ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ヒャッキ地方? ……って何なのかしら」
「所謂”異世界”なのですよ。ちょっと前まで、このサイゴク地方とヒャッキ地方は戦争状態だったのです」
──ヒャッキ地方は、この無数に広がるマルチバースの中でも戦乱が続く過酷な世界──の一角に座すいち地域である。
この地方は、瘴気によって人間の居住圏が限られており、「テングの国」「キュウビの国」「オニの国」の三国が領地を巡って熾烈な争いを続けていた。
その原因となったのは、瘴気を祓うルギアがサイゴク地方に連れ出されたことが原因である。そして、ルギアを取り戻すべく「テングの国」の「テング団」はサイゴク地方に戦争を仕掛けていた。
紆余曲折あってメグル達はテング団を退け、更にかつてテングの国からルギアを持ち去った諸悪の元凶を叩きのめしたことで、ルギアはヒャッキ地方に戻り──安寧が取り戻されていた。
色々端折ったが、概ねそのような説明をヒメノはレモンに説く。
「成程。
「レモン様も別の世界から来たのです?」
「ええ、裂け目を通って此処に来たのよ。でも私の居た世界でもマルチバースだとかパラレルワールドだとかで色々事件があったから、もう慣れてるわ」
(……こんなトンデモビックリ現象をよくあることみたいに言わないでほしいのですよ……)
既に頭がこんがらがりそうなのに、更に複雑怪奇極まるとはこの事である。しかも、そのことをレモンはすっかり当たり前のように受け入れてしまっているようだった。
「私の知ってるサイゴク地方では、少なくともヒャッキに関わる事件が起こったってデータや情報は無いわ。この世界線独自の出来事と見て良いわね」
「何でそんなに物分かりが良いのです……?」
これでもレモンは文武両道、アカデミアでも主席クラスの頭脳の持ち主である。
「あのー、それでオイラ達の話をして良いか?」
「どうぞ」
「ヒャッキは今、三国が停戦協定を結んでる。テングの国は、いきなり軍隊を引き揚げて撤退し始めたんだ」
「でも、それじゃあ納得がいかない人たちが多いんじゃないかしら」
「居る。だけど、ヒャッキを覆っていた瘴気が晴れて……ヒャッキの環境は大きく変わった。皆、戦争をやめたんだ。それくらい、民も軍も疲弊し切ってた」
結果、三国の代表によって停戦及び和平の協定が為されることになったのである。
決して平たんな道のりではなかったらしく、未だに戦争を続行せよ、と言う声もあるらしいが、一先ず戦乱は幕を閉じた──はずであった。
「……そんな中、海の先から黒い船に乗って……あいつらは現れたんだ」
「あいつら?」
「
「大悪党……って事は、悪名がそれなりに知られてるのね」
「ああ。モンスターを従えた魔法使いの一味さ。あいつらは、戦争で疲弊したヒャッキを狙って攻め込んできたんだ」
結果。
戦争で戦力が摩耗していた三国は、クロウリー旅団相手に後れを取ることになり、領地を次々に占領されていくことになった。
「あいつらが来てから、ヒャッキのあちこちで時空の裂け目が開いてるし……戦闘は毎日のように起こるし、悪いことだらけだ! 折角戦争が終わったのに……!」
人々は追い立てられ、海の先にある魔法やポケモンを操り戦う彼らに恐怖している。
特にテングの国は、主戦力たるタマズサとアルネが死んだことにより、ワンマンアーミーだったことが露呈。早々に瓦解してしまったという。
更に、悪い事は続く。
「オマケに、テングの国の使ってたオーライズ……モンスターに別のモンスターのオーラを纏わせる技術が、クロウリー達に奪われちまったんだ……!」
「ちょっと待ちなさい。あんた達、当たり前のようにオーライズオーライズって言ってるけど……ヒャッキにもオーライズがあるのね?」
レモンは話を聞いて混乱してくる。
そもそも彼女の居たオシアス地方のオーライズと、ヒャッキ地方のオーライズは似ているようで厳密には異なるものなのである。
オシアス地方の文明をかつて危機に追いやったポケモン・オーラギアス。それがばら撒いた記憶粒子・オシアス磁気を用いて、ポケモンのオーラを纏わせるのがレモンの知るオーライズだ。
「……さっきのオッサンが使ってたのがヒャッキ地方のオーライズなのよね?」
「はいなのですよ。かつてヒメノ達も、テング団のオーライズを前に大苦戦させられたのですよ」
(オシアス磁気の類は、感じ取れなかった。きっと、別の方法でポケモンのオーラを保存しているのね)
見たのは短い間ではあったが、レモンは自らが知るオーライズとワスレナが使っていたそれは仕組み上異なるものだ、と判断する。
似てはいるが、違う技術で生み出されたものだ。その結果、出力されたものが同じに見えるだけなのである。
(ま、オーライズの話は置いておきましょう、長くなるわ)
「オーライズまで使われて、戦線はボロボロだ……オイラ達だけじゃクロウリーに勝てない。だから、助けを求めに来たんだ」
ムギは──ぎゅっ、と袴を握り締めた。
「オイラ達キュウビの国も、あいつらに攻められてて……大変なことになってる!! 巫女だとか何だって言って娘たちを次々に連れ去ってる!! でもっ、オイラ達だけじゃどうにもならない! そこで、テング団のイヌハギが言ってたんだ……!!」
──かつて。我らを退けた”サイゴク”の地の勇ましき”ぽけもんとれーなー”達。奴らなら……この状況を打開できるやもしれん。
「イヌハギ──三羽烏の」
「知ってるの?」
「かつてサイゴクに攻め込んだ”テング団”を率いていたリーダー格なのですよ。当時は三羽烏、でも二羽死んだから今じゃあ一羽烏なのですよ」
(……攻められたんだし当然っちゃ当然だけど恨み節が強いわね)
「……そいつにアテにされてるとは、複雑なのですよ。こちとら慰謝料のビタ一文も貰ってないのですよ」
心底不愉快そうにヒメノは言ってのける。
彼らの所為でサイゴクは破壊され、大切なポケモンも氷漬けにされ、そして──大切な人の命もまた、奪われた。
(リュウグウのおじいちゃんだって……テング団が居なければ……)
「オイラの姉ちゃんもッ!! クロウリー達に連れてかれたッ!!」
ムギは──力いっぱいに叫ぶ。
「オイラ達は必死に戦った!! だけど……勝てなかった……逃げることしか出来なかった……ッ!!」
ぽた、ぽた、と袴に涙が落ちる。
「悔しい、悔しいよ……あんたらに頼らなきゃいけない自分自身が一番恨めしい!! だけど……このままじゃ、キュウビの国どころか、ヒャッキ地方もオシマイだ!!」
「……ッ」
(対岸の火事。そればかりか、あれだけ憎らしかったヒャッキ地方に訪れた災禍だというのに)
ムギの姿は──ヒメノ自身に重なって見えた。
どれだけ圧倒的な力を持っていても、メグル達、そして弟のノオトの力が無ければ相棒一匹さえ救えなかった自分。
そして、かつて振るっていた異能力の数々を、たった一度の失恋のショックでまともに使えなくなった自分。
無力感に苛まれる辛さは、彼女もまた──知っている。
それを抑え込み、一人知らぬ地にやってきて、その上でクロウリーの仲間に追われてきた彼の心境は──どれ程のものだっただろうか。
ヒメノはヒャッキ地方が憎い。憎くて仕方が無かった。だが、本当に憎かったのは──相棒を氷漬けにした、あのテング団たちであって、今目の前にいる少年ではない。
「……大切なものを理不尽に奪われる辛さ、それはヒメノも分かっているのですよー」
すっく、とヒメノは立ち上がる。
「その話、ヒメノ達にも乗らせていただくのですよ」
「良いのか!?」
「それに、サイゴクの地に土足で踏み入った事、後悔させてやらねばならないのですよ」
「貴女、随分とやる気ね」
「レモン様はどうするのですー? 此度の戦、レモン様には何も関係は無いのですよ」
「いいや私も付き合わせて貰うわ。……ムギ、貴方言ってたわよね? クロウリー達が現れてから、時空の裂け目が沢山出来るようになった、って」
「あ、ああ、そうだけど……」
「私達の世界にも、時空の裂け目って奴が現れたの。特大サイズの裂け目に、ウチの可愛い後輩が1人、飛び込んでね……私達も追いかけて飛び込んだけど……どっかではぐれたのか、てんでバラバラに落ちたみたいね」
「……そういうことだったのですか。となると、裂け目が出来た原因はクロウリーにあるのかもしれません」
「どういう事かしら?」
「時空の裂け目をとある世界で開くと、別の世界でも裂け目が沢山開くようになって大変な事になるらしい……のですよ」
それが、裂け目が現れたことによる弊害、時空の歪み。
ヒメノは又聞きによる知識でしかないが──この話はよく覚えていた。メグルが住んでいた世界が滅んだのは──裂け目が原因だったからである。
「てか、あのワスレナって奴、裂け目を自由に使いこなしてたように見えたわ。クロね。確定で」
「そうだ! あいつら危なくなったら、裂け目を使って逃げるんだよ……ッ!!」
となれば──クロウリー達が時空の裂け目を開く技術を持っており、それが自分達の住んでいる世界に影響を及ぼしているのではないか、とレモンは考える。
クロウリー達を放置していれば、いずれレモン達の世界にも悪影響が出るのではないか──と。
そうでなくても、オシアスは外の世界から入って来たオーラギアスによって滅びかけている。時空の裂け目による問題はレモンからしても座視できない。
「とはいえ敵は強大。仲間を集めねばならないのですよ」
「私にも頼れる従者たちがいる。きっと力になってくれるはずだわ」
自慢げにレモンは言ってのける。目に浮かぶのは、共に脅威に立ち向かった頼もしき後輩たちの姿だ。
「本当か!? 姉ちゃんを助けてくれるのか!?」
「私達に出来る事なら力を貸しましょう。どうやら他人事じゃ無さそうみたいだからね」
「ええ。それでレモン様、お仲間様はどちらに?」
「1つ問題があるのよ」
彼女は指を一本、立てる。
「さっきも言った通りてんでんバラバラに落ちた所為で──何処にいるか分からない」
「一番ダメなヤツなのですよソレ」
「大丈夫かこの人たち……オイラ頼る相手間違えたかなあ……」
※※※
「──ったく、メグルさんにも困ったモンッスねー……」
「本当でござるな……」
二人は、指を絡め合う。
湖のほとりに建つクワゾメ大庭園。
そこが今日のデートスポットだ。
相も変わらず人前で仮面を外したままなのを恥ずかしがるキリだったが──ノオトの前でなら、それも平気になってきたらしい。
落ち着いた庭園の中でリラックスしているのか、目を閉じ、心地が良さそうに身体を預けている。
「……心音……とても、落ち着く……」
キリは──クワゾメタウンのキャプテンにして、若くして現代の忍者の頭領を務めている少女だ。それ故に気苦労も多く、安らげる場所は恋人であるノオトの傍くらいであった。誇張抜きで。
おかげで、部下からは強制的に休みを入れさせられる始末である。
だが、それで良かった、とキリは心の底から部下たちに感謝する。今こうして、ノオトの傍に居られるのは、彼等の気づかいのおかげだ。
「ノオト殿。穏やかな空気でござるなー……ずっと、これが続けばいいのに」
「そうッスね……平和って良いッスね、平和って」
「──ほぎゃああああああああああああああーッッッ!!」
叫び声。
時空の裂け目。
そして、落ちてくる少女。平穏は一瞬で無くなった。
「あっだだだだぁ……」
少女は呻き声を上げて起き上がる。
黄色いブレザーを肩まで着崩し、バニーのように黒いリボンを頭の上で長く結んだ彼女は辺りを見回し、不思議そうに「あれ? 此処何処?」と一言。
「何事ッスかァ!?」
「……ノオト殿、下がるでござる」
「着替えるの速ッ!?」
説明しよう。クワゾメタウンのキャプテン・キリは、忍者の頭領でありながら──超が付くほどの恥ずかしがり屋である。
彼女が100%の力を発揮できるのは、忍装束に身を包み、仮面を付けたときのみ。しかし、彼女が着替える速度は脅威の──0.1秒。凡そ人の技ではない。
「あー……体痛いよう、くそっ、とんでもない目に遭った……!!」
「空から女の子が降ってきたッスね……」
「……どうやら、あれが原因のようでござるな」
キリが更に上を指差す。
巨大な時空の裂け目は、どうやら幾つかの裂け目が同時発生し、くっついたことでこの大きさに至っているようであった。
「前触れもなくいきなり出てきたッスね……」
「あんなものが現れたら、何処の世界に繋がっているやら分からんでござるよ」
「って、何々!? すっごい!! ニンジャ!! ニンジャが居る!!」
此方を見るなり、少女はキリに駆け寄る。
「ボク、ニンジャ見るの初めてーっ!!」
「あのー、何でも良いんスけど、お嬢さん……あんたどっから来たんスか?」
「あ、忘れてたっ! ねえニンジャさんと……えーと、あ! イッコンタウンのキャプテン!」
「おーっと、オレっちの事、知ってるんスね! そして、此処に居るのは──クワゾメタウンのキャプテン、キリさんッスよ!!」
「……?」
それを聞いて、ピンとこない様子で──少女は首を傾げる。
「……クワゾメ? クワゾメにはキャプテンは今いないはず……」
「あん? 何言ってるんスか、あんた」
「あっ!! そっか、
「以前我らの手でブッ潰した悪徳国際企業でござろう」
「あー……成程~!! やっぱり歴史が違う……」
「ちょいちょい、何勝手に納得してるんスか、あんたさっきから言ってる事の意味が──」
「──ばぎゅおおおおおおおおおおおんッッッ!!」
その場の空気を引き裂くかの如く、咆哮が響き渡る。
ノオト、キリ、そして少女の前に現れたのは、裂け目から現れた巨大な火竜。
しかしその身体は漆黒に染まっており、溶岩のような赤い色で罅割れていた。
その奇怪なる黒竜の名を、ノオトは知っている。
かつて”ミッシングアイランド”と呼ばれた禁忌の島で誕生した、合成細胞生物だ。
「タイプ:ゼノ……!? 聞いてたより随分とデカいッスね……!」
「あの裂け目から出てきたか! 貴殿、何か知っているでござるか?」
「全然っ、知らない!! 追っかけられてたわけでもないし、どっから湧いてきたのアイツ!?」
「やはりあの巨大な裂け目……幾つもの裂け目が合わさっているでござるな。このままでは、違う世界から脅威を招きかねん」
咆哮が周辺に響き渡る。
文字通り、脈絡もなく現れたそれを前に、ノオトとキリはボールを握り締めた。
「折角のデートが台無しッスね!!」
「貴殿は下がっていろ。此処は我々で片付けるでござる」
「いーや、ボクにも手伝わせてっ」
にっこり、と笑みを浮かべると──少女はキャプテン二人に腕に煌めく黒い宝石を見せつける。
「──ボクはデジー! 人からは……”いたずらウサギ”って呼ばれてるんだよね!」