテ方を見るに火力は据え置きだなこりゃ……!)

 

 苦戦するメグルを眺めながら、ユイは自分の試練を思い出していた。

 ナマコブシに殴られた痛い頬を庇いながら、あのハリーセン相手に頭の血管が千切れそうになりながら戦った時のことを。

 

「あたしとやりあった時もそうだけど、このハリーセン本当に野生産ですか? 強すぎません?」

「ショウブの所の娘よ。今だから言えるんじゃが、近海の主は──ワシが育てた」

「うん、そんな気はしてた」

「野生ポケモンであることは間違いないぞ? だが、試練用に育てておいたんじゃ」

「……初心者トレーナーにぶつける相手じゃない気がするんですけど」

「アレでも大分抑えとるぞ? 所詮は”ヌシ様”ではなく”近海の主”じゃからのう」

 

 と言いつつも、自慢げに話しているところがタチが悪い。

 海岸清掃は前座。試練の本番は、このハリーセンだ。サイゴクのトレーナーたちの壁となっており、リュウグウの試練を後回しにするトレーナーは後を絶たない。

 それでも、地理的な理由でセイランシティを回らねばならないトレーナーも居り、彼らの心を折っているのだという。

 言ってしまえば”序盤の壁”である。

 

「前から思ってたんですが、試練の最後にちいさくなるハリーセン置くのやめません? あの日も突破出来たのは、あたしだけでしたよね?」

「やめんよ? 野生ポケモンには、あのハリーセンよか強いヤツはいっぱいおるからの!」

「うわぁ……正直否定できない……」

 

 初心者トレーナーの頃にぶつかったハリーセンよりも、山で遭遇したリングマや、試練で戦ったヌシポケモンの方が強かったことをユイは思い出す。

 だとしても、もっと手心というものはないのか、とリュウグウに目で訴えかけるのだった。

 

「……それにワシ、突破出来ん試練は用意せんからのぅ」

 

 

 

「それならオドシシ──”ふみつけ”だ!!」

 

 

 

 強烈なストンピングが小さくなったハリーセン目掛けて繰り出される。

 硬い蹄に押し潰され「ぐぎゅえ」と潰れたカエルのような声が聞こえてくるのだった。

 

「お見事! ”ふみつけ”はちいさくなっている相手に対して効果抜群。しかも必ず攻撃が当たるからのぉ!」

 

 ポケモン廃人がポケモンの技の効果を丸暗記していないはずがないので、ある意味当然ではあったのだが、それはさておき。

 

「と言ったが──それだけで突破出来るような試練でもないんじゃがの」

 

 にぃ、とリュウグウは笑みを浮かべた。

 

「これなら倒れ──あれ?」

 

 踏みつけたはずなのに、オドシシの脚が浮き上がっていく。

 小さくなっていたはずのハリーセンの身体が、再び膨れ上がり始めたのである。

 その様はさながら風船。ありったけの空気を吸い込み、オドシシよりも遥か大きな姿となる。

 

「おいおいおいおい、また膨れ上がったァ!?」

 

 にんまり、と笑みを浮かべるハリーセン。

 そして全身から再びミサイル針が連射され、オドシシはそれを至近距離で受けてしまい、跳ね飛ばされる。

 

「ハリーセンは”ふうせん”ポケモン。伸縮は自在やからの! それに、電気技ならいざ知らず……弱点でもない物理技で仕留められるほど、ヤワな育て方はしとらんわい!」

「あれってズルだと思うんですけど。一回小さくなったじゃないですか」

「ポケモンに常識を求める方がおかしいとは思わんかね?」

「……」

 

 ユイは閉口してしまった。

 ふみつけで大きなダメージを与えられる、とタカをくくった矢先に再び巨大化したことでオドシシは大きなダメージを受けてしまった。

 それどころか、オドシシの様子がおかしい。

 

「──まさか」

 

 ひゅーひゅー、と息を荒げて苦しむオドシシ。

 先程踏んだ足が酷く腫れている。

 図鑑でオドシシの状態をチェックすると──”毒状態”と表示された。

 毒タイプの技を受けた覚えは無いため、考えられるのは一つしかない。

 

「──”どくのトゲ”か……!!」

 

 ハリーセンの持つ特性だ。

 触れた相手を毒状態にすることがあるのである。

 それによりオドシシは常に体力を削られる状態になっている。

 そしてそれを見過ごす近海の主ではない。

 

 

 

【ハリーセンの 塩水!!】

 

 

 

 激しい勢いでオドシシ目掛けて強烈な水柱が放たれる。

 避ける間もなく、それを至近距離で受けたオドシシは──そのまま倒れてしまうのだった。

 塩水はダメージを受けている相手に対し、威力が倍になる水タイプの技。

 文字通り、傷口に塩を塗ることによって与えるダメージを増加させたのである。

 ボールへ戻っていくオドシシを見やり、メグルは残るボールに手を掛ける。

 

「……やられたか。お疲れ、オドシシ」

 

(ここまでの状況を整理しよう。どの道、威力2倍のふみつけを受けてるから、ハリーセンも体力は然程残っていない)

 

(んで、ハリーセンは伸び縮みが自在。大小両方に対応出来なきゃ勝ち目はない)

 

「となると最後に頼れるのは──」

 

 ぷるぷる、とモンスターボールが震えている。

 目の前にいる強敵に心が躍っているようだ。

 メグルも。そして──イーブイも。

 

「ぷっきゅるるるるる!!」

「お前しかいないよなあ!!」

 

 飛び出すなり、電光石火の勢いでイーブイは巨大化したハリーセンに飛び掛かる。

 そのまま、毒針の無い顔面に目掛けて頭突きが入るのだった。

 「ぷぎゅえっ」と潰れたような声が響き、ハリーセンは仰向けに転がるのだった。

 地面に降り立ったイーブイは鼻を大きく鳴らし、後ろ脚で砂を蹴り上げる。

 闘志は充分、と言った様子だ。

 

「イーブイ。くれぐれも毒のトゲに気を付けろ。刺さったら痛いじゃ済まねーぞ!」

 

 再び、ミサイル針が続け様にフィールドを蹂躙していく。

 だが流石にオドシシよりも小さいからだろうか。

 その間を縫って、イーブイはミサイル針を回避していくのだった。

 

(種族値は低いが、戦闘センスはピカイチだからなウチのイーブイは! 当たらなきゃ、どうってことァ無いね!!)

 

「ぷ、ぷぴぴーッ!!」

 

 しかし、やられっぱなしのハリーセンではない。

 再びその身体を縮めて、イーブイ目掛けて飛んで行く。

 

「また小さくなった!!」

「小さくなっても技の威力は据え置きやからのぅ!! さあ、そのイーブイでどうやって戦うか見せぃ!!」

 

 

 

 

「それならもう決まってる──イーブイ、スピードスター!!」

 

 

 

 すっ飛んできたハリーセンに、ノールックで星型の弾幕が降り注ぐ。

 星の弾幕は高速で、そして素早く小さくなったハリーセンに誘導され、吸い込まれるように全弾命中したのだった。

 

(あっぶねー!! レベル技で習得じゃなきゃ終わってたわ!!)

 

 スピードスターは必ず相手に命中する技。

 小さくなっていようが関係ないのである。

 最後の最後まで隠していた奥の手。レベルが上がったことで自然と習得した技だったが、まさかこんな所で役に立つとはメグルは思わなかった。

 

(まあ、幾らなんでもこれで倒れただろ──)

 

「ぷぴふぁーッ!!」

「いっ!?」

 

 甲高い鳴き声が聞こえてくる。

 地面に墜落したハリーセンだったが、まだ戦うつもりなのだろう。

 ぷくーっと再び大きく膨れ上がろうとした。しかし。

 

 

 

「トドメだ!! 電光石火!!」

「ぷっきゅい!!」

 

 

 

 ──それが決定打だった。

 ハリーセンは水を吐き出しながら、水風船のように海へと飛んでいき──ぽちゃん、と落ちていくのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「初心者ながら、なかなかの手練れじゃのう、ワシの試練を最初にクリアするとは」

「どーも……」

 

(あのハリーセン見た時はどうなることかと思ったけどな、冗談抜きで)

 

 

 

 ──斯くして。

 すいしょうのやしろの試練は全て終わった。

 とはいえ結果的に、”ちいさくなる”への対抗策があったから勝利出来たものの、そうでなければ憤死ものである。

 疲れ切った表情でメグルは溜息を吐く。

 最初でこれなので、残る試練が早くも先が思いやられるところである。

 

「あのハリーセン、試練に持ってきていいポケモンじゃねえだろ……これが”厳しい”と言われる所以か……」

「正直あたしもそう思う」

「そこで敗北し、スピードスターやマジカルリーフのような必ず当たる技のありがたみに気付くというわけじゃ。おヌシには不要だったみたいやがの」

 

(確かに、初心者トレーナーが貰うイーブイはスピードスターを覚えるし、技の効果をしっかり覚えていれば突破出来ないことはないのか)

 

 そこでうっかりスピードスターを忘れさせてしまったり、覚える前に挑んでしまうと痛い目を見るということである。

 初心者トレーナー相手に身の程を思い知らせる序盤の壁という役目は、果たせているのかもしれない、とメグルは思い直した。

 そして、それだけの試練を考えて置いたリュウグウは、やはり手練れであることも察する。闇雲に厳しいだけの男ではないのだろう。

 

「外に出れば、こやつより強い野生のポケモンなぞ幾らでもおる。しかし、ポケモンと技への知識と経験、そしてちょっとの機転さえあれば──乗り越えられるものなのじゃよ」

「そうね。当時は厳しすぎるって思ってたけど、今思うとちゃんと意味があったんだなあって」

「無理もないやろ、おヌシは電気技偶然ブチ当ててハリーセンを倒したからのう」

「お前……」

「し、仕方ないでしょ! 当たれば良いのよ!」

 

 恥ずかしそうにユイは目を逸らす。

 勢いで突っ走るところは、昔からだったらしい。

 

 

 

「さて、見事試練を突破したのじゃ、堂々とおやしろへ参ろうぞ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……えーとあたし……来て良かったんですか?」

「キャプテン代理やからの。トレーナーを見届ける側としての経験も大事やろ」

「……そう、ですね」

 

 

 

 ──すいしょうのおやしろ。

 それは、山の上に建てられた小さなおやしろだ。

 木々が重なり合って暗いが、木洩れ日が苔に覆われた地面に落ち、神秘的な雰囲気を醸し出している。

 そして、おやしろを守るようにして1対の荘厳な獣のポケモンの像が立っていた。

 

「おーい、待てよイーブイ! おーいっ!」

 

 突如ボールから飛び出してしまったイーブイをメグルは追いかけながら石段を登っていく。

 やしろに立ち入った辺りで落ち着かなくなったのが、出てきてしまったのだ。

 

「大丈夫なんですかアレ?」

「ほっほ、たまにあるんじゃよ。個体差はあるがな」

「……やはり、進化系の居る空気を感じ取るんでしょうか」

 

 石段を駆けあがり、メグルは肩で息をしていた。 

 イーブイは疲れた様子もなく「ぷっきゅるるる」とこちらを見て嘲笑っている。

 やはり性格が最悪なのであった。

 

「はぁっ、はぁ、苦しい……コイツ、マジでいつか分からせる……!」

「ぷっきゅるるるる」

「っ……おい、いいかげんボールに戻れ──あ」

 

 それは、おやしろを守るように鎮座していた。

 

 

 

「──スイクン」

 

 

 

 

 思わずメグルの口から、その名が出るほどに威風堂々とした佇まいだった。

 左右に建てられた伝説ポケモンの像だ。

 なるかみのやしろがライコウならば、水を司るすいしょうのやしろはスイクン。

 どちらもジョウト地方の伝説のポケモンだ。

 像に気圧されながらも、メグルは二礼二拍手一礼。

 元居た世界と同様の参拝の作法を行う。

 否、そうせねばならないと思わせられた。

 

(形式だからとかマナーだからとかじゃなくって、否が応でも”そうしなければいけない”圧を……感じる……!)

 

 ──次の瞬間である。

 

 

 

 

 

「プルルルルルルルルー」

 

 

 

 

 甲高く、水面に響き渡るような透き通った鳴き声は一度聞けば忘れるはずがない。間違えるはずもない。

 メグルの中で該当するポケモンは1匹しか居ない。

 しかし現れたのは、記憶にあるその姿とは大きく異なるポケモンであった。

 

 

 

「……シャワーズ……なのか!?」

 

 

 

 青い体毛に、すらりとしたシルエットの獣。

 白い鬣をたなびかせるその姿は、像となっているスイクンと面影が重なる。

 そして魚のような尾は獣のような体毛に覆われたものになっている。

 

「かつて。ジョウトから災いを避けてサイゴクの地にやってきた人々は──()()()()()によく似たポケモンを見つけた」

 

 前に進み出たリュウグウが語る。

 

「そして、彼らはそのポケモンを聖獣の加護を受けた()使()()としておやしろに祀ったと言われちょる。それが、キャプテンとヌシポケモンの始まりじゃよ」

「っ……みつかい……か」

「後にそれらは、特別なたまで進化するイーブイの進化系と分かったんじゃ。他の地方では見られぬ、この地方独自の進化形を……今ではサイゴクのすがたと呼ぶ」

「プルルルルルルルルー」

 

 シャワーズが再び甲高く鳴く。

 ただそれだけで、その場の空気は冷たくなっていく。

 他のポケモンとは一線を画す立ち振る舞い、そして力だ。

 おやしろの屋根から音も無く降りると、シャワーズはメグル、そしてイーブイを見つめる。

 

(って、気圧されてる、のか?)

 

 気付けばイーブイはぴたり、とその場でお座りしていた。

 格上にも臆さないやんちゃなイーブイが、シャワーズを前に──震えているようだった。

 

 

 

【シャワーズ(サイゴクのすがた) ひょうすいポケモン タイプ:水/氷】

 

 

 

 

 甲高くもう一度シャワーズが鳴く。

 するとその目の前に、透き通った鉱石のようなものが現れる。

 雪の結晶のように、左右対称に広がった綺麗な水晶だ。

 

「それが試練を超えた証じゃ。受け取りんさい」

「は、はい──っ」

 

 メグルは言われるがままに水晶を拾い上げる。

 そして、それを見届けたシャワーズはおやしろの屋根に飛び上がり、そして何処かへ消えていったのだった。

 

 

 

 ──メグルのおやしろまいり、残るおやしろは──4つ。

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