ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第18話:覚醒

 ※※※

 

 

 

 ──部屋には、小さい頃に買ってもらったポケモンのぬいぐるみを置いており、机にはモンコレが未だに置かれている。

 彼らが画面の中に居ることが生き甲斐だった。 

 

「さーて今日も自転車こぐかー」

 

 いつからだろうか。ポケモンを数字でしか見られなくなったのは。

 ポケモンの名前を聞くと種族値の並びが浮かび上がるほどになってしまったのは。

 ポケモンを「強い」「弱い」だけでしか考えられなくなってしまったのは。

 

(このゲーム、結局行き着く先は対戦だからなー、仕方ないんだけどなあ)

 

 と言いながら、何匹ものタマゴを生ませ、個体値が悪ければ逃がしを繰り返す作業。

 対戦も好きなのだ。強いポケモンが作れなければ勝てない。

 厳選作業も何時の間にか「そういうものだ」と割り切っていた。やはり彼らは数字の羅列でしかないのかと考える。

 

(……お前らに会えたら……お前らが”生きてる”って思えるのかもなあ)

 

 だなんて言っていたら、ポケモンLEGENDSアルセウスが発売されて。

 ヒスイ地方に息づいている彼らは本当に生きているようで。力強く、そして恐ろしくて。

 あまりにも解像度の高い敵意を向けてくるポケモンのリアリティに度肝を抜かれて「やっぱ虚構で良いや」と思ったのはさておき──やはり確信したのだ。

 ポケモンは”居る”のだ、と。

 

 

 

(もしポケモンが居たら俺は──そいつらを連れて、広々とした大地を駆け巡って──何処までも、行けそうな気がするんだ)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ッ……痛たたた……」

 

 

 

 タガの外れた無差別射撃が泡どころか周囲をまとめて薙ぎ払ったのが見えたっきり、記憶がぶつ切りになっている。

 自分もまた、余波で吹き飛ばされていたことに起き上がったメグルは気付いた。

 

(なんてヤバい攻撃だ……こ、こいつを山の下に降ろすわけにはいかない……降ろしたら町もブッ壊されるぞ……!?)

 

 周囲を見渡すと、木々は倒れ、おやしろの残骸は散乱していた。

 下手人であるシャワーズの姿が見えない。

 そこに仰向けになってユイがぐったりとしているのが見えた。レアコイルが3機バラバラになって転がっている。

 

「ッ……皆……! いっ……」

 

 メグルは足を抑える。

 吹き飛ばされた所為で足をケガしたのである。

 ズボンは破けており、そこから赤いどろどろが流れている。

 起き上がり傷を庇った途端に──倒れた木の上に──ボロ雑巾のようにイーブイが引っ掛かっているのが見える。

 そして、それを捕食せんとばかりにシャワーズが近付いているのが見えた。

 

「やめろ!!」

 

 思わず声が出ていた。

 びくり、と声を震わせてシャワーズがこちらを睨む。

 その目は最早正気を失っているとしか思えない程かっ開かれている。

 首輪の宝石はヒビこそ入っているものの、砕けるには至っていない。

 

「手を出すな……!!」

 

 イーブイの入っていたボールを向けようとした途端、腕が動かない事に気付いた。

 周囲の空気が冷たい。

 身体が──凍り始めていることにメグルは気付いた。

 

(ッ……野ッ郎……!! 身体が動かねえ……!?)

 

 前足でイーブイの顔を押さえつけるシャワーズ。

 その口が開かれる。

 きぃぃぃん、と甲高い音が聞こえてきて、メグルはゾッとした。

 動けないイーブイ相手に、あの極大威力の水ブレスを放つつもりなのだ。

 

「やめろ!! やめるんだ!! シャワーズ!!」

 

 もし至近距離で受ければ──水圧で身体はバラバラになるだろう。

 だが最早シャワーズに理性のタガは無い。

 敵対した相手を徹底的に叩き潰す意思だけで動いている。

 

「そいつは、相棒なんだ……!!」

 

 聞く耳を持たない。

 

 

 

 

「──逃げろ、イーブイッ!! 殺されちまうぞーッ!!」

 

 

 

 ぴくり、と耳が動いた気がした。

 しかしもう間に合わない。

 手を伸ばそうとしても、伸びない。

 

「ッ……イーブイ!!」

 

 

 

 

「──ぶろろろろろッ!!」

 

 

 

 太鼓が響くような音が周囲に鳴る。

 

 

 

 水ブレスは放たれなかった。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 それを阻止した影が、立ち塞ぐようにしてシャワーズの前に現れる。

 そのポケモンの名前を──思わずメグルは呼んだ。

 

「シビルドン……!」

 

 先程、リュウグウを山の下まで運んだユイのシビルドンだ。

 衝撃を流体となって受け流したことで、水ブレスのチャージは不発に終わる。

 再び電気を放つシャワーズだが、電気タイプのシビルドンには通用しない。

 そればかりか──その傍には、ふらふらになりながら主であるユイが立っている。

 

「……あーあー、無様。本ッ当に無様」

 

 頭から血を流し、びしょぬれではあるが──確かに彼女は立っていた。

 「まだ戦える」「むしろここからだ」と言わんばかりに。

 そればかりか、歯を強く喰いしばり、怒りを滾らせている。

 

「こんな有様で、キャプテンがどうこうだとかよくも言ってたわね、本当に……我ながら自分への甘さに反吐が出る……!」

「ユ、ユイ……!?」

「ッ……何だかすっごく腹が立ってきたッ!! やられ放題のあたしがッ!! ちょっと負けたくらいでうじうじしていたあたしがッ!!」

 

 シビルドンが鼓舞されるように腕を振り上げる。

 トレーナーとポケモンの精神状態は──間違いなくリンクしている、とメグルはこの時確信した。

 トレーナーが奮い立てば、ポケモンもまた奮い立つのだ。

 

「覚悟は良い? あたし達のパッションで、ショートさせてやるんだからッ!!」

「ぶろろろろろろろッ!!」

「──腕に10万ボルトを纏わせて!! 格闘戦なんだからッ!!」

 

 巨大な腕に電気を纏わせ、シビルドンは次々に打つ、打つ、打ち続ける。

 それを流体となって躱し続けるシャワーズだが、流体状態は長い間維持することが出来ないのか、とうとうその攻撃を喰らってしまう。

 当然、効果はいま一つだが──構うことなくシビルドンは押し続ける。

 

(実は理屈とか考えずに押せ押せのストロングスタイルが一番合ってたのか!? 迷いがあるから、力を十全に出せなかったのか……!)

 

 とうとう抑え込めぬと言わんばかりに再び大量の泡を浮かび上がらせるが──それはシビルドンが電気を纏わせた尾で薙ぎ払い、消し飛ばしてしまう。

 泡が拡散する前に、全て消してしまえば、シャワーズも水ブレスをチャージする余裕などない。

 そもそも、シビルドンの技ですらない攻撃でチャージが途切れる程デリケートな集中を要する水ブレスだからこそ、相手を泡で拘束しなければならなかったのである。

 

「オオワザはこれで見切った!! 初動で接近して泡を薙ぎ払い、あんたに水ブレスを撃たせないッ!!」

 

(こ、こええー……今後とも怒らせんとこ)

 

 とはいえ、ユイの表情は既に怒りだとか諸々でガンギまっており、直視するに堪えない。

 彼女の強さの一端を思い知るメグルだった。

 オオワザを打ち消され、空振りに終わり──シャワーズに残るのは強烈な疲労だ。

 そこに大きな隙が産まれる。

 シャワーズの身体から電気のオーラが消えていく。

 

【シャワーズ ひょうすいポケモン タイプ:水/氷】

 

「タイプが戻った……!? ダメージを受けたら解除されるのか!?」

「今のうちにイーブイを回復させなさいッ!! 早くッ!!」

「ッ……ああ、分かった!!」

 

 最早ボールに戻すのも惜しい。ダメージを受けた状態で長い間が立ち過ぎている。

 ユイがげんきのかけらをメグルに投げて渡す。 

 時間が経ったからか、凍えていた身体も元に戻り、メグルは走り出す。

 

(イーブイ、俺は確かに元の世界に戻りたいけどよ──お前が倒れた時に確信したんだ)

 

 例えその先に終わりがあっても。

 否、終わりがあると確信しているからこそ。

 メグルは──ポケットの中の夢に、元気を託すべく駆ける。

 

 

 

(──今は、お前と一緒に……旅をしていたいッ!!)

 

 

 

 黄色い欠片をイーブイに押し当てる。 

 それが霧のように散り、降りかかった。

 瀕死だったイーブイだったが、その身体に再び熱が帯びていく。

 ぱちり、とその目を開ける。

 

「プッキュルルルル!!」

 

 流石は闘争心の塊と言ったところか。

 此処が戦場であることを思い出したかのように、イーブイは再びその場に立つ。

 そして、自らを地に着けた「強敵」を前にして吼えてみせるのだった。

 

(シビルドンとシャワーズの実力は互角──いや、シャワーズがむしろ押している……だから、此処の最後の一押しが重要になってくる)

 

 しかし、今のイーブイの体力では下手に戦っても返り討ちにされるだけだ。

 それほどまでにシャワーズの放つ電気は、水は、そして冷気は脅威となっている。

 

(何か使えそうなものは──)

 

 思わず鞄を漁った。

 イーブイもそれを座して待つ。

 主ならば、この状況を突破する一手をそこから編み出すと信じて。

 鞄をまさぐるうちに──メグルは、とてつもなく熱くなっている何かが入っていることに気付く。

 

(何だ!? スマホが壊れてバッテリーが熱くなってんのか!?)

 

 と思い取り出すと──それは宝石だった。

 さっき、アルカから貰った「O」の印字がされたものだ。

 触れると熱い。火傷をするほどではないが、まるで生命の如き脈動を感じさせる。

 そしてそれに反応するように、ズボンのポケットに入れていた”まもりがみのはね”が熱を持つ。

 

「ッ……まさか……そんなことは無いよな……!?」

 

 透明な羽根。そして宝石。

 一見、何の関連性も無いものであり、役に立つようには見えない。

 しかし。それは2つ揃った時、確かに共鳴したのである。

 

「ヴルルルルルーッ」

 

 シャワーズが再び咆哮する。

 見ると、今度はシビルドンが泡塗れになっており、拳を撃つこともままならなくなっている。

 ずるずると滑り、シャワーズに近付くことさえできない。

 その隙を見計らってか、今度こそシビルドンを仕留めるべくシャワーズが周囲に泡を浮かび上がらせるのが見えた。

 

(なーにがオオワザだ!! 全部オメーの匙加減じゃねーか!! 連発する上に学習までしやがって!! Zワザは1回しか使えねーんだぞ!!)

 

 悪態を内心で吐く間にメグル達の周囲にも泡が浮かび上がる。

 最早万事休す、と思われたその時だった。

 

 

 

「──プッキュルルルルル!!」

 

 

 

 羽根が突如メグルの手から飛び出す。

 それが霧のように散ったかと思うと──イーブイの身体に何かが覆いかぶさった。

 

「ッ……何だ!?」

 

 光だ。

 光が周囲を包み込む。

 

「まさか進化……ッ!?」

 

 そうメグルが呟くも、イーブイの姿()()()()()は変わる様子が無い。

 しかし、イーブイの様子は変容していた。

 周囲には木の葉が舞い、イーブイの目は翠に輝いている。

 そして、その背中には羽根の形をした光が浮かび上がっていた。

 

(シャワーズと同じ……!? 一時的なパワーアップ……!? 暴走……!?)

 

 直感だが、そう感じとる。

 形容しがたいオーラをイーブイは身に纏っていた。

 

 

 

【イーブイ<??????> しんかポケモン タイプ:???/???】

 

 

 

 しかし、理屈ではない。理論でもない。

 チャンスはこの瞬間だけだ、と確信する。

 何故ならば、イーブイは一瞬だけこちらを振り向いてみせたからだ。

 イーブイも「行けるよ」と言っているようだった。

 

「ポケモンで勝つ方法──()()()で、()()()()()で、尚且つ()()()()の技をぶつける。その()()()()()()が難しいんだけどな」

 

 にやり、とメグルは気付けば笑みを浮かべていた。

 

 

 

「……そのチャンスが来たなら、ぶつけない理由は無い! たっぷりお返ししてやれ、イーブイッ!!」

 

 

 

 その叫びと共に──イーブイは咆哮した。

 木の葉が嵐となって吹き荒れる。

 

 

 

【イーブイの──】

 

 

 

 危機を感じ取ったシャワーズはすかさず、シビルドンに集中させていた泡を全てイーブイに向ける。

 しかし、その泡は全て霧となって消え失せる。

 

 

 

 

──リーフストームッ!!

 

 

 

 

 翠の嵐が──シャワーズを包み込み、吹き飛ばす。

 おやしろを漂う泡も、そしてシャワーズを縛り付ける妖しい宝石も、全て消し飛ばす。

 

「すごい……!」

 

 ユイも思わず声が漏れていた。

 背を押したメグルでさえも言葉を失っていた。

 そのままぐるぐると嵐に巻き込まれて宙を舞っていたシャワーズだったが──地面に叩きつけられ、遂にダウンしたのだった。

 

 

 

【効果は抜群だ! 野生のシャワーズは倒れた!】

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「やった……」

 

 

 

 

 イーブイの光の羽根が消え去る。

 シャワーズの首輪の石は砕け散り、もう荒ぶる力も感じられない。

 確かに成し遂げたのだ、とメグルもユイも顔を明るくする。

 一方、最後の一撃を決めたイーブイはと言えば、へとへとになってしまい、その場で「ぷきゅー」と息を漏らしながらへばっているのだった。

 

(何だったんだ今のは……でも、とにかく勝てた……!)

 

「そうだ、メグル君。シャワーズの様子を──」

「ああ、手当してやらないと」

 

 シャワーズもまた、激戦でケガをしているのが見える。

 すぐさま治療すべく、メグルとユイは駆け寄ろうとした、その時だった。

 

 

 

「此処まではよくやってくれた」

 

 

 

 空から、声が聞こえてきて、二人の進路を阻んだ。

 思わず足を止める。

 長い鼻の赤い仮面で顔を覆い、素顔は伺い知れない。

 山伏のような服に身を包んだ姿はさながら──メグルの元居た世界でもよく知られる妖怪・天狗を思わせる。

 そんな怪人物が何人もその場に降り立つ様子は、異様の一言。 

 何者だ、と問う余裕も無く、彼らの方から名乗ったのだった。

 

 

 

「──我々、テング団の為に働いてくれたこと……感謝するぞ。若きトレーナーたちよ」

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