ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第2話:壊れた絆

 ※※※

 

 

 

「いやー、メグルさんが100悪いッスね」

「平身低頭謝るべきでござろう」

「アルカに嫌われたら俺もう生きてけねえよう……うおおあああ……」

 

 

 

 スマホロトムの動画通話に映るのは、鉢巻を巻いた日焼け少年と、色白の金髪少女。

 メグルに対して舎弟のような口調で話すのは、サイゴク地方”よあけのおやしろ”キャプテンのノオト。

 かつてメグルと一緒に旅をした仲間であり、今もこうして度々連絡を取っている。

 そして、列島の人間には珍しい見た目とは裏腹に、古めかしい言葉を使う少女は”ひぐれのおやしろ”キャプテンのキリだ。

 メグルは先程の大ゲンカについて相談する──ついでに、件のデカヌチャンについて報告するべく、彼等に電話したのだ。

 本来は大ゲンカの方が”ついで”であるべきなのだが、それはさておき。

 

「そもそも、相手に相談もせずプレゼントを選ぶっていうのが童貞臭いっつーか……」

「う”ッ……」

 

 ノオトは、この手の話題に強い。

 女子との交際経験(もといフラれた経験)も多いからか、メグルにアドバイスをくれることも多い。

 

「ノオト殿は拙者と一緒に選んでくれたでござるな。……思い出すとこそばゆいでござるよ」

「またまたー、キリさん照れちゃって」

「う”ゥ……」

「アルカ殿の性格を考えるなら、記念日に一緒にいるのを最優先にすべきだったでござる」

「メグルさんは相も変わらず乙女心が分かってねーッスね……ぶっちゃけフラれても仕方ねーッスよ」

「わァ……ぁ……」

「泣いちゃった!!」

 

【特性:ライトメンタル】

 

「そうだよ!! 俺が悪い!! 俺が悪いんだよ!! 状況や運とかじゃなくて俺が全部悪いんだよ!!」

「分かってるならそれで良いッス」

「漸く理解が出来たでござるな」

「でもお前らもお前らで酷いんだな!! フォロー入れたりとかしてくれねえんだな!!」

「前にアルカ殿が言ってたでござる」

 

 

 

 ──ボク、誕生日ってものが分からないんだよね。自分が生まれた日とか……知らないんだ。

 

 ──だからさっ。今度の記念日、すっごく楽しみにしてるんだっ。ボク……誰かとおめでたい日を祝う経験ってあんまり無かったからさ。

 

 ──メグルと特別な日を過ごすの、すっごく楽しみっ!! えへへへっ……。

 

 

 

 それを聞いた途端にメグルは崩れ落ち、更に胸が抉られることになるのだった。

 アルカの出生は、とても孤独なものだった。酷い親戚に引き取られ、虐待を受ける毎日。

 そんな環境では誕生日など知る機会も無かっただろう。だからずっと楽しみにしていたのだ。メグルとの交際記念日を。

 

「俺はとんでもねえ大馬鹿野郎だ……ニンフィア、介錯は頼んだ」

「ふぃ!?」

「おいおいやめろやめろ、迷惑になるから今此処で死ぬのは止すッス!!」

「ポケモンに介錯させるのもやめるでござるよッ!!」

 

 何処からともなく”かしらのあかし”を取り出したメグルを必死でリボンを使って止めるニンフィア。

 キリキザンのドロップアイテムを自害に使おうとするんじゃない。

 

「アルカさんもカッとなっただけだと思うし……謝れば許してくれるッスよ」

「早まるのはやめるでござる……!!」

「本当かなぁ!? 許してくれるかなぁ!?」

 

(コイツ本当にアルカさんの事になると女々しくなるッスね……)

 

 と思ったが口には出さないノオトだった。えらい。

 

そんなことより、見た事のないリージョンフォームに遭遇したと言うのは、アルカ殿への言い訳ではござらんよな?」

「そんなこと!? しかも、俺まだ疑われてるの!?」

「当然でござろう、肝心のキスマークが消えてないでござるよ」

「これはムチュールにやられたんだってぇぇぇ……」

 

 そんな訳で、メグルはスマホロトムが撮影した昨日の一部始終のデータを送信する。

 信じ難い、と言う顔をしていた二人だったが──実際のデータを見ると信じるしかなくなってしまうのだった。

 

「ハンマーが燃えてるデカヌチャン……でござるか」

「目も口も燃えてるッス、てか火ィ噴いてるッス。顔なんてまるで、別物ッスよ。頭ン中炉心で出来てるんスかね?」

「しかも、変なペンダント付けてたからな。野生のポケモンじゃねえのはほぼ確実だ」

「……了解した。しかしサイゴクではなくパルデアに現れたというのが少々不可解でござるな」

「パルデアの方も、妙なポケモンの書かれたオカルト本が置いてあるみたいだ。でも、そいつらが生息しているらしいエリアゼロの情報についてはトップシークレット、不明だ」

「見た感じは無関係そうッスね……」

「ああ。万が一、サイゴクの方でもまた何かあったら言ってくれ」

 

 ノオトとキリは顔を見合わせる。

 数か月前に一度、ヒャッキのポケモンが雪崩れ込んできたことはあったからである。

 

「ヒャッキの連中が悪だくみしてる可能性はあるッスからね……」

「しかし理由が分からぬ」

「あのイデアが、別の所でもやらかしてた可能性があるんじゃねーッスか」

「それは……確かに」

「メグルさん。件のデカヌチャン、探せるなら探してくれねーッスか? 俺っちたちは、サイゴクだし……」

「ああ。出来るだけ探す。今度は逃がさねえよ」

「後、アルカさんともきっちり仲直りするッスよ!! これで終わりは、あの人も望んでね──」

 

 そこで通信は切れた。

 見ると、スマホロトムの充電はそこで切れていた。

 家を追い出されてしまった所為で、充電できなかったためである。

 

「あー……クソ。バッテリーねえんだよな、今……」

 

 メグルは大の字になって原っぱに横になる。そも、あのアパートは元々メグルが借りていたものだ。

 帰るに帰る事が出来ない。しかし──今のメグルには、アルカに合わせる顔が無かった。

 

(あいつは元居た世界ではひとりぼっちだった。親がいた俺とは違って、本当にひとりぼっちだったんだ)

 

 メグルは──目を閉じる。

 分かったつもりになっていた。アルカの抱えていた苦悩、不安。孤独への恐怖。

 記念日なのに置いてけぼりにされて、ずっと1人だった彼女は、どれだけ辛く、どれだけ悲しかったか。

 料理をテーブルに並べ、ずぅっと待ちぼうけしていた彼女は、どんな表情だっただろうか。

 

「……ニンフィア」

「ふぃー?」

「アルカのやつ、何て言ったら許してくれるかな」

「……ふぃ」

 

 メグルは唇を噛み締める。

 

 

 

「……あいつが許してくれても、俺……自分が許せねえよ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ばーか、ばーか、ばーか……」

 

 

 

 部屋の中でひとり。

 アルカは、潰れたケーキを食べていた。

 テーブルの上には、ケースから出された壊れた化石もあった。これではもう、復元しようがない。

 ぐずぐずに泣き腫れた顔をデカヌチャンが心配そうに覗き込む。

 アカデミーの授業は、休んでしまった。

 ずっと彼女は部屋の中で泣いている。

 

「昨日はふたりっきりで一緒に過ごして……今日は……一緒にデートしようって約束してたのに……」

「かぬ……」

「どーしよ。おにーさん、ボクの事、キライになっちゃったかな」

 

 ふふ、と自嘲気味に笑みをこぼす。

 メグルは──きっと、色んな女の子から好意を寄せられる。

 自分が居なくても、適当な相手を見繕う事が出来るだろう。

 ましてや、肌の色が違う上に、化石オタクな自分なんかよりも釣り合う相手がいる。

 だが──アルカにはメグルしか居ない。

 今更ヒャッキには帰れないこと。そして、一緒に居た期間が長く、自分を分かってくれたメグルしか考えられない。

 

「きゅい……?」

 

 ポン、と音を立ててボールから出てきたのは──カブトプス。

 一番最初からアルカの旅を支えてきた相棒だ。

 

「カブトプス……ボク、どーしたらいいんだろ……」

「きゅい……」

 

 虚ろな顔でスマホロトムの画面をスワイプさせていく。

 流れていくのは、二人で撮った写真の数々。

 一緒に居た思い出がよみがえってくる。

 

 

 ──こんな時に外に出たら俺達まとめて氷像だぞ!?

 

 ──助けに来たッ!! ほんっと無茶ばっかしやがって!!

 

 ──結局、お前が大事にした分だけ、全部返ってきてんだよ。皆、お前が大好きなんだ。

 

 ──なあ、アルカ! 見てみろよ、でっかいホエルオーだ!!

 

 

 

「うじうじ悩んでても仕方ない」

 

 スマホロトムの画面を閉じ、アルカは立ち上がる。

 どんなに怒っていても、悲しくても、1つだけ本当の事があるならば──自分はメグルが好きだということだ。

 

「……もっと話をちゃんと聞いておけばよかったな」

 

 一緒に居たニンフィアの姿を思い出す。

 毛並みはボサボサで焼け焦げていた。何処かで戦闘をしたのは目に見えていた。

 

(……もしおにーさんが言ってたことが全部ほんとだったら、酷いのはボクの方だ)

 

「探しに、いこっかな……」

 

 

 

「──探しに行く必要など無い」

 

 

 

 ふと、声が部屋の中に響いた。

 デカヌチャンはハンマーを構え、カブトプスは鎌を振り上げる。

 見慣れぬ男が──立っていた。

 魔術師のようなローブを身に纏っており、顔はローブを被っているからか窺い知れない。

 

「だ、だれ……!?」

「おや、可哀想に。()()()()()の骸か」

 

 ふぅ、と男がサニーゴの化石に目を向ける。そして、手を翳すと──それは元通りの真っ白な白い骸へと戻ってしまうのだった。

 更に──ぼうっ、と音を立てて化石に開いた穴に鬼火が灯る。

 

「……ぷきゅー?」

「ッ……生き返った!? いや、これは──」

 

 アルカは思わず抱きかかえる。

 ガラル地方の海や砂浜では、時折、打ち上げられたサニーゴの骸が動き出すことがある、と。

 それこそが古のガラルの海の環境変化で滅んだ、サニーゴの怨霊──即ちリージョンフォームなのだと。

 

「ぷきゅー」

 

【サニーゴ(ガラルのすがた) さんごポケモン タイプ:ゴースト】

 

 困ったような顔でアルカを見上げるサニーゴ。

 本人も何が何だか分かっていない、と言わんばかりだ。

 

「すごい、何をしたの?」

「トリックではない。マジックだ。これは只の余興だがね?」

「……あのさ、サニーゴを元に戻してくれたのは感謝するよ。でもここはボクの……カレシの部屋なんだけど」

「おや失礼。だがね……直にそんな男の事はどうでもよくなる」

「……ッ」

 

 男の背後に──黒い靄が見えた。

 それを見て、アルカは本能的にそれが関わってはいけないものだ、と察する。

 何かのポケモンがそこに潜んでいる。

 

「逃げるよ皆ッ!!」

「かぬっ!?」

「キュルルル!」

 

 どの道部屋の中では戦闘出来ない。

 背を向けてアルカは玄関から外へ飛び出した。サニーゴを──抱きかかえたまま。

 

「……逃げるか。逃げられなどしないのに」

 

 男は──口角を上げ、彼女を追いかけることすらしなかった。

 それが却って不気味だった。

 部屋を飛び出し、町中に出たアルカは辺りを見回す。

 さっきの男の姿が見えない。

 

「何なの、何なのアイツっ……!! 一体、何者……!?」

「ぷきゅー……」

 

 サニーゴが足をうにうに動かしながら泣きそうな顔でアルカを見つめる。当ポケからすれば、目覚めてすぐによく分からない喧騒に巻き込まれたも同然だった。

 

「ああ、ゴメン!! 君をいきなり巻き込んじゃって!! 大丈夫、君はボクが守──」

 

 

 

「かぬぬがががががんッ!!」

 

 

 

 空から──何かが降り落ちる音。

 そして、デカヌチャンはすぐさまそれを迎撃すべくハンマーを振り払う。

 鈍重な金属の音が、その場に響き渡った。

 同時に、火の粉が辺りに降りかかる。

 

「ッ……な、なにっ……!?」

「かぬ──!?」

「かぬぬがががん!!」

 

 デカヌチャンは吹き飛ばされるが、何とかハンマーを碇のように地面に突きたてて態勢を立て直す。

 そして襲い掛かって来た何者かを見て、アルカは目を見開いた。 

 下手人もまた──デカヌチャンだ。ただし、口や目からは炎が湧き上がっており、ハンマーもまた、炎に包まれている。

 肌の色はピンクというよりも、朱色に近く、頭部の髪は焼け焦げたように黒く、鉄鉱石のようなものが埋まっている。

 

「デカヌチャン……!? だけど、炎タイプ……!?」

「かぬぬ!?」

「かぬぬがん……!!」

 

 ──実は変なデカヌチャンにいきなり出会って──

 

「……おにーさんの言ったこと、本当だった……!!」

 

 さぁっ、とアルカの顔が更に蒼褪めていく。

 だとすれば、彼の言った事も全部言い訳ではなく本当なのではないか、と確信を帯びていく。

 だが、もう悔やんでも遅かった。敵のデカヌチャンはハンマーに炎を噴きかけると、再び襲い掛かってくる。

 

「やめてっ!! 何で来るの!?」

「かぬぬがんッ!!」

「ッ……デカヌチャン、”デカハンマー”!!」

「かぬぬッ!!」

 

 力いっぱい、ありったけを込めた”デカハンマー”をぶつけるデカヌチャン。

 しかし、炎を噴きつけた”ヒートハンマー”の勢いに押され──そのまま吹き飛ばされてしまう。

 周囲の人々やポケモンは突如勃発した戦闘を前にして次々に逃げ出していくのが見えた。

 

(マズい、騒ぎになってる……!! さっさと終わらせなきゃ!!)

 

「ッ……タイプ相性が悪い……!! 戻ってデカヌチャン!!」

「かぬぬ……」

「君に任せるっ!! カブトプス!!」

「キュルルルルーッ!!」

 

 即座にデカヌチャンを引っ込めて、カブトプスに交代させる。

 相手が炎タイプならば、デカヌチャンに対して優位が取れるのは岩と水タイプを併せ持つカブトプスだ。

 

「”ストーンエッジ”ッ!!」

 

 地面を叩けば、一気に岩の刃が現れデカヌチャン目掛けて飛んで行く。

 しかし、それらをデカヌチャンは全てハンマーで受け止めて耐え凌いでしまう。

 

「うっそ!?」

「おいおい、もしかして、あーしのデカヌチャンが、このくらいで打ち負けるって思ってたのかい?」

「……!」

 

 建物の屋根から女の声が聞こえてきた。

 すらりとした盗賊のような容貌の女だった。

 しかし、飛び降りてきた彼女もまた、大きな槌を持っており、顔には火傷をしたような痕がある。

 

「君のポケモンなの……!? やめてよ!! こんな町中で!」

「生憎、うちのボスからの命令でね。あんたを連れていけってさ。力づくでもねッ!!」

「ッ……大人しく連れていかれると思う!?」

「──いいや、是が非でも連れていく」

 

 更に怯んだカブトプスの足元が突如、音を立てて凍り付き始める。

 

 

 

【──フリーズドライ!!】

 

 

 

 水タイプの分子を一気に凍らせる極低温の冷気。

 カブトプスは一瞬で氷の像と化してしまった。

 

「……カブトプス!? 凍っちゃったの!? ねえ!?」

「おおう、追いついたかい()()、流石に早いねえ」

「足止めご苦労だ、()()()()()。さあて──逃げるのは諦め給え」

「うぐ……!」

 

 さっきのローブ姿の男の声が聞こえてきた。

 その男の影から──幾つもの首を持つ不気味な影の姿が見えた。

 

「戻って、カブトプス!!」

「……それで、私からはどう逃れるつもりだ?」

「ッ……!!」

 

 目の前に現れた男を前にして、アルカはもう抵抗が出来なかった。

 

 

 

「これ以上被害を拡大させたくないなら……私達のところに来て貰おう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「何だ、騒ぎが起こってる……!?」

 

 

 

 人々が逃げ出すのを見て、メグルはその方へ走っていく。

 昨日のデカヌチャンがまた出てきたのかもしれない、と考える。

 暴れて被害を出しているならば見過ごすことは出来ない。アルカの事も気掛かりだが、ポケモンも重要だ。

 すぐさまニンフィアと共に広場に駆け付けると──メグルは足を止めた。

 見慣れぬローブ姿の男と、アルカが一緒にいる。その傍には、昨日見かけたあのデカヌチャンの姿もあった。

 

「ッ……アルカ!? アルカッ!!」

 

 思わず声をかける。

 ローブの男は──ちらり、と彼の方を見ると笑みを浮かべた。

 

「……おいアルカよ。言ってみろ、誓いの言葉を」

「……ハイ……誓います……ボクは……()()()()()()の、ものです……」

「アルカ……!? おいお前!! アルカに何をしたんだ!?」

「コイツはもう、私のものだ」

 

 アルカは此方を見もしなかった。

 そのまま、ローブ姿の男とアルカの前には空間が裂けて──ふたりは並び、その中へと入っていく。

 追いかけようとしたメグルだったが、それを阻むものが居た。

 

 

 

「……ミネルヴァ。そいつを叩きのめせ」

「あいさァ──こっから先は行かさないよ。行きなデカヌチャン!!」

 

 

 

 炎の槌がメグルの前に叩きつけられる。

 後ずさった彼は、すぐさまボールを投げた。

 

「退きやがれッ!! 押し潰すんだ、ヘイラッシャ!!」

 

 すぐさま巨体が空中に投げ出され、そのままデカヌチャンを押し潰す。

 しかし、流石の怪力なのか、押しのけられてしまうのだった。

 そうこうしているうちに、アルカと男は裂け目の中へと消えていき──そして、裂け目も綺麗に閉じてしまうのだった。

 

「アルカ──ッ!?」

「はっ、余所見して勝てる相手じゃないよ、あーしはねッ!!」

 

 ヘイラッシャ目掛けてデカヌチャンが跳ぶ。

 迎え撃つヘイラッシャは咆哮すると──そのまま体全部でデカヌチャンにぶつかっていくのだった。

 

「”ヒートハンマー”ッ!!」

 

(アルカが……アルカが、知らねえ男についていっちまった……!!)

 

 優位な相手なはずなのに、ヘイラッシャはデカヌチャンの攻撃を受けきるので精一杯だった。

 肝心のトレーナーであるメグルが動揺を隠しきれていないからだ。

 更に、ヘイラッシャの弱点である特殊防御力の脆さを突くかのように、デカヌチャンは炎を噴きかけて応戦していく。

 

「おらおらぁ!! どうしたぁ!! その程度かい!?」

「……ッ」

「そっちが来ないなら、仕掛けさせてもらうよッ!! このミネルヴァの隠し技……とんと味わいな!!」

 

 そう言うと、ミネルヴァは自らの大槌に嵌めこまれている宝石に自らの手を翳す。

 

 

 

「──オーライズ”サンダース”ッ!!」

「んなッ……!?」

 

 

 

 メグルは目を丸くする。

 その技術が使えるのはヒャッキから来た人間、あるいは──それをアルカから貰った自分だけ。

 デカヌチャンの首にかけられたペンダントが分解され、オーラの鎧となって纏わりついていく。

 周囲を黒い稲光が焼き焦がしていく。

 

【デカヌチャン<AR:サンダース”サイゴク”> タイプ:電気/エスパー】

 

「や、ヤバイ……オーライズ、だと……!?」

「おらぁ、どうしたぁ、それじゃあ潰し甲斐が無いねぇッ!!」

 

 稲光をハンマーに宿らせたデカヌチャンがヘイラッシャを叩く、叩く、叩く。

 その度に黒い稲光が迸り、ヘイラッシャが悲鳴を上げるのが見えた。

 

「ら、らっしゃ、せ……!!」

「ヘイラッシャ!!」

「……オオワザ、行くよデカヌチャンッ!!」

「かぬぬがん!!」

 

 ヘイラッシャに向けて掌を翳すデカヌチャン。そこから黒い稲光が束になって集まり──電磁砲のようにして放たれる。

 

 

 

【デカヌチャンの ホノイカヅチ!!】

 

 

 

 ヘイラッシャどころか、メグルをも巻き込む勢いで放たれた黒雷の束。

 地面を抉りながら、それは迫る。

 

(アルカ……俺、お前に……喜んでほしくって──)

 

 思わず目を瞑る。

 避けられない。避けられるはずもない。

 受け切れる訳も無い。雷の束が二人を飲みこもうとした、その時だった──

 

 

 

 ──ズドガァァァンッ!!

 

 

 

 ──割り込むようにして、何かが落ちた。

 メグルは思わず前を向く。

 紫電は全て、何処かへと消え失せており、そして──目の前には何かが立っていた。

 

「危ない……特性を”ちくでん”のままにしてて良かったよ」

「ぱもーぱもぱも」

「いきなり何だいッ!! 良い所だったのに邪魔してからにッ!!」

 

 マントを翻し、頭には王冠を被った電気ネズミ。

 そしてその傍らには、髪を一本結びにした童顔の少年が立っていた。

 

 

 

「只のバトルじゃないよね……悪いけど、これ以上は見過ごせない」

「ぱもーぱもぱもっ!!」

「此処からは僕とパモ様が相手だ」

 

 

 

【パーモット てあてポケモン タイプ:電気/格闘】

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