ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──麺屋「つるべ」。
セイラン駅周辺でも有名な、ちょっと良いお店だ。
その名物は、目の前で瓦の上でジュージューと焼き音を立てている茶そばにある。
メグルは、茶そば──明るい緑色の麺──を間近に見るのは初めてだったが、元居た世界ではテレビでたまに取り上げられていたので見聞きはしていた。
(この世界でも名物になってんだな瓦そば……ポケモンの世界って、俺らの世界と一種の並行世界みたいなもんかもしれないな……)
いざお出しされたものは、熱された瓦に茶そばが乗っかって焼かれているというなかなかストロングな盛られ方をした料理である。
タレにつけて食べるのが乙なんだとかなんとか。
てっぺんには刻んだ卵焼きに肉、レモンらしき果実が乗っかっており、汁を絞るとあっさりとした風味になる。
「うまいっ……!?」
いざ、勇気を出して食べてみると油で豪快に焼いた麺と、大根おろしを入れて甘辛くしたタレが最高に相性が良い。
また、端の辺りは焦げてパリパリになっており、部位によっても味わいが違う。
(ストレートに焼いた麺としては美味いな……瓦に乗せる必要性は感じられないけど。この世界でも由来のようなものでもあるのか? 気になる……)
「ちなみにセイランシティだと茶そば弁当がスーパーに売ってるのは普通のことよ」
「そーなの!?」
「テレビで取り上げられると、どうしても奇抜な盛り方の店が話題になりがちやけどな、これくらいシンプルなのが一番うまいんじゃ」
(瓦に乗ってる時点で十分奇抜だと思うんだけど……)
「それにしても良いんですか? こんな御馳走してもらって」
「構わん、構わん、ワシからの餞別みたいなモンやわい。君だけ仲間外れにするのも可愛そうやからの」
半個室のような席に、リュウグウとメグル、そしてユイは集まっていた。
「──話しにくい事は、この店ですればええわい。ショウブの所の娘に、メグルよ」
「……そうね」
「此処からはこの地方の危機に関することかもしれんからの。まあ飯でも食いながらじっくりと話すのが吉じゃて」
(リュウグウさんなりの気遣い、ってことか)
瓦そばが半分ほど無くなった後、ユイは「先日から既にポケモンの生態に関する異常が2件起こっています」と切り出した。
まずは、不明なリージョンフォームのオニドリルについて彼女は改めて話す。
既存のオニドリルとは違う形状の嘴に異なるタイプ。そして、ヌシを始めとした現地の野生ポケモンやおやしろに対して強い攻撃性を見せたことを話すのだった。
そして2つ目は、赤い月と共に現れたムウマージだ。
「信じられないかもしれませんが、ムウマージは野生ポケモン避けの焚火とお香を潜って、わざわざあたしを狙ってやってきたんです」
「ムウマージは昔から困った人を助けようとする習性があるからのう。オヌシの心に反応したんやろうな」
「……そうですね」
「一番の問題は、52番山道周辺にはムウマもムウマージも生息しとらんはずということやが」
「そう、そこなんですよ」
ドン、と机を叩くとユイは立ち上がる。
「リュウグウさん、赤い月について何か知ってることはないですか!? 今朝の朝刊にも出てたし、幻じゃない……! 確かに赤い月は出たんです!」
「俺からもお願いします。あんなデカいムウマージが出てくるとは思わなくって」
「赤い目のムウマージが現れた時出ていた赤い月……か」
髭を触り、何かを思い出すかのようにリュウグウは思考する。
そして「ふむ」と意味ありげに呟くと、
「……何にも分からんッ!!」
(えええええええええええ……)
自信満々に言い放ったのであった。
メグルもユイもずっこけそうになる。
カハハハハ、と豪快に笑い飛ばすとリュウグウは残りの茶そばを全部平らげ、続けた。
「だってワシだって見たことがないモンを、何と説明すれば良いやら、じゃな」
「ス、スミマセンデシタ……」
「だが、1つだけ言えることがある。これは、ワシらが思っている以上に良くないことが進んでおるかもしれんの」
「……?」
「……そしてそれは、君にも重くのしかかってくるじゃろう」
それでも、何か心当たりがあるような口ぶりだ。
メグルとユイが顔を見合わせていると、リュウグウは意外な事を言い放った。
「メグル君。時に──君の事はイデア君から予め聞いていたのだ。君が違う世界から来たということはな」
「えっ!?」
「リュウグウさんスマホもロクに使えないじゃないですか! どうやって──」
「あやつのところに預けていた伝書デリバードが速達で届けに来たよ」
「伝書デリバードって……」
「リュウグウさんハイテクな機械に弱いのよ……」
【デリバード はこびやポケモン タイプ:氷/飛行】
曰く。リュウグウはスマホの使い方が分からず、家には黒電話しか置いていないのだという。
そこで、サンタクロースを思わせる鳥ポケモン・デリバードを使ってハガキのやり取りをすることがあるのだそうだ。
「混乱を招く故、他のキャプテンにはまだ教えておらんがな。しかし……有り得ん事ではないと思ったよ。ワシも過去、似たような経験をしたという知り合いを知っておる」
「まあ、彼については秘密やから、伏せておくがの」と彼は続けた。
メグルには思い当たる節がある。
ポケモンの世界では過去、幾つも別の世界から人が流れてくる事案が起こっている。
リュウグウ老人はそれについて知っているのだろう。最も、それについて話すと話がややこしくなるので口にしなかったが。
「”空が赤く染まる時、災い鬼となって来たる。人と獣、手を取り合ってそれを打ち払わん”」
「鬼……?」
「鬼と言う言葉は、この地方ではよく、災いの比喩に使うわね」
「へーえ」
深くは考えずにメグルは頷いた。
元居た世界でも同様の例えはよくあるものだった。
「”来たるべき時、空より森の神の御使いが来たるだろう”……」
「これが、サイゴク地方に伝わる言い伝えなんだから」
「そうじゃ。御伽噺とワシも思っていた。しかし、赤い月の件で──ワシは嫌なモノを感じちょったんじゃ」
「もしかして、言い伝えにあるようなことが起こるってことですか?」
「オヌシの登場は、サイゴクの危機の警鐘でもあるということだろう。森の神様が……何を思って君を選んだかは分からんがな」
「……俺にも何が何だか」
メグルは腕を組む。
「この世界を救え」、それが最後に聞こえた声だ。
サイゴク地方の危機は言ってしまえば、一地方で起こった事件でしかない。
しかし、それが全世界に波及するならば間違いなくそれは”世界の危機”足り得る。
そんなものを、メグルは一人でどうにかできるとは思えなかった。
故に、彼は既に決めていた。自分が今やるべき事を。
「……俺は正直、巻き込まれたようなもんです。早く元の世界に帰りたいと思っています」
「やろうな。ワシでもきっと同じ事を思う」
「でも同時に……この世界で何が起ころうとしているのか。俺が呼ばれた意味が何なのか知りたい」
(んで、しっかりと落とし前は付けてやろうと思ってるよ!! 早くポケモン新作やりたいしな!!)
「
にぃ、とリュウグウはメグルを見つめる。
「それが結果的にサイゴク地方に迫る危機を解き明かすなら、ワシはいつでも協力するとしよう」
「リュウグウさん。……すみません、こんな突飛な話を受け入れてくれて」
「年の功じゃよ。長く生きていれば色々ある。それに──ハリーセンと戦っていた時のオヌシの目。なかなか良かったぞ。ワシ、それでオヌシの事を気に入ったんじゃよ」
「……え?」
「ポケモン勝負でワクワクしとる人間に、悪いヤツは居らんとワシは思うちょる」
(確かにハリーセンとの戦いは……なんだかんだ楽しかった)
思い返せば、常識の通用しない相手ではあったものの、次の手、そして奥の手を考えながら戦う感覚は間違いなくメグルの知るポケモンバトルの醍醐味だった。
(……いつもそうだ。ポケモンバトルは……楽しいんだ)
ポケモン廃人になってから、それを忘れかけることもあったが、新作が出る度に再びワクワクが戻ってくる。
メグルがこれまで何度も経験してきたことだ。
そして今、まさに──彼はポケモンの世界でそれを体感しようとしている。
「おやしろを巡りなさい。ポケモンと触れ合っていくうちに、何か分かることがあるかもしれん。今は、気負いなさんな!」
※※※
「つるべ」を出ると、もう夜もとっぷり暮れていた。
リュウグウはふと、足を止めると振り返る。
「これから、オヌシは何処へ行くつもりかね?」
「実は決めてないんです。てか、この地方の事、俺まだまだ知らないことが多くって」
「此処から離れておるが──最も近いのはベニシティ。ふんえんのやしろがある場所じゃ」
「ベニシティ……」
地図で調べると、元居た世界では広島県広島市に当たる場所だ。
しかし、地理上では大きく離れている。
此処が山口県の西の端・下関ならば、広島はそのずっと奥。山口県は横に広いのだ。
だが、その間には電車が通る駅が存在するので実際に歩く距離は然程ではない。更に道路も複数経由する。
その間に手持ちを鍛え、増やすことも可能だ。
(広島か……道のりは長いけど、その間にどんなポケモンと会えるのか……楽しみになって来た!)
「明日にでも出発しようと思ってます──」
「──ごめん、メグル君。出発、少しだけ遅らせてくれないかな?」
ぴしゃり、とユイが言い放つ。
顔は──強張っていた。
その様子に思わずメグルは反論することなく口を噤む。
何かのっぴきならない理由があるのだろうか、と考えていたが──
「……あの、リュウグウさん。一つお願いがあるんです」
「何かね?」
「──明日、あたしと、勝負してくれませんか?
※※※
「ユイのヤツも困ったモンだなー……」
──おっま、どういうことだ!? バトルって──
──いいよ。
──ノリ、軽ッ!?
──明日の昼、セイラン海水浴場に来なさい。楽しみに待っちょるぞい。
──ごめんね、メグル君。ワガママ言っちゃって。
と言ったやり取りの末、明日の昼にユイとリュウグウの試合が決したのである。
理由を聞いてみても「久しぶりに戦ってみたくなったの」としか言わない。
(いや、俺は良いけど……なんか、見るからに思い詰めてるんだよな、あいつ……)
出発が遅れるのは問題ない。
それ以上に気になったのは、ユイの様子だ。
ムウマージに虚を突かれる程に、彼女は自分の進む道について悩んでいる。
キャプテンに自分が成る資格があるのか否か。
(ムウマージの餌食になったこととか、やっぱり気にしてんのかな……でも、後戻りするつもりは無いって言ってたし……今は信じてやるしかない、か)
「ぷっきゅい?」
「……飯はもう食っただろーが」
「プッキュルルルルル」
「おい!! へばりつくんじゃねえ!! そんな事してもオヤツはやらねーぞ!! 手持ちの健康管理はちゃんとしろってユイにしつこく言われてんだからな!!」
またもや勝手にボールから飛び出し、おやつを要求するイーブイを無理矢理退け、メグルはベッドに突っ伏す。
(……キャプテンとキャプテン代理同士のバトル。気にならないって言うとウソになるんだよな……)
※※※
「ヤバイヤバイヤバイ!! 寝坊したーッ!!」
昨日の疲れが出たのだろうか。
気が付けば、もう昼の11時で太陽は高く登っていた。
急いで彼はポケモンセンターを飛び出し、セイラン海水浴場へ向かう。
(ユイのやつ、明日は朝早く起きるって言ってたな……俺には寝てていいって言ってたけど、試合は見たいんだよな!)
「ぷっきゅるるるるる」
「うっせーオメー、笑ってんじゃねえ!!」
並走するイーブイの小馬鹿にしたような鳴き声が横から聞こえてくる。
海岸はこのまま真っ直ぐだ。
その勢いが付いたまま走りに走り──そして、何かに蹴躓いた。
「どわぁ!?」
道路に突っ伏すに前に、そこに転がっていた何かにメグルはダイブした。
人だ。
倒れている誰かに蹴躓いて、その上に倒れ込んだのだ。
「……いったた、何だァ?」
起き上がると、そこに転がっていたのは、少女。
毛皮らしき厚手のコートを羽織った少女だった。
彼女は痛がった素振りも見せずに、むくり、と起き上がる。
(何だ……この子……? 何で道で寝てたんだ?)
その表情は長い前髪と、何かのポケモンらしき頭部の毛皮に隠れて伺えない。
しかし、その顔色はかなり悪そうに見える。
少女はメグルを、そして──イーブイを興味深そうに眺めているようだった。
「……」
「あ、そいつ狂暴なんで! 噛みますよ!?」
案の定威嚇しているイーブイをひょい、と恐れることなく抱き上げる少女。
そして──
「……いただきまーす」
「プッキュルルルルルル!?」
──その尻尾に齧り付くのだった。
すぐさまパニックになったイーブイは、暴れまくる。
だが、少女は意にも介さず尻尾をはもはもと齧ったままだ。
その突拍子もない行動に恐怖さえ覚えたメグルは、すぐさまイーブイをひったくった。
「やめろ!! こいつはウチの手持ちだ!!」
「プッキュルィィィィ!!」
「……ごめん。ボク、お腹が空いてて……もうムリィ。その子、食べていい?」
「良いワケねぇだろーッ!?」
少女はとんでもない事を言い出す。
蒼褪めたメグルは全力で拒否。
イーブイも怯えながら、犬歯を剥き出しにして威嚇する。
「……うえ、もう死んじゃう……」
「あっ」
ぱたり、と音を立てて少女は倒れ込む。
そしてその後に「ぐ~ごぎゅるるるるるる」ととんでもない腹の音が聞こえてくるのだった。
(……このまま放っておけないし……仕方ないなあ)
それにしても、とメグルは少女の恰好を見やる。
フード付きの毛皮のジャケット。温暖なセイランシティには似つかわしくない格好だ。
そして、肌の露出も殆どない。肌が弱いのか、日に焼けたくないようだった。
(変な恰好してるなぁ……コイツ)
※※※
「あれってキャプテン代理のユイじゃね?」
「すごーい! リュウグウさんと戦ってるんだ!」
「リュウグウーっ、気張ってけーい! ワシらも応援しちょるぞー!」
「おーいギャラドース!! 今日もがんばれよーっ!! 俺応援してるからなーっ!!」
「お姉ちゃん、がんばえーっ!」
──既に、海水浴場ではキャプテン、そしてキャプテン代理による本気の勝負が繰り広げられており、観客が多数集まっていた。
無理もない。
体長6メートルを超える巨大な鯉のぼりの如き龍が宙を舞っている姿を見れば、誰もが集まってくるというもの。
しかし、町の中でそれに恐怖を覚える人間はいない。
そのポケモン──ギャラドスがキャプテン・リュウグウの手持ちの一角を担う古株であるからだ。
【ギャラドス 凶悪ポケモン タイプ:水/飛行】
「──10万ボルトを、耐えた……!?」
ユイが驚きの表情を浮かべるのも無理は無かった。
リュウグウが繰り出した凶悪ポケモン・ギャラドスは、電気タイプを弱点とする水タイプと飛行タイプの複合タイプだ。
もしも電気を喰らえば、受けるダメージは4倍。ただでは済まない。
しかし、彼女が何が起こったかを理解すると同時に「ガリッ」と何かを噛み砕く音が聞こえてきた。
(木の実──)
「ッ……ギャラドス。地鳴らしッ!!」
直後。
宙を舞うギャラドスが激しく砂浜を尾で叩きつける。
地面は揺れ、その振動がレアコイルを支える磁場を崩し、地面に叩きつけた。
「ソクノの実じゃよ」
その言葉でユイの推測は確信に変わる。
効果抜群となる電気タイプの技を半減するきのみだ。
「本気じゃからな……ワシとてこうするわい。そして──トドメの地鳴らし!!」
「ッ……トドメを刺して! 10万ボルト!!」
「無駄じゃよ。既に
打ち合いの結末は、レアコイルが態勢を立て直す前にギャラドスが再び地鳴らしを放ったことで決着した。
(相手をうねる地面に捕まえて、素早さを下げる地鳴らし……! 脅威以外の何でもない……!)
しかも、と彼女は宙を舞うギャラドスを見やる。
(このギャラドス、やはり攻撃する度に強くなってる気がする……!)
「なぁ、あのギャラドスの素早ささっきより上がってね?」
「気の所為じゃない?」
「でもよー、何で空中でずっとうねうねしてんだアイツ、踊ってんのか?」
──観衆の気の所為ではない。
舞うことで身体を興奮させ、更に攻撃力と素早さを上げる竜の舞。
その所作を、リュウグウのギャラドスは自然に普段の攻撃に取り入れているのだ。
結果、攻撃をするだけで勝手にギャラドスは自らの能力を上げていくことになる。
そしてそれを行えるように育成している時点で、最早年季が違うのだ。
「卵から育て、手塩にかけたこのギャラドス。さあ、どう戦う?」
(なら、並大抵じゃない素早さをぶつければ良い!)
「お願い──」
「──!!」
次の瞬間、海水浴場が激しい光に包まれる。ギャラドスは攻撃の姿勢を取る前に感電して倒れていた。
空中をふわふわと浮遊するボールのようなポケモンが飛んでいた。
【マルマイン ボールポケモン タイプ:電気】
「……半端な竜の舞で速度を上げた程度では、マルマインには追い付けんか。ふぅーむ、やっちょるのぉ」
「ったり前です……! 手塩にかけたのはこっちも同じなんだから!」
「
「……あたしが一番強いと思う面子を持ってきたつもりです!」
「そうか」
ユイが繰り出したポケモンは、マルマイン。
モンスターボールに似た配色の球体状のポケモンだ。
その素早さは最早異次元の領域。空中で電磁浮遊しながら、不規則に飛び回っている姿は並大抵のポケモンではとらえられない。
「ワシのギャラドスを落としたことは褒めてやる」
(何が褒める、よ……! ポケモン2匹使ってやっとだってのに……!)
「──だが我が城壁、落とせるかな?」
「キュオオオオオオオオオオン」
美しい咆哮がその場に響き渡る。
とぐろを巻いた、妖艶な長魚の如きポケモン。
凶悪で粗野なギャラドスとは真逆の美貌にその場にいた誰もが息を呑み、そして見惚れてしまっていた。
「……海の底にこそ都はあろうぞ。さあ、この先は極楽。引きずり込んでくれる」
【ミロカロス いつくしみポケモン タイプ:水】
──優雅な立ち振る舞いは竜宮城の乙姫。
完全なる城壁がユイを押し潰すべく、迫りくる。