ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「──何だ……!? あんた達は……」
「シャワーズのオーラを回収しろ」
正面に立った天狗が言うと共に、後ろに居た天狗たちが動けないシャワーズに寄って集る。
その様子を見るに真っ当な集団では無いと判断したユイは「何よあんた達!! 無礼よ!! 此処を何処だと心得るの!!」と切ってかかる。
「……無礼は承知。このポケモンには我らの目的の礎になって貰うだけの事。何、少しだけ力を貰うだけよ」
「貰う!? 勝手に何を言ってるの──!?」
「──手伝ってくれたのはお前達の方だ、少年、少女。見事にヌシを
「ッ!?」
その言い方は──まるで、シャワーズの力を欲していながら、その暴走さえも勘定に入れていたとでも言わんばかりだった。
「……特に少女。お前の所のサンダースには同胞が世話になったのでな」
「同胞……!?」
「なんせ、先ではオニドリルをぶつけても弱らせはしたものの、オーラ回収に出向いた同胞が1人、大怪我をしてな」
「ッ……まさか。あのオニドリルを嗾けたのは──」
「そうだ。全て、サンダースからオーラを頂戴するためよ。ヌシと呼ばれる個体は我らを異物とし、激しく抵抗するからな。オマケに力が強大すぎる」
全てが繋がった。
あのリージョンフォームのオニドリルは、そもそもテング団を名乗る彼らの所有していたポケモンだったのである。
(にしちゃあ、捕まったよなアイツ……モンスターボールに入れてなかったのか?)
というメグルの疑問はさておき、激怒したのはユイの方だった。
「……キレたわ。
ユイは目を見開き、シビルドンがその背後からぬるりと天狗の男たちに飛び掛かる。
這いずり回りながら、電気を帯びた腕を振り回し、そのまま殴りかかろうとするが──
「……邪魔をするなら、容赦はしない。行け、ダーテング」
【ダーテング(???の姿) からすてんぐポケモン タイプ:???/???】
──それを受け止めるようにして現れたのは、天狗の如きポケモン・ダーテング。
その顔は黒い仮面で覆われており、メグルの知る姿とは異なる。
そして、葉で出来た団扇のようになっていた両手は、鳥の羽毛のようになっている。
団扇はシビルドンの腕をいなすと、地面へと流す。
「ッ……! こいつ、強い……!?」
(なんか黒っぽいから悪タイプは残っているとして……飛行タイプが付いた……ッ!? ダメだ、一発でタイプが判別出来ない……!)
「何安心しろ。命を獲るわけじゃあない。我々は……おやしろを破壊するついでに、ヌシから少しだけ頂くのだ。
「オーラ……!? 何言ってんの、そんなよく分からないものにわざわざヌシ様達やおやしろを傷つける価値があるっていうの!?」
「ある!!」
天狗の男は断言した。
それと共に、シビルドンはダーテングに組み伏せられてしまう。
見るとシビルドンの身体が緩み、ぐったりしているのが分かった。”ねむりごな”を吸わされたのだ。
格闘戦で歯が立たないことを察したユイは、眠った相棒をボールに戻す。敵は──強い。
「──サイゴクの地に、サイゴクに住まう者に、サイゴクのポケモンに、仇名す理由が……我らにはある!!」
高らかに宣言する天狗の男の後ろでは、今もシャワーズに妙な石を翳している男たちの姿がある。
下手をすればシャワーズそのものに危害を加えられかねないと考えたメグルは、最早この状況で自分が出来ることは一つでも相手から情報を引き出すことだと察する。
「その理由は何だ?」
「……。……おやしろなどという下らぬものを破壊し、ヌシの力を全て我らの下に置く。それこそが、我らがサイゴクをひっくり返す第一歩よ」
(意図的に反らしたな、回答を……微妙に分からね)
「世界征服でもしようってのか? 今時古臭いと思うんだけどな」
メグルは前に進み出る。
「覚えておけ、少年。これは我らの悲願。征服などという温いものではないよ」
(……ンなもんお前達の匙加減だろ)
「それよりも──我々はそこの少年に用があるのだ」
「……俺?」
「……オージュエルは何処で手に入れた? オーパーツの製法は? 誰からオーライズの事を教わった?」
「いきなり知らねえ単語出すんじゃねえよ」
(オー……ジュエルって、あの宝石か? んで、それはともかくオーパーツとオーライズって──何の事だ? もしかして、さっきのイーブイに起こった変化?)
「……すっとぼけるつもりなら、実力行使だ。お前の持つオージュエルなど我らは山ほど持っているから興味も無いが……オーパーツとオージュエルの出所は知らんとな」
「ジュエルは拾った」
「通らん!! ……サイゴクには無い鉱石だぞ」
言った天狗は懐から団扇を取り出す。そこには「O」と印が刻まれた石が埋め込まれていた。
そして、ダーテングの腕には──稲光を放つたまが鎖で縛られている。
(俺の持ってる宝石と同じ──!?)
「──吐かぬなら、吐くまで嬲れば良いだけの話。……ダーテング、オーライズッ!!」
「O」の刻印が光り輝く。
それと共に、ダーテングを取り囲むようにして光の輪が現れ──ぎゅっと縛りつける。
そして、ダーテングの身体は黒い稲光を放ち、おやしろを明るく照らす。
【ダーテング(???の姿)<AR:サンダース> からすてんぐポケモン タイプ:電気/エスパー】
「ッ……変身した……!! シャワーズの時みたいに暴走したの!?」
「過剰にオーラを注げば暴走するだろう! だが、適量ならば……このように、ポケモンにオーラを纏わせることが出来る!!」
「まずい……今のあたし達に勝てる相手じゃない……!!」
「……ッ」
「──さあ吐け。吐かぬと、シャワーズ諸共全員黒焦げであるぞ」
はったりではない。
その稲光の恐ろしさは、ユイもメグルも熟知している。
先のシャワーズが纏っていたものと同質。ヌシのサンダースが持つそれと同じだ。
じりじりと近付くダーテングに、メグル達は何もすることが出来ない。
(かと言って、こいつらに変な古物商から貰ったって言ったって……信じて貰える風には見えないよなあ!?)
何より、あのアルカという少女に足が付くのがメグルには嫌だった。
彼女に危害が及ぶ可能性がある。
(……待てよ。そもそも何であの子、このオージュエルとかいう石を持ってたんだ……?)
「さあ、吐け。吐くのだ──」
(そんな事考えてる場合じゃねえ!! 命の危機!!)
イーブイは未だにへばっており、起き上がる気配なし。
手持ちを出そうとすれば、その瞬間に電気が二人を襲うだろう。
とにかく時間稼ぎをしよう、とメグルは口ばしる。
「……電気タイプの力が使えるなら、こんな回りくどいことをしなくても、それでシャワーズどうにか出来たんじゃ──」
「オーライズに関する実験も兼ねていたのだ。ヌシも弱らせ、おやしろも破壊出来、我らは危険な戦いをする必要が無い。一石三鳥だ」
「ッ……やっぱお前ら気に食わねえわ」
「遺言はそれか?」
キィィ、と音が鳴る。
ダーテング達が電撃を放つべく団扇をメグルに向ける。
万事休すと思われた──
「──寄って集らんと力も誇示出来んとは。さもしい連中よのう」
その時だった。
水を纏った何かが目の前を横切る。
怯んだダーテングは、すぐさま乱入者に飛び掛かるが、跳ね除けられてしまった。
打ち据えられ、地面に転がり、大きくダメージを受けたようだった。
「チッ……”カウンター”か……!! ……貴様、何者だ」
「何、ただの老いぼれキャプテンじゃよ」
メグル達は息を呑む。
そこには──病院に運ばれたはずのリュウグウが立っていた。
そして、ダーテングに襲い掛かったのはラグラージ。ぬまうおポケモンにして、ホウエン地方の最初のポケモン・ミズゴロウの最終進化系だ。
(水御三家はいっぱいいるけど……よりによってラグ!? リュウグウさんのポケモン、強いヤツしか居ねえ……!!)
メグルからしても対戦でも幾度となく使い、そして使われたポケモンだ。
水・地面タイプという構成は草タイプしか弱点が存在しない上に、火力、耐久、そして覚える技のレパートリーの全てが優秀な優等生だ。
そして同時に、種族値上では──御三家(各地方で最初に貰えるポケモン)の中では、最も数値が大きい。
つまり見方によれば、ラグラージを”水御三家最強”とするトレーナーは一定数存在する──とされている。
そんなポケモンを、ただでさえトレーナーとして貫禄のあるリュウグウが使っているのは、まさしく鬼に金棒であった。
「ひとつ問おう……なにゆえ、サイゴクに仇名す」
「答える義理は無い」
「ならば、こちらからも話すことは何も無い」
かつん、とおやしろのあった場所に杖の音が響いた。
「──ただちに去ね」
ぞくり、とメグルは背筋が凍る。
今まで聞いた事が無いほどにドスの効いたリュウグウの声だった。
まさに一触即発。此処で激戦が巻き起こると思われたその時。
「……シャワーズのオーラ、回収しました!!」
「──撤退だ。目的は全て果たした」
ひゅん、とひとっ跳びで彼らは木の上に登る。
天狗たちはダーテングを連れ、その場から消えていった。
リュウグウはそれを追撃する様子も無い。彼の身体を考えると無理もないのだが。
「逃げられた……結局、あいつらの好き放題にさせて……何も守れなかった……」
「んな事言ってる場合かよ! シャワーズは!?」
「……そうだった!」
見ると、杖を突きながらリュウグウがシャワーズに近付いている。思わずメグルは彼の肩を支えた。
とてもではないが、これ以上自力で歩けるようには見えなかった。
ユイは急いでシャワーズに近付くと、鞄から”げんきのかけら”と”かいふくのくすり”を取り出すのだった。
ぐったりしている。目は半開きで、意識は朦朧としているようだ。文字通りの瀕死状態で、今すぐ回復させないと命が危ない事が目に見えて分かった。
「リュウグウさん、この子の応急手当をするから──あなたはじっとしてて」
「うむ、頼む……」
「つーか、リュウグウさん、あんた病院に運ばれてたんじゃ……!?」
「……バカもん。娘の一大事に……どうして寝ていられるんじゃ」
「抜け出して来たんだな……」
──しばらくしただろうか。
意識も朦朧としていたシャワーズは目を開け、リュウグウに向かって申し訳なさそうに鳴くのだった。
しかし、リュウグウはすぐにそれを抱きしめる。
「ぷるるる……」
「おお、おお、よう頑張った……可愛い可愛い、ワシらのシャワーズ……」
「ぷるるるる……」
「お前が生きていてくれれば、それで良いわい……大丈夫、おやしろはまた建て直せばええ。何度でも何度でも、建て直せばええ……」
おやしろは壊れた。
そして、シャワーズのオーラも奪われた。
テング団を名乗る彼らに、メグル達は何一つ太刀打ちできなかった。
しかし──それでも、守れたものが一つあるとするならば、老キャプテンとその大事な一匹の尊い絆である。
「勝負は大負けも大負けだったけど……最悪の事態は避けられたと思うぜ」
「……悔しいけど、そうね」
空は──雨あがりのように晴れ渡り、虹がかかっていた。