ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第7話:いざヒャッキへ参らん

 ※※※

 

 

 

 ──ひとりぼっちだった俺に、ポケモン達が付いて来て孤独を埋めてくれた。

 そんな俺でも、誰かの孤独を埋められると──あの時は思ったんだ。

 アルカは──本当にひとりだった。ずっとひとりで抱え込んで笑って、平気なふりをしていた。

 俺もそうだったから、手を伸ばしたかったんだ。

 繋げば孤独は埋められる。味方は居る、と伝えられる。

 気が付いたらすぐにどっかに行ってしまうあいつを──裏返せば、自分が居なくなっても誰も気にしないだろうって思ってるあいつを死なせたくなかった。

 だって寂しいじゃないか。折角、折角──分かり合えたと思ったのに。

 なのに、一緒に居るうちにそんな事も忘れて──

 

 

 

 ──二度と帰ってくんなっ!! バカ!! アホ!! 女ったらしの浮気者ーッ!!

 

 

 

 ……やっぱ俺じゃ、ダメなのかなあ。

 本当は、他にももっと、相応しい相手がいるんじゃないか。

 俺よりも上手くやれるヤツが居るんじゃないか──?

 

 

 

 ※※※ 

 

 

 

「メグルさん、メグルさん……?」

「……アルカ……」

「……ッ」

 

 飛行機はもうじきにサイゴクに着く。

 メグルの上で丸くなっていたニンフィアは、声をかけたイクサに向かって「ごめんね」と言わんばかりにリボンを伸ばした。

 彼が辛い時は、一番の相棒である彼女も辛い。リボンの力で、嫌でも彼の気持ちが分かってしまう。

 

「ふぃー……」

「ニンフィア……大丈夫。僕が君のご主人を助けるよ」

「ぱもぱもっ!」

 

 涙を流しながら眠るメグルを見て、イクサは目を伏せた。

 どれだけ平気そうに振る舞っていても、内心は穏やかではないはずだ。

 イクサは仲間の無事が分かっている。だが、メグルはそうではない。

 今生きているかどうかすら分からない。

 しかも、彼女と最後に別れた原因が喧嘩ともなれば、悔やむのは当然だった。

 自分では彼の心を救う事は出来ない。この事態を解決し、アルカを取り戻すしかない。

 そんな事は、かつて大切なものを奪われ続けたイクサにも痛い程分かる。

 

 

 

「やっぱり……引きずるよね……引きずらない、わけがないよね……メグルさん」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 ──数時間後、イッコンタウン”よあけのおやしろ”。

 かつて、テング団の襲撃に遭って倒壊した建物は、現在も修繕中だ。

 しかしヌシポケモンもキャプテンも共に健在。

 そこに、全ての役者たちは集っていた。

 

「転校生ーっ!! やっと会えたーっ!!」

「本当、二度と会えないかと思ったわよ……」

「いやあ、ごめんなさい、二人共……」

 

 再会を喜ぶオシアス3人組は手を取り合う。

 レモン、そしてデジーも共に無事だ。

 そして──イクサは、二人を助けてくれたキャプテンに頭を下げるのだった。

 

「本当にありがとうございますっ! キャプテンの皆さんっ! 皆を守ってくれて……」

「良いんスよ、困った時はお互い様っしょ」

「そも、ヒメノ達に負けず劣らずの強さだったのですよー」

「改めて──ようこそ、サイゴクに」

 

 イクサとノオトは固く手を取り合う。

 

「ところで、イクサさん達ってサイゴクに留学してたみたいッスけど、あっちの俺っちの事知ってるんスか?」

「むしろ、これからイッコンの方に向かう予定だったんですよ。先に異世界の方のノオトさんに会うことになるなんて」

「聞いてて、ややこしいッスね……頭こんがらがってきたッス」

「この辺にしときますか……今は互いの世界の事は置いておきましょう。僕も訳が分からなくなりそうです」

 

 こっちのサイゴクは、大災害の影響を受けていないからか、イクサが知っているそれよりも交通網が発達している。

 故に、すぐさま彼らは合流する事が出来たのである。

 ヒャッキに向かうならば戦力は幾らあっても足りない。

 だが、いきなり全員を向かわせるのは危険極まりない。

 そのため──旧家二社のキャプテンであるヒメノ、ノオト、キリの3人とメグル。

 そして、オシアスから来たメグル、デジー、レモンの3人がこの場に集ったのである。

 

「貴方がメグルさんね。うちのイクサ君を助けてくれてありがとう」

 

 学生服姿の黒髪の少女。

 見慣れない顔だが、イクサが飛行機の中で幾度となく語っていた「レモン」とは彼女の事だろう、と察する。

 目元から底知れない余裕、そして気の強さを感じ、メグルは思わず身構えそうになった。

 

(風格あるなあ……なんつーか、組織のドン、ってカンジだ)

 

「いや、実情は逆なんだよな……むしろ助けられた側っつーか……そもそもイクサはすっげー強かったし」

「あらあら、余程暴れたのね彼。鼻が高くなっちゃうわ」

「君の事はイクサから聞いてる。あいつの戦いは君仕込みだってな」

「違うわ。彼が自分の力で強くなったのよ。私はそれを後押ししただけ」

 

(……なんかすっげーポケモンも持ってるみたいだし……イクサと同格なら、ふっつーに四天王とかその辺りと同等の強さしてそうだな。”学園”のレベルが高過ぎる)

 

「でもよ、これで君達は全員そろったわけだけど──」

「勿論ヒャッキを調査しに行くわ。あんな裂け目がこっちでもポンポン開かれたんじゃ堪ったもんじゃない。元凶は潰すに限る」

 

(やっぱ気が強いんだな……)

 

「見過ごしたくないのよ。危機の予兆ってヤツはね」

「正直、俺は君達を大分頼りにしてる。アテにしてるぜ」

「あら、随分と謙虚なのね? サイゴクを救った英雄さんは」

「え?」

 

 メグルは目を丸くする。

 するとレモンの肩に飛びついた小さな少女がにしし、と笑った。

 

「ノオトさんから聞いたよ? 君、伝説のポケモンを捻じ伏せてサイゴクを救ったんでしょ?」

「おいノオト──」

「大丈夫ッスよ、肝心なことは伏せてるッスから」

「……」

 

 メグルが過去、サイゴクを救ったとされる事案は2つ。

 1つは、テング団との衝突、ヒャッキサイゴク戦争での活躍だ。

 キャプテン達と共同してヌシクラスのヒャッキポケモンや三羽烏を撃退し、ルギアを鎮めたという実績は広く知れ渡っている。

 もう1つは、イデア博士が首謀となって伝説のポケモン二匹を暴れさせた事件の鎮圧である。  

 しかしこの事件は、クワゾメタウンの忍軍によって幾つかの情報が黒塗りされており、今でも公にされていないことが多い。

 例えば──首謀者の名前とその後、についてはその最たるものであった。

 メグルもまた、信頼していた人間に裏切られたこの事件で深い影を落とすことになったので、手放しに「英雄」ともてはやされても喜べないのである。

 話をそらすように、メグルはノオトに問うた。

 

「ところでよ、どうやってヒャッキの方に行くんだ? ヒャッキ行きの裂け目はもう無いはずだろ?」

「それならオイラに任せて」

 

 前に出たのは──メグルとイクサにとって見知らぬ獣耳の生えた少年だった。

 

「お前が例の──」

「すごい、本物のケモ耳だ!!」

「わぅ、すっごくグイグイ来るなこの人ら……」

「この人がムギさん。ヒャッキ地方・キュウビの国の使者らしいッスよ」

「俺達に助けを求めてきたっていうのがコイツか」

「コイツって言うんじゃないやい!」

 

 がうっ、と犬のような牙を剥き出しにしてムギはメグルに向かって吼えた。

 

「クソッ……オイラはこれでも、特命使者ってヤツなんだ。殿様から任命されたんだい、偉いんだ!」

「悪かったって」

「本当は、ヒャッキの力だけで押し返さなきゃいけない問題なんだ。それなのに……オイラ情けねえよ」

 

 口惜しそうに彼は足踏みした。

 自分達の力だけではクロウリーを倒すことはできない。

 しかし、それでも連れ去られた姉たちは連れ戻さねばならない。

 

「一人で何とか出来ねえ問題なら、皆でどうにかすりゃいいだろ」

「……ッ」

「俺だって今、大切な子を連れ去られてすっげー頭に来てる。本当なら俺が守らなきゃいけなかったのに」

 

 メグルは、ムギの手を取る。

 

「だから協力したい。俺達で、そのクロウリーって奴をブチのめして、奪われたモンを取り戻す。俺達、同じ目的で集まってるだろ」

「メグル……」

「クロウリーは、巫女を探してるんだっけか。()()ってのが何なのか分かるか?」

「分からねえよ。分からねえ……だけど、3つの国で女を攫ってるのは確かみてーだ」

「もしかしてアルカが攫われたのも同じ理由か」

「……アルカ?」

 

 ムギがきょとん、とした顔で問いかける。

 

「俺の大切な人だよ。クロウリー達に連れ去られた」

「ッ……奴らは、アルカ殿を探していた。でなければ、わざわざ時空を超えてまでこんな所まで来るまい」

「何でアルカさんなんスかねえ?」

「ヒャッキで女攫いをしてるのも、無差別にやってるってわけじゃなさそうね」

 

 レモンが何かを推測するように言った。

 単に戦利品目的で女を連れ去っている訳ではなく、何かを探し出しているかのようだ。

 川の底の砂利石から砂金を探すかのような途方もない作業ではあるが──”当たり”があると確信している者の手口である、とレモンは続ける。

 

「……探してるんじゃないかしら。()()()()()()()()()()()()()を。そもそも、彼等はどうやってアルカさんの事を知ったのかしら」

「アルカさんがあいつらに狙われる理由っしょ? テング団ならともかく、ヒャッキの外からやってきたあいつらと、アルカに接点なんかねえっしょ……」

「何だって良いよ」

 

 メグルは──髪を掻きむしる。

 不安はある。戸惑いもある。

 だが、それでもアルカは連れて帰らなければならないのだ。

 

「アルカは連れ戻す。何が何でもだ。ムギ、どうやったらヒャッキに行ける?」

「実は、テング団が使ってたサイゴクに繋がる穴が、まだ1つ残ってたんだ」

「まだあったのでござるか……」

 

 げんなりしたようにキリは言った。

 以前、1つはテツノサクヤが封じ込めており、もう開かないと思われていたのである。

 とはいえテング団はサイゴク各地で暗躍していたため、このような裂け目が幾つあってもおかしくはない。

 

「と言っても不安定な穴で、時たまにしか現れねえんだけど……」

「じゃあ善は急げだわ。裂け目が消える前にヒャッキに行く。良いわね?」

「僕は問題ありません」

「ボクもボクも!」

「よっし……それじゃあ、行くか! ヒャッキ地方に!」

 

 メグルは鞄を背負い、空の果てを眺める。

 

 

 

(……待ってろアルカ。絶対助けて──助けて……その後は──)

 

 

 

 胸の内が暗くなる。

 迷いはない。迷いなどあってはいけないはずなのに。

 ()()()、を考えてしまうとメグルは胸が締め付けられるようだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──うっぐ……うぅ──」

「お目覚めかね?」

 

 

 

 ポケモンは居ない。

 武器も何も無い。

 豪奢な部屋の中に、アルカは──閉じ込められていた。

 彼女の前には、自らを攫ったローブ姿の男・クロウリー、そして傍には大槌を構えた女・ミネルヴァが立っていた。

 

「……何で連れて来られたのかくらいは聞きたいんだけど」

「単刀直入に言おう。貴方が必要だから来てもらった」

「ボクが? 何でだよ」

「ヒャッキ三大妖怪、知らないとは言わせないよ」

「!」

 

 ──ヒャッキ三大妖怪。

 それは、ヒャッキ地方の三つの国に封印されたと言われる強大な力を持つモンスター……もといポケモンだ。

 それぞれが、現在のヒャッキに生息するリージョンフォームの原型になったポケモンであり、それぞれが遺したオーパーツはギガオーライズの鍵でもあった。

 鏡の如き羽根を持つマガツカガミ。

 霊魂別つ九つの尾を持つワカツミタマ。

 遠くの岩山さえも拳の一振りで貫くウガツキジン。

 テング、キュウビ、オニの国の何処かにそれらは封じられているとされているが、詳細な伝承は失われていた。

 

「我々はかねがね、ヒャッキから大妖怪たちを頂く準備を進めていてね。商人を装い、テング団……亡くなったタマズサ氏とは何度も取引をさせていただいたよ」

「ッ……! 取引って何!?」

「あのチャチな()()()()()()……ワープだ。数十メートル先程度にしか移動出来んが、敵を撒くには十二分だろう? 傍目には異世界にでも逃げたように見えるがねえ」

 

 アルカは冷や汗を額から流す。

 テング団が度々使っていた空間の裂け目を利用した移動方法は、クロウリー達が元々持っていたものなのである。

 彼らを只の商人だと思っていたテング団のリーダー・タマズサは、情報や金銭と引き換えに、彼等の技術を導入していたのだ。

 

 ──タマズサのヤツ!! とんだ外患を!!

 

「さて、彼等から得た情報から──大妖怪の解放には、対応した”巫女”が必要になると知ってだね」

 

 三大妖怪を解放するには、その封印を施した血族の人間が必要──とクロウリーは語る。

 今、彼らがヒャッキを蹂躙しているのは領地の拡大だけではない。

 その血族の人間を探しているためであった。

 

「既にキュウビの国の巫女も見つかった。オニの国の巫女も恐らく時間の問題。しかし、一番懸念すべきは貴女だった」

「どういうこと? ボクと巫女に何の関係が……!?」

「はは、そうとぼけていられるのも時間の問題だ」

 

 クロウリーは哄笑する。

 

「……マガツカガミを解き放つ鍵は……外でもない貴女なんだよ、アルカさん」

「……ッは、はぁ!?」

 

 思わず変な声が出る。

 いきなり言われても信じられない。

 マガツカガミ──かつてサイゴクを蹂躙した、巨大な鏡烏。

 オーラを纏っただけの紛い物であるギガオーライズ体ですら脅威そのものだったあの怪物を解放するのが自分だと言われれば、あまりにも荒唐無稽な話と返すしかない。

 

「ど、どういうこと? 意味分かんない……!!」

「私の持つオーパーツに反応した者が、巫女の資格を持つ者だ。間違いない」

 

 クロウリーは、鏡のような羽根をアルカの前に掲げてみせた。

 それは、彼女を欲するかのように禍々しく輝く。

 

「オーパーツ……!?」

「ヒャッキで手に入れた、マガツカガミの遺物の1つさ。これらが”巫女”に対して反応することは検証済みだ」

「だとしてもッ!? 何でボク!? お前達はボクを最初から狙ってやってきた! わざわざ時空の裂け目を通ってまで!」

 

 分からない。

 理解が出来ない。

 アルカは──自分が何故狙われたのか。そして自分の場所が何故見つかったのかが分からなかった。

 サイゴクならばともかく、彼等は遠いパルデアにまでやってきたのだから。

 

「……何、簡単なこと。貴女の妹のアルネさんもまた、マガツカガミの巫女だったからさ」

「なッ……!!」

 

 浮かんで消えたのはアルネ──死んだ妹の顔だった。

 自分よりも遥かに優秀で頭がよく、ヒャッキの技術を底上げするような発明を幾つも生み出した文字通りの天才、そして──倫理観のタガが外れた天災だ。

 

「私は何度か彼女と会った事がある。しかし、タマズサ氏が居る手前、どうして彼女を連れ去る事が出来ようか」

 

 故に、クロウリーにとっては強大すぎる力を持つタマズサが死に、そしてヒャッキ三国が戦争で疲弊したのは大いなる好機だった。

 しかし誤算が一つあったとすれば、その巫女であったアルネも死んでしまったことである。

 

「……そりゃ、そうだけど。じゃあ待ってよ。ボクが捕まったのって……!」

「ああ異界に居る貴女を連れ戻すためだ。テング団から貴女の事は聞いていたからねえ。貴女の居る場所に繋がる裂け目を作り出すのは大変だったが……」

「ボクが捕まったのって……」

 

 

 

 ──結局、()()()()()()()ってことじゃないか……!!

 

 

 

 彼女は愕然とする。

 ただ連れ去られるだけならばいざ知らず。

 結局、人を機械の部品のスペアか何かとしか思っていないクロウリーに、彼女は幻滅を通り越して──怒りすら覚えていた。

 

「ふざけんなッ!! 人の事なんだと思ってんだ!! ボクは、お前達なんかに利用されてやるつもりはないぞッ!!」

「聞いているとも。妹とは違ってとんだ落ちこぼれ、だとね。しかし、良かったではないか。そんな貴女でも輝ける場があって」

 

 彼女の傷を抉り、踏み躙り──クロウリーはアルカに囁く。

 

 

 

「……()()、貴女を必要としているよ」

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