ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「お前は──」
「──お久しぶりですね。またパルデアで会うなんて」
「……誰だっけ?」
ずっこけそうになる少年。
「覚えてないんですかァ!? 僕ですよ僕!! 時空の裂け目から出てきたぁ!!」
「いやー……ほら、この世界って割とそう言う事多いからさ、よーく覚えてなくって。後、新手の詐欺かもしれねえし」
「僕僕詐欺じゃないんですよ!!」
「いや、ちょっと待て……思い出した。あのヘンなサンドパン追っかけてきたお前か!! いやー、見ないうちにデカくなったな、男子三日会わざれば刮目して見よってか」
「ぱもぉ」
「何で僕じゃなくてパモ様の方を見るんですかすっごく不服なんですけど」
──数か月ほど前。
メグルは、テーブルシティで時空の裂け目から現れた少年と出会った。
彼はパモを連れており、メグル達が見た事のない仕組みでオーライズを行っているのだった。
そんなパモは今となっては立派なパーモットになっており、少年も心なしかあの時よりも大人びているように見える。
しかし、女顔は相変わらずなので──
「何だい
「あの僕、男なんですけど……」
「えーと……ああ、やっぱり男か」
「男なんですけど!?」
──こうして性別は間違えられるわけで。
「クックッ、なかなか可愛い顔してるじゃないか、アンタ。あーしのハーレムに入らないかい? あんたなら女に混じっても大丈夫だろ」
「だから男なんですが!? ……いや、もういいや」
「大変だなお前も……」
「憐れみの目を向けないで下さい!?」
訂正するのも女扱いされるのも慣れているが、それでも屈辱的なのだろう。メグルは、この少年に心底同情するのだった。
閑話休題。
「えーと、で……確かお前は──
少年──イクサは不機嫌さを押し隠し、目の前の敵に改めて向かい合う。
「話は後です。先ずはあのデカヌチャンをどうにかしなきゃ」
「……助かるぜ。だけどアイツ、オーライズしてタイプが変わってる」
「あの黒い稲光、サイゴクのサンダースの特徴ですよね?」
「よく分かったな」
「だとすればエスパータイプ、何とか弱点が突けるかもしれません」
「一応ヘイラッシャも弱点を突けるっちゃ突けるが、”じしん”は全体攻撃だ、パーモットを巻き込んじまう」
「なら合わせて下さい。僕が隙を作ります」
「それなら任せたッ!!」
パーモットは飛び出し、電光を両手に纏わせながらデカヌチャンに肉薄する。
電気技は通じない、と判断したミネルヴァは忌々しそうにパーモットを睨んだ。
何、難しい事は何も無い。電気が通じないならば本来得意な炎技に切り替えれば良いだけの話だ
「作戦会議は終わったかいッ!! デカヌチャン、”ヒートハンマー”!!」
「ッ……炎技が主力か!!」
炎を噴きかけたハンマーを棒きれでも振るうかのように軽々と振り回し、パーモットにしつこく攻撃を仕掛けるデカヌチャン。
だが、軽い足取りでパーモットはハンマーを躱し、デカヌチャンにジャブを決め続ける。
大振りなハンマーによる攻撃は当たらないが、パーモットの素早く、そして確実な”かみなりパンチ”は的確に敵を捉えている。
(な、なんだこのパーモット……!! とんでもない身のこなしだ、ノオトの所の個体と遜色ねえぞ……!?)
メグルもまた、その戦いっぷりに息を呑むしかない。
イクサとパーモットの実力は、確実にキャプテン達に迫る勢いだ、と確信する。
「クソッ、小癪な!! ”かえんほうしゃ”!!」
「避けられるよね」
当然と言わんばかりにパーモットは側転して”かえんほうしゃ”を回避。そして、勢いを付けながらハンマーを持つ手を蹴って得物を手放させ、顔面に強烈な拳を見舞う。
この戦い、完全にイクサ達が優位に立っている。
「……ッ!! やるねェ!! だけど、これならどうだいッ! デカヌチャン、とっておきを見せてやりな!!」
得物を拾いあげたデカヌチャンは一度距離を取ると、再びハンマーに炎を噴きかける。
そして、そのまま勢いよく自分を軸にして回転し始めるのだった。
まさにそれは燃える独楽も同然。更に、余程体幹と三半規管が強いのか、そのままジグザグと軌道を変えながらパーモットを追い詰める。
しかしイクサは顔色を変えることなく右手首の宝石にカードを翳した。
駆けるパーモットの身体にオーラが纏わりついていく。
「オーライズ”ソウブレイズ”ッ!!」
【パーモット<AR:ソウブレイズ”オシアス”> タイプ:鋼/ゴースト】
それはメグルの知るヒャッキ地方のものとは根本的にシステムが異なるオーライズ。
カードに記録されたポケモンのオーラを、オージュエルで拡散、そして身に纏わせるというものだ。
その両腕には宝石の剣が顕現し、頭部には甲冑のようなオーラが装着されるのだった。
ソウブレイズ自体はメグルもよく知るポケモンだ。しかし、その纏うオーラの雰囲気は彼の知るそれよりもいっそう禍々しく見える。
更に、鮮やかな宝石がパーモットの周囲に浮かんでおり、これもまたメグルの知るソウブレイズとは結び付かない。
「もう遅い!! 射程圏内に入っているッ!!」
「──受け止めて」
突っ込んできたデカヌチャンを、パーモットは片手で受け止めてみせた。
回転する炎の独楽など何のその。
燃え盛る火炎は、パーモットの掌に吸い込まれていく。
ソウブレイズの特性は”もらいび”。炎は全て宝石の魔力へと変換されてしまうのだ。
「こいつ、今度は炎を──だが、同時に電気への耐性も消えたということだねえッ!! ”でんじは”ッ!!」
全身からバチバチと稲光を発し、そのまま地面に手を突くデカヌチャン。
しかし、イクサは完全に据わった目で一言。
「読めてる。──”ゴーストダイブ”だ」
標的は一瞬でデカヌチャンの視界から消えた。
電磁パルスは放たれるが、空振りに終わる。
「何処だ!? 何処に隠れたんだい──」
「──ヘイラッシャ、”じしん”で揺さぶれッ!!」
「らっしゃーせぇぇぇッ!!」
ずどん、とヘイラッシャが大きくのたうち回る。
振動波が襲い掛かると共にミネルヴァは目を見開いた。
パーモットに気を取られていたことで、後ろに控えていたヘイラッシャに気付かなかった。
「デカヌチャン、ハンマーで地面を叩いて空へ逃げなッ!!」
「逃がさない、パモ様ッ!!」
揺らぎ始める地面。
空へ跳び上がるデカヌチャン。
しかし──そうして地面の揺れから逃れた彼女の真上に、ゴーストダイブを解除したパーモットが現れた。
霊気の剣がデカヌチャンを脳天から叩きつけ、そのまま揺らぐ地面へと堕とす。
そこは揺らぎ続ける地面。効果は勿論バツグンだ。
ゴロゴロと転がったデカヌチャンの身体からは、オーラが消え失せてしまうのだった。
「……っと、勝負あったかな」
(すげえ……何て奴だ)
メグルは感嘆するしかなかった。
前に出会った時とは比べ物にならない程に、オーライズを生かした戦い方が洗練されている。
相手の技を見てから後出しでオーライズを行い、その特性を利用して相手の攻撃を無効化、更に技の後隙に技を叩き込むという無駄のない行動。
パーモットだけではない。指示を出しているイクサの判断力も、凄まじいものだ。
明らかに自分よりも年下にも関わらず、その才能と実力は既に自分を超えている、とメグルは確信する。
(こいつ、こんなに強かったのか……!!)
デカヌチャンは起き上がろうとするが、もう戦えるような状態ではない。
それを見てミネルヴァも歯噛みする。今のイクサを相手にするには少々心もとない。
「やるねぇアンタ!! 可愛い顔って言ったのを取り消すよ。立派な戦士じゃないか」
「……どーも。それより貴方達は何者なのかな」
「悪いがそいつを言ったらお終いさね。これ以上、ボスを待たせるのもアレだし……此処はズラかるか」
「待ちやがれッ!! アルカを何処に連れていった!!」
「ハッ、あの娘はもう戻って来ないよ!! 諦めるこった!!」
そう言い残すと、ミネルヴァは背後に裂けた空間を広げる。
メグルは思わず駆け出し、そこに手を伸ばそうとするが──ミネルヴァはそのまま背中から倒れ込み、空間の中へ。
亀裂はそのまま消えてしまうのだった。
「ッ……クソ!! アルカ……!! アルカーッ!!」
叫び声がテーブルシティに虚しく響く。
「おいイクサ!! お前、何かあいつらについて知らないか!?」
「そ、それが僕もまだ全然何が起こってるのか把握してなくって……」
「だよな……そんな気がしたぜ……」
彼は崩れ落ちる。
アルカを探す手立ては──今の所、存在しない。
「……メグルさん。アルカさんを取り戻す手立てを探しましょう」
「協力してくれるのか? 素性も知らない俺を? 悪いけどお前、とんでもねえことに巻き込まれるぞ」
「慣れてますから」
「……どうなっても知らねーぞ」
イクサに引っ張り上げて貰い、メグルは──立ち上がる。
「……メグルだ。改めてよろしくな」
「イクサです。今度はちゃんと、覚えて下さいね」
「分かってる」
※※※
フーパの作り出した金の輪以外で異界に通じる扉を見るのは、イクサにとって久しぶりだった。
以前は、技術部の作ったサンドパン型重機を追いかけている最中に、突発的に出来た裂け目に飲み込まれてしまい、メグルの居たパルデアにやってきてしまったが、早期に帰ることで事無きを得た。
しかし──今回の異界旅行は前回のそれとは、大きく事情が異なっていた。
ともあれ、イクサとしては是が非でもメグルと情報交換がしたかったし、メグルもまた同じだ。
そんなわけでメグルは自分のアパートにイクサを招待することにするのだった。
「うっげ、なんだこれ……」
「あー……ぐちゃぐちゃだな」
部屋は何かが暴れたように散らかっていた。実際デカヌチャンが暴れたのは確かなのだが、テーブルの上は崩れたケーキや料理が散乱している。
「アルカさん、この部屋に居たんですよね? 抵抗したんでしょうか」
「イ、イヤー……色々アリマシテ」
「?」
「取り合えず、片付くまで待っててくれ」
「手伝いますよ」
「良いよ、年下に手伝わせられねえ」
崩れたケーキを片付けながら──メグルは目を伏せる。
もし今頃全部上手くいっていたらどうなっていただろう、と考える。
記念日に二人でささやかに祝って、次の日はアルカの授業終わりにデートに行って──そんな幸せは、簡単に呆気なく打ち砕かれてしまった。
その姿を見ながらイクサも、何かを祝おうとしていたが──それが上手くいかなかったのではないか、と察するのだった。
崩れたケーキ。本当は、二人で一緒に分け合いながら食べるはずだったものを、ゴミ袋に入れるメグルの顔は沈んでいた。
「……メグルさん。僕で良かったら……話、聞きます」
「お前、良い奴だな。だけど、良いんだ。俺が──全部悪い。あいつを守るって言ったのに、肝心な時に傍に居なかった。だから今回もこうなった」
「そんな……! アルカさんを攫ったあいつらが悪いんじゃないですか」
「ケンカしたんだ。記念日なのに帰って来れなかった」
「……ッ」
「だから俺が悪いんだ。それでこの話はお終いだ」
メグルは机の上を一通り片付けると椅子に腰かけた。
目の前には──神妙な顔のイクサが座る。
嫌な気分にさせてしまったな、と後悔したメグルは──雑談から始めた。
「なあ、イクサ。お前の居た世界はどんなところだったんだ?」
「……メグルさんは、マルチバース理論って分かりますよね」
「ああ。オタクなら必修科目だろ」
「僕が元居た世界とこの世界、同じポケモンが住んでいる世界でも大分違うみたいです」
マルチバース。多元宇宙理論。
宇宙は無数に並列して広がっており、それぞれが別々の世界として展開されている、というものだ。
ポケットモンスターもまた、このマルチバースの設定を取り入れており、別の世界からやってきた登場人物が劇中にも登場する。
「辿った歴史も、住んでいる人も、ポケモンも──違うんです。そう言う世界です」
「……分かるぜ。俺やアルカも元々、そういう違う世界からやってきたんだ」
「メグルさんも、この世界出身じゃないんですか?」
「お前らからしたら信じられないかもしれねーけど、俺はポケモンが居ない世界からこの世界に流れ込んできたんだ。色々あってな」
「……奇遇ですね。実は僕も似たようなものなんです。ポケモンの居ない世界からポケモンの居る世界に」
「何だって?」
メグルとイクサは──ふと見つめ合う。先手を打ったのはメグルだった。
「……108─130─95─80─85─102」
「ガブリアス。じゃあ100─100─90─150─140─90」
「カイオーガだろ楽勝だ。そんじゃズキュントスが何の略称かを答えろ」
「ドリュウズミミッキュカビゴンドラパルトトゲキッス。では……剣盾禁伝2匹環境の、ザシアンのお供」
「世間はオーガ推しだが俺は敢えてのディアルガを推すぜ、初手ダイマでぐちゃぐちゃに出来る」
「僕はホウオウですね、オーガは耐久に振ったザシアンとゴリラで見ます。……一番強いと思うカイリューのテラスタイプと型」
「ゴメン、俺SV買う前に転移したからSVできてない」
ついでに出身の世界も滅んでいるのだが場の空気が終わりそうなので黙ることにしたメグルだった。
「あっ……僕は一応SVはやってて」
「気にするな……楽しかったか? SVは」
「マルスケデブがアンコール覚えた以外は楽しかったです」
「は? 何考えてんだゲー〇リ、ぶっ壊れるだろ環境……もしかしてマルスケデブってトップメタか?」
「マルスケデブはSVに於いてずっとトップメタです」
「ノマテラ神速か?」
「フェアテラ渦アンコもあります、鋼テラススケショも」
「終わってるな、カイリューの安定した対策は?」
「ありません」
「無いかー……いつものポケモンだな」
ガシッ、と二人は固く固く手を結ぶ。
「どうやら俺達……互いにポケモン廃人だったみてーだな」
「まさかこんなところで出会えるとは! ところで新ポケのデータって要ります? 僕大体種族値と覚える技暗記してるんですけど」
「助かる。だけどそれは後だ」
互いに打ち解けたところで──メグルは真面目に切り出す。
「イクサ。何でお前は此処に来たんだ?」
「それは──」
イクサは頭をポリポリと掻くと言った。
「……僕にもよく分からないんですよ」
※※※
──同時刻、同世界線、サイゴク地方・イッコンタウン近辺の岩山。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」
少年は駆ける、駆ける、駆ける。
山道の中を当てもなく。
しかし、それを追い立てるかのように──不気味な呪文が反響し、辺りからはキノコが急速に生えて少年の行く手を阻む。
そうでなくとも、岩山は険しく、駆けあがるだけでも精一杯だ。
「偉いね……だけど、追いかけっこはもう終わりなんだよねェ……!!」
「ッ!!」
少年の目の前には──彼の身の丈以上はあろうかという巨大なキノコの怪物が聳え立っていた。
目と口は空洞のようにポッカリと空いており、そこからは常に呪いの文言が唱えられ、辺りをキノコで囲っている。
「ッ……!!」
「悪いねェ……逃げたネズミは追えってお達しでね……いや、ネズミじゃなくて──
キノコの怪物の傘の上には、長身の男が煙管を吸いながら胡坐を掻いていた。
肌の色は褐色で、耳は尖っている。異国風の服装にターバンを巻いた男は余裕そうに少年を見下ろすと叫んだ。
「んふふふ……キツネちゃん、もう逃げられないねェェェーッ!!」
「くぅ……!!」
「──ドラパルト。”ドラゴンアロー”なのですよ」
次の瞬間だった。
キノコの怪物の身体を狙い撃つ霊魂の塊。
それらはぶつかるなり、空中に浮かぶ幽竜へと戻っていく。
「おやおやぁ? 誰だね? おじさんの楽しみをツブす悪い子は……」
男の視線の先には、その幽竜を従える少女の姿があった。
巫女装束を身に纏い、朗らかな笑みを浮かべた彼女は──明確な殺意を込めて、言い放つ。
「あらら困るのですよ。此処は神聖なる岩山、狼藉は……万死に値するのですよー♪」