ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第111話:赫醒

「ナカヌチャン、進化したんスね!!」

「あれが……進化形か! ハンマー滅茶苦茶デカくなってるし……!」

 

 さしもの鏡も、デカヌチャンのハンマーカチ上げにより、ゴローニャをぶつけられれば砕け散るしかなかった。

 起き上がり、サムズアップしてみせるゴローニャをボールに戻すと、アルカはメグル達と並び立つ。

 

「ちゃあんと、生きて戻ってきましたよ、おにーさんっ! ナカヌチャンも進化したし、ゴローニャも大活躍です! ……役目はちょっとアレでしたけど」

「……流石だぜ石商人!!」

 

 こつん、と二人は拳をぶつけ合う。

 そして再び、タマズサと相対するのだった。

 

 

 

「オイ、オイオイオイ!! ふざけんじゃねえぜ……確かに弱くはなったけどよ……まだ負けたわけじゃねえ……ッ!!」

 

 

 

 ギガオーライズは解除されていない。

 しかし、アーマーガアは未だに震えたままだ。動く様子が無い。

 そこに叩きこまれるのは、チャージが終わった高火力技。

 てっていこうせんが、そしてメテオビームが束になってアーマーガアを襲う。

 最早これだけでも普通のポケモンならば耐えられるものではなかったが、それでも尚、アーマーガアは羽ばたき、再び戦闘態勢に入ろうとした。

 

「まだ戦えるでござるか!? しぶとすぎでござる!!」

「大分ダメージ与えたはずなんスけどねぇ!?」

 

 此処までの戦いでアーマーガアの体力も削れているはずだった。

 それでも尚、まだ戦いを止めるつもりはない。むしろ、恐慌状態が解除され、再び怒り狂い、暴れ出す始末。

 鏡が壊されてしまったので、マガツフウゲキを撃つことはできないが、それでも通常の技を放つことはできる。

 嘴をドリルのように回転させ、メグル達を貫かんと突貫する。

 

「まだアーマーガアは戦える、俺様もだ!! 俺様は負けてねぇ!! 死ぬまで戦わせろや!!」

「良かったじゃねえか、戦うのが好きなんだろ? テメェが負けるのも勘定に入れて好きって言ってたんだよな、当然!!」

 

(ま、何が起こったのか俺にも分かんねーんだけど……諦めなくて正解だった!!)

 

 だが、最早勝負は付いたも同然だった。

 リュウグウを打ち破り、此処までメグル達を苦しめ続けた鏡のギミックが破られた今、アーマーガアは只の強いポケモンでしかない。

 そして、相手が只の強いポケモンならば、今のアブソルのオオワザで、その装甲を貫くことができる。

 

 

 

【アブソルの あかつきのごけん!!】

 

 

 

 浮かび上がる5つの実体無き影剣が、アーマーガアを切り刻む。

 霊気で出来たその身体は叩き斬られ、そのまま鎧も砕かれ──オーパーツである鏡も、完全に破壊されてしまう。

 更にタマズサ自身も、5つの剣に四肢を貫かれ、そのまま地面に縛り付けられてしまうのだった。

 

「……あっぐ、クソ……動けねえ……!!」

「これで終わり、だな」

 

 ──勝負は付いた。

 アーマーガアは完全に沈黙し、キリの投げたボールの中へと吸い込まれていく。

 そして、メグルはアルカの方を振り向いた。

 

「……助かったぜ、マジのマジで」

「えっへへへ♪ ……ま、ボクも一人でこの攻略法に気付いたわけじゃないんですけどね」

「どういうことだ?」

「アーマーガアの天敵は、デカヌチャンなんです。アーマーガアを岩で撃ち落として鎧を狩るんだとか」

「やっべぇ奴等ッスねアイツら……」

「しかしそれは、こっちの世界のアーマーガアの話でござろう。奴らは悪・飛行タイプ。鋼タイプを持っていないでござる」

「いや、それが……どうも、そうじゃないみたいで……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──貴様は知らんだろうが、かつてテングの国にもその大槌のモンスターが居た。環境の変化で絶滅したことで、アーマーガアはテングの国に於いては空の王者となったのだ。しかしそれでも、鬼の国にはまだその種族が生息しており、アーマーガアは近寄らん。

 

 ヒャッキアーマーガアの特性は”メタルアーマー”。毒タイプを無効化し、岩と氷技を半減するというものだ。未だに身体に鋼の成分が含まれており、デカヌチャンが狙う理由にはなるのである。

 そうでなくとも先祖から受け継いだ遺伝子により、漏れなくこのアーマーガアはあのピンクの鍛治にトラウマを抱えているのだ。

 

 ──何でそれをボクに教えるのさ? イヌハギ。

 

 ──そのモンスターだけが、タマズサのアーマーガアを倒す鍵だ。奴にも以前忠言したんだがな……全く気にも留めなかった。奴は暴威の化身だが、()()()()()としての腕前は……貴様等の誰にも及ばんだろう。

 

 ──待って。お前がボク達にタマズサを倒してほしいみたいじゃん。

 

 ──……信じるかどうかは貴様次第。某は此処で退く。後は任せたぞ。

 

 ──はぁー!? 訳分かんないヤツ! ……本当に効くのかなあ。

 

 ──カヌヌ!

 

 ──うわぁ、めっちゃやる気だし、デカヌチャン……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「いや、何でもないっ。結局、タイプ相性とか関係なく、弱点の無いポケモンなんてないってことだよねっ」

「……釈然としねえッスけど、勝ちは勝ちッスね」

「ってことで良いよねっ」

 

 アルカは誤魔化すように笑いかける。

 ともあれ、ヒャッキ最強の三羽烏も、そして最恐のポケモンも此処に討ち果たされたのである。

 

「納得、行かねえ……ッ!! 何でアーマーガアが敗ける!? 何で俺様が敗ける!? 勝ってたはずだ!! 全てに於いて俺様が!!」

 

 喚くタマズサ。

 しかし、影の剣に縛り付けられたことで、一向に動ける気配がない。

 

「何でテメェみたいな落ちこぼれに俺様が敗ける!? アルネよりも頭が悪いテメェなんぞに!? 俺様よりも貧弱なテメェなんぞに!?」

「お前らがそうやって”弱い”って切り捨ててきたモンが……実はそうじゃなかったってだけだろ。磨けば、どんな石だって光るようになってんだよ」

「何だとォ!? 他のヤツの力を借りなきゃ、まともに俺様と戦えねえくせによ!」

「確かにボクは一人じゃ何にもできない……それでも、オマエみたいに自分一人が強くて暴れられればいいって生き方より百倍マシだと思ってる。ヒャッキに居た頃より、ボクは……今の方がずっと楽しい」

「くぅっ……クソォ!! クソォ!! ──ォ?」

 

 次の瞬間だった。

 影の剣が消えうせる。

 それと同時に、メグルに強烈な脱力感が襲い掛かった。

 見ると──アブソルのギガオーライズもメガシンカも解除され、ぐったりとしている。

 

「なッ、何だこの感覚……!!」

「ふるーる……」

「お前、相当無理してただろアブソル……!」

 

 メガシンカに加えてギガオーライズを重ねたのだ。

 それがどれほど彼女に負担が掛かっていたのか、想像もつかない。

 すぐさまメグルはボールにアブソルを戻す。

 しかし、今度は彼自身の身体に掛かった疲労感が説明つかなかった。

 

「アルカさん! これってどうなってるんスか!?」

「オーライズは少なからずトレーナー側にも負担が掛かるんです……オーライズはトレーナーとポケモン、両方の力を合わせて発動するから! でも、今まではこうはならなかったのに!」

 

(そういやアルネのヤツ、フェーズ2の時咳き込んでたな……!)

 

 メグルは思い返す。

 ギガオーライズまでならば、気になるほどではないが、それよりも上の出力を出そうとすると、人間側にも過重負荷が掛かるのだ、と。

 

(メガシンカと併用したのがマズかったのか……!?)

 

「カッカッカ!! テメェらよくもやってくれたな……ッ!! こうなりゃ俺様の身体一つでテメェらブチ殺してやるよ!」

「しょ、正気じゃない……! こっちにはまだ沢山ポケモンが残ってるのに……!」

 

 打ちのめされたが故に、無自覚に肥大化したプライドが打ち砕かれたのか、その目は虚ろそのもの。

 完全に錯乱している。

 こちらにはポケモンが山ほど居るのだ。幾らタマズサと言えど、敵うはずがない。

 そんな事は彼も分かっているはずなのであるが──最早、そんなことなど頭からトんでしまっているようだった。

 

「哀れだな……」

「死ぬまで戦わせろォォォーッ!!」

 

 地面を蹴り、十手を握り──タマズサが飛び掛かろうとしたその時だった。

 

 

 

 

 ずぶり

 

 

 

 

 鮮血が迸った。

 タマズサの胸を、何かが貫いていた。

 尾だ。

 鋭く尖った尾が、彼を突き貫いていた。

 しばらく何が起こったか分からない様子で後ろを振り向いたタマズサだったが、それが引き抜かれるなり口から大量の血を吐き出し──そのまま倒れ込む。

 

「がっ、ごふっ……お、俺様は……まだ、戦え──」

 

 胸には大きな空洞が開いており、助かる傷ではなかった。間もなく彼の目からは光が消える。

 あまりにも呆気ない最期に、全員は戦慄するしかなかった。

 全員は、赤い月を見つめる。

 尾は岩のようなそれを突き破り、伸びている。

 間もなく、赤い月は罅割れ──中で今まで眠っていた怪物が再誕する。

 

 

 

「ァァァ……ァアアアアス!!」

 

【赤い月(フェーズ2フォルム) ???ポケモン タイプ:???/???】

 

 

 

 洞窟全体を揺るがす程の咆哮が響き渡る。

 全身は赤いオーラに包まれ、その全貌は分からない。

 しかし、その体形はまるで翼竜の如く。

 見つめているだけで正気を失ってしまうような、そんな底知れなさを感じさせるポケモンだった。

 洞窟の壁が崩れだす。

 全員は直感した。此処で戦うことは危険だ、と。

 

「逃げるでござるよ!! 全力で!!」

「は、はいっス!!」

「アヤシシ……頼む!!」

「モトトカゲ、お願い!!」

 

 4人は一目散に駆けだした。

 間もなく、大空洞は崩落する。

 そして、ライドポケモンに跨った彼らを追うようにして、赤い月は飛翔しながら追いかけていく。

 復活したばかりだからか、その動きは鈍重そのもの。お世辞にも飛び方は上手いとは言えない。まるで海の中を泳ぐかのように飛んでいる。

 それでも危険性は、あのタマズサの命を一瞬で奪ったことからもお墨付きである。

 

「なぁアイツ、だんだんとデカくなってねーッスか!?」

「速度を上げるでござるよ! ああ、ユイ殿!? 良いでござるか!? すぐに洞窟から離れるでござる!」

 

 キリがユイに通信機で連絡するのを横目に、アルカはメグルの体調が気掛かりだった。

 

「おにーさん大丈夫ですか!? しっかり!!」

「……俺は何とか……!!」

 

 洞窟は赤い月の翼によってどんどん崩落していく。

 そればかりか、存在しているだけで周囲を揺さぶっているようにさえ見える。

 何より──あの周囲に纏っているどんよりと重い空気が、本能的に恐ろしいものであることを理解出来てしまっていた。

 胃の奥がキュッと沈むような感覚。喉の奥がせり上がるような感覚。これは決してギガオーライズの負担だけではない。

 存在するだけで精神を侵すそれを瘴気と呼ばずして、何と呼ぶのか。

 ともあれ、まだそれでも不完全なのか、赤い月に追いつかれることなく、4人は洞窟の外に飛び出すのだった。

 そして遅れて──巨大な翼が飛び出したのである。

 まるでそれは泳ぐようにして空の頂に昇る。

 青かった空は一気に赤く染め上げられた。

 次第にオーラは掻き消えていく。

 そして、赤い靄が掛かって見えなかった怪物の全貌が次第に明らかになっていく。

 

「な、鳥か……!?」

「いや、ちげーッス……もっとデカい……何か……!!」

「こんなヤツ、見たこと無いよ……!」

 

(いや、俺は……ある……少なくとも……ゲームの中で……!!)

 

 巨大な翼は水かきのように、広げられた手のようだ。

 そして、全身は紫色の羽毛に覆われており、背中には白い鰭が生えている。

 そこから感じさせられるのは、刺々しい攻撃性と憎悪。

 何より、今まで幾度となく見て来た赤い月と同じ輝きを放つ赫の瞳であった。

 

 

 

「ルギア……ッ!!」

 

 

 

 ぽつり、とメグルは呟いた。

 それは──彼らを見ると、何かを思い出したかのように絶叫する。

 その叫びは恐怖を煽り、立てなくするには十二分なものだった。

 

 

 

「ギャーアアス!!」

 

 

【ルギア(かくようのつき) せんすいポケモン タイプ:エスパー/飛行】

 

 

 

 その名に、ノオトは驚いたように声を上げた。

 御伽噺に出てくるような伝説のポケモンであり、少なくとも此処で目にするようなポケモンではない。

 

「ルギアって、あの伝説のポケモンッしょ!? でも全然色が違うじゃねーッスか!?」

「……分からねえよ! でもあの姿かたちは……間違いなくルギアだ……!!」

「しかし何故ルギアが山の中に!? あれは確か海の神とされているポケモンのはずでござるが──いや、まさか。()()()()()()()()()()()()()()!?」

「どういうこと!?」

「海の神をホームタウンの海に封じても、何にも解決になってねーってことッスよ! またいずれ力を取り戻す! でもルギアってあんなに禍々しいポケモンだったッスかねえ!?」

 

(あの姿は……!!)

 

 メグルは覚えがあった。疲弊し、ぼんやりとした頭で記憶を手繰り寄せる。

 いずれにせよ、友好的な存在でないことだけは確かだったし、理性的な振る舞いも期待できそうにない。

 逃げるしかないのである。

 しかし──伝説のポケモンの力は、これまでに出会ってきたそれらよりも圧倒的だった。

 ルギアの背びれが赤く光る。

 予兆などほぼ無かった。

 対応する暇など無かった。

 突如、物凄い速度でそれは地面に降り立ったかと思うと、羽根を目の前に突き出し、そこにサイコエネルギーを急圧縮させ──

 

 

 

「──おにーさんっ!!」

 

 

 

 

 

【ルギアの サイコブースト!!】

 

 

 

 

 ──爆破させるのだった。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──サイゴク山脈攻防戦の結果。

 おやしろのトレーナーが捕縛したテング団団員が二十数名あまり。

 怪我人、両陣営に多数。

 死者、テング団三羽烏・タマズサ(キリからユイへの報告)。

 

 

 

 重傷者──3名。

 

 

 

 ルギアはサイゴク山脈から逃亡し、未だにその動向掴めず──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──夢すら見ない、とはこの事だった。

 何があったのかメグルには全く分からなかった。

 

 

 

「……どうなったん、ですか」

 

 

 

 白い天井を見つめながら、メグルはイデアに問いかける。

 身体が痛い。頭も痛い。

 とてもではないが、起き上がれない。

 彼の頭には包帯が巻かれており、全身が擦り傷塗れだった。

 

「……今言った通りだよ。重傷者3名。あの場に居た君以外の3人が昏睡状態。ポケモンはさ、ポケモンセンターで既に回復してるけど、人間はそうはいかなくってね」

 

 メグルの頭には──ノオト、キリ、そして──アルカの顔が浮かぶ。

 助かったのは、自分だけだった。

 原因は、高濃度のサイコパワーを直接浴びたからだという。

 当然それが人間に何も害を及ぼさないはずもなく、未だに彼らは目を覚まさない。 

 一方でメグルだけが、今こうして目を覚まし、イデア博士と会話が出来ている。

 

「ッ……何で、俺だけ!! 何で俺だけ……!!」

「庇ったからだよ」

 

 ぽつり、とイデアは呟いた。

 

「……アルカ君が、君に覆いかぶさってた」

「──!!」

 

 ぎりっ、と彼は唇を噛み締めた。

 

「バカ野郎!! 何でッ……何で……そんな無茶なことを……!」

「……咄嗟だったんだろうねえ。人間、いざと言う時は分からないものさ」

「結局、何にも守れてねえじゃねえか俺は……!」

 

 当たり散らす事すら出来ず、喚くことしかできない。

 今違う病室で治療を受けている3人の顔を見て、謝る事すら出来ない。

 

「正直、3人の容態はあまりよろしくない。だけど……まだ死んじゃいない。だから、彼らの事は病院に任せるべきだ」

「だけど──」

「彼らもよろしくないけど、サイゴクもよろしくなくってね。あれから2日経ったんだけどさ──」

 

 イデアは病院の窓を開ける。

 真っ赤だった。

 ペンキで塗ったくられたかのように、サイゴクの空は赤い。

 メグルは思わず吸い込まれてしまうような錯覚に陥った。

 

「……常に、あの赤い月が起きているって言えば分かるかな? 野生ポケモンが各地で凶暴化して暴れ回ってる。おやしろのトレーナーや、ヌシポケモンじゃあ手に負えない」

「……サイゴクだけが、こうなってるんですか?」

「そうだね。他の地方にも影響が及んでないのが幸いかな」

「今は誰が戦ってるんですか……!?」

「キャプテンは、実質的にヒメノちゃんしか動けない状態さ。だけど、人口の多いベニシティの防衛で手一杯だ。ユイ君もそっちに向かってるからね……赤い月本体を止めに行く人員なんて割けないよ」

 

 メグルは頭を抱える。

 リュウグウが死に、ハズシ、キリ、ノオトが重症。キャプテンはほぼ全滅状態だ。

 ヌシポケモンも、野生ポケモンと戦うので精一杯。

 サイゴクは今、テング団を上回る未曽有の危機に瀕している。

 

「俺が……行きます」

 

 ぽつり、とメグルは呟いた。イデアは「正気?」と言わんばかりにメグルを見やる。

 

 

 

「……俺が、赤い月を終わらせる……ッ!! キャプテンが動けないなら、俺が行かねえと……!!」


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