ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第14話:ヌシ重大事変……ってコト!?

「──ユイ、リュウグウさんは」

「……すいしょうのおやしろよ。この霜は、シャワーズが降らせたものだわ」

 

 

 

 ぽつり、と彼女は言った。

 あの場でリュウグウに何を言われたのか、メグルには分からない。

 しかし、雲ったユイの顔からは行き詰まりのようなものを感じ取れた。

 

「……あたし、分からないの。どうすればサンダースに認められるのか。リュウグウさんと勝負すれば、ヌシに認められる理由のようなものが分かるような気がして」

 

 その結果は、完全に掌で踊らされ、打ちのめされるというものだった。

 タイプ相性では有利だったにも関わらず、ポケモン1匹を2匹で抑え込まなければいけない始末。

 エース同士のぶつかり合いでは、シビルドンはヨワシに歯が立たなかった。

 

「……本当はあたしは土俵にも立てていなかった。リュウグウさんには本気でって言ったのに、あたしは半端な気持ちで挑んでた。……手持ちたちにも、リュウグウさんにも申し訳ないわ」

 

(……相当思い悩んでんなあ。かと言って、この世界に来たばかりの俺が分かったようなことを言うのも違う気がするし……)

 

 メグルにはユイの気持ちは分からない。

 ゲームではなく、本物の命を扱ってバトルを行うトレーナーの苦労も、自分達より強大なヌシの世話をするキャプテンの苦労も。

 そしてそれらがままならない事による苦悩も。

 

(でも、これだけは言える事がある)

 

 それでも1つだけ。

 1つだけ彼にでも分かる事があった。

 例えゲームであったとしても──メグルは幾度となくポケモンバトルを重ねてきたのだから。

 

「俺はどうやったらキャプテンになれるかは分からないけどさ──勝負は次、勝てば良いんじゃね?」

「え?」

「元から格上なのは分かり切ってたんだろ。じゃあ、次はどうやったら勝てるか考えれば良い」

「か、簡単に言うわね! この世界に来たばかりのくせに! ポケモンを育てる大変さも、ポケモントレーナーの大変さも分からない癖に──」

「ああ、分からねーよ。俺はこの世界じゃポケモンド素人だ。生き物のポケモンをバトルに使うんだ。ゲームとは訳が違う。だけど──()()()()()()()()()だけは知ってる」

「……!」

「俺の住んでた世界では、ポケモンはタダのゲームだった。だけど、ゲームであってもお遊びじゃなかった。1つのゲームソフトを999時間以上やり込む奴らばっかなんだ、人生懸けてるのは皆同じだった」

 

(その代わり色々大事なモノを失った気がしないでもないけどな……)

 

 現にユイも「それはそれでどうかと思うんだけど……」みたいな顔をしている。当たり前であった。

 レーティングバトルやランクマッチは、れっきとしたポケモン廃人の巣窟。早々簡単に勝てるはずがなかったのである。

 

「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを崩すなら、相応しい自分にならなきゃだろ」

「……!」

 

 数字は、ポケモン廃人にとって最も重みを持つものだ。 

 プレイ時間も例外ではない。対戦では、それだけ長い間培われてきた勝負勘や経験がモノを言う。

 異次元の読みや、変態的パーティ構築。それに打ち勝つことは簡単な事ではない。

 だが、だからこそ──廃人共は考える。

 ”次はどうすれば勝てるか”を。

 

「”次”頑張ろうぜ。今回負けても次回も負けるなんて誰も分からないだろ。勿論、次なら勝てる保障なんて無いけど……それでも勝ちたいから戦うんだろ、勝負師ってのは」

「……」

 

 ユイは呆気にとられたように彼の顔を見ていた。

 

「……えい」

「あだぁっ!?」

 

 そして──バチン、と強烈なデコピンを喰らわせるのだった。

 

「おい、何すんだよ!! 折角人が頑張って良い話っぽくまとめようとしたのに!」

「はっ、今一番頑張らないといけない新人トレーナーが何偉そうに言ってるんだか。フッツーに悔しいのよ!」

「あだぁっ!? 二発目!?」

「八つ当たりよ。甘んじて受けなさい」

「あんまりだ! 理不尽だ! あんまりすぎるだろ!」

 

 おでこを抑えるメグルを見ながら──くすり、とユイは笑みを浮かべてみせる。

 

「……あたしはキャプテン代理。おやしろの危機なら、駆け付けない理由は無い」

「ユイ?」

「……こんな所で凹んでる場合じゃなかったってことよ」

 

 立ち止まっている場合ではなかった。今はやらなければならない事がある。

 例え自分がどんなにダメでも着いて来てくれた手持ちが居る。それを裏切らないためにも──彼女は再び立ち上がる。

 

「ま、何て言うの──落ち込んでる場合じゃなかったわ。ありがと」

「……急ごう。俺も嫌な予感がするんだ」

「ええ。きっと……何かのサインだと思うの」

 

 周囲は異様な冷気に包まれていた。

 それがシャワーズが発しているものだとすれば、恐ろしい影響力だ。

 海岸からおやしろのある山の上までかなり離れているのだから。

 

 

 

「……何があったって言うんだ……?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「酷い……!」

「滅茶苦茶じゃないか……!」

 

 

 

 駆け付けたメグルとユイは言葉を失った。

 木々はへし折れ、スイクンの像は両方共見る影もないほどに崩れていた。

 周囲はあちこち凍り付いており、温暖なセイランシティに似つかわしくない程に寒い。

 そして、肝心のおやしろは、崩れ落ちている。激しく損壊しており、最早建て直さなければいけないレベルだ。

 手を下した犯人は、今も尚暴れ、見境なくおやしろを荒らしている。

 だがその正体に二人は衝撃を受けざるを得なかった。外敵ならばともかく、他でもない”ヌシ”がおやしろを破壊していたのだから。

 

「ヴルルルルルルルー……ッ!!」

「ウソでしょ? ヌシが、おやしろを壊したの……!?」

 

 その雰囲気は先ほどまでとは大きく異なる。

 目は青く光っており、背中からは凍てつく靄のようなものが常に放たれている。

 メグルは思わず身構えた。さっきまでのシャワーズとは何かが違う。

 リュウグウは顔をこわばらせて立っていた。

 

「二人共、手出しは無用」

「で、でも、リュウグウさん! 危ないですよ!」

「……分かっておるわい。シャワーズの様子がおかしくなっていることも、おやしろを壊したのがシャワーズであることも」

 

 苦虫を噛み潰したような声でリュウグウは言った。

 この事実を最も直視したくないのが彼であることは明白だ。

 ヌシとキャプテンはおやしろを守る存在。

 そのヌシがおやしろを破壊したのだから、重大な事件であることに違いは無い。

 

「シャワーズに何があったんですか!?」

「分からん。分からんが……ワシの目が届かぬところで、異常なことが起こったことは確かじゃ。こんな事は初めてじゃからのう」

「あっ、リュウグウさん!?」

 

 引き留めるユイの声も聞かず、リュウグウはシャワーズに近付いた。

 

「──さあ、シャワーズ。暴れるのは疲れただろう──」

「ヴルルルッ!!」

 

 荒ぶるヌシは、呻くような鳴き声を上げて、拒絶するように尻尾でリュウグウを薙ぎ払うのだった。

 

「リュウグウさん!!」

 

 吹っ飛んだ彼の身体を、ユイとメグルは二人がかりで受け止める。

 脇腹を抑えながら、息も絶え絶えにリュウグウは言った。

 

「こんな痛み……今、シャワーズが受けている苦しみに比べれば」

「でも──」

「好きで荒ぶるポケモンが居るわけがなかろうが! それに……娘同然のシャワーズに、どうして手を上げられる?」

 

 重い身体を引きずり、リュウグウは一歩、また一歩とシャワーズに近寄っていく。

 

「おお、おお、シャワーズ……ワシの可愛い可愛い娘よ。苦しいのかい? 痛いのかい? 教えちょくれ」

「ヴルルルルルルルーッ!!」

 

 目線をシャワーズに合わせ、リュウグウはシャワーズに語り掛ける。

 その声は、孫の子守をする祖父のような優しいものだった。

 

「お前は昔から優しくて、気の弱い子だったからのぉ。好きでこんな事をするわけがないとワシは思っちょる。大丈夫、怒ってなんておらんよ」

「ルルルルルルル……ッ!!」

 

 メグルもユイも、その場から一歩も動くことは出来なかった。

 通常のポケモンとは一回りも二回りも大きな力を持つヌシポケモンの放つ怒号の如き声を前に、立ち竦んでしまっていた。

 そして、その声からは悲しみ、苦しみが入り混じったものであることがはっきりと分かる。

 訴えかけるような声だ。

 それを受け止めるようにして、リュウグウはシャワーズを抱き寄せた。

 

「おお、おお、良い子じゃ、良い子じゃ──」

「ヴッ……ぷるるるるるるー」

 

 シャワーズの目が元に戻った。 

 慣れ親しんだ育ての親を前にして、正気を取り戻したのだろうか。

 その鳴き声も元の透き通ったものへと戻る。

 申し訳がないようにぺろぺろ、とシャワーズはリュウグウの頬を舐めるのだった。

 

「凄い……荒ぶるヌシを、落ち着かせた……!!」

「……これが、キャプテンの覚悟……」

「ワシの可愛い可愛いシャワーズ。おやしろなんて建て直せば良い。さあ、久しぶりに一緒に帰ろう。ばあさんがお前の好きなモモンの実のポロックを作っちょるよ」

 

 そう言って、リュウグウが探るようにシャワーズの顔に手をやろうとしたその時だった。

 

 

 

「ヴッヴルるるるるるる──!?」

 

 

 

 閃光が一瞬、迸った。

 リュウグウの身体が再び吹き飛び、地面に叩きつけられた。

 電気だ。

 電気が──シャワーズの身体から放たれたのである。

 

「えっ……?」

 

 メグルは常識を超越した光景に、戸惑うしかなかった。

 第一に、シャワーズは水タイプのポケモンだ。

 確かにラプラスのようにサブとして電気技を覚えるポケモンが居るが、シャワーズはそうではない。

 リージョンフォームだから、の一言で片づけることも出来るが、そうには見えない。

 今のシャワーズは──常に電気を身に纏っているのである。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(っそうだ、リュウグウさんが──!)

 

 見ると、リュウグウは地面に倒れ、苦しそうに肩で息をしている。

 近付こうとしたがユイに制止された。

 

「……メグル君、触らないで!」

「わ、分かった……!」

「シビルドン、リュウグウさんを運んで! お願いね!」

 

 電気を放ち続けるシャワーズ。

 最早、何が何だか分からないまま、メグルとユイはその場から離れるのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 やはりこの世界の人間は、ある程度頑丈に出来ているのだろうか、リュウグウは電撃を喰らいながらも、何とか喋れるようだった。

 救急をユイが手配し、感電の心配がないシビルドンが山の下まで運ぶのだというが、リュウグウはその前に言いたいことがあるようで息も絶え絶えに口を開くのだった。

 

「不覚を取ったわい……! 後少しだった……()()を取ろうとした矢先に……上手く行くと思ったんじゃが、油断はするもんじゃないのう……!」

「首輪?」

 

 メグルもユイも、暴れるシャワーズに目が行って、シャワーズにそんなものが付けられていたことなど気付かなかった。先程のリュウグウはシャワーズを宥めながらも原因を一瞬で見抜き、それを取り除こうとしたのだろう。傷つけないに越したことはない上に、それが迅速に事態を解決できる方法だったからである。

 最も、シャワーズが突如力を解き放ったことで、それは叶わなかったのであるが。

 

「シャワーズの首をよく見るんじゃ……いっづづづ、あんな首輪、見た事ないわ」

「リュウグウさん、喋らないで! 後はあたし達に任せてください」

「甘かった……今のあやつが山の下に降りれば、大変な事になる……」

「ッ……」

「でも……どうして、苦しんでいる自分の娘に手を上げられるというんじゃ……」

 

 やり切れない顔でリュウグウは言った。その目には涙すら浮かんでいる。

 ヌシポケモンを育てるのは、キャプテンの役目。

 我が子のようにシャワーズを可愛がってきたのがよく分かる。

 このように突如ポケモンが暴れ出す事自体がイレギュラーで、リュウグウも想定していなかった事態だったのだろう。

 

「……最早止むを得んか……シャワーズの為にも遠慮はいらん。責任はワシが全部取る……ワシの代わりに、あやつを止めてくれ……!!」

「……はい!」

 

 二人は、そう答えるしかなかった。 

 最早、一刻の猶予も無かった。

 シャワーズのためにも、そして町のためにも。

 ただでさえ強大な力を持つヌシが、何らかの要因で更に強力な力を持ってしまっている。

 野放しにすることは出来ない。だが問題は、シャワーズの暴れる原因だ。

 

(原因は──首輪?)

 

 首輪は人工物だ。

 何者かの手で付けられたと考えるのが妥当だ、とメグルは考える。

 

「シャワーズが暴れているのも、突然電気タイプみたいになったのも、あの首輪が原因……よね」

「首輪をぶっ壊すしかないよな……あんなの、見てられねえよ」

「そうね。……誰だか知らないけど許せない。絶対にシャワーズを助け出すんだから」

 

 そう言うユイの表情は──何か引っかかりがあるようだった。

 

「……どうした?」

「これ、あたしの気の所為かもしれないんだけど。さっきのシャワーズが放った電撃、ウチのヌシ様に似てた気がしたのよね」

「え!?」

 

 メグルには何も分からなかった。

 ただただ、突如シャワーズが電気を放ったようにしか見えなかったのである。

 しかし、電気タイプのエキスパートである彼女にはその違いが一瞬で分かったのだろう。

 

「電気ポケモンの放つ電気は当然、種類毎に違うわ。電圧も、電流も……その質も量も。サイゴクのサンダースが放つ電気には特殊な力が込められていて、色も黒混じりなの」

「ますます分からねえよ! シャワーズもサンダースも元は同じイーブイだから!?」

「あたしも分からないんだから! でも……まるでシャワーズに”サンダースの力が乗っかっている”みたいだった」

 

(……もう何も分からねえ。テラスタルやメガシンカじゃあるまいし、ポケモンのタイプがいきなり変わるなんてことあるのか? いや、あの首輪がそれを引き起こしている?)

 

 ポケモンのタイプは基本的先天的なもので、進化などで後天的に変わることがある。それ以外で変化するのは、さらに一段階限界を超えて一時的に進化をする「メガシンカ」。そして、タイプそのものを変えてしまう「テラスタル」だけだ。それほどまでにポケモンの持つタイプは絶対的なものなのだ。

 そこまで考えて、メグルには一つの仮説が浮かぶのだった。

 

 

 

(首輪が引き起こしてるのは……メガシンカやテラスタル……それに準じる現象って事なのか……!?)

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