ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第16話:追憶──すいしょうのやしろ(2)

 ※※※

 

 

 

「──久しぶりやな……此処まで強いのは」

 

 

 

 するるるる、と全身に泡を纏わせて滑るように移動するシャワーズの動きに翻弄されるトレーナーは少なくない。

 しかし、こうして今相対しているトレーナーは違った。

 的確にレアコイルに指示を出し、少ないチャンスを逃さずにシャワーズに攻撃を当て続けている。既に彼のポケモンを5匹倒したシャワーズだったが、その間に彼は完全にシャワーズの攻撃の癖を見切ったようだった。

 

(……先の5匹を囮にするほどの胆力……6対1の数の利を生かしちょる)

 

「5年ほどパルデア地方で料理の修行をしていてね。あっちでは高級スパイスを手に入れるのに、ポケモンで戦わなきゃいけないのさ。ぬしがスパイスの材料を守っているんだ」

 

 男は得意げに語る。

 

「ほう、道理で」

「ところでよ、さっきからオッサン、戦いたいって気持ちがビリビリと溢れ出ている。俺は構わねえぜ、横入りしても」

「そうしたいのはやまやまじゃが決まりなんでな。俺は見守るだけや」

「ぷるるるるー」

 

 どっちでも良い、と言わんばかりにシャワーズは返事を返す。

 

「……これを耐えられるなら褒めてやろう」

 

 シャワーズが滑りながらレアコイルの周囲を舞う。

 そうしているうちに、レアコイルは何時の間にか泡に取り囲まれていた。

 ぶつかったくらいでは泡は壊れず、押し潰さんとばかりに迫ってくる。

 

 

 

(オオワザ──”むげんほうよう”。冷気エネルギーを凝縮した泡で敵を包囲し、一気に起爆する……さあ、これをどうやって突破する?)

 

 

 

 ぶくぶくと音を立てて膨らむ泡。

 それが爆ぜようとした瞬間だった。

 

 

 

「……小難しい事は苦手でね──最大出力の放電ッ!!」

 

 

 

 電気がやしろ中に飛び散る。

 一つ一つの閃光が正確に泡を貫き、そして吹き飛ばした。

 リュウグウはその光景を驚きながら見つめるしかなかった。

 幾ら放電と言えど、”むげんほうよう”の泡を破壊するのは容易い事ではないのである。

 

「ッ……驚いた。此処までとは思わなんだ。初見で”むげんほうよう”を突破するとは……!」

「今度はこっちから行くぜ。レアコイル──10万ボルトッ!!」

 

 ズガーンッ!!

 穿つような電気の束がシャワーズを打ち払う。

 そのまま全身が黒焦げになり、斃れているのだった。

 

 

  

 ※※※

 

 

 

「ぷるるるるるー」

 

 

 

 げんきのかけらで元気を取り戻したシャワーズは、不機嫌そうに丸くなってしまった。

 負けるといつも拗ねてしまうのである。故にリュウグウはそれを気にすることもなく、試練を突破した男に労いの言葉を掛けるのだった。

 

「見事。他の挑戦者は何度も敗れながら突破するが……一発でシャワーズを倒せたのはオヌシが久しぶりや。名前は──ショウブと言ったな」

「ああ」

「鍛えたその力。どう生かす?」

「夢を叶えるために使う」

 

 ショウブは笑みを浮かべて答える。

 志を持つ若者は嫌いではない。リュウグウは「続けなさい」と促す。

 

「自分の店を開きたいんだ。そのためにはポケモンの力も必要だ。野生肉料理の専門店を将来的には開きたくってね」

「となると猟師志望か」

「先ずはね。そのためにはポケモンは強くなきゃいけねえだろ」

「……ふむ。言えておる。猟師が減るとシキジカやオドシシが増えて山が荒らされる。皆歓迎するぞ」

「んで、サイゴクは狩猟文化で有名だが、今時の若いヤツは野生肉をあんまり食おうとしねえ。臭いだのクセがあるだの言ってな」

「まあ俺も食わん。海近くだとあまり野生肉は馴染みが無いな。魚は食うんやけどな」

「だろ? だから狩られたポケモンの肉をムダにしないジビエ料理の店を作るんだ」

「ジビ……? まあいい、いつか食いに行ってやろう。志があることは良いことやからな」

「そうか!? 嬉しいぜオッサン」

 

 ──この年にリュウグウの元を訪れたトレーナーの中では、ショウブは頭一つ抜けていた。きっと彼ならば全ての試練を終え、アラガミ遺跡にあるめぶきのおやしろへの参拝も難なくこなすだろう、と。

 

「だけど高い志があるのはオッサンも同じだろ。海水浴場の管理人までやってるんだって? 海が綺麗なのはオッサンのおかげだって話じゃねえか」

「ははは、仕事を辞めてキャプテン業だけだと暇なだけよ」

「町の人たち言ってたぜ。リュウグウさんは鉄人だ! ってよ。怖い所もあるけど、誰よりもセイランの町とポケモンが好きだって言ってたんだ」

「そりゃあ怖くないとキャプテンなぞやってられんよ。変なヤツがおやしろに、セイランに来たらどうする」

「そうかあ? 俺さ、オッサンには憎まれ役向いてないと思うんだよな」

 

 リュウグウはそれを言われて黙りこくる。

 この40年、強面の雷親父でやってきたつもりだった。

 しかし、たかがこの試練の間顔を合わせたこの男に、自分の内面を見透かされた気がした。

 だがムキになるのも癪だったので、笑って返す。

 

「余計なお世話や。俺は40年、これでやってきちょる。その身を全部、おやしろとヌシ、町に捧げるのがキャプテンというものよ」

「……ははっ、俺には真似出来ねえや。やっぱすげぇよ、オッサンは」

 

 ショウブは苦笑いで返すのだった。

 

「……ところでよ。最近立て続けに台風が来てるがおやしろは平気なのか?」

「流石に建て替えたばっかりってだけはあるわい。点検も問題無しや」

 

 セイランの風禍、と呼ばれる程にその年の台風は多かった。

 空でポケモンが暴れているのではないか、と考える者もいたが、暴風域を調査する勇気は無論リュウグウにも無かった。

 とはいえ、流石に建て替えたおやしろはその程度ではびくともしない。中のシャワーズはずぅっと台風の事など気にもせずにタマゴを抱きかかえていたことからも頑強さは証明されている。

 

「なら良いんだがな……他所じゃあヌシを避難させてるところもあるって聞いてよ」

 

 リュウグウは口を噤む。

 ヌシの安全を最優先するならば、それが一番いいのだろう。

 何より雨風が苦手なものもヌシの中には居る。それならば、キャプテンの家で一時的に預かるのも手だ。

 彼とて、シャワーズが心配だ。本当は家の中に入れてやりたいくらいである。

 しかし──そうはいかない理由があった。

 

「……実は今、一番難しい時期なんや」

 

 リュウグウは事情を話す。

 ショウブは意外そうに眼を見開いた。

 

「タマゴ!? そりゃあ大変だ。じゃあ神事の時、タマゴの面倒は──」

「嫁がおやしろの中で孵化装置に入れて温めちょる。終わったらシャワーズに返しておる。やはり自分でタマゴの面倒を見たいんやな。母性……なんかね」

「そ、そうだったのか……キャプテンは大変だな。ヌシの子供の面倒も見るのは……当然か」

「ああ、そうよ。もしオヌシがキャプテンになるなら、覚悟しとき。ヌシの面倒を見るのは全部キャプテンやぞ」

 

 笑ってリュウグウは言った。

 最も、大変などと感じたことは一度も無い。

 ヌシに奉仕するという使命以上に、シャワーズが喜んでくれるのが嬉しいのだ。

 

「ははっ、考えた事も無かったぜ。……なあオッサン! タマゴが孵ったら教えてくれよ! 俺、赤ちゃんを抱っこしに行くからな!」

「おうおう、来なさい! 俺もお前みたいな骨のある若者なら大歓迎やからな!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──若者とそんな会話をした数日後。

 今までで一番大きな台風がセイランを襲った。

 当初の予報は外れ、セイラン全域が暴風域に入る未曽有の事態。

 最大風速は40mを超え、脆い建造物は吹き飛ばされる程だった。

 

「電気……消えたわね……」

「なんや……話と違うやないか……! こんなに強い嵐は初めてや……!」

 

 停電した辺りで流石のリュウグウも不安を隠せなくなった。

 一番心配なのはシャワーズである。

 

「……シャワーズ……おやしろ……大丈夫やろうか」

「あの子が強いのは、あなたが一番分かってるでしょ?」

「……俺もおやしろに行った方が良かったやろか」

「お母さんになるんだから、デリケートな時期なのよ。どうせ迷惑がられて追い払われたんでしょ」

「ああ……ヌシも所詮は……野生ポケモン、か」

 

 念を押してリュウグウはシャワーズを家に連れ帰ろうともしたのだ。

 しかし、日に日にシャワーズは親としての顔が強くなっていく。

 先日はとうとう、リュウグウにさえ威嚇をする始末だった。タマゴの孵化が迫っているのだろう。

 暗い部屋の中で何も出来ないもどかしさにリュウグウは溜息を吐く。

 自然災害の前では、ポケモンの力も及ばない。

 

(早う過ぎ去っとくれ……)

 

 ──そうしているうちに、ぴかぴかと点滅して明かりが点いた。

 一先ずの安堵の溜息をつく。

 もう何時間たったのか、彼には分からなかった。

 ごうごうと鳴る風音の所為で、寝ることすら出来ない。

 それからさらにしばらくたっただろうか。

 

「あら電話……良かった、繋がるようになったのね」

 

 そう言って妻が電話を取る様を見ながら、徐々に風音が落ち着いてくるのをリュウグウは感じていた。

 しかし。

 

「ええ、ええ。……ええ!?」

 

 妻の声色がだんだん焦りを帯びたものになっていくにつれて、リュウグウは嫌な予感がしていた。

 

「何事や!?」

「あなた……おやしろのある山が崩れたって──下のご近所さんから電話が……!!」

「ッ……!!」

 

 最早、リュウグウは居ても立っても居られなかった。

 雨具を羽織り、モンスターボールを一つ手に取る。

 複数手に取れば紛失する可能性が高い。

 

「あなた!! 外は風が強いのよ!! 死んじゃうわよ!!」

「バカもん!! そんな事言ってられるか、こっちにはポケモンが居るんや、台風くらい何や!!」

「あなた!? ダメよあなた!! あなたーッ!?」

 

 玄関から飛び出すと、もう吹き飛ばされてしまいそうな勢いの風に殴られる。

 しかし怯むことなくリュウグウは目の前にボールを投げた。

 全長6メートル。巨大な竜が風にも負けず、空に浮かんでいた。

 

 

 

「……ギャラドス!! おやしろに急ぐんや!! 早く!!」

「ロロロロロロ……ッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 そこからおやしろへ一直線に飛んで行く。

 吹き飛ばされそうになるのを抑え、必死にギャラドスを掴む。

 

「ああ……!! お、おやしろが……!!」

 

 土砂崩れの報告以上に──リュウグウは衝撃を受けていた。

 周りの地面が根こそぎ崩れ、おやしろの建てられた場所が土砂に埋まっているのである。おやしろは既に潰れてしまっており、シャワーズが生き埋めになっていることは容易に想像できた。

 

「ギャラドス、お前の力で土砂を退かすんや!! 俺も手伝う!!」

 

 ギャラドスが顎で倒れた木を退かし、水を吹いて土砂を吹き飛ばす。後には潰れて崩れたおやしろが残っていた。

 それをリュウグウは必死に崩れたおやしろの瓦礫を退かしていく。

 胸は痛い程に鳴り、手は血塗れになっていた。

 ……しばらくして。

 

 

「シャ、シャワーズ……」

 

 

 ──誰がどう見ても助かっているようには思えない程に変わり果てたヌシが──瓦礫の下から現れた。

 リュウグウは膝を突き、ギャラドスは悲しそうに吼えている。

 しかしそれでも最後の希望を託し、リュウグウはシャワーズに呼びかけ続ける。

 だが、半端に空いた瞳はもう二度と彼の顔を見ることは無かった。

 

「お前なら……吹き飛ばせたはずや……こんな瓦礫、こんな土砂……」

 

 そう言っても、もうシャワーズは答えなかった。

 

「……お前はヌシや……俺が育てたヌシなんや……こんなんで……こんな事で……」

 

 抱きかかえると──その腹には、まだ無事なタマゴが残っていた。

 思わず血が出るほどにリュウグウは唇を噛み締める。

 

「そうか……そうだったのう……お前は……親になるんやもんなぁ……」

 

 最後までずっと、シャワーズは──丸まってタマゴを守っていた。

 技を使えばシャワーズだけは助かることが出来たのは容易に想像できる。

 しかし、彼女はそれをしなかった。

 自らの命を賭してタマゴを守る方を選んだのだった。

 

 

 

「っ……よぉ、がんばった……痛かったなあ、苦しかったなあ……シャワーズ……」

 

 

 

 シャワーズの遺骸を抱きかかえ、リュウグウは一人、雨風が止んでもそこで泣いていた。

 

 

 ※※※

 

 

 

「酷い嵐だったな……生きてた中で一番だ」

「こっちの方はまだ良いさ! 下の家は浸水したって聞いたぜ」

「セイラン水族館、冠水したってよ……電力がやられた所為で魚ポケモンたちが皆死んじまって……ありゃ営業再開は無理だな」

「名物のジュゴンも流されて行方不明だって……この間見に行ったばっかだったのに」

「何処もかしこもこんな感じさ、やってらんねえよな」

「……なあ、おやしろ崩れちまったってよ。土砂崩れに巻き込まれて……御神体も見つからないみたいだ」

「あんなに立派だったのにな……」

「なあ、ヌシ様が……」

「嘘だろ!? シャワーズが……!?」

「リュウグウさん……大丈夫かよ……あんなに可愛がってたのに……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 何もかも無くなってしまった、がリュウグウの口癖になりつつあった。

 おやしろは崩れ、ヌシは死に、そして──要である御神体は無くなってしまっていた。

 御神体の見た目は青い石ころのようなものであり、イーブイの進化に用いる”たま”である。それを不変不動の御神体として祀るのである。

 だが、もうそれも見つからず仕舞い。否、見つける気力すらリュウグウは無くなってしまっていた。

 髪は一気に白くなってしまい、髭も伸びっぱなし。精気の無い目で縁側に座っているのである。

 

「……プッキュルルル」

「可愛いのう、お前は……可愛い可愛い、俺のイーブイ……」

 

 残ったのは無事だったタマゴだけ。

 そこからイーブイが孵ったものの、リュウグウの心が晴れることは無かった。

 そこに居るはずだった”親”は──居ない。

 共に喜ぶはずだった”友”は──居ない。

 この世の全部が終わってしまったようだった。

 

「プッキュイ」

「ああ、待て! 行かんでくれ、イーブイ──」

 

 ぴょん、と膝からイーブイが飛び出し、リュウグウは怯えたような表情で這いつくばり、それを追いかける。

 だが──部屋からポケモンフーズを持ってきた妻を見て、漸く安堵したのだった。

 イーブイのご飯の時間だったのだ。

 

「ねえあなた……ブイちゃんご飯よ……? 何処にも行ったりしないわよ」

「……っ」

「ダメよ……あなたがいつまでもそんなだったら、シャワーズちゃんが安心して眠れないじゃないのよ」

「……すまん」

「あなたもご飯を食べなさいな」

「……いらん。今は何も食う気にならん……」

「そんな事言って、もう1ヵ月経つじゃないの……目に見えて痩せてるわよ」

「お前は悲しくないのか」

「悲しいわよ……でもね。あなたも心配なのよ」

 

 台風でおやしろと一緒にシャワーズを喪ったのは、あまりにもリュウグウにとっては心を痛める出来事だった。 

 妻の言葉にも首を横に振るばかりだ。

 

「他の事なんてどうでも良かったんや……本当はシャワーズに喜んで欲しかっただけなんや……あいつのためだけに、あのおやしろを作ったんや……」

「あなた……」

「でも、あいつはあのみすぼらしい巣穴でも満足そうに寝ちょったんや……その幸せを壊したのは……俺の方やったかもしれん……」

「あんな台風が来るなんて誰も分かるわけないじゃないの……外に居たら、今度はタマゴがどうなっていたか分からないのよ……?」

「ッ……俺は……何のためにキャプテンをやってきたんや……あいつが居らんなら……キャプテンなんて……」

 

 ふらり、とリュウグウは立ち上がる。

 その背中は、この1か月で大分小さくなってしまった。

 

「あなた、何処へ行くの?」

「……散歩や」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「俺が一番分かっちょる……!! このままで良い訳が無いと……!!」

 

 

 

 悲しみを引きずりながら、リュウグウは荒れ果てた山を登る。

 土砂は既に埋め立てられ、舗装工事も終わった。

 崩れたおやしろのあった場所に、彼は立つ。

 考えられるだけの建材を自力で引きずり、用意した。

 御神体が無くとも、ヌシが居なくとも。

 せめて──子を守った親を弔うことが出来る、シャワーズの為のおやしろは作れるはずだ、と。

 

(俺は……俺は、やれるんや……!! 誰が何と言おうが、やれるんや……俺だって、大工の端くれなんや……!! 今まで船を幾つも作って来たんや……!! おやしろくらいなんだって言うんや……!!)

 

 慣れた手付きで木組みのおやしろを作っていく。

 宮大工ではなかったが、見様見真似だった。

 しかし、どうしても手が止まってしまう。

 雨が降っていないのに、材木には雫が零れるのだった。

 

「うぅ、うぅ……あああ……ぐっず……」

 

 人前では見せなかった涙がにじむ。

 

「シャワーズ……シャワーズ……どうして、どうして逝ってしまった……俺より先に逝ってしまった……ヌシは長生きするんやなかったんか……せめて俺が先に死ぬんやなかったんか……うう……シャワーズ……」

 

 ぐしゃぐしゃになり、もう施工どころではなかった。

 おんおんと泣いても、ヌシはもう戻って来なかった。

 

 

 

「水臭いぜ、リュウグウのおやっさん!!」

 

 

 

 その時。

 後ろから──声が飛んでくる。

 振り返るとそこに居たのは、町の若者や、かつての船大工仲間達だった。

 

「俺達、皆でお金を集めたんだよ! おやしろが吹き飛んだって聞いてな」

「リュウグウさん、あれだけ町の為に頑張ってるのに、俺達だけ何もしねえのはナシだろ!?」

「そうやって皆に言ってたらよ、こんなに集まって……宮大工、呼べそうなんだ!」

 

 若者の一人が、ボウルに集まったお金をリュウグウに見せる。

 一人一人の分は些細な金額だったかもしれない。しかし、それらが集まれば──もう1度おやしろを建て直せるだけの金額になっていた。

 しかし。リュウグウの顔は晴れない。

 

「バカもんが……おやしろがあっても、御神体が無ければ……」

「なあオッサン……俺達、御神体がどっかに飛ばされてないかって思って、泥まみれになりながら山ン中や町ン中探したんだよ」

 

 そう言って前に出たのは、しょっちゅうおやしろを遊び場にしていた悪童たちだった。

 その手には──青いたまが握られていた。

 

「そしたら土砂の石っころの中に紛れてたんだ!!」

「やっぱ、いっつも怒鳴ってるオッサンじゃなきゃ物足りねえよ……元気出してくれよ……」

「……俺達、オッサンがそのまま居なくなっちまわないかって思ってたんだよ……」

「だからよ、またバカもーんって怒鳴ってくれよ……」

「ッ……」

 

 しばらく、リュウグウはそれを見つめていた。

 

「俺は……やり直して良いのか?」

「当たり前だろ! シャワーズちゃんだって、オッサンがこんなになってるのを見て喜ぶはずがねえ!」

「また建ててやろうぜ、おやしろをよ!」

「ッ……俺で良いのか……?」

「リュウグウさん以外に誰がやるんだよ、キャプテンを!」

「俺達も全力でリュウグウさんを助けさせてくれよ!」

「……っ」

 

 思わず縋りつくように、リュウグウは御神体を握り締めていた。

 そして、それを抱きしめるようにし、すすり泣く。

 

「すまん……本当に、本当にすまん……バカもんは……俺の方や……俺こそが大バカもんや……」

「リュウグウのオッサン……」

「船大工の癖に情けない……こぉんなに沢山の人に支えられてたのも忘れて、一人でキャプテンの仕事に酔ってたんや……」

 

 おやしろは──キャプテンとヌシが守るもの。野生ポケモンと人々の境となるもの。

 しかし、おやしろは、キャプテンとヌシだけのものではない。町の人々、町のポケモンの支えとなるものだった。

 

「俺は今、恥ずかしい……本当に恥ずかしい……こんな大事な事も忘れて……シャワーズに、イーブイに、謝りたい……」

「謝んなよ、胸を張っておやしろを建て直そうぜ、リュウグウさん!! シャワーズちゃんの為にもよ!!」

 

 それから数年後。

 すいしょうのおやしろの試練は、サイゴクのキャプテン筆頭とヌシのシャワーズが立ちはだかる最難関として現在に至るまで再び名を馳せることになる。

 おやしろは、慎ましやかなものにはなったが、より雨風にも潮風にも負けない頑丈な造りになった。

 だが、鬼のリュウグウと呼ばれた男は──すっかり陽気な好々爺として皆に好かれるようになっていた。

 

「なあばあさん、ワシは今幸せじゃよ」

「あの大きなおやしろを建てた時よりも、ですか?」

「うむ……ワシはあの頃気付かんかった……良い家族に恵まれ、良い町に恵まれ、良いポケモンたちに恵まれた……こんなに贅沢な事があるか?」

「きっと他にありませんよ、じいさん」

「……そうやのう……シャワーズもそう思うか?」

「ぷるるるるるー」

 

 新たなヌシは──同感だ、と言わんばかりに甲高く鳴くのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──ぱちり、と病院で目を醒まし、リュウグウは起き上がる。

 昔の事が夢に出ていた。しかし、電撃を受けた体が激しく痛む。

 感電傷特有の痣が肌には浮かび上がっていた。

 

「行かんと……いけん……ワシが……シャワーズを……」

「ダメですよ、じいさん……そんな身体で何処に行くの!?」

「シャワーズが危ないんや……ワシが、ワシが力づくでも止めんといかんかったんや……なのに……!!」

 

 彼は今、病室から出ることすらままならない。

 最強のキャプテンも、ポケモンを出すことが出来なければただの人間でしかない。

 だがそんなことはリュウグウには関係無かった。

 今この瞬間も、シャワーズは荒ぶって暴走している。

 それを抑える為に、メグルとユイが戦っているであろうことは想像できる。

 もしも、彼らに止められなければ──もしもシャワーズが町で暴れれば──最悪、彼女が殺されることも考えられる。 

 

 

 

「もう嫌なんや……ワシが生きとるうちに……喪うのは……」

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